「経験代謝」の活用


 「組織開発」においては、その過程でメンバーの個々の課題や悩みに対応したり、メンバーのマインドフルネスを高める事が必要な場合があります。そのような対応も含めて、「対話型組織開発」において「経験代謝のメカニズム」を活用したキャリアカウンセリングを「対話」の主体とする活動を「キャリアカウンセリング型組織開発®」と定義しています。活動の条件としては、マインドセットを「社会構成主義」に置くことにあります。組織におけるシステム概念とも親和性が高い「ブリーフセラピー」の概念も合わせて活用してゆきます。

「社会構成主義」「対話型組織開発」に続いて、これらの知識も踏まえながら「経験代謝」について、キャリアコンサルタントとクライアントの関係性の視点を中心に考察をしています。

 

 「経験代謝」は、キャリアカウンセリングにおいて内省を促し、「人」と「経験」のつながりを学ぶ、学びの構造です。(経験とは、「自己概念と社会(環境)との相互作用」)つまり、自己概念の成長を促す”学びの構造”と言えます。

(参考:JCDA養成講座 TEXT1 「キャリアカウンセリングとは何か?」)

 過去の経験を傾聴することによって、内省を促し、個人の「意味の出現」を支援し、個人の自己概念の成長周囲環境(組織)との関係性の改善を目指します。(詳しい内容については、下記の書籍にてご確認下さい。)

 ここでは「経験代謝」の活用について、フォレットの思想なども押さえながら「対話型組織開発」の中で展開することを中心に考察します。

 「経験代謝」は、カウンセラーがクライアントに対して、傾聴をベースとした関りをキャリアカウンセリングにおいて確実に行えるようにするように支援するメカニズムです。「経験代謝」は、キャリアコンサルティングを行うにあたっての有効な基盤だと言えます。

  ここでのキャリアコンサルティングは、社会構成主義をマインドセットとして経験代謝や傾聴を主体としたキャリアコンサルティングを対話型組織開発、特に、プロセス・コンサルテーションのスタンスにて関わるという視点からまとめています。
 大切な点は、社会構成主義を利用するという視点ではなく、社会構成主義の概念を踏まえて活動を行う事です。

 

(補足1) このホームページにおける「キャリアカウンセリング」とは、JCDAにおける「経験代謝のメカニズム」を基本としたキャリアカウンセリングを指します。

(補足2)「経験代謝」はその経験を聴くという視点から、組織開発に活用することが出来ます。

(補足3)経験代謝においては支援する人と支援される人の上に「協力し合うパートナー」としての関係を築くとされており、経験代謝は社会構成主義の基本姿勢との共通点があります。(※2 第2章 ❾関係性を超える P50より)

 (補足4) いろいろな学習会の情報や経験を踏まえながら考察中の内容になります。その為に記載の内容については、折々感じた時点で変更をしています。「経験代謝」自体については、詳しくはJCDAのサイトや下記の書籍等でご確認下さい。

(補足5)キャリアコンサルタントの資格取得後の活用を考察しています。国家資格試験対策向けの内容ではありません。

 

(参考書籍)

立野 了嗣 著

 「経験代謝」によるキャリアカウンセリング 晃洋書房 2017年6月(※1)

 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン(経験代謝理論によるカウンセリング実践ガイド)

 金剛出版 2020年6月)(※2)



 組織開発ではモダンの価値観を基本とした「診断型」と社会構成主義に基づいたポストモダンの価値観を基本とした「対話型」に定義されています。キャリアコンサルティングにおいても同様の定義があります。キャリアコンサルタントの養成講座のテキストでは、社会構成主義についての説明で、診断型を論理実証主義的世界観、対話型を構成主義的世界観と示されています。

 「経験代謝」は、構成主義的世界観に基づいているとされています。(※2 第2章 ⓫ 1⃣再帰性とは何か P52より)

 SocialGoodキャリア®では、国家資格の「キャリアコンサルティング」とJCDAの「キャリアカウンセリング」では、それぞれの定義は違っていることも踏まえて、「キャリアコンサルティング」と「キャリアカウンセリング」を、サビカスのキャリア構成理論に準拠し、それぞれを違うものとして分けて捉えています。一般的なそれぞれの定義を踏まえると、キャリアコンサルタントは「診断型」が主で、JCDAにおけるキャリアカウンセラーは「対話型」が主と言えます。 また、これらを統合した概念として(広義の)キャリアコンサルティングと表現しています。

 

 「キャリアコンサルティング」と「キャリアカウンセリング」において、何が一番違うのかは、その定義にあるように「指導と助言」を積極的に行うかどうかです。これは、面談における「傾聴」のスタンス(マインドセット)や対話型組織開発を念頭においた「マインドセット」を考える上では重要なポイントになります。

 

 最初に、「経験代謝」を軸として(広義の)キャリアコンサルティングを実践する場合の課題についての整理したいと思います。「キャリアカウンセリング」においては、ロジャーズの「傾聴」(「受容」「共感」「自己一致」)が、まず基本の関りになると思います。また、これを具体的にどう実践してゆくかが大切な点になります。

 一方で、標準的な「キャリアコンサルティング」においてはシスティマック・アプローチがベースになることもあり、「見立て」という概念が存在します。コンサルタントの「見立て」をベースに「助言や指導」が行われます。(ここでの「見立て」の定義は、医師がその医学的見地から患者の病気を特定し、それをもとに患者を治療する方針をたてることと同義とされています。)キャリアコンサルタントがクライアントに「見立て」を行う場合には、必然的にコンサルタントの知識がベースとなる為に、また、クライアントよりコンサルタントに優位的な知識にあり、クライアントを「指導・助言」する立場にあるという(ワンアップの)意識が根底の価値観となります。

 あるキャリアコンサルタント向けの公式の講習資料では、インテーク場面で「見立て」が取り上げられ、「見立てという言葉もよく使われます。見立ては医者がよく使う言葉です」と表現されて、「診断と予後を含む全体の見通し 」(出典:「心理臨床大事 典」培風館、 2004年にて)と明示されています。一般的なキャリアコンサルティングにおいては、「診断型」が基本となるようです。

 

 「見立て」をどう捉えるかは、ここでの前提となっている社会構成主義の立場に立ってキャリアコンサルティングを実施する時には、なかなか難しい点になります。また、「経験代謝」の実践する視点から考えると、「見立て」はそのキャリアコンサルティングにおいてコンサルタントの「自己概念」が大きく影響してしまっていることになります。コンサルタントの「自己概念」の影響が大きくなるという事は、クライアントを「受容」・「共感」するという面で難しくなります。

 特に、社会構成主義をマインドセットとする場合、コンサルタントがワンナップ(One Up)の立場になる医師的な関りはあまり適切な態度とはされていません。

 つまり、キャリアコンサルティングでここで定義をしている「見立て」を立ててだけ進行すると、どうしてもコンサルタントの自己概念をベースとせざるを得ない「診断型」の「専門家的な」又は「医師的な」アプローチになってしまいます。その為、「経験代謝」をベースとした(対話型)キャリアコンサルティングを行う場合は、基本的には自己概念は入れずに、クライアントに寄り添った「キャリアカウンセリング」として傾聴することからスタートをすることを基本にしています。

 「対話型組織開発」の中で実施する場合には、キャリアコンサルタントとしても「社会構成主義」に立つ必要があります。「ポストモダン」的な捉え方として、世の中に正しい唯一の正解は存在しないと考えてアプローチすることが基本になります。つまり「見立て」という概念はあまり存在しないことになります。

 カウンセラーとクライアントのナラティヴの関係性の中で。「リフレクション」として、カウンセラーが「ひっかり」を感じて、それをクライアントにフィードバックを行うことはありますが、それはあくまでクライアントが再びそのフィードバックをどう捉えるかという事をカウンセラーが感じ取る、もしくは反映するという事が主になります。「経験代謝」を主体としたキャリアカウンセリングの場合はあくまでクライアント自身の自己概念が変化することをサポートすることが大切になります。

  キャリアカウンセリング型組織開発では、(経験代謝のメカニズムを基本とする)キャリアカウンセラーとして、(広義の)キャリアコンサルティングを行うというのが、基本のスタンスとなります。また、別の表現をすれば、組織開発における「プロセスコンサルテーション」スタンスで、「対話型」のキャリアコンサルティングを実践することになります。

