組織開発におけるキャリアカウンセリングの活用


 キャリアカウンセリングとキャリアコンサルティングは、「組織における個人のキャリア開発を支援するとともに、その障害となる周囲との人間関係の課題(環境)も合わせて解決してゆく。」ことをその目的としています。「社会構成主義」を基本とする「キャリア開発面談(カウンセリング)」は、個人支援のみではなく、組織内の活動や組織開発にも有効です。

 一方逆に、組織に介入するプロセスコンサルテーション組織開発対話型組織開発)においてもやはりチェンジングエージェントの「傾聴する共感力」がとても重要になります。また、「プロセス・コンサルテーションにとって、課題として残ったままであるのは、そこで、対話の形に近づける為に会話をいかに管理するかということである。」とも記述されています。この課題は実際の活動の中でキャリアコンサルティングやブリーフセラピーを活用することにより解決してゆくことが出来ると考えています。特にその基礎的スキルとしては「傾聴とリフレクション」を確実に行うことが出来ることが大切になります。

 

参考)

プロセス・コンサルテーション(援助関係を築くこと) (P289-P291)

[Process Consultation Revisited : Building the Helping Relationship]

E.H.シャイン著 稲葉元吉・尾川丈一訳 白桃書房 2002年3月出版 

 


 「キャリアカウンセリング」 と「キャリアコンサルティング」

 「キャリアカウンセリング」と「キャリアコンサルティング」は一般的にはほぼ同じものとされていて、これが少しややこしくしている要因ともなっています。それぞれの違いは下記の定義にあるように、カウンセリングとしてクライアントの自発的な自然回復力を信頼するのか、コンサルタントとして主体的に「指導と助言」をクライアントに積極的に行うかどうかという点が違っていて、捉え方によってはクライアントに接する基本スタンスがまったく異なってきます。

 「キャリアカウンセリング」はクライアントが未だ意識を出来ていない自己概念(前意識)に働きかけるのが主で、「キャリアコンサルティング」はクライアントの意識下で行う「システマティックアプローチ」が主という違いにもなります。この違いが面談における「傾聴」のスタンス(マインドセット)や対話型組織開発の「マインドセット」を考える上では重要になります。

 最初にキャリアカウンセリングとして実践する場合の課題について整理します。「キャリアカウンセリング」では、ロジャーズの「傾聴」(「受容」「共感」「自己一致」)が基本の関りになります。そして、これを具体的にどのように実践してゆくのかが大切です。「キャリアカウンセリング型組織開発」においては、社会構成主義をマインドセットにしますので、基本的にはカウンセラー自身の「心理構成(自己概念)」を面談に影響させないことが大切です。その点から、いわゆる「見立て」を立てないのが基本になります。また、コンサルタントがワンナップ(One Up)の立場になる医師的(専門家的=権威的)な関りとなるような態度は適切ではありません。クライアントに寄り添った「キャリアカウンセリング」は、「傾聴とそれに対するリフレクション(プロセス・コンサルテーション・モード)」を大切にすることが基本になります。

 一方で、いわゆる「キャリアコンサルティング」はシステマティック・アプローチがベースになることもあり、「見立て」という概念が重要とされています。コンサルタントの「見立て」をベースに「助言や指導」が行われます。また、クライアントに「自己理解」「職業理解」「コミュニケ―ーション不足」という観点から是正をもとめてゆく(改善させる)という感性が基本にあります。とあるキャリアコンサルタント向けの公式の講習資料では、インテーク場面で「見立て」が取り上げられ、「見立てという言葉もよく使われます。見立ては医者がよく使う言葉です」と表現されて、「診断と予後を含む全体の見通し 」(出典:「心理臨床大事 典」培風館、 2004年にて)と明示されています。このようにキャリアコンサルティングにおいては、「見立て」を伴った「診断」するスタンス(専門家・医師的モード)が基本になります。

 「キャリアカウンセリング型組織開発」では、キャリアに関する面談をキャリア開発面談としてキャリアカウンセリングの関りを中心に助言も含めたキャリアコンサルティングも同時に活用してゆきます。その感性が組織開発で活用する場合にはとても重要になります。(参考として、意識マトリクス理論で示すと次のようになります。)このホームページの中ではこの考え方を中心に、「キャリア開発面談」「キャリアカウンセリング」「キャリアコンサルティング」を時々で内容が伝わりやすい様に使い分けることにしています。それでもやはり何かしっくりとこない記述になってしまうのは気になる点です。

 

 ☆(注)上記の「見立て」の定義は「医師がその医学的見地から患者の病気を特定し、それをもとに患者を治療する方針をたてること」と同義とされています。一方で実際には「見立て」は、それぞれのカウンセリング理論等で、理論に応じた「見立て」(組立)がそれぞれに定義されています。)

 



キャリアカウンセリングの定義(JCDA)


 キャリアカウンセリングとは、発達的視点に立って、成長と適応という個人の積極的側面に強調点を置き、個人が環境の中で効果的かつ自律的に機能できるように支援すること。自己概念の開発を通してキャリア形成を図ること。

(参考:キャリアカウンセリングとは何か(改訂版)JCDA)

〈定義の説明〉

 キャリアカウンセリングは人間が社会的な存在であることを重視しています。自分が育った国の文化や社会環境、その中での経験、つまり個人を取り巻く人間関係に影響を受けており、それら全体との関係の中で個人を捉えることが重要だと考えます。

 そのような全体(社会)との関係性の中で、人間が生まれて成長に向けて進もうとする存在の中核概念として「自己概念」があります。キャリアカウンセリングは、自己概念の成長を促す働きかけであると考えます。


キャリアコンサルティングとは


 労働者(求職者も含む)の職業選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、

助言及び指導を行うことをいいます。(職業能力開発促進法第二条第五項)

〈説明〉

 キャリアコンサルタントとは、本人の興味・適性の明確化や職業生活の振り返りを通じて職業生活設計を支援し、職業選択や能力開発の自信・意欲の向上、自己決定を促す支援を行う者。自身にあった職業を主体的に選択できるようになることが期待できます。


キャリアカウンセリングについての基本的な知識はこちらのFBグループにて、無料で録画なども公開しています。

よろしければご参照下さい。