「経験代謝」の活用


 キャリアカウンセリング型組織開発®では、経験代謝(「傾聴」と「リフレクション」を意識した)に基づいたキャリアコンサルティングをしっかりと実践することが大切になります。

  「社会構成主義」「対話型組織開発」に続いて、これらの知識も踏まえながら「経験代謝」について、キャリアコンサルタントとクライアントの関係性の視点を中心に確認をしています。

 「経験代謝のメカニズム」は、キャリアコンサルティングだけでなく、組織活動においても幅広く活用が出来るスキルになります。この点については、最後にま意識マトリックス理論による考察としてにまとめています。


 ①経験代謝とは、

 「経験代謝」は、キャリアカウンセリングにおいて内省を促し、「人」と「経験」のつながりを学ぶ、学びの構造です。つまり、自己概念の成長を促す”学びの構造”と言えます。

(参考:JCDA養成講座 TEXT1 「キャリアカウンセリングとは何か?」)
(経験とは、「自己概念と社会(環境)との相互作用」)

 過去の経験を傾聴することによって、内省を促し、個人の「意味の出現」を支援し、個人の自己概念の成長周囲環境(組織)との関係性の改善を目指します。(詳しい内容については、下記の書籍等にてご確認下さい。)

 「経験代謝」は、キャリアカウンセラーがクライアントに対して、傾聴をベースとした関りを確実に行えるようにする支援のメカニズムです。ここでは「経験代謝の活用」について、フォレットの思想なども確認しながら「対話型組織開発」の中で展開することを中心に考察しています。大切な点は、社会構成主義の概念を踏まえて活動を行う事になります。

 

(補足1) このホームページにおける「キャリアカウンセリング」は、JCDAにおける「経験代謝のメカニズム」を基本としたキャリアカウンセリングを指します。

(補足2) いろいろな学習会の情報や経験を踏まえながら考察中の内容になります。その為に記載の内容については、折々感じた時点で変更をしています。「経験代謝」自体については、詳しくはJCDAのサイトや下記の書籍等でご確認下さい。

(補足3)ここではキャリアコンサルタントの資格取得後の活用を考察しています。国家資格試験対策向けの内容ではありません。

 

(参考書籍)

立野 了嗣 著

 「経験代謝」によるキャリアカウンセリング 晃洋書房 2017年6月(※1)

 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン(経験代謝理論によるカウンセリング実践ガイド)

 金剛出版 2020年6月)(※2)



②経験代謝と社会構成主義

 組織開発ではモダンの価値観を基本とした「診断型」と社会構成主義に基づいたポストモダンの価値観を基本とした「対話型」に分類されています。同様にキャリアコンサルティングにおいても、診断型を論理実証主義的世界観、対話型を構成主義的世界観とされちます。

 「経験代謝」は、構成主義的世界観に親和性がある(※2 第2章 ⓫ 1⃣再帰性とは何か P52より)と捉えています。

 キャリアカウンセリング型組織開発®では、国家資格の「キャリアコンサルティング」とJCDAの「キャリアカウンセリング」で、それぞれの定義は違っていることも踏まえて、「キャリアコンサルティング」と「キャリアカウンセリング」を違うものとして扱っています。一般的なそれぞれの定義を踏まえると、キャリアコンサルティングは「診断型」が主で、JCDAにおけるキャリアカウンセリングは「対話型」が主流だと言えると考えられます。 また、これらを統合した概念として「広義のキャリアコンサルティング」と表現しています。

 

③「キャリアコンサルティング」と「キャリアカウンセリング」 

 経験代謝は「キャリアカウンセリングとは何か」という観点から構成をされています。それではその「キャリアカウンセリング」と「キャリアコンサルティング」について、何が一番違うのでしょうか。その点については定義にあるように「指導と助言」を積極的に行うかどうかという点になります。この点は面談における「傾聴」のスタンス(マインドセット)や対話型組織開発の「マインドセット」を考える上で重要なポイントになります。

 まずは「経験代謝」を軸として(広義の)キャリアコンサルティングを実践する場合の課題についての整理してみます。「キャリアカウンセリング」においては、ロジャーズの「傾聴」(「受容」「共感」「自己一致」)がまず基本の関りになると思います。これを具体的にどう実践してゆくかが大切になります。

 一方で、一般的な「キャリアコンサルティング」においてはシステマティック・アプローチがベースになることもあり、「見立て」という概念が存在します。コンサルタントの「見立て」をベースに「助言や指導」が行われます。(ここでの「見立て」の定義は、医師がその医学的見地から患者の病気を特定し、それをもとに患者を治療する方針をたてることと同義とされています。)キャリアコンサルタントがクライアントに「見立て」を行う場合には、必然的にコンサルタントの知識がベースとなる為に、また、クライアントよりコンサルタントに優位的な知識にあり、クライアントを「指導・助言」する立場にあるという(ワンアップの)意識が根底に存在せざるを得ないような価値観となります。

 とあるキャリアコンサルタント向けの公式の講習資料では、インテーク場面で「見立て」が取り上げられ、「見立てという言葉もよく使われます。見立ては医者がよく使う言葉です」と表現されて、「診断と予後を含む全体の見通し 」(出典:「心理臨床大事 典」培風館、 2004年にて)と明示されています。このように一般的なキャリアコンサルティングにおいては、「見立て」を立てて行う「診断型」がスタンスが基本となります。

  以上の点を大まかに捉えれば、キャリアコンサルティングにおいては「見立て」に基づいた「助言と指導」が行われ、「キャリアカウンセリング(経験代謝)」においてはクライアントからの具体的な希望や彼から語られる経験に沿って、クライアントの内面の振り返り」が行われるという事になります。

 「見立て」をどう捉えるかは、社会構成主義の立場に立ってキャリアコンサルティング(経験代謝)を実施する時には、なかなか難しい点になります。コンサルタントの「自己概念」の影響が大きくなるとクライアントを「受容」「共感」するという面でも難しくなります。

 「経験代謝」の実践においては、キャリアコンサルティングにおいてコンサルタント自身の「自己概念」を影響させないが好ましい点とされていますので、「見立て」を立てることは難しことになります。