  一般的なコンサルティングにおいても、「見立て」を使った関わりを、シャインは「専門家的な関り」「医師的な関わり」と表現していて、「傾聴」や「対等性」を関りを主体とすることを「プロセス・コンサルテーション」(謙虚なコンサルティング)と表現しています。

 

注)広義のキャリアコンサルティングが、キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリングで構成をされていると捉えています。


 「見立て」の具体的な例として、支援者があるクライアントに対し「この年齢のこの経験でこの状況にあるから、このクライアントはこういう可能性しかない」という「見立て」をして、アプローチするやり方もカウンセリングの「能率」という面では有効であるかとは思います。ですが、「経験代謝」を主体とするアプローチでは、10万人中99,999人がその「見立て」に合ったとしても、目の前にいるクライアントが残りの1人である可能性も感じて、アプローチするのが「効率」をあげる為の「社会構成主義」のマインドセットに立ったアプローチだというスタンスを取っています。

  また、カウンセラーが一方的に立てた「見立て」が何らかの形でクライアントに伝わった場合、クライアントがそのカウンセラーの「見立て」に、そもそも「共感できるかどうか」というのも大切なポイントになります。これはクライアントからカウンセラーへの「受容」を期待する事でもあり少し違和感があります。また、クライアントがカウンセラーの「見立て」をなんとなく言説(ディスコース)からも感じてしまって、それを受け入れ難いと感じる場合はクライアントはそんな事実はないと「見立て」やキャリアコンサルタント自体に反抗的になったり、その審判に腹を立ててしまってコンサルティングの終了を申し出る可能性があります。


「見立て」と「組立て」

 「キャリアカウンセリング型組織開発®」におけるキャリアコンサルティングでは、ここで定義している「見立て」は立てずに、次の展開に向けてのクライアントと「組立て」を行うようにします。

 「見立て」は、カウンセラーから見たクライアントの特性を判断・把握したワンアップ(one up)を前提としての進め方の方向性で、ここで定義する「組立て」とは、クライアントとカウンセラーの関係性を中心に、この二人の「協働」作業としての方向性(又は、目的)を決めてゆく事です。

 また、「見立て」に関しては、クライアントが「構えて」しまうという観点も出てきます。「経験代謝」のメカニズムではカウンセラーが「構えて」しまうと、クライアントが自由に語れなくなります。社会構成主義のマインドセットが前提の場合は、「見立てる」ことは、専門家的な態度を取ってしまうクライアントより一段上にたつ行為(one up)のですので、原則的には避けます。

 「キャリアカウンセリング型組織開発®」では、キャリアコンサルティングの「組立て」の為には、「組織」や「組織行動論」等の知識が「リフレクション」の為のバックボーンとして大切だと考えています。



以下は、もう少し焦点を絞って、「経験代謝」のメカニズムを実践する場合について検討します。


 キャリアカウンセリングにおける内省を促す上での「経験代謝」の詳しい内容は、他のサイトや書籍等で確認して頂くとして、ここでは「対話型組織開発」で活用するという観点で、経営組織論の視点から「経験代謝」についての言語化を試みてみます。

 

「経験」とは、M.P.フォレットの『創造的経験』(1924年)において、次のように記述されています。

「経験を諸力の相互作用として捉える。つまり、経験をその瞬間、瞬間にいきいきと関係づけてゆくことを通じて、新たな活動に導いていく関係づけの活動(the activity of relating)として捉えるのである。」(P91)「経験とは、そこから目的と意思、思考と理想が生み出されてゆく力の源、つまり発電所のようなものである。」(P141)「自身の利益の評価は、事を行ってゆくに従って変わってゆく。それぞれの価値の評価は、人々の行動を交錯することからもたらされる。価値は「結果としても生じるもの」である。経験がすべての判断の基準を作り出すのである。」(P178)「経験とは、自己生成し、自己充足し、あらゆるものを包含し続けてゆく活動であるという事を知った。」(P191)と記述されています。

つまり、「経験」は、その人、人格そのもの(人格を織りなすもの)であり、その人にとっての次の「価値」を生み出すものでもあるという事が指摘をされています。

また、「経験」は常に進展するそれ自体が他者等の諸力との相互作用です。その継続する「経験の交錯」を通じて、「自己概念」(よしとする自分)をそれぞれが獲得してゆきます。つまり、「自己概念」は、それまでの「経験」を通して獲得した「(よしとしている)考え方、ものの見方」です。

日々新たな他者との交流において獲得される「経験」においては、他者の「経験」等が新たに入り込んできますので、常に「交錯」が起こります。その時に、自身の経験とその「交錯」した経験が「統合(integration)」され、自然と昇華される場合は良いのですが、「コンフリクト(軋轢)」の状態が続たり、「抑圧」や「妥協」によって「コンフリクト」が完全に解消されない状態になるとそれまでの「経験」から得た自己概念(価値観)が揺らいでしまう状態になります。それらが要因となり、悩みや不快感等が発生するとも言えます。他者との相互作用の結果により、それまでの経験を通じて獲得していた「よしとしていた自分の考え方」がゆらぐのです。また、別の言い方をすると、それまでの「経験」から獲得された「ありたい自分」と自己概念(価値観)が新たな経験の交錯によりしっかりと紐づけされなくなり、不安感などが生じるとも言えます。また、もともとが「借り物の自己概念」であったものが揺らいでいるのかも知れません。

この解消のために、他者であるカウンセラーとの新たな「経験の交錯」により、「状況の法則」による新しい「統合」を生み出して「解決」を図ろうとすることが、キャリアカウンセリングやセラピーであると考える事も出来ます。「経験代謝」では、「自己概念の成長」により「自己概念(経験)のゆらぎ」を解消することになります。その為には、「経験代謝」中で「再現すべき経験」として「自己概念(価値観)が揺らいだ経験」を再現し、そのゆらいだ経験をした時点の自己概念(良しとしている考え方)を認識することが大切です。これを「意味の出現」と表現します。その「意味」を見つめる事を通じて、その経験から生み出される自己概念の成長(状況の法則)により新たな「統合」を見出だし、「ゆらいだ経験」をも包含した新しい自己概念を確立してゆくことを促進することになります。その結果、「ありたい自分」が(再び)より明確になり、フォレストが指摘するように、経験から新たな次の活動に導いてゆく事(意味の実現)ができるようになります。

経験代謝においては『「意味の実現」の向かう矢印の先にある「経験」は、「創造した経験」である。相談者が自らの意思によって起こした出来事に対する経験である。』(※2 p46)とされてます。

フォレットが指摘したように、各個人の自己概念(人格そのもの)はそれぞれの経験から形成されます。また、他者との交流の中で、それぞれの経験がコンフリクト(軋轢が生じる)を生み、それがまずは自己概念にゆがみを与えます。この経験に基づく自己概念を改めて確認し、新たな行動に移すシステムが「経験代謝」であると言えます。つまり、100年前にフォレットにより指摘された組織内における「経験の交錯」を通じて生じた「コンフリクト」を「統合」へと向かわせる具体的な関りのメカニズムが、「経験代謝」であるとも言えます。

また、このように組織論との結びつきを理解することにより、「経験代謝」を組織開発や組織の中におけるマネジメントにおいてより活用が出来ることになります。

 

参考)

「経験代謝」に関する書籍

 立野 了嗣 著

 「経験代謝」によるキャリアカウンセリング 晃洋書房 2017年6月(※1)

 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン(経験代謝理論によるカウンセリング実践ガイド) 金剛出版 2020年6月(※2)

  《☆立野先生と一度だけロープレで、同じグループにご一緒させて頂いたことがあります。その時に『「経験代謝」だから、(クライアントが表現しにくい気持ちやその時の意味ではなく、)「経験」を聴くのだ。』とご指導を頂いたことがあります。まさにここでの論点でいえばその通りだと改めて思います。「経験」が語られる中から、感情や意味を映し出すとという事が大切だと思います。》

 

捕捉)

自己概念の成長(コンフリクトした経験の統合)とは、

・当事者意識

・自分を含む世界を客観視できる。

・視野が広がる。俯瞰的に捉える。

・視野が変化する。

 等であり、これらにより個人の状況が変化し(状況の法則)、「コンフリクト」が解決し、新たな統合による自己概念の成長が図られると言えます。

 

