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家族相互作用 ドン・D・ジャクソン臨床選集


 ブリーフセラピーは、システム論とコミュニケーション理論に基づいているとされていますが、ともそれば、システム視点の支援でなく個人だけにフォーカスした支援に陥りがちです。また、ブリーフセラピーの対象をクライアント・システムと認識することで、そのまま組織開発においても活用することが出来ます。そこで上記の書籍からブリーフセラピーの特にシステム論や組織開発の基礎知識である行動科学との関連部分等について確認をしておきたいと思います。

 興味を持たれたら、下記書籍の一読をお薦め致します。

 

参考)

 ・家族相互作用 ドン・D・ジャクソン臨床選集 ドン・ジャクソン著 ウェンデル・A・レイ編

訳者 小森康永/山田勝 2015年4月 金剛出版


システム論


序/ウェンデル・A・レイより

 

 ジャクソンの相互作用理論とその臨床応用が家族及びブリーフセラピーに浸透したのは、他者とアイデアを共有しようとする彼の意志、および精神医学、心理学、ソーシャルワーク、そしてその他の応用人文科学の方向性を変える為の方法を指摘する彼の取組みの所産である。相互作用理論は、人間行動に関するモナディックな説明から文脈的視点への断続的移行、人と人との間の関係性に主な焦点を置くことに影響を及ぼした。(P21)

 

 今日の家族療法とブリーフセラピーに対するジャクソンの影響は、サイバネティック・モデルとシステム論(すなわち、もしもシステムの一部に変化が起きたなら、それに対応すべく他の部分も変化するという考え方)、社会構成主義、ジョン・ウィークランドが「受け入れられた時代の知恵」と呼んだものを無視すること、語用論に注意を払うこと(すなわち、誰が、何を、いつ、現在、誰に対して働きかけているのか)、症状を受け入れて利用すること、クライアントの言葉を話すこと、円環的質問の使用、そしてシステム組織にある抽象レベルで対処する為に別の抽象レベルで行動処方をすることにおいて認められる。ジャクソンの死以来、MRIの同僚たちの仕事は今日実践されているほとんどの家族及びブリーフ志向のシステム論的仕事に影響を与え続けている。(P24)

 

 24年の間に、ジャクソンは今日のシステム論的な家族療法とブリーフセラピーの基礎を形作る構造のほとんどを創造した。1968年までに、人間行動と変化に変化に関するジャクソンの相互理論の基本的性質は明確化されていた。MRIは人間行動の相互作用的性質の公式研究が行われる文脈を提供すべく解説された。(P26)

 ジャクソンが突然死去した頃、彼は精神医学・心理学・ソーシャルワーク・そして他の人文科学領域を個人の隔離的見方から人間の相互結合性の評価に向けて導いていたところだった。彼の存在によって家族療法という出現したばかりの領域に提供されていた統一因子はそこで消えたのである。(P26)

 理論的基盤であるシステム論的性質に関する学派を越えたコンセンサスがあるのとは異なり、個人理論と相互作用理論の間の根本的差異は理解されずに、その無理解は根強く未だに続いている。二つの理論を混ぜ合わせる努力は双方の志向性を混乱させかねない。なぜなら、二つの理論は一つの現象における異なる水準に焦点を当てているからである。(P26)

 


 ある抽象レベルでは非論理的に見えるものも、異なる抽象レベルでは論理的である。これはよく「逆説的」と称される治療的仕事の本質である。ジャクソンは、症状行動を評価する目的、及び介入目的の為にある抽象的なレベルから別の抽象的なレベルへ考えをシフトさせることの先駆者であった。

(a) クライアントの行動と前提を受け入れること、そしてそれを不合理な地点まで拡大して、治療者を再修正する機会をクライアントに提供することの治療的利用。

(b) 家族の立場の不安定さについての前言語的理解を示す為のタイミングの良い「自然な」笑いの利用。

(c) ジャクソンの治療のもうひとつの特徴は、いわゆる治療的ダブルバインド、ジャクソンの呼び方では複数のレベルでのメッセージの使用、そして安定感を維持した上で変化の起こし方を変化させる機会を家族に提供する為の問題行動の処方に関連している。(P148)