 社会構成主義をマインドセットとする場合、コンサルタントがワンナップ(One Up)の立場になる医師的な関りはあまり適切な態度とはされていません。キャリアコンサルティングでここで定義をしている「見立て」を立ててそれにのみ沿って面談を進行すると、コンサルタントの自己概念をベースとする「診断型」の「専門家的な」又は「医師的な」アプローチになってしまいます。

 以上の点から「経験代謝」をベースとした(広義の)キャリアコンサルティングを行う場合は、基本的には自己概念は入れずに、クライアントに寄り添った「キャリアカウンセリング」としての傾聴を大切にすることからスタートするのが基本となります。キャリアコンサルタントとクライアントのナラティヴの関係性の中で。「リフレクション(反射)」として、カウンセラーがクライアントの何かの「ひっかり」を感じて、それをフィードバックすることはありますが、それはあくまでクライアントが再びそのフィードバックをどう捉えるかという事をカウンセラーが感じ取る、もしくはリフレクション(反映)するという事になります。「経験代謝」を主体としたキャリアコンサルティングの場合は、あくまでクライアント自身の自己概念が変化する(認知の変化が起こる)ことをサポートすることが大切になります。

 キャリアカウンセリング型組織開発®においては、キャリアコンサルタントとして「社会構成主義」に立つ必要がありますので、世の中に正しい唯一の正解は存在しないと考えてアプローチすることが基本になります。つまりこの点でも「見立て」という概念の構成は難しくなります。この様な理由から、キャリアカウンセリング型組織開発では(経験代謝のメカニズムを基本とする)キャリアカウンセラーとして、「広義のキャリアコンサルティング」を行うというのが基本のスタンスとなります。また、別の表現をすれば、組織開発における「プロセスコンサルテーション」スタンスで、「対話型」のキャリアコンサルティングを実践することになります。

  一般的なコンサルティングにおいても、「見立て」を使った関わりを、シャインは「専門家的な関り」「医師的な関わり」と表現していて、「傾聴」や「対等性」を関りを主体とすることを「プロセス・コンサルテーション」(謙虚なコンサルティング)と表現しています。また、キャリアコンサルティングを本質主義的な関り、キャリアカウンセリング(傾聴:経験代謝)を社会構成主義的な関りと捉える事も出来ます。

 

 参照)

「プロセス ・コンサルテーション ~援助関係を築くこと~」

(エドガー・H・シャイン著 稲葉元吉 尾川丈一訳 2002年3月 白桃書房)


④「見立て」と「組立て」

 「キャリアカウンセリング型組織開発®」におけるキャリアコンサルティングでは、ここで定義しているような「見立て」は立てずに、次の展開に向けてのクライアントと「組立て」を行うようにしています。

 先に示したように「見立て」は、カウンセラーから見たクライアントの特性を判断・把握したワンアップ(one up)を前提とした本質主義的な進め方です。一方で、ここで定義する「組立て」とは、クライアントとカウンセラーの関係性を中心に、この二人の「協働」作業としての方向性(又は、目的)を社会構成主義的(ナラティブで)に決めてゆく事になります。

 「見立て」に関しては、クライアントが「構えて」しまうという観点も出てきます。「経験代謝」のメカニズムではカウンセラーが「構えて」しまうと、クライアントが自由に語れなくなります。

 「組立て」は、キャリアコンサルティングの進める方向性を示すものです。キャリアコンサルタントのいわゆる自己概念をいれるようなものではありません。「組立て」は、大まかにはこのような図のイメージになります。キャリアコンサルティングの「組立て」には、「組織」や「組織行動論」等の知識が「リフレクション」を行う為のバックボーンとしても大切だと考えています。

  また、カウンセラーが一方的に立てた「見立て」が何らかの形でクライアントに伝わった場合、クライアントがそのカウンセラーサイドの「見立て」に、「共感できるかどうか」というのも大切なポイントになります。これはクライアントからカウンセラーへの「受容」を前提として期待する事でもあり、少し違和感が残ります。逆に、クライアントがカウンセラーの「見立て」をなんとなく言説(ディスコース)から感じてしまって、それを受け入れ難いと感じる場合はクライアントはそんな事実はないと「見立て」やキャリアコンサルタントに反抗的になったり、その審判的態度に腹を立ててしまってコンサルティングの終了を申し出る可能性もあるように思いますので、注意が必要です。



以下、「経験代謝の活用」についての考察を進めます。


⑤経験代謝における「経験」についての考察

 キャリアカウンセリングにおける内省を促す上での「経験代謝」の詳しい内容は、PCDAのサイトや書籍等で確認して頂くとして、ここでは「経験代謝」を「対話型組織開発」で活用するという観点で、キャリア開発である点を考慮し、経営組織論の視点からの「経験」の確認をします。

 

「経験」とは、M.P.フォレットの『創造的経験』(1924年)において、次のように記述されています。

「経験を諸力の相互作用として捉える。つまり、経験をその瞬間、瞬間にいきいきと関係づけてゆくことを通じて、新たな活動に導いていく関係づけの活動(the activity of relating)として捉えるのである。」(P91)「経験とは、そこから目的と意思、思考と理想が生み出されてゆく力の源、つまり発電所のようなものである。」(P141)「自身の利益の評価は、事を行ってゆくに従って変わってゆく。それぞれの価値の評価は、人々の行動を交錯することからもたらされる。価値は「結果としても生じるもの」である。経験がすべての判断の基準を作り出すのである。」(P178)「経験とは、自己生成し、自己充足し、あらゆるものを包含し続けてゆく活動であるという事を知った。」(P191)と記述されています。

つまり、「経験」は、その人、人格そのもの(人格を織りなすもの)であり、その人にとっての次の「価値」を生み出すものでもあるという事が指摘をされています。

また、「経験」は常に進展するそれ自体が他者等の諸力との相互作用です。その継続する「経験の交錯」を通じて、「自己概念」(よしとする自分)をそれぞれが獲得してゆきます。つまり、「自己概念」は、それまでの「経験」を通して獲得した「(よしとしている)考え方、ものの見方」です。