「コンフリクト」の解消における「統合」とは、「意識的な過程」。「抑圧」と「妥協」は、ある程度無意識な過程(P97)

「経験」というものを、個人の自己維持と自己回復のプロセスと捉えている(P122)

「経験」の交錯の場が、「協働状況」であり、フォレットの捉える「組織」であったと理解できる。(P122)

 (上記、3項目は、「社会的ネットワーキング論の源流 ━M.P.フォレットの思想━ 三井泉著 文眞堂 2009年9月)

 

「状況の法則」とは、当事者たちが包摂されている状況自体が指し示すところの、組織全体ないし状況全体とそれを構成する個々の成員がともに前進することのできる道を意味します。

また、より簡潔に表現すると「状況の法則」とは、問題はある状況下で発生をしており、状況を変化させることで問題解決の糸口がみつかる。とも言えます。

 

フォレットは、個人と個人、個人と全体の「相互作用」を「円環反応」(circular response)と捉えています。「経験代謝」は、「円環反応」の1サイクルを表現しているとも捉える事ができます。

「円環反応」とよく似た言葉として、グレゴリー・ベイトソンの「円環的認識論」があります。ブリーフセラピーにも応用され、「悪循環」を断ち切るという手法にもつながっています。そういう意味でも、M.P.フォレットの思想では、これらもすでに内包していたとも言えます。

 


「経験代謝」と「創造的経験」

 対話型組織開発の中で活用をするという視点から、「経験代謝」と約100年前に著された「創造的経験」の中で、M.P.フォレットが主張した内容との共通点や相違点などを改めてまとめてみます。

 まず、両者の基本となる「経験」という観点ですが、それぞれが「経験」を個人そのもの(自己概念)をもたらすものであると捉えている点では共通しています。また、過去の「経験」が、創造的経験では「ここから目的と意思、思考と理想が生まれてゆく力の源、つまり発電所のようなものである。」と示されていますが、これは、経験代謝で「経験から意味の実現を生み出してゆく」というように、過去の経験から未来を形作ってゆくという点でも、両者は共通していると思われます。また、個人を全体性との関係性で捉えてゆくという点においても、共通しているかと思います。

 逆に、次の活動に向けて「経験」自体をどのように捉えるかという点になると、若干異なる点があります。創造的経験では、経験は「相互の関係づけ」・「諸力の相互作用」と捉えられ、未来に向かってはおのおの経験を持つ個人のコンフリクトを統合することによって、組織や社会を改善してゆくということに焦点が向けられるます。

 経験代謝では、「自己概念の成長」、経験から得られる「個人にとっての意味やその意味の実現」等、個人の内省を促す事に焦点が向けられます。

 このような創造的経験と経験代謝における「経験」に対する焦点のあてかたを違うものと捉えることも出来ますが、ここで課題としている「対話型組織開発」という視点も加えると、これらの違いを「個人の内省による意味の実現による変化は、周囲の環境である他者や属している組織にも変化として影響を与える」という視点から、経験代謝のメカニズムを組織や社会でも積極的に活用する事が出来ます。経験代謝においても、「経験」の相互作用に関連する説明として、「人」と「社会」の項目において、

「キャリアカウンセリングは、個人の「つながり」を通し、社会へとつながってゆく。」

「キャリアカウンセリングとは、個人の「つながり」を通して、「人と人」「人と組織」などさまざまなレベルでの「つながり」を作って影響をおよぼしてゆくことではないか。」

「自分たちの目の前にいる個人に働きかけることで、個人の背景に広がる社会につなげてゆくことを意識していく必要があると考える。」とされています。

  (引用 ※2 キャリアカウンセラーのためのスーパービジョン 立野了嗣著  金剛出版 2020年6月

                                                                                                             ➋経験代謝理論に基づいたキャリアカウンセリング ③ P7  )

  また、社会的な次元で「地球温暖化」等の事柄が、本来「自分を含む世界」の事柄として認識する必要があるにも関わらず、何らかの意図の下に「他人事の世界」にされている経験をキャリアカウンセリングを通じて「自分を含む世界」とすることも大切にされています。また、これらを通して「人間性」に基づく「社会の成熟」を目指す動きもキャリアカウンセリングには含まれるとされています。

 (引用【CDA友の会】会長便り:第44回  「人間性と社会の成熟(コロナ禍の後に)」2020.12.23

                  :第45回 「他人事の世界(その2)」                                    2021.  1.21)

 

また、フォレットの「経験」の統合に関する基本姿勢とも共通すると思いますが、

「自分自身に対しても、他者に対しても『経験の中から自分を見つけていくってことが、すごく素敵だ』と思って関わって行く人がCDAです。」とも指摘されています。

(引用【CDA友の会】会長便り:第40回 「経験の中に自分を観る」について 2020.8.12)

 

 以上のように、フォレットの示した「経験」に対する考察は、組織内における「経験代謝の活用」を考える上で、「経験」という概念について、より深い理解と視点を与えてくれると感じます。


  ここまでの内容を通じて、「経験」という概念を活用するという視点からもまとめてみます。

 我々は「経験」をそれぞれが同じ共通認識を持っている前提で語ることが多いのですが、特に、支援の世界では「経験」自体に関して複数の種類があるか、又は「経験」自体をつかみ取る受け手の感性によって一つの「経験」自体が複数の階層に分かれているとも考えられます。(実際には以下のそれぞれの「経験」の内容には、重複する部分もあります。)

 

①「経験」、いわゆる一般的経験です、各個人として過去にあった事実としての認識になります。

 入社時の採用面接で面接官から問われる経験とほぼ同じレベルのものです。

②学習的「経験」、この後にでてきますが、「経験」からなんらかの知識を得るという「経験」です。「研究」も含まれます。

③人生の経歴としての「経験」、それぞれの外部環境の認知が発生します。他者との差別化という感覚でしょうか。イメージはフォレストの「創造的経験」になります。キャリアコンサルティングにおける経験と捉える事も出来ます。

④キャリアカウンセリングにおいての自己概念を形作る「経験」、③と近いですが、他者との関わりはなく、内観的「自己概念」に影響を与える「経験」です。「経験代謝」やサビカスのロールモデルにおける「経験」というイメージでしょうか。「啓発的経験」とも言えます。

⑤臨床心理的な「経験」、心理の奥底に横たわる「自我」に強く影響を与えた経験です。臨床心理や病理に影響を与えている「経験」というイメージになります。サビカスは、「幼少期の思い出」の経験はこれに近くなることもあると指摘しています。

 上記の「経験」の種類は、キャリアコンサルティングでは①を含んで②③レベルを中心に、キャリアカウンセリングでは更に③④というレベルを中心に「経験」に関わってゆくというイメージでしょうか。

 キャリアコンサルタントやキャリアカウンセラーでは⑤については、積極的に触らないのが基本となります。その兆候が出た時点でリファーも考える必要があります。「経験」に触れるという議論をする時は、このような「経験」の内容についての概念も重要になります。この視点からは、「経験代謝」で指摘される「再現すべき経験」についての理解も深まるように思います。

 時折、カウンセラーやセラピストからは、キャリアコンサルタントレベル程度の知識で「経験」に関わるのは危険だというような指摘をみかけます。一方で、社会では企業の採用面接で応募者の「経験」を確認しますが、これを同様に面接官の行為を危険と指摘するような意見はあまりありません(もちろん危険な場合もあるでしょうが)。また、「創造的経験」で提示されているように、100年以上前から社会学・経営学(組織論)においても「経験」についての議論がなされています。このことからも「経験」がセラピストやカウンセラー等の専門性の中にあるものではないという事になります。ここで問題にしている「経験」に対する専門性の主張は、社会構成主義において批判されている専門家の常識による社会構成の一例とも言えます。

 つまりそれぞれの専門分野や資格に見合った知見の範囲内で適切な範囲の相談者と適切なレベルの「経験」で関わるという事が大切です。(サビカスもそのように指摘をしています。)また、それゆえキャリアコンサルタントはリファーに備えて、カウンセリングの周辺知識をしっかりと学習し理解しておくことが望まれます。