 

 ジャクソンは家族療法の本質的目標が、問題行動を強化し永続化している相互作用パターンを遮断することだと概説している。(P156)

 


6(1961) 合同家族療法  理論、技法と結果に行いての考察

ドン・D・ジャクソン

ジョン・H・ウイークランド

 

 理論的背景

 家族を治療し、治療的アプローチを公式化しようという私たちの試みを理解する為には、私たちが基にしている理論を理解する必要がある。なぜなら、私たちの現在の実践と概念は、いくつかの大幅に広い独創的な方向性が交錯したところと、実際の家族の治療の試みを暗中模索するところから発展してきたからである。

 統合失調症患者の家族と仕事をするという私たちの計画の発端にある二つの概念は(1)ダブルバインド(Bateson, Jackson, Haley, & Weakland, 1956)と(2)家族ホメオスターシス(Jackson, 1957)である。家族ホメオスターシスの概念は、ある家族の中の1人との治療的取り組みが他のメンバーによって妨げられる。あるいは、あるメンバーが治療で改善すると他のメンバーが悪くなるという観察から生まれた、これらの観察がホメオスタティックな一般システム論と結び付けられて、家族がそうした力動的定常システムを形成することが示唆された。つまり、(患者とされている人と彼の病的行動を含め)メンバー全員の性格的特徴と彼らの相互作用の性質が、その家族に典型的な現状を維持しようとし、(どのメンバーの治療による企てであれ)いかなる変化においても、その現状体制の復元に向けて反作用するのである。

 ダブルバインド概念は、人の相互作用と影響力の主要な手段としてのコミュニケーションについて、私たちが最も基本とする概念である。実際の人のコミュニケーションにおいては、唯一の単純なメッセージというものは存在せず、コミュニケーションは常にかつ必然的に異なったレベルの多様なメッセージを同時に含んでいる、これらのメッセージは、言葉・口調・表面上の表現といった様々なチャネルを通して伝達されるか、有りそうな文脈に関連したあらゆる言語的メッセージの様々な意味や指示対象によって伝達される。これら関連したメッセージ間の関係はとても複雑であろう。異なるコミュニケーションレベルにおける二つのメッセージがまったく同じことはあり得ない。それらは似ていたり異なっていたりするだろうし、調和していたり矛盾したりするわけである。差異と矛盾は人のコミュニケーションの豊かさの根本であるとおもわれる。‥‥‥‥‥‥差異と矛盾はまた多くの精神病理の起源であり特徴である。‥‥‥‥‥‥

 ダブルバインドの概念は、異なるレベルに渡るメッセージのペアないしセットのパターンに当てはまるものだが、そのメッセージは密接に関連しているものの明らかに矛盾をしており、かつ同時に発生しているものである。そして、隠蔽、否認、ないしはその他の手段によって、メッセージの受け手が(例えば、その矛盾を指摘することによって)その矛盾を明らかに認識するか有効な手段を講じることが出来ない状況を示している。受け手はその影響力ないし矛盾に気づくことさえ禁じられた中で、矛盾した行動反応へと動かされるのである。相手のメッセージを無視することも回避することも出来ない重要な関係において、こうしたコミュニケーションを浴びせかけられる経験を重ねながら、疑問を持たずに矛盾を受け入れることでそこに居続けることを学ぶならば、立派な統合失調行動が作り出されるに違いない。

 上記の主たる二概念が、実際の人の間に生じる様々なコミュニケーション手段による(直接的に観察可能な行動レベルでの)相互作用の描写と特定化の双方に関わるものであることは、難なく気づかされるであろう。更にこの焦点は、リアルなこと、および現在起きていて、かつ引き続き起きていることの重視を含意している。まとめると、これらの強調点は、精神科医にとって最も興味深い特別な種類の行動(症状行動を含む)、人の行動についての研究、理解、治療への広範囲にわたる「コミュニケーション」的で相互交流的な方向付けを重視することも意味している。‥‥‥‥‥‥