日々新たな他者との交流において獲得される「経験」においては、他者の「経験」等が新たに入り込んできますので、常に「交錯」が起こります。その時に、自身の経験とその「交錯」した経験が「統合(integration)」され、昇華される場合は良いのですが、「コンフリクト(軋轢)」の状態が続いたり、「抑圧」や「妥協」によって「コンフリクト」が完全に解消されない状態になるとそれまでの「経験」から得た自己概念(価値観)が揺らいでしまう状態になります。それらが要因となり、悩みや不快感等が発生するとも言えます。他者との相互作用の結果により、それまでの経験を通じて獲得していた「よしとしていた自分の考え方」がゆらぐのです。また、別の言い方をすると、それまでの「経験」から獲得された「ありたい自分」と自己概念(価値観)が新たな経験の交錯によりしっかりと紐づけされなくなり、不安感などが生じるとも言えます。また、もともとが「借り物の自己概念」であったものが揺らいでいるのかも知れません。

この解消のために、他者であるカウンセラーとの新たな「経験の交錯」により、「状況の法則」による新しい「統合」を生み出して「解決」を図ろうとすることが、キャリアカウンセリングやセラピーであると考える事も出来ます。「経験代謝」では、「自己概念の成長」により「自己概念(経験)のゆらぎ」を解消することになります。その為には、「経験代謝」中で「再現すべき経験」として「自己概念(価値観)が揺らいだ経験」を再現し、そのゆらいだ経験をした時点の自己概念(良しとしている考え方)を認識することが大切です。これを「意味の出現」と表現します。その「意味」を見つめる事を通じて、その経験から生み出される自己概念の成長(状況の法則)により新たな「統合」を見出だし、「ゆらいだ経験」をも包含した新しい自己概念を確立してゆくことを促進することになります。その結果、「ありたい自分」が(再び)より明確になり、フォレストが指摘するように、経験から新たな次の活動に導いてゆく事(意味の実現)ができるようになります。

経験代謝においては『「意味の実現」の向かう矢印の先にある「経験」は、「創造した経験」である。相談者が自らの意思によって起こした出来事に対する経験である。』(※2 p46)とも説明されてます。

フォレットが指摘したように、各個人の自己概念(人格そのもの)はそれぞれの経験から形成されます。また、他者との交流の中で、それぞれの経験がコンフリクト(軋轢が生じる)を生み、それがまずは自己概念にゆがみを与えます。この経験に基づく自己概念を改めて確認し、新たな行動に移すシステムが「経験代謝」であると言えます。つまり、100年前にフォレットにより指摘された組織内における「経験の交錯」を通じて生じた「コンフリクト」を「統合」へと向かわせる具体的な関りのメカニズムが、「経験代謝」であるとも言えます。

このように「経験代謝」と組織論との結びつきを理解することにより、「経験代謝」を組織開発や組織の中におけるマネジメントにおいてより活用が出来ることになります。

 

参考)

「経験代謝」に関する書籍

 立野 了嗣 著

 「経験代謝」によるキャリアカウンセリング 晃洋書房 2017年6月(※1)

 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン(経験代謝理論によるカウンセリング実践ガイド) 金剛出版 2020年6月

 

 創造的経験  M.P.フォレット著  監訳者 三戸 公 (2017年7月 (株)文眞堂)

 

(※2)

  《☆立野先生と一度だけロープレで、同じグループにご一緒させて頂いたことがあります。その時に『「経験代謝」だから、(クライアントが表現しにくい気持ちやその時の意味ではなく、)「経験」を聴くのだ。』とご指導を頂いたことがあります。まさにここでの論点でいえばその通りだと改めて思います。「経験」が語られる中から、感情や意味を映し出すとという事が大切だと思います。》

 

捕捉)

自己概念の成長(コンフリクトした経験の統合)とは、

・当事者意識

・自分を含む世界を客観視できる。

・視野が広がる。俯瞰的に捉える。

・視野が変化する。

 等であり、これらにより個人の状況が変化し(状況の法則)、「コンフリクト」が解決し、新たな統合による自己概念の成長が図られると言えます。

 

「コンフリクト」の解消における「統合」とは、「意識的な過程」。「抑圧」と「妥協」は、ある程度無意識な過程(P97)

「経験」というものを、個人の自己維持と自己回復のプロセスと捉えている(P122)

「経験」の交錯の場が、「協働状況」であり、フォレットの捉える「組織」であったと理解できる。(P122)

 (上記、3項目は、「社会的ネットワーキング論の源流 ━M.P.フォレットの思想━ 三井泉著 文眞堂 2009年9月)

 

「状況の法則」とは、当事者たちが包摂されている状況自体が指し示すところの、組織全体ないし状況全体とそれを構成する個々の成員がともに前進することのできる道を意味します。

また、より簡潔に表現すると「状況の法則」とは、問題はある状況下で発生をしており、状況を変化させることで問題解決の糸口がみつかる。とも言えます。

 

フォレットは、個人と個人、個人と全体の「相互作用」を「円環反応」(circular response)と捉えています。「経験代謝」は、「円環反応」の1サイクルを表現しているとも捉える事ができます。

「円環反応」とよく似た言葉として、グレゴリー・ベイトソンの「円環的認識論」があります。ブリーフセラピーにも応用され、「悪循環」を断ち切るという手法にもつながっています。そういう意味でも、M.P.フォレットの思想では、後に現れるこれらもすでに内包していたとも言えます。


⑥「経験代謝」と「創造的経験」

 「経験代謝」を対話型組織開発の中で活用をするという視点から、「経験代謝」と約100年前に著された経営組織論の基礎でもある「創造的経験」の中でM.P.フォレットが主張した内容との共通点や相違点などを改めてまとめてみます。

 まず、両者の基本となる「経験」という観点ですが、それぞれが「経験」を個人そのもの(自己概念)をもたらすものであると捉えている点では共通しています。また、過去の「経験」が、創造的経験では「ここから目的と意思、思考と理想が生まれてゆく力の源、つまり発電所のようなものである。」と示されていますが、これは、経験代謝で「経験から意味の実現を生み出してゆく」というように、過去の経験から未来を形作ってゆくという点でも、両者は共通していると思われます。また、個人を全体性との関係性で捉えてゆくという点においても、共通しているかと思います。