 「経験代謝」を含めてカウンセリングの中でたいせつなこととして、「傾聴」があります。

これは、カウンセリングのロジャーズの理論における「治療的人格変化の必要にして十分な条件」(Rogers 1957)ということが基本になります。カウンセリングにおける「中核条件」論といわれています。

 ロジャーズは、カウンセリングの目的を、「不適応者に適応を促す特別な行為」と言っています。(※2 P50)

よく見てみると、ここでも「経験」という表現が多くみられますので、再確認します。

 

①心理的接触

 二人が心理的に接触していること。クライアントとカウンセラーの間に心のつながりが生じている事。

②不一致

 クライアントは、自己概念と経験が不一致な状態、すなわち、傷つきやすい不安な状態にいる

③一致

 カウンセラー(又はセラピスト)は、この関係の中で自己概念と経験が一致している

④無条件の肯定的配慮、受容

 カウンセラーは、自分が無条件の肯定的配慮をクライアントに対して持っていることを経験している 

 クライアントを「ただそのまま」受け止めてゆくこと。受容とは、今その人の気持ちを「ただそのまま」受けとめることである

⑤共感

 カウンセラーは、自分がクライアントの「内的基準枠(相手のものの見方、感じ方、受け取り方、価値観など)」を共感的に理解していることを経験しており、クライアントに、この自分の経験を伝えようとしている。(今ここの経験を)クライアント自身に吟味し、チェックしてもらおうとする姿勢が重要である。 【( )内は、ここでの論点を踏まて補足】

⑥共感と受容に対するクライアントの認識

 クライアントには、カウンセラーが共感的理解と無条件の肯定的配慮を経験していることが、必要最小限は伝わっている

《マンパワー キャリアコンサルタント養成講座 テキスト2 ロジャーズの項目より抜粋》

 

この中では、特に、②不一致、③一致という部分で、「経験」を漠然と捉えているとなかなか理解が難しかったのですが、フォレットの定義する「経験」をあてはめてみると、「経験」は絶えず行われており、他者との交錯=「経験」=その人の考えを作るもの=「自己概念」と言うことをはっきり理解すると、より「一致」・「不一致」の説明が理解できます。

 経験代謝としての表現では、一致については、『経験を踏まえた良しとしている自分が揺らいでいない状態』、不一致は『揺らいでいる状態』と言えます。年代的に考えて、ロジャーズが「創造的経験」に示されていた「経験」と同一の定義にて「経験」を捉えていたのではないかとも想像をしたくなります。

 

参考)積極的傾聴 (Active Listening)


 一応、上記のように「経験代謝」を組織行動論からの言語化は試みはしましたが、「経験代謝」のメカニズムにおける内省を促す仕組み・意味の出現等を外部の方に言葉で簡潔に説明するとなるとなかなか大変です。自身がクライアントとして、面談中に説明を試みたこともありますが、なかなかうまく伝わらなかったようでした。そんな事もあり、「経験代謝」は、まだまだJCDA以外の方の認知は低いように感じます。

 このような状況もあり、「経験代謝」を基としたキャリアコンサルティングを、ロジャーズの「傾聴」を主体としたカウンセリングと勝手に混同されて、「傾聴」ばかりで時間ばかりがかかる、「見立て」が見えないので方向性が見えないなどと、他のキャリアコンサルタントやカウンセラーから一方的に捉えられてしまうこともあります。

 この点は「意識マトリックス理論」の観点から「見立て」を立て、適切と思われる理論や手法を展開するという「診断的」なキャリアコンサルティングと傾聴を主体とするキャリアカウンセリングの併存の枠組みを確認することが出来ます。

「対話型組織開発」のマインドセットである社会構成主義と「見立」を枠組みの中で両立させることが出来ます。



  経験代謝では、「意味の出現」・「意味の実現」を意識しますが、実際にその意味をつかむことはなかなか難しいものです。なぜなら、我々はクライアントの「行動」を観察できますが、クライアントの「行為」の意味は、お互いの相互作用を経ることによってしか近づけないからです。そういう点について、長らく実務を経験されているキャリアカウンセラーの方がFBに以下の内容を出されていましたので、引用してみます。

 

『(クライアントの)「意味」の怪しさ 

 その人にとっての生きる「意味」を探り当てて、その実現を目指すキャリア支援方法は、私にとっては難しい。

① 相談者が抱える文化の違い。その人の言葉や語る内容が受け手の私と隔たっている。時に未知や不明があっても、その人が語る言葉や物語を自分流に解釈してしまう。その誤解のまま話が進むことが起こり得る。  

② 多義性のあるあいまいな表現にカウンセラー側が、それを仮にAという言葉で名付けてしまうと、相談者側は多少違和感を感じていても、その符号Aに呼応して、元々描いていた像を置き去りにして答えてしまう。するとカウンセラー側のA世界に乗せられたままで進展する。 

③ カウンセラー側の言葉の使いようで、意味がずれていき、そこで話される内容が変わってくることもある。

例えば、こんな例。

上場企業出身のカウンセラーさんが、「充実した人生を送りたい」と相談しに来た人に「あなたの人生の目的は何ですか」と聞いたとする。 カウンセラーさんのこれまでの人生は、企業社会のなかで、目標を設定し、それを阻害する物(敵)を排除することが人生の充実だったかもしれないけれど、相談者側は創造や表現に充実を感じる人だったとする。そこには敵のイメージはない。

もし、カウンセラーさん側の生きる意味の固定イメージだけで進むなら、この出会いの進展はむつかしい。 

 世の中は、多様性とか人それぞれだよ、と言いながら、じつは、一定の文化や風土の中での成功イメージからなかなか抜けだせない人たちが多い印象を受けている。多様な文化、異質な価値観の理解、受取方の訓練のほうが、「意味」の発見に傾倒するよりも先にあっていいのではないかと思っていますが、どうでしょうか?』

  

以上のコメントからは次のような点を注意する必要があるように感じました。

1.「意味」と云うのは、やはりあくまでクライアント自身のものである。

2.「見立て」を行う場合は、クライアントの意味をカウンセラーが自分流に解釈をした上で「見立て」が更に行われることになってしまうので、クライアントの実態(意味)から離れてしまうリスクが高い。

3.クライアントが「意味」を発見し語ったとしても、カウンセラーが受け取る内容はやはりどうしてもカウンセラーが解釈をした上での「意味」でしかない。(参考:(観察できる)行動と(主体の意思が伴った)行為の定義) 

4.クライアントの「意味の出現」を本当の意味でカウンセラーが確認することが出来ない以上、「意味の実現」で見られる行動が、クライアントの「意味の出現」に沿った行為であるかどうかを確認することも実際はかなり難しい。 

 その為、キャリアカウンセリングを自己概念の成長と捉えると、「見立て」を立てても、実際には成果の確認をカウンセラーが出来ない為、(ここで定義している医師的な関りである)「見立て」は経験代謝にそぐわないと言えます。

5.このように考えると「経験代謝」のメカニズムでも、「意味の実現」というクライアントの着地を100%理解することはかなり難しい。 ある程度にキャリアカウンセラーからは離れた事象になる。

6.クライアントの「意味」を感じるというのは、クライアントを映すカウンセラーのバックボーンの知識の幅が幅広いほどクライアントの「意味」に共感できる可能性は高くなる。キャリアカウンセラーはバックボーンとなる知識を広める、深める努力を常に行う必要がある。 また、多様性を理解する必要がある。

 上記のポイントは、いつも意識しておくことが大切に思われます。特に、キャリアカウンセラーは自身の確立された価値観をもとに理解するよりは、多様な価値観を理解しているという事が大切になります。そういう意味でも、特に「対話型組織開発」の枠組みの中でのキャリアコンサルティングにおいては、「見立て」を立てたキャリアコンサルティングを行うことは難しくなります。

  「キャリアカウンセリング型組織開発®」」では、キャリアカウンセラーが相談者の語る物語を自分自身全体で感じながら、一緒に「統合」ができるような「組立て」を進めてゆく形をとっています。但し、ここでの「統合」はあくまでクライアントが主体です。カウンセリングを通じては、どうしてもカウンセラーの価値観が入ってしまうという現実を踏まえての「統合」という事になると思います。

 