 簡単に言えば私たちは、個人的・内的・イメージ的・幼児期的問題よりも、現在直接的に観察可能な人々の間に生じる影響・相互作用、そして相互関係にはるかに強い関心がある。‥‥‥‥‥‥(P210-213)

 

結論

 私たちはまだ、家族療法が統合失調症のより日常的な治療技法よりも優れたものであるとか、それには及ばないものであると何らかの主張をする立場にない。(P239)



行動科学


 それほど遠くない昔にあっては、行動科学の多くはドン・ジャクソンが書いたり話したあらゆる言葉に飛びついたものだ。(P16)

 

『人間のコミュニケーションの語用論』・・・・・ジャクソンは・・・最後に概要をざっと書いて、人間行動の相互作用理論の試金石となる一つの書物を君たちがかけばいいだろうと言った。

 

 観察する範囲がその現象の発生する文脈を含むくらい十分広くないと現象が説明できない。ある事象とそれが起きた基盤との間や生物と環境の間の関係の複雑さが分からなければ、対象とされている現象は観察者に何か「訳の分からない」ものとして立ち塞がるか、研究対象に勝手な属性を付与させてしまう。この事実が生物学においては広く受け入れられているのに比べて、行動科学は個人というモナド的な視点や、独立した変数による由緒ある方法に未だかなりの基礎おいているようである。(P21/邦訳P2)   (P22)

 

 精神医学と行動科学一般への彼の貢献は正当化する必要もないほどだ。‥‥‥‥‥‥もう一つは、人間行動を相互作用という観点から、つまり独立した内容ではなく過程として見る彼の驚くべき天賦の際である。1954年の初頭に彼は、人間の「現実」決定要因が「ものではなく、人間関係」であることをすでに提唱していた。(P128)



ダブルバインド・MRI他


解説 パロ・アルトの家族療法家、ドン・D・ジャクソン  [ ]は追記

 

 フィッシュによれば、エリクソンとMRIブリーフセラピーの類似点は

①非病理化

②現在に焦点をあてる

③課題を与えること

④クライアントの立場を重視すること

⑤クライアントを(病気、不運などから)立ち直りの早いresilient[リジリエント]者として想定することにある。

 また、その相違点は、エリクソンが

①人の中に困難を認め、モナディック[単体評価]な認識論に立っておりmany

②フロイディアン[フロイト派]というよりはユンギアン[ユング派]のような無意識を考慮し

③規範的価値を念頭に置いて事など

 が挙げられる。一方、

④技法的にも、エリクソンがトランスの利用・力の採用・導師(グル)ごとき権威的陳述を行う点が異なっている。

(Fisch, personal communication)         (P308)

 

 ダブルバインド理論については著者らはどのように考えているのだろう。これもウイークランドによる貴重な証言がある。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥周知のように教育・政治・宗教といったシステムは、「決定的な答えをみつけ、それにしがみつこう」というのに満ち満ちています。思うに私たちがしているのはもっとアイデアを投げかけることであって、それはそこからさらに探求するには有用ですが、最終的な答えではないのです。しかし、人々は最終的な答えを求めるのです。

(Weakland, Ray, Schlanger,  unpublished manuscript)      (P309-P310)

 

 MRIの用語は一般システム論やコミュニケーション理論、サイバネティックスから引用されたものだったのです。(P312)

 ブリーフセラピーは、1974年ファミリー・プロセス論文と『変化の原理』によって多くの人々の知ることになるが、その前にブリーフセラピーが確立する前夜の様子を見てみようではないか。つまり、ジャクソンがMRIブリーフセラピーにどのように影響をしたかである。(P316)

 以上、ジャクソンとMRIBTとを比較すると、やはり治療焦点がコミュニケーションパターンから解決努力阻止に移行した点が最大の相違点であり、それが正しくMRIBTの理論化であり、それはジャクソンの技法から抽出された部分が大きいのではないかと想像されるわけである。(P323)