 逆に、次の活動に向けて「経験」自体をどのように捉えるかという点になると、若干異なる点があります。創造的経験では、経験は「相互の関係づけ」・「諸力の相互作用」と捉えられ、未来に向かってはおのおの経験を持つ個人のコンフリクトを統合することによって、組織や社会を改善してゆくということに焦点が向けられるます。

 経験代謝では、「自己概念の成長」、経験から得られる「個人にとっての意味やその意味の実現」等、個人の内省を促す事に焦点が向けられます。

 このように創造的経験と経験代謝における「経験」に対する焦点のあてかたを違うものと捉えることも出来ますが、ここで課題としている「対話型組織開発」という視点も加えると、これらの違いを「個人の内省による意味の実現による変化は、周囲の環境である他者や属している組織にも変化として影響を与える」という視点から、経験代謝のメカニズムを組織や社会でも積極的に活用する事が出来ます。経験代謝においても、「経験」の相互作用に関連する説明として、「人」と「社会」の項目において、

「キャリアカウンセリングは、個人の「つながり」を通し、社会へとつながってゆく。」

「キャリアカウンセリングとは、個人の「つながり」を通して、「人と人」「人と組織」などさまざまなレベルでの「つながり」を作って影響をおよぼしてゆくことではないか。」

「自分たちの目の前にいる個人に働きかけることで、個人の背景に広がる社会につなげてゆくことを意識していく必要があると考える。」とされています。

  (引用 ※2 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン 立野了嗣著  金剛出版 2020年6月

                                                                                                             ➋経験代謝理論に基づいたキャリアカウンセリング ③ P7  )

 

 

 以上のように、フォレットの示した「創造的経験」は、組織内における「経験代謝の活用」を考える上で、「経験」という概念についてより深い理解と視点を与えてくれます。


⑦「経験」という概念について 

 キャリアカウンセリング型組織開発®を実践する上で、「経験」という概念について分類をする形で活動の整理をしています。

 我々は「経験」をそれぞれが同じ共通認識を持っている前提で語ることが多いのですが、特に、対人支援の世界では「経験」自体に関して複数の種類があるか、又は「経験」自体をつかみ取る受け手の感性によって一つの「経験」自体が複数の階層に分かれているとも考えられます。(実際には以下のそれぞれの「経験」の内容には、重複する部分もあります。)

  1.  「経験」、いわゆる一般的経験です、各個人として過去にあった事実としての認識になります。
     入社時の採用面接で面接官から問われる経験とほぼ同じレベルのものです。
  2. 学習的「経験」、「経験」からなんらかの知識を得るという「経験」です。「研究」等も含まれます。
  3. 人生の経歴としての「経験」、それぞれの外部環境の認知が発生します。他者との差別化という感覚でしょうか。イメージはフォレストの「創造的経験」での「経験」になります。キャリアコンサルティングにおける「経験」と捉える事も出来ます。
  4. キャリアカウンセリングにおいての自己概念を形作る「経験」、3と近いですが、他者との関わりはなく、内観的に「自己概念」に影響を与える「経験」です。「経験代謝」やサビカスのロールモデルにおける「経験」というイメージでしょうか。「啓発的経験」とも言えます。
  5. 臨床心理的な「経験」、心理の奥底に横たわる「自我」に強く影響を与えた経験です。臨床心理や病理に影響を与えている「経験」というイメージになります。サビカスは、「幼少期の思い出」の経験はこれに近くなることもあると指摘しています。

 上記の「経験」の種類という視点で考察すると、キャリアコンサルティングでは1を含んで2・3レベルを中心に、キャリアカウンセリングでは更に3・4というレベルを中心に「経験」に関わってゆくというイメージでしょうか。

 キャリアコンサルタントやキャリアカウンセラーでは5の経験については、極力触らないのが基本となります。その話の兆候が出た時点でリファーも考え始める必要があります。

 

 「経験」に触れるという議論をする時は、このような「経験」の内容についての概念も重要になります。この視点からは、「経験代謝」で指摘される「再現すべき経験」についての理解も深まるように思います。

 時折、カウンセラーやセラピストからの、キャリアコンサルタントレベル程度の知識で「経験」に関わるのは危険だというような指摘もみかけます。一方で、社会では企業の採用面接で応募者の「経験」も確認しますが、同様に面接官の行為を危険と指摘するような意見はあまりありません(もちろん危険な場合もあるでしょうが)。また、「創造的経験」で提示されているように、100年以上前から社会学・経営学(組織論)においても「経験」についての議論がなされています。このことからも「経験」がセラピストやカウンセラー等の専門性の中だけにあるものではない事になります。

 つまりそれぞれの専門分野や資格に見合った知見の範囲内で相談者と適切なレベルの「経験」の範囲で関わるという事が大切になります。(サビカスもそのように指摘をしています。)

  特にキャリアコンサルタントについては、出来れば触れることを避けたい経験の範囲があることを念頭に、面談に入る前やインテークの段階で通院の有無や病状等の情報についてよく確認をしておく必要があります。また、リファーに備えて、日頃からキャリアカウンセリングの周辺知識を常にしっかりと学習し理解しておくことが大切になります。


 上記のように「経験代謝」を組織行動論から考察を試みてはみましたが、「経験代謝」のメカニズムにおける内省を促す仕組み・意味の出現等を簡潔に説明するとなるとなかなか大変です。自身がクライアントとして、面談中に説明を試みたこともありますが、なかなかうまく伝わらなかったようでした。そんな事もあり、「経験代謝」は、まだまだJCDA以外の方の認知は低いように感じます。「経験代謝」自体については、JCDAのこちらの情報を参照して頂く方が良いと思います。

 このような状況もあり、「経験代謝」を基としたキャリアコンサルティングを、ロジャーズの「傾聴」を主体としたカウンセリングと勝手に混同されて、「傾聴」ばかりで時間ばかりがかかる、「見立て」が見えないので方向性が見えないなどと、他のキャリアコンサルタントやカウンセラーから指摘をされることもあります。