 表記の先生が続いて次のようなコメントをされており、参考になるので再び引用します。 

 『 難しいかもしれないですが、先入観を取っ払って、相手の方より、低い目線で、耳を傾けるのも大事と感じています。(カウンセラーの)いろんな過去の蓄積は、生きることもありますが、かえって邪魔をしていることに気付かない時があるのも、気をつけたいところと思っています。』 

『ナラティブ・セラピーをはじめ、多様な個性や社会的、精神的背景を持つ人達に高い適応性のある社会構成主義の流れを組む支援方法は、今後ますます重要視されるのではないかと思っています。』

 「経験代謝」のメカニズムにてキャリアカウンセリングを実施するにあたっては、やはりマインドセットを「社会構成主義」に置くことが重要に思われます。


「経験代謝」の効用と限界。

 「経験代謝」においては「効用と限界」というものが前提として存在し、実践にあたっては事前によく確認しておくゆくべき点です。但し、「経験代謝」のこの限界に関しては、ナラティヴセラピーやブリーフセラピーなどを意識する事により、(もちろん常にリファーを念頭におきながらですが、)あまり限界に触れることなく扱う事が可能です。もちろん、キャリアコンサルタントのみの資格で、いわゆるメンタルのグレーゾーンの方や明らかに心に傷を負っているかも知れない方などに、『ストレートに経験の振り返りを通じて過去の「自我」に踏み込もうとするような「経験代謝」のメカニズムを適応することは危険である』という認識は持たなければなりません。

 しかし、「経験代謝」を適切に理解しながら対応することにより、いろいろな場面で充分な効果が発揮出来るものと信じています。一部では、既に記述したように「心理学の知識の乏しいキャリアコンサルタントが、過去の経験に踏み込むことは、臨床心理の知識がないと危険である」という指摘もあります(※1)が、「経験代謝」の言語化や経験の分類の考え方で示したように、あくまで自己概念を作っているそれぞれが普段から行っている「経験」を基本的には対象とするものであり、心理学における深層心理を含んだ「自我」を追求するような経験にまで必ずしも触れる事とは少し違うものだという事をここでも明確にしておきたいと思います。(参考)

 つまり、対象とするものが実態を伴った経験に基づく自己概念であり、フォーカスするのは、その人のキャリアを形作っている経験であるという認識が大切です。また、キャリアカウンセラーはセラピストではありませんし、それぞれが目的とする点も少し異なっています。

 一方で先に指摘したように、クライアントの「意味」やその実現をカウンセラーのフィルターを通して確実に把握することは、難しく、結局、カウンセラーはクライアントの発言を含めた行動でしか判断できないという点は意識しておく必要があると思います。

 また、「経験代謝」を用いずに、ストレートにカウンセラーの「見立て」や「自己概念」をぶつけていく「診断型」の場合、「見立て」自体が、カウンセラーの自己概念とクライアントの経験で「コンフリクト」を起こしたり、その結果、問題が発生した場合には、カウンセラー側のダメージはカウンセラーの自己概念が大きく絡んでいる分だけ大きい気がします。

  また、「経験代謝」では、複数回のまとまった時間の面談時間が取れなければ、自己概念の成長を促せないという面もあるかも知れませんが、「経験代謝」を用いた一定レベルのロープレの15分間であっても満足を得られる事は感じていますので、質の深さの問題はありますが、ブリーフセラピーの観点等も応用すれば、回数や時間自体が実践における問題ではないようにも思います。

 カウンセラーとして持つべき一定レベルの注意やコンセプトに注意すれば、組織内キャリアという問題にしっかりと焦点をあてている限り、より幅広い範囲で「経験代謝」を十分に活用でき、クライアントに適切に対応が出来るものと感じています。

  但し、頻繁に自己分析をする人ほど、憂うつや不安に陥り易く、幸福度が低くなるという研究等もありますので、いろいろな点に関して関しては常に必要です。

 

※1)サビカスの「覚悟がなければ幼少の記憶に踏み込むことを避けた方が良い」という指摘から引用がされていましたが、サビカスはその場合でも同じ過去の経験であるもロールモデルに触れることが安全として推奨しています。


 対話型組織開発(キャリアカウンセリング型組織開発)における「経験代謝」の実践における注意点

 

 職業紹介場面や通常の企業内カウンセリング、ジョブカードの支援面談では、積極的に当初から来談者が大きな不安を抱えている事や、拙速にキャリアコンサルタントに自身の悩みを表明するということも実際には少ないと思います。逆に上記のようにクライアントに対してセラピストのようにふるまう事は適切ではありません。その為、「キャリアカウンセリング型組織開発®」においては来談者のキャリアに注目し、キャリアコンサルティングの目的をシンプルにする為に、クライアントによる「セルフマネジメント」の明確化とその実現を支援します。その中で、「セルフマネジメント」への動機づけが不明確な場合やなんらかの不安が表明された場合に、キャリアカウンセリングの比重を高くし、「経験代謝のメカニズム」をより働かせることになります。そこで自己認識(セルフアウェアネス)を高めた上で、「セルフマネジメント」を意識してもらう事により、組織の中でマインドフルネスを高く維持しながらの活動を実現できると考えます。

 実践においては、ブリーフセラピーの考え方を取り入れながら進めてゆきます。以下の[  ]の部分。

 

 ☆ここでの来談目的は「キャリアの相談」や「就労に向けての支援」としています。

 主訴は以下の流れの中で、実際は来談者が困っている事になるとは思いますが、これは個々の面談で異なりますし、それぞれの面談の中ででしか確認できないものだと思います。[悪循環の切断] 

 キャリアカウンセリングの進め方としては、基本的には以下のように考えています。

【あくまで、ここまで確認してきたような来談者の「経験」を踏まえて、「経験代謝」の基本型である「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」のサイクルを押さえた上での応用です。】

 

◎一番に気をつける事は、面談ではクライアントの精神状態の状況を事前に把握することは難しいという前提で対応する点です。

 もし、通院歴が明らかな場合は、医師がなんと言っているのか、それについてクライアントがどう感じているのかを、まず確認することが当然です。基本的姿勢として大切になります。

 キャリアコンサルタントとしてのリファーの知識がありますので、それぞれのリファーポイントを踏まえながら、新規のクライアントに対して、自身のリファー対象であるのかないのかをまず確認しながら、接することが大切です。

 インテークでは慎重なクライアントへのアプローチが必要です。クライアントの状況を把握できるまでは、クライアントの心を傷つけるかも知れないような過去の経験にいきなり踏み込むことや、リスクを負うことになるいわゆる「状況の収集」という事に関心を持ち過ぎないことが大切です。

 

◎クライアントの話したい事だけを話してもらうというスタンスを大切にします

 カウンセラー主導の質問によって、いきなり無理くりにクライアントに過去の「経験」を振り返させないように注意します。

 カウンセリングに必要な情報はクライアントが基本的には自ら語るという認識が大切になります。また、それに相応しい応答が必要になります。

 クライアントが大切に思っている事は、それがどのような経験を経て踏まえて形成されたのかを慎重に聴きます。

 カウンセラーが勝手に問題を作り出すことを避ける事が大切です。クライアントが問題だと思っている課題(=主訴)、それに付随する経験に注意を集中する必要があります。カウンセリングの「組立て」は、クライアントの主訴に応じ設定します。クライアントの主訴の変更があって初めて「組立て」も変更するようにします。カウンセラーが勝手に一方的に組立てを創るものでもありません。

 

◎ブリーフセラピーの考えも参考にし、状況に応じて「経験代謝」での「過去の経験」よりも、「意味の実現」の部分である「ありたい自分」(理想の状態)に焦点をあててみるようにします。この視点は認知行動療法でも役立ちます。

 《目的の明確化によるセルフマネジメントの確認、マインドフルネスの充実につなげる。

 カウンセリングの枠組みを明確にする=クライアントに必要な事を自由に語ってもらう》

 

◎「悩み」をクライアントが主体的に語る場合は、その「経験」に寄り添います(経験の再現)

 そうでない場合は、どちらかと言えば「ありたい自分」に焦点をあてて語ってもらいます(意味の実現)

 《目的の明確化によるセルフマネジメントの確認、マインドフルネスの充実につなげる》

 

◎「ありたい自分」(意味の実現)が明確である場合は、その素材となる「経験」を出来る範囲で語ってもらいます。

(経験の再現⇒意味の出現) 

 

◎良かった「経験」については、クライアントに積極的に語ってもらうようにします。(経験の再現)⇒(意味の出現)

 [Do Moreにつなげます。]

 

◎クライアントが現在「解決」に向かっている点があるのであれば、[Do More]をサポートします。 (意味の実現)

 

◎クライアントが今「うまく行かない」時は、語ってもらえる範囲で、そのもととなる「経験」に焦点を合わせてみて、その時の「自己」を認識してもらいます。(経験の再現)⇒(意味の出現)

 その経験をもとに、内省を促し自己概念の成長を図ります。《自己認識のリフレーミング・経験の統合》

合わせて、その逆のうまく行った「経験」が今までになかったかを確認します。(経験の再現)

 [MRIアプローチ]

 

◎面談を通じて、クライアントの「なりたい自分」や「うまく行っていた」時に近づく為の「次の経験」も実現をサポートします(意味の実現)

 

◎この流れでうまく行けば「Do More]で「ありたい自分」に、将来にわたり近づいてもらうようにします。(意味の実現)

 クライアントの主訴に対しての満足度が高くなるように、関わることが大切です。

《マインドフルネスの向上》

 

☆良く資格試験の勉強会などで見られますが、キャリアコンサルタントの考え・興味や自身の知識との照合の為に、「状況の把握」と称してキャリアカウンセラーとしてクライアントの経験や家族環境・生育履歴に一方的に触れてゆくのは、あまり適切でないと思います。繰り返しになりますが、主訴はキャリアコンサルタントが創るものではありません。

 

◉ここまでの内容にいろいろと違和感を感じる方がいらっしゃるかも知れませんが、上記の流れの中でも必ずクライアントの「経験」には触れる事になると思います。そこからは、「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」へと基本的には回してゆきます。キャリアカウンセラーの中では、「経験の再現」⇒「意味の出現」⇒「意味の実現」⇒「経験の再現」を常に意識する必要があります。[円環的因果律]

 

(「来談目的」や「主訴」という中核的な語彙でさえ、団体間では定義が違っています。ここでは、JCDA(CDA養成講座)での定義を基準に記述しています。)



 「経験代謝」について、「D・コルブの経験学習モデル」ですねと言う意見を見たことがあります。

 組織行動学者のディビット・コルブは、デューイの「経験から学ぶ」という思想を、ビジネスパーソンにも判り易いように2次元化して、「経験学習サイクル」として表現しました。デューイの「経験から学ぶ」とは、「知が生まれるのは、経験を振り返るとき、リフレクションする時だ」と言いました。私たちは経験から(直接)学ぶのでない、経験(experience)を内省(reflection)する時に学ぶのだ、ということになります。ここでのリフレクションとは、「経験を意味づけ、学びにつなげていく認知的作用のこと」を言います。(組織開発の探求 2018年10月 ダイアモンド社 p78~79より)

 ここでの見解は、ふたつは少し違うのではないかという事です。経験代謝は、ある特定の経験の連なりを自己概念の成長という視点からキャリアカウンセリングを通じて捉えますが、経験学習モデルはそれよりももう少し意味が広く、いろいろなある特定の経験から次につながる知を習得するという面が強いように感じます。ただ、この違いについては、もう少し学習が必要です。

 ただこの違いをまとめるとなるとやはり大変そうですので、「経験学習」に関しては、下記を参照下さい。

 経験学習の理論的系譜と研究動向 中原 淳著 日本労働研究雑誌(2013年10月号より)


「経験代謝」に近いアプローチとして「動機付け面接(MI)」という考え方があります。

「経験代謝」のメカニズムを基礎としてに、このアプローチを補完し取り入れることにより、より効果的に「経験代謝」を実践できるのではないかと思います。また、「セルフマネジメント」への動機づけの参考にもなります。また、ブリーフセラピーの要素も少し感じられます。

 (以下:参考:内閣府の「ユースアドバイザー(若者支援)養成プログラム」)

 

動機づけ面接-Motivational Interviewing

(1)動機づけ面接とは

面接者は対象者の考え方や行動が変化するための援助を行う。動機づけ面接は,本人が変わりたい方向を見出し,その方向に変わろうとする対象者に力を添えていくようなやり方である。

 対象者の変化したい方向を探るためには,面接者の価値観や考えといった視点を保ちつつも,対象者の生き方としてとらえ,対象者の話をよく聴き,本人の価値観やなりたい方向を確認し,変化のために具体的に何が必要かを対象者と一緒に考えていくことが必要になる。 

 人が行動や考え方を変えていくためには,本人が日常生活の中で,変化するための努力を継続していく必要がある。動機づけ面接では,本人が変わる方向に具体的な目標を決めていき,その方向に変わらないといけないという気持ちが強くなるようにする。心の中の対立する感情を探って解消することによって,変化のための具体的な行動を起こせるように援助していくようなやり方である。動機づけ面接は,日常の家族や友人とのコミュニケーションとは異なる,援助者のためのコミュニケーションスキルであり,対象者との共同作業のプロセスである。

  

(2)自己動機づけ発言(チェンジトーク) 

人が行動や考え方を変えるとき,言葉がきっかけになることが多い。自分が変わりたいとか,こうしたいという発言が出てくると実際に変わってくることがある。つまり言葉が行動を変えるのである。動機づけ面接は,本人から自分が変わるような発言を引き出していくような面接である。このような発言を「自己動機づけ発言」(チェンジトーク)と言い,こういう発言の種類がそれぞれの頭文字をとって「DARNC」と呼ばれる。このDARNCを引き出していくことが動機づけ面接の目標になる。 

 次に,DARNCのそれぞれの内容を確認する。DDesire(変化への希望)である。これまでできなかったこんなことができるようになりたい,などの変わりたいという願望である。AはAbility(変化できる能力や自信があるという楽観的な見通し)に関する発言である。具体的であれば,今すぐにでもやろうと思えばできるような小さなことをできるということでよい。過去の成功体験を述べることもこれに当てはまる。RReason(変化することの利点)である。変化することでポジティブな結果がともなってくるという理由を挙げているような発言がこれに当たる。NNeed(変化しないことへの心配,懸念)である。「このままでいたら困る。」,「このままだと仕事がなくなる。」など,ネガティブな理由を言う。CCommitment(変化に必要な実際の行動の具体的な計画や考え)に関する発言である。

人が変わるためには,変わりたい人がどう変わりたいかを明確に自分の言葉にし,どう変われば問題が解決するかを具体的に考えて,実際に考え方ややり方を変えることが必要である。動機づけ面接ではこのような言葉を引き出しながら,実際に行動し,変化への努力を継続することを支援していく。そのためには,対象者の変わる必要(ニーズ)や具体的な行動を自分ができ,変わることができるという見通し(自己効力感,セルフエフィカシーとも言う。)を引き出すことが重要なポイントになる。

  

(3)五つの原則 

動機づけ面接には,五つの原則がある。<1>共感,<2>矛盾を広げる,<3>言い争いを避ける,<4>抵抗を手玉に取る,<5>セルフエフィカシー(自己効力感)を支持する,がそれである。次に,各原則の内容を確認していく。

 

・原則<1>である動機づけ面接における共感とは,「対象者の気持ち・感情・思考・価値観を正確に言葉にして聞き返していくこと」である。

対象者がどういうときにどう感じるのかを面接者が言葉にして映しとっていくことがポイントである。これは面接者の仮説でよいので確認していく。対象者の変わりたくない気持ち,抵抗,不健康な行動について面接者の感情や価値判断を交えず,言葉にして聞き返していくのである。これは,相互の信頼感を作るうえで重要になる。

 

・原則<2>は,矛盾を広げる,である。

対象者が変化したい方向とは矛盾して,まずいことをやっているということを分かりやすいように示して,対象者の矛盾をしているという認識を強めていくことである。これは,現在の行動と,個人的に重要な目標や価値との間に食い違いがあることに気づくことが,変化を動機づける,という考え方である。面接者は,基本的には同意して,対象者の矛盾に気づかないふりをしながら,対象者の言葉をそのまま使いながら聞き返していく。人間は矛盾を感じるとそれを正したくなる傾向がある。面接者ではなく,対象者が変化について語るのを促すということである。

 

・原則<3>は言い争いを避ける,である。

対象者自らが進んで変わっていくように援助していく。

 