 この点については「意識マトリックス理論」を利用して、「見立て」を立てて展開するという「診断的なキャリアコンサルティング」と「傾聴を主体とするキャリアカウンセリング」の併存する枠組みを確認することで解決が出来ます。この枠組みで捉えると「対話型組織開発」のマインドセットである社会構成主義と「見立て」を両立させることも可能になります。次にこの「意識マトリックス理論」の枠組みによる考察について簡単に触れてみたいと思います。


⑧広義のキャリアコンサルティングと経験代謝(キャリアカウンセリング)

(⇒基礎となる意識マトリックス理論の領域等の解説はこちらから)

(A)広義のキャリアコンサルティングにおいても、「見立て」という概念が存在します。つまり右の図のように、キャリアコンサルタントの意識は「見立て」に向いています。

 対話の流れとしては、来談目的の確認(C/C領域)から「見立て(医師的な関り)」に沿って、解決案の提示(S/C領域)へと進むことになります。これがキャリアコンサルティングとして成立する要件としては、クライアントのキャリアコンサルタントへの医師と同等の信頼が必要になります。同等の信頼感が得られずに上記のような関りを行った場合は、逆にクライアントからの信頼を失う事もあります。また、図にあるようにクライアントの不満足につながってゆきます。

 一方で、このような本質主義的な関りのみの対応は、キャリアカウンセリング型組織開発®とは相いれないものになります。

(⇒詳細の説明はこちら)   

 このようにならない為に、先に述べたようにキャリアカウンセリング型組織開発®では、広義のキャリアカウンセリングにおいても、C/S領域に向かう経験代謝としての関りである「経験の傾聴」と「リフレクション」が必要になります。これらは「経験代謝」のメカニズムでは重視されています。但し、これらを実践することは実はそれほど簡単ではありません。

(⇒詳細の説明はこちら) 

 このホームページの最初に、『キャリアコンサルティングは個人が組織社会の中でより活き活きと働けるように、「セルフマネジメント」をサポートすることを主体とします。個人に課題や悩みがあり、「セルフマネジメント」への動機付けの必要がある場合はキャリアカウンセリングとして支援します。これにより個人の自己認識(self awareness)を再確認し、組織内での活動におけるマインドフルネスを高め、組織内でより活躍できることが期待できます。』と示していますが、これを上記の意識マトリックスマップで整理をしてみると次のようになります。

 「セルフマネジメント」を支援するキャリアコンサルティングは双方が意識出来ているC/C領域又はその拡張領域にて行われます。「セルフマネジメント」に対しての動機付けや意識付けが不十分な場合は、クライアントの経験を聴くC/S領域からS/C領域に展開し、自己認識を再確認しマインドフルネスを高めてもらった上で今まで意識をしてこなかった「セルフマネジメント」を改めてS/C領域にて意識してもらうことになります。その実現を通じて、今までとは違った自己概念や経験・意味が実現できるS/S領域に展開をするということになります。

 続いて、同じく意識マトリックス理論で「経験代謝」のメカニズムを確認します。

 この図でわかるように、「経験代謝」では「経験の傾聴」とリフレクション(クライアントの鏡になる)がより主体になります。

来談目的の確認(C/C領域)⇒経験の再現(C/S領域)⇒意味の出現(S/C領域)⇒自己概念の成長(S/S領域)⇒意味の実現(新C/C領域)という円環的反応(代謝)が想定出来ます。

 

 本質主義的な価値観から、問題解決を急ぐ(気持ちを訊く)・カウンセラー中心の展開(一方的な状況把握の詰問)を行うことは原則として避けるように推奨をされています。キャリアコンサルタントの意識を主体にS/C領域に突入するような関りを行うと、クライアントが答えることが出来ない領域ですので、仮に応答があったとしてもクライアントの本音とは関係のない一般的な内容になってしまいます。

 この様にならないように「経験代謝」では見立てを立てずに、来談目的の確認(C/C領域)から経験の再現(C/S領域)に展開することが大切になります。この意味から「経験代謝」においては、キャリアコンサルタントの意識は「傾聴」に向いていると考えます。

(⇒「経験代謝」についての詳細の説明はこちら)       

 本質主義的な関りとは、傾聴をしながらもクライアントの中に解決の答えがあるとか、周囲との関係性において解決に結びつく答えがあると仮定することです。社会構成主義的な関りとは、クライアントの中や周囲との関わりにもともと課題などは存在せず、クライアントの自身の認知・発言や周囲との対話によって課題(軋轢)という形が発生していると捉えることになります。

 但し、本質主義と社会構成主義は併存していると捉えていますので、クライアントは本質主義的なその時点での課題解決を求めていることが多いこともあり、上記の図のようにそれぞれの展開を意識しながら、広義のキャリアコンサルティングとしては関わることも可能になります。


⑨「傾聴」について

「経験代謝」を含めてカウンセリングの中でたいせつなこととして、「傾聴」があります。

これは、カウンセリングのロジャーズの理論における「治療的人格変化の必要にして十分な条件」(Rogers 1957)が基本になります。カウンセリングにおける「中核条件」論といわれています。

 ロジャーズは、カウンセリングの目的を「不適応者に適応を促す特別な行為」と言っています。(※2 P50)

よく見てみると、ここでも「経験」という表現が多くみられますので、再確認します。

 

①心理的接触

 二人が心理的に接触していること。クライアントとカウンセラーの間に心のつながりが生じている事。

②不一致

 クライアントは、自己概念と経験が不一致な状態、すなわち、傷つきやすい不安な状態にいる

③一致

 カウンセラー(又はセラピスト)は、この関係の中で自己概念と経験が一致している

④無条件の肯定的配慮、受容

 カウンセラーは、自分が無条件の肯定的配慮をクライアントに対して持っていることを経験している 

 クライアントを「ただそのまま」受け止めてゆくこと。受容とは、今その人の気持ちを「ただそのまま」受けとめることである

⑤共感

 カウンセラーは、自分がクライアントの「内的基準枠(相手のものの見方、感じ方、受け取り方、価値観など)」を共感的に理解していることを経験しており、クライアントに、この自分の経験を伝えようとしている。(今ここの経験を)クライアント自身に吟味し、チェックしてもらおうとする姿勢が重要である。 【( )内は、ここでの論点を踏まて補足】