・原則<4>は抵抗を手玉に取る,である。

抵抗をうまくかわしながら本人にとってよい方向に変化できるように力を添えることである。動機づけ面接では,できない,やれないという言葉にいったん同意して,聞き返していきながら,抵抗の方向を変えていくというやり方である。努力したが無駄だったと対象者が変化への動機づけを失いかけているような場面で,さらに継続して努力してみようという方向に聞き返していくといったものである。このように,対象者の意図に触れつつも,対象者の変化への抵抗をかわしながら,対象者が変化する方向に向かうように聞き返していく。

 

・原則<5>は,セルフ・エフィカシー(自己効力感)をサポートする,である。 

本人が自分で変われる,具体的にこうできるといった見通しが持てるようにしていくことである。本人ができている部分に話を絞っていき,そのような話を増やしていく。否定的な反応の部分に対して,面接者は特別な反応はしない。人がこれならできそうだと実感するためには,<1>身近で小さな行動目標を立てる,<2>たとえ小さなことであっても,成功体験を大切にする,<3>身近な良いモデルを見る,<4>もっと自分をほめてあげる,などがある。

 

(4)四つの戦略

動機づけ面接の戦略,つまり面接者側の具体的な話し方がOARSである。このOARSは,開かれた質問(Open Ended Question),是認(Affirm),聞き返し(Reflective Listening),要約する(Summarize)の英語の頭文字をつなげたものである。次に,OARSのそれぞれについて説明する。 

 

・開かれた質問(O)とは,「どんな気持ちですか。」,「どんな考えですか。」,「どんなことがしたいですか。」,など対象者がいろいろな応え方ができる質問のことである。対象者によっては,どんな気持ちと言われても,表現しようがないという場合がある。そのような場合には選択肢を提示して,確認していく。 

 

・是認(A)は相手の話の中で認められるもの,使えるもの,いいと思えるものを聴き返して確認していくことである。本人ができるということを述べているときに聞き返していくような場合は,是認にあたる。

 

・聞き返し(R)は動機づけ面接で最も使われる。先の例のように相手が使った言葉をそのまま聞き返したり,示唆された気持ちを聞き返す単純な聞き返し,相手の言っていることを極端に増強して聞き返したり,裏の意味を取って聞き返すといった戦略的に用いる聞き返しもある。これらは自己動機づけ発言(チェンジトーク)を引き出すために用いられる。

 

・要約(S)では,相手の話の中で使える部分を拾い上げていく。これは,花束をつくるという比喩で表現されることも多い。相手の話を要約する際,面接者が対象者の言葉をできるだけそのまま使うようにしながら,何をまとめるかについては面接者が決めている。対象者が変化したい方向とは矛盾をしている行動や考え方をしていることに気づいていけるようにまとめることがポイントである。対象者が迷っている場合,変化することと変化しないことのプラス面とマイナス面を並べて点数化して評価していくといった決断分析をし,対象者本人に決定を促す。

 

動機づけ面接で重要なのは,対象者の反応をよく観察して見極め,どこに反応し,どこに反応しないのかということを状況に応じて効果的に選択し,対象者の変化へのニーズや変わることができるという見通しを強めていくことである。

 

(5)動機づけ面接のトレーニング

動機づけ面接は,実践の現場で使う技術である。個々の技術については反復して確認し,実際に使えるようにしていくしかない。うまくやっている人の様子を見ながら観察学習をすることで,対象者の発言のどこに反応して,どこに反応しないのかということを学ぶこともできる。最も良いのは直接学習である。実際にやってみて対象者から得られた反応から学ぶことである。それまでのやり方を変えてみて,対象者の反応やその変化から,こう言えばいいのかといった手応えを得ることになる。

それまでの面接のやり方をいったん,横に置いて,別のやり方をわざわざやるのは容易ではない。そのために,動機づけ面接のトレーニングでは動機づけ面接のやり方を学ぶ前に,故意に相手の抵抗を引き出すようなやり方をしてみるという負の練習を行うなど,多くのトレーニングメニューがある。

 

(6)まとめ

人の行動がその人の価値観と結びついているということは,面接者の言い方一つで簡単に人が変化するわけではないことも意味する。動機づけ面接では,「家族」,「やさしさ」,「裕福さ」,「名声」などを書いたカードを並べ替えてもらい,対象者が大切にしている価値観を確認していくような作業を行うこともある。さまざまな視覚的ツールを用いるのも動機づけ面接の特徴である。対象者が間違った方向に行ったときに,無理やり面接者がもっていきたい方向にもっていくのではなく,対象者に寄り添いつつ,本人が本当に行きたい方向を探りながら,軌道修正していく援助をしていくのが動機づけ面接である。技術的なことだけができれば動機づけ面接ということではない。

 

動機づけ面接は,面接者からの一方的な説諭や教示とは根本的に異なり,双方向性のあるものである。言い換えれば,面接者が変化を促し,対象者が変化を促されるというものではなく,お互いに刺激を与え合うプロセスを通じて学習し,お互いに変化するプロセスでもある。

対象者が,面接者に話をして「自分で進むべき方向を決めた」と感じられ,そのやりとりやプロセスには面接者のさまざまな配慮や技術が含まれていることに対象者は気づかないで,変化への動機を引き出されるというのが動機づけ面接と言えるだろう。

 

☆以上のようになりますが、基本的には「経験代謝」のマインドセットやマイクロカウンセリングとの共通点も多く、比較的取り入れやすい考え方だと感じます。 

「経験代謝」に近いアプローチとして「動機付け面接(MI)」という考え方があります。

「経験代謝」のメカニズムを基礎としてに、このアプローチを補完し取り入れることにより、より効果的に「経験代謝」を実践できるのではないかと思います。また、「セルフマネジメント」への動機づけの参考にもなります。また、ブリーフセラピーの要素も少し感じられます。

 (以下:参考:内閣府の「ユースアドバイザー(若者支援)養成プログラム」)

 

動機づけ面接-Motivational Interviewing

(1)動機づけ面接とは

面接者は対象者の考え方や行動が変化するための援助を行う。動機づけ面接は,本人が変わりたい方向を見出し,その方向に変わろうとする対象者に力を添えていくようなやり方である。

 対象者の変化したい方向を探るためには,面接者の価値観や考えといった視点を保ちつつも,対象者の生き方としてとらえ,対象者の話をよく聴き,本人の価値観やなりたい方向を確認し,変化のために具体的に何が必要かを対象者と一緒に考えていくことが必要になる。 

 人が行動や考え方を変えていくためには,本人が日常生活の中で,変化するための努力を継続していく必要がある。動機づけ面接では,本人が変わる方向に具体的な目標を決めていき,その方向に変わらないといけないという気持ちが強くなるようにする。心の中の対立する感情を探って解消することによって,変化のための具体的な行動を起こせるように援助していくようなやり方である。動機づけ面接は,日常の家族や友人とのコミュニケーションとは異なる,援助者のためのコミュニケーションスキルであり,対象者との共同作業のプロセスである。

  

(2)自己動機づけ発言(チェンジトーク) 

人が行動や考え方を変えるとき,言葉がきっかけになることが多い。自分が変わりたいとか,こうしたいという発言が出てくると実際に変わってくることがある。つまり言葉が行動を変えるのである。動機づけ面接は,本人から自分が変わるような発言を引き出していくような面接である。このような発言を「自己動機づけ発言」(チェンジトーク)と言い,こういう発言の種類がそれぞれの頭文字をとって「DARNC」と呼ばれる。このDARNCを引き出していくことが動機づけ面接の目標になる。 

 次に,DARNCのそれぞれの内容を確認する。DDesire(変化への希望)である。これまでできなかったこんなことができるようになりたい,などの変わりたいという願望である。AはAbility(変化できる能力や自信があるという楽観的な見通し)に関する発言である。具体的であれば,今すぐにでもやろうと思えばできるような小さなことをできるということでよい。過去の成功体験を述べることもこれに当てはまる。RReason(変化することの利点)である。変化することでポジティブな結果がともなってくるという理由を挙げているような発言がこれに当たる。NNeed(変化しないことへの心配,懸念)である。「このままでいたら困る。」,「このままだと仕事がなくなる。」など,ネガティブな理由を言う。CCommitment(変化に必要な実際の行動の具体的な計画や考え)に関する発言である。

人が変わるためには,変わりたい人がどう変わりたいかを明確に自分の言葉にし,どう変われば問題が解決するかを具体的に考えて,実際に考え方ややり方を変えることが必要である。動機づけ面接ではこのような言葉を引き出しながら,実際に行動し,変化への努力を継続することを支援していく。そのためには,対象者の変わる必要(ニーズ)や具体的な行動を自分ができ,変わることができるという見通し(自己効力感,セルフエフィカシーとも言う。)を引き出すことが重要なポイントになる。

  

(3)五つの原則 

動機づけ面接には,五つの原則がある。<1>共感,<2>矛盾を広げる,<3>言い争いを避ける,<4>抵抗を手玉に取る,<5>セルフエフィカシー(自己効力感)を支持する,がそれである。次に,各原則の内容を確認していく。

 

・原則<1>である動機づけ面接における共感とは,「対象者の気持ち・感情・思考・価値観を正確に言葉にして聞き返していくこと」である。

対象者がどういうときにどう感じるのかを面接者が言葉にして映しとっていくことがポイントである。これは面接者の仮説でよいので確認していく。対象者の変わりたくない気持ち,抵抗,不健康な行動について面接者の感情や価値判断を交えず,言葉にして聞き返していくのである。これは,相互の信頼感を作るうえで重要になる。

 

・原則<2>は,矛盾を広げる,である。

対象者が変化したい方向とは矛盾して,まずいことをやっているということを分かりやすいように示して,対象者の矛盾をしているという認識を強めていくことである。これは,現在の行動と,個人的に重要な目標や価値との間に食い違いがあることに気づくことが,変化を動機づける,という考え方である。面接者は,基本的には同意して,対象者の矛盾に気づかないふりをしながら,対象者の言葉をそのまま使いながら聞き返していく。人間は矛盾を感じるとそれを正したくなる傾向がある。面接者ではなく,対象者が変化について語るのを促すということである。

 

・原則<3>は言い争いを避ける,である。

対象者自らが進んで変わっていくように援助していく。

 

・原則<4>は抵抗を手玉に取る,である。

抵抗をうまくかわしながら本人にとってよい方向に変化できるように力を添えることである。動機づけ面接では,できない,やれないという言葉にいったん同意して,聞き返していきながら,抵抗の方向を変えていくというやり方である。努力したが無駄だったと対象者が変化への動機づけを失いかけているような場面で,さらに継続して努力してみようという方向に聞き返していくといったものである。このように,対象者の意図に触れつつも,対象者の変化への抵抗をかわしながら,対象者が変化する方向に向かうように聞き返していく。

 

・原則<5>は,セルフ・エフィカシー(自己効力感)をサポートする,である。 

本人が自分で変われる,具体的にこうできるといった見通しが持てるようにしていくことである。本人ができている部分に話を絞っていき,そのような話を増やしていく。否定的な反応の部分に対して,面接者は特別な反応はしない。人がこれならできそうだと実感するためには,<1>身近で小さな行動目標を立てる,<2>たとえ小さなことであっても,成功体験を大切にする,<3>身近な良いモデルを見る,<4>もっと自分をほめてあげる,などがある。

 

(4)四つの戦略

動機づけ面接の戦略,つまり面接者側の具体的な話し方がOARSである。このOARSは,開かれた質問(Open Ended Question),是認(Affirm),聞き返し(Reflective Listening),要約する(Summarize)の英語の頭文字をつなげたものである。次に,OARSのそれぞれについて説明する。 

 

・開かれた質問(O)とは,「どんな気持ちですか。」,「どんな考えですか。」,「どんなことがしたいですか。」,など対象者がいろいろな応え方ができる質問のことである。対象者によっては,どんな気持ちと言われても,表現しようがないという場合がある。そのような場合には選択肢を提示して,確認していく。 

 

・是認(A)は相手の話の中で認められるもの,使えるもの,いいと思えるものを聴き返して確認していくことである。本人ができるということを述べているときに聞き返していくような場合は,是認にあたる。

 

・聞き返し(R)は動機づけ面接で最も使われる。先の例のように相手が使った言葉をそのまま聞き返したり,示唆された気持ちを聞き返す単純な聞き返し,相手の言っていることを極端に増強して聞き返したり,裏の意味を取って聞き返すといった戦略的に用いる聞き返しもある。これらは自己動機づけ発言(チェンジトーク)を引き出すために用いられる。

 

・要約(S)では,相手の話の中で使える部分を拾い上げていく。これは,花束をつくるという比喩で表現されることも多い。相手の話を要約する際,面接者が対象者の言葉をできるだけそのまま使うようにしながら,何をまとめるかについては面接者が決めている。対象者が変化したい方向とは矛盾をしている行動や考え方をしていることに気づいていけるようにまとめることがポイントである。対象者が迷っている場合,変化することと変化しないことのプラス面とマイナス面を並べて点数化して評価していくといった決断分析をし,対象者本人に決定を促す。

 

動機づけ面接で重要なのは,対象者の反応をよく観察して見極め,どこに反応し,どこに反応しないのかということを状況に応じて効果的に選択し,対象者の変化へのニーズや変わることができるという見通しを強めていくことである。

 

(5)動機づけ面接のトレーニング

動機づけ面接は,実践の現場で使う技術である。個々の技術については反復して確認し,実際に使えるようにしていくしかない。うまくやっている人の様子を見ながら観察学習をすることで,対象者の発言のどこに反応して,どこに反応しないのかということを学ぶこともできる。最も良いのは直接学習である。実際にやってみて対象者から得られた反応から学ぶことである。それまでのやり方を変えてみて,対象者の反応やその変化から,こう言えばいいのかといった手応えを得ることになる。

それまでの面接のやり方をいったん,横に置いて,別のやり方をわざわざやるのは容易ではない。そのために,動機づけ面接のトレーニングでは動機づけ面接のやり方を学ぶ前に,故意に相手の抵抗を引き出すようなやり方をしてみるという負の練習を行うなど,多くのトレーニングメニューがある。

 

(6)まとめ

人の行動がその人の価値観と結びついているということは,面接者の言い方一つで簡単に人が変化するわけではないことも意味する。動機づけ面接では,「家族」,「やさしさ」,「裕福さ」,「名声」などを書いたカードを並べ替えてもらい,対象者が大切にしている価値観を確認していくような作業を行うこともある。さまざまな視覚的ツールを用いるのも動機づけ面接の特徴である。対象者が間違った方向に行ったときに,無理やり面接者がもっていきたい方向にもっていくのではなく,対象者に寄り添いつつ,本人が本当に行きたい方向を探りながら,軌道修正していく援助をしていくのが動機づけ面接である。技術的なことだけができれば動機づけ面接ということではない。

 

動機づけ面接は,面接者からの一方的な説諭や教示とは根本的に異なり,双方向性のあるものである。言い換えれば,面接者が変化を促し,対象者が変化を促されるというものではなく,お互いに刺激を与え合うプロセスを通じて学習し,お互いに変化するプロセスでもある。

対象者が,面接者に話をして「自分で進むべき方向を決めた」と感じられ,そのやりとりやプロセスには面接者のさまざまな配慮や技術が含まれていることに対象者は気づかないで,変化への動機を引き出されるというのが動機づけ面接と言えるだろう。

 

☆以上のようになりますが、基本的には「経験代謝」のマインドセットやマイクロカウンセリングとの共通点も多く、比較的取り入れやすい考え方だと感じます。 




「経験代謝」と変容的学習理論

(Coming Next) P408


ピアジェの「認知の同化と調整」

 シェマ(認知構造)

 「同化」とは、シェマが豊かになる

 「調整」とは、シェマを変更する

 

認知は、同化と調整により成長する

    ⇒分割・階層化⇒高度な認知⇔均衡化

 

認知科学 Congnitive Science

⇔神経科学 体内の電気信号やホルモンの働き

 認知科学は「心理学」「人類学」「言語学」「神経科学」「情報科学(人工知能研究)」「哲学」等が関連し、学際的

 

      ⇒猫と区別する=「調節」

 「犬」と「猫」を見分ける

  ⇒犬と認知するシェマ

 

クリティカル シンキング 「批判的思考」

 前提が正しいのか検証をした上で本質を見極める事

     仮定⇐根拠をデータで証明