⑥共感と受容に対するクライアントの認識

 クライアントには、カウンセラーが共感的理解と無条件の肯定的配慮を経験していることが、必要最小限は伝わっている

《マンパワー キャリアコンサルタント養成講座 テキスト2 ロジャーズの項目より抜粋》

 

この中では、特に、②不一致、③一致という部分で、「経験」を漠然と捉えているとなかなか理解が難しかったのですが、フォレットの定義する「経験」をあてはめてみると、「経験」は絶えず行われており、他者との交錯=「経験」=その人の考えを作るもの=「自己概念」と言うことをはっきりと理解すると、より「一致」・「不一致」の説明が理解できます。

 経験代謝としての表現では、一致については、『経験を踏まえた良しとしている自分が揺らいでいない状態』、不一致は『揺らいでいる状態』と言えます。

 年代的に考えて、ロジャーズが「創造的経験」に示されていた「経験」と同一の定義にて「経験」を捉えていたのではないかとも想像をしたくなります。

 



⑩「経験代謝」における「意味」についての考察

  経験代謝では、「意味の出現」・「意味の実現」を意識しますが、実際にその意味をつかむことはなかなか難しいものです。なぜなら、我々はクライアントの「行動」を観察できますが、クライアントの「行為」の意味は、お互いの相互作用を経ることによってしか近づけないからです。そういう点について、長らく実務を経験されているキャリアカウンセラーの方がFBに以下の内容を出されていましたので、引用してみます。

 

『(クライアントの)「意味」の怪しさ 

 その人にとっての生きる「意味」を探り当てて、その実現を目指すキャリア支援方法は、私にとっては難しい。

① 相談者が抱える文化の違い。その人の言葉や語る内容が受け手の私と隔たっている。時に未知や不明があっても、その人が語る言葉や物語を自分流に解釈してしまう。その誤解のまま話が進むことが起こり得る。  

② 多義性のあるあいまいな表現にカウンセラー側が、それを仮にAという言葉で名付けてしまうと、相談者側は多少違和感を感じていても、その符号Aに呼応して、元々描いていた像を置き去りにして答えてしまう。するとカウンセラー側のA世界に乗せられたままで進展する。 

③ カウンセラー側の言葉の使いようで、意味がずれていき、そこで話される内容が変わってくることもある。

例えば、こんな例。

上場企業出身のカウンセラーさんが、「充実した人生を送りたい」と相談しに来た人に「あなたの人生の目的は何ですか」と聞いたとする。 カウンセラーさんのこれまでの人生は、企業社会のなかで、目標を設定し、それを阻害する物(敵)を排除することが人生の充実だったかもしれないけれど、相談者側は創造や表現に充実を感じる人だったとする。そこには敵のイメージはない。

もし、カウンセラーさん側の生きる意味の固定イメージだけで進むなら、この出会いの進展はむつかしい。 

 世の中は、多様性とか人それぞれだよ、と言いながら、じつは、一定の文化や風土の中での成功イメージからなかなか抜けだせない人たちが多い印象を受けている。多様な文化、異質な価値観の理解、受取方の訓練のほうが、「意味」の発見に傾倒するよりも先にあっていいのではないかと思っていますが、どうでしょうか?』

  

以上のコメントからは次のような点を注意する必要があるように感じています。

  1. 「意味」と云うのは、あくまでクライアント自身の中にあるものである。
  2. 「見立て」を行う場合は、クライアントの意味をカウンセラーが自分流に解釈をした上で「見立て」が更に行われることになってしまうので、クライアントの実態(意味)から離れてしまうリスクが高い。
  3. クライアントが「意味」を発見し語ったとしても、カウンセラーが受け取る内容はやはりどうしてもカウンセラーが解釈をした上での「意味」でしかない。(参考:(観察できる)行動と(主体の意思が伴った)行為の定義)
  4. クライアントの「意味の出現」を本当の意味でカウンセラーが確認することが出来ない以上、「意味の実現」で見られる行動が、クライアントの「意味の出現」に沿った行為であるかどうかを確認することも実際はかなり難しい。 その為、キャリアカウンセリングを自己概念の成長と捉えると、「見立て」を立てても、実際には成果の確認をカウンセラーが出来ない為、やはり(ここで定義している医師的な関りである)「見立て」は基本的には経験代謝にそぐわないと言えます。
  5. このように考えてみると「経験代謝」のメカニズムでも、「意味の実現」というクライアントの着地を100%理解することはかなり難しい。 ある程度にキャリアカウンセラーからは離れた事象になってしまう。
  6. クライアントの「意味」を感じるというのは、クライアントを映すカウンセラーのバックボーンの知識の幅が幅広いほどクライアントの「意味」に共感できる可能性は高くなる。キャリアカウンセラーはバックボーンとなる知識を広める、深める努力を常に行う必要がある。 また、多様性を理解する必要がある。

 上記のポイントは、「キャリアカウンセリング型組織開発®」を実施するにあたっては、いつも意識しておくことが大切になります。特に、キャリアカウンセラーは自身の確立された価値観をもとに理解するよりは、多様な価値観を理解しているという事が大切になります。「キャリアカウンセリング型組織開発®」では、キャリアコンサルタントが相談者の語る物語を自分自身全体で感じながら、一緒にクライアントと「統合」ができるような「組立て」を進めてゆく必要があります。ここでの「統合」はあくまでクライアントが主体ですが、面談を通じてはどうしてもキャリアコンサルタントの価値観が入ってしまう事も踏まえて、キャリアコンサルタントとクライアントの意識の「統合」という表現にしています。

 

 表記の先生が続いて次のようなコメントをされており、参考になるので再び引用します。 

 『 難しいかもしれないですが、先入観を取っ払って、相手の方より、低い目線で、耳を傾けるのも大事と感じています。(カウンセラーの)いろんな過去の蓄積は、生きることもありますが、かえって邪魔をしていることに気付かない時があるのも、気をつけたいところと思っています。』 

『ナラティブ・セラピーをはじめ、多様な個性や社会的、精神的背景を持つ人達に高い適応性のある社会構成主義の流れを組む支援方法は、今後ますます重要視されるのではないかと思っています。』

 「経験代謝」のメカニズムにてキャリアカウンセリングを実施するにあたっては、やはりマインドセットを「社会構成主義」に置くことが重要に思われます。


⑪経験代謝の「限界と効用」

 「経験代謝」においては、効用と限界というものが前提として存在します。しっかりと確認して意識しておくべき点になります。但し、「経験代謝」のこの点に関しては、ナラティヴセラピーやブリーフセラピーなどの社会構成主義から派生した捉え方も意識する事により、リファーを念頭においてのことですが、あまり限界に触れることなく扱う事は可能になる場合もあります。

 もちろん、キャリアコンサルタントのみの資格で、いわゆるメンタルのグレーゾーンの方や明らかに心に傷を負っているかも知れない方などに、『ストレートに経験の振り返りを通じて過去の「自我」に踏み込もうとするような「経験代謝」のメカニズムを適応することは危険である』という認識は持たなければなりません。

 しかし、「経験代謝」を適切に理解しながら対応することにより、「限界」というものを意識しながらもいろいろな場面で充分な効果を発揮することは可能です。一部では、既述したように「心理学の知識の乏しいキャリアコンサルタントが、過去の経験に踏み込むことは、臨床心理の知識がないと危険である」という指摘もあります(※1)が、「経験代謝」の言語化や経験の分類の考え方で示したように、キャリアカウンセリングの場合でも対象とするのはあくまでそれぞれが普段から行っている「経験」を基本的には対象とし、クライアントが基本的には無理なく語れる範囲の経験であり、心理学における深層心理を含んだ「自我」を追求するような経験にまで必ずしも触れる事とは少し違うものだという事を明確にしておきたいと思います。採用面接では求人応募者の経験を面接官が振り返りますが、必ずしも危険とはされていないという経験の捉え方もあります。(参考)

 つまり、対象とするものが実態を伴った経験に基づく自己概念であり、フォーカスするのは、その人のキャリアを形作っている経験であるという認識が大切です。また、キャリアカウンセラーはセラピストではありませんし、それぞれが目的とする点も少し異なっています。

 

  また、「経験代謝」では、複数回のまとまった時間の面談時間が取れなければ、自己概念の成長を促せないという面もありますが、「経験代謝」を用いた一定レベルのロープレであれば15分間であっても満足を得られる事は感じられますので、質の深さの問題はありますが、ブリーフセラピーの観点等も応用すれば、回数や時間自体が実践における大きな問題ではないようにも思います。

 カウンセラーとして持つべき一定レベルの注意やコンセプトに注意すれば、組織内キャリアという問題にしっかりと焦点をあてている限り、より幅広い範囲で「経験代謝」を十分に活用でき、クライアントに適切に対応が出来る可能性があります。

  但し、頻繁に自己分析をする人ほど、憂うつや不安に陥り易く、幸福度が低くなるという研究等もありますので、当然ですがいろいろな点に関して、常に最新の注意が必要です。

※1)これは、サビカスの「覚悟がなければ幼少の記憶に踏み込むことを避けた方が良い」という指摘から引用がされていたように思いますが、サビカスはその場合でも同じ過去の経験であるもロールモデルに触れることがより安全としています。


⑫ 対話型組織開発(キャリアカウンセリング型組織開発)における「経験代謝」の実践における注意点

 職業紹介場面や通常の企業内カウンセリング、ジョブカードの支援面談では、当初から来談者が大きな不安を抱えている事や、積極的にキャリアコンサルタントにへ自身の悩みを表明するということも少ないと思います。また、キャリアコンサルタントがクライアントに対してセラピストのようにふるまう事も適切ではないと考えています。その為、「キャリアカウンセリング型組織開発®」においては来談者のキャリアにより注目し、キャリアコンサルティングの目的をシンプルにする為に、クライアントによる「セルフマネジメント」の明確化とその実現を支援することを最初の目標にしています。その中で、「セルフマネジメント」への動機づけが不明確な場合やなんらかの不安が表明された場合に、キャリアカウンセリングの比重を高くし、「経験代謝のメカニズム」をより働かせて対応をすることになります。これにより自己認識(セルフアウェアネス)を高めた上で、「セルフマネジメント」を意識してもらう事により、組織の中でマインドフルネスを高く維持しながらの活動を実現できるように支援をしてゆきます。

 実践においては、ブリーフセラピーの考え方も取り入れながら進めてゆきます。以下の[  ]の部分。

 

☆ここでの来談目的は「キャリアの相談」や「就労に向けての支援」としています。

 主訴は以下の流れの中で、実際は来談者が困っている事になるとは思いますが、これは個々の面談で異なりますし、それぞれの面談の中ででしか確認できないものだと思います。[悪循環の切断] 

 キャリアカウンセリングの進め方としては、基本的には以下のように考えています。あくまで、ここまで確認してきたような来談者の「経験」を踏まえて、「経験代謝」の基本型である「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」のサイクルを押さえた上での応用になります。

 

  1. 一番に気をつける事は、面談ではクライアントの精神状態の状況を事前に把握することは難しいという前提で対応する点です。もし、通院歴が明らかな場合は、医師がなんと言っているのか、それについてクライアントがどう感じているのかを、まず確認することが当然です。基本的姿勢として大切になります。
     キャリアコンサルタントとしてのリファーの知識がありますので、それぞれのリファーポイントを踏まえながら、新規のクライアントに対しては、自身のリファー対象であるのかないのかをまず確認しながら、接することが大切です。
  2. インテークでは慎重なクライアントへのアプローチが必要です。クライアントの状況を把握できるまでは、クライアントの心を傷つけるかも知れないような過去の経験にいきなり踏み込むことや、リスクを負うことになるいわゆる「状況の収集」という事に関心を持ち過ぎないことが大切です。
  3. クライアントの話したい事だけを話してもらうというスタンスを大切にします
     カウンセラー主導の質問によって、いきなり無理にクライアントに過去の「経験」を振り返させないように注意します。
    カウンセリングに必要な情報はクライアントが基本的には自ら語るという認識が大切になります。また、それに相応しい応答の技術が大切になります。
  4. クライアントが大切に思っている事は、それがどのような経験を経て踏まえて形成されたのかを慎重に聴きます。
     キャリアカウンセラーが勝手に問題を作り出すことは避ける事が大切です。クライアントが問題だと思っている課題(=主訴)、それに付随する経験に注意を集中する必要があります。面談の「組立て」は、クライアントの主訴に応じ設定します。
     クライアントの主訴の変更があって初めて「組立て」も変更するようにします。カウンセラーが勝手に一方的に「組立て」を創るものでもありません。
  5. ブリーフセラピーの考えも参考にし、状況に応じて「経験代謝」での「過去の経験」よりも、「意味の実現」の部分である「ありたい自分」(理想の状態)に焦点をあててみるようにします。この視点は認知行動療法でも役立ちます。
     目的の明確化によるセルフマネジメントの確認やマインドフルネスの充実につなげること。カウンセリングの枠組みを明確にして、クライアントに必要な事を自由に語ってもらうことが大切です。
  6. 「悩み」をクライアントが主体的に語る場合は、その「経験」に寄り添います。
     (経験の再現)
    そうでない場合は、どちらかと言えば「ありたい自分」に焦点をあてて語ってもらいます。
     (意味の実現)
  7. 「ありたい自分」(意味の実現)が明確である場合は、その素材となる「経験」を出来る範囲で語ってもらいます。
    (経験の再現⇒意味の出現)
  8. 良かった「経験」については、クライアントに積極的に語ってもらうようにします。
     (経験の再現)⇒(意味の出現)[Do Moreにつなげます。]
  9. クライアントが現在「解決」に向かっている点があるのであれば、[Do More]をサポートします。 
     (意味の実現)
  10. クライアントが今「うまく行かない」時は、語ってもらえる範囲で、そのもととなる「経験」に焦点を合わせてみて、その時の「自己概念」を認識・確認してもらいます。
     (経験の再現)⇒(意味の出現)
     その経験をもとに、内省を促し自己概念の成長を図ります。自己認識のリフレーミングや経験の統合を目指します。
     合わせて、その逆のうまく行った「経験」が今までになかったかを確認します。
    (経験の再現)[MRIアプローチ]
  11. 面談を通して、クライアントの「なりたい自分」や「うまく行っていた」時に近づく為の「次の経験」の実現をサポートします。この流れでうまく行けば「Do More]で「ありたい自分」に、将来にわたり近づいてもらうようにします。
    (意味の実現)
  12. クライアントの主訴に対しての満足度が高くなるように、関わることが大切になります。マインドフルネスの向上が図れるように意識して関わってゆきます。
  13. (注意点)ロープレ勉強会などで見られますが、キャリアコンサルタントの考え・興味や自身の知識との照合の為に、「状況の把握」と称してキャリアカウンセラーとしてクライアントの経験や家族環境・生育履歴に一方的に触れてゆくのは、あまり適切でないと思います。繰り返しになりますが、主訴はキャリアコンサルタントが創るものではありません。(参考)
  14. 上記の流れの中でも必ず「経験代謝」としてクライアントの「経験」には触れる事になると思います。そこからは、「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」へと基本的には回してゆく意識が基本になります。キャリアカウンセラーの中では、(「来談目的の確認」⇒)「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」⇒(経験の意味づけ・再構築⇒)「経験の再現」を常に意識する必要があります。
    [円環的反応(円環的因果律)]

 

(「来談目的」や「主訴」という基本的な語彙も団体間では定義が違っていますが、ここではJCDA(CDA養成講座)での定義を基準に記述しています。)



⑬「経験代謝」について、「D・コルブの経験学習モデル」ですねと言う意見を見たことがあります。

 

 組織行動学者のディビット・コルブは、デューイの「経験から学ぶ」という思想を、ビジネスパーソンにも判り易いように2次元化して、「経験学習サイクル」として表現しました。デューイの「経験から学ぶ」とは、「知が生まれるのは、経験を振り返るとき、リフレクションする時だ」と言いました。私たちは経験から(直接)学ぶのでない、経験(experience)を内省(reflection)する時に学ぶのだ、ということになります。ここでのリフレクションとは、「経験を意味づけ、学びにつなげていく認知的作用のこと」を言います。(組織開発の探求 2018年10月 ダイアモンド社 p78~79より)

 ここでの見解は、「経験代謝」と「経験学習」は少し違うのではないかという事です。経験代謝は、ある特定の経験の連なりを自己概念の成長という視点からキャリアカウンセリングを通じて捉えますが、経験学習モデルはそれよりももう少し意味が広く、いろいろなある特定の経験から次につながる知を習得するという面が強いように感じます。ただ、この違いについては、もう少し学習が必要です。ただこの違いをまとめるとなるとやはり大変そうですし、「経験代謝」とは内容が大きく離れていきそうですので、「経験学習」に関しては、下記を参照下さい。

 経験学習の理論的系譜と研究動向 中原 淳著 日本労働研究雑誌(2013年10月号より)





「経験代謝」と変容的学習理論

(Coming Next) P408


ピアジェの「認知の同化と調整」

 シェマ(認知構造)

 「同化」とは、シェマが豊かになる

 「調整」とは、シェマを変更する

 

認知は、同化と調整により成長する

    ⇒分割・階層化⇒高度な認知⇔均衡化

 

認知科学 Congnitive Science

⇔神経科学 体内の電気信号やホルモンの働き

 認知科学は「心理学」「人類学」「言語学」「神経科学」「情報科学(人工知能研究)」「哲学」等が関連し、学際的

 

      ⇒猫と区別する=「調節」

 「犬」と「猫」を見分ける

  ⇒犬と認知するシェマ

 

クリティカル シンキング 「批判的思考」

 前提が正しいのか検証をした上で本質を見極める事

     仮定⇐根拠をデータで証明