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意識マトリクス理論(キャリア開発面談《キャリアコンサルティング》②)


 前項①に続いて、キャリア開発面談(キャリアコンサルティング)を進行する為に重要な「傾聴」の必要性と「リフレクション(反射)」の効果について考察していきます。

 ここでもキャリアコンサルタントの意識は「見立て」に向いているとし、クライアントの意識は「相談内容」に向いていると設定をしています。


ここでも、同様にそれぞれの領域の特性を確認してゆきます。領域の基本的な説明は、意識マトリクス理論(キャリアコンサルティング①)で行っていますので、ここではそれを前提に進めてゆきます。

 

 ①C/C領域

  1. クライアント・キャリアコンサルタントとも「相談」内容に意識があり、相談内容が認識できています。
  2. 「相談」内容について、キャリアコンサルタントの「見立て」で現実的に解決できるかどうかが双方で認識できる領域になります。
  3. キャリアコンサルタントの「見立て」により、容易にクライアントの「相談」内容にアプローチをすることが出来ます。
  4. この領域では、クライアントが「相談」内容ついて、キャリアコンサルタントの知識に基づいた「見立て」で解決できるかどうかを判断することになります。その為、この領域での解決はクライアントが最終的に主体的に決定します。
  5. 「相談」内容が解決できた場合、キャリアコンサルタントの「見立て」による解決への満足感は高くなります。
    一方で、クライアントの「相談」が提示された「見立て」で解決を出来ない場合は、クライアントのキャリアコンサルタントへの信頼感は低下します。
  6. 双方が意識出来ているがゆえに、関する新たな気づきとなるような結果は得られない領域です。既に双方が持ち合わせた知識による解決が行われます。極端な話ではクライアントが「改めて面談で相談しなくても、自分で一般的に解決出来たかもしれない。」と捉える可能性もあります。
  7. 通常のキャリアコンサルティングはこの領域もしくはこの領域の拡張領域(傾聴によるラポール形成)で行われると考えられます。「システィマティックアプローチ」として、キャリアコンサルタントは自らの知識・経験をもとにクライアントが柔軟に選択できるように「助言と指導」を行う必要があります。この点においては、キャリアコンサルタントの知識・経験の充実が大切になります。
  8. クライアントの相談が解決されても、「相談」内容の現状認識の肯定・強化という位置づけになります。その為に、この領域での解決に留まる限りは、あまりクライアントの満足度は高くならないかも知れません。
  9. クライアントが「助言と指導」に対して、受け入れたり選択を仕切れない場合は、クライアントの満足感を高めより根本的な解決を図る為に「傾聴」を伴うC/S領域への展開が必要になります。

 ②S/C領域

  1. クライアントは、この領域では「相談」内容やその解決策について無意識(思いつかない)領域。一方でキャリアコンサルタントは、自らの「見立て」についてに関しての意識がある領域です。
  2. この領域は、医師的な「診断」の領域と言えます。キャリアコンサルティングをうまく進める為には、クライアントにキャリアコンサルタントが充分に信頼されていることが大切になります。
  3. キャリアコンサルタントは、クライアントが「見立て」を意識して理解できてるのか、またそのC/C領域との境目がどこにあるかの認識は難しい為に、キャリアコンサルタントはC/C領域と同様に「見立て」に基づいた(診断型の)キャリアコンサルティングを進めてしまいがちな領域です。(本質主義的な)知識があると自負しているキャリアコンサルタント程、C/C領域からこちらの領域に進んでしまいがちです。
  4. この結果、クライアントの「相談」内容ではなく、キャリアコンサルタントの課題解決に向けた「見立て」に沿ったキャリアコンサルティングが行われることになります。クライアントからすると、キャリアコンサルタントから自身が知らないことを(あたかも知っているように)語りかけられるたり、単純に詰問(アスキング)と感じられるような対応を受けてしまう領域になります。
  5. クライアントは、キャリアコンサルタントの話す内容が自らの「相談」からかけ離れたものに感じられるので、社会一般的な常識やその場で直近に感じた感情で応答することになります。対話は場当たり的な当たり障りのないものとなります。このような表面的な対話に基づいて、キャリアコンサルタントが自らの「見立て」に基づいてクライアントに何かを伝えても、クライアントにとっては満足感も低く意識が充分出来ない価値のないものとなります。
  6. 一方で、キャリアコンサルタントは自らの知識に基づいたキャリアコンサルティングは充実感と満足感が高く、クライアントも満足していると勘違いをするかも知れません。
  7. このような状態を避ける為に、キャリアコンサルタントはクライアントの「相談」内容に沿って、まずはC/S領域に進む必要があります。C/S領域経由で、しっかりとクライアントの相談についての経験を傾聴した後に、「リフレクション」によってS/C領域に展開する必要があります。この内容については、次のC/S領域で明確にします。

 ③C/S領域

  1. この領域では、クライアントは「相談」内容に意識があり、キャリアコンサルタントは「見立て」の範囲外ですので提示や質問をすることができません。よってキャリアコンサルタントが意図的に到達することが出来ない領域です。
  2. この領域で、クライアントの「相談」内容に沿った新たな「見立て」に到達する為には、キャリアコンサルタントが意識が出来ていないクライアントの「相談の背景」を認識する必要があります。
  3. キャリアコンサルタントがこの領域に入る為には、「無知の知」を意識して、クライアントの「相談の背景」に関する経験を「傾聴」する必要があります。これによって意識出来ていなかった「相談の背景」やそこに潜むより根本的な「解決に向けての課題」を認識することが出来ます。相互の対話で現実を創造する社会構成主義的な関りが必要となります。
    ここでの関りにおいては、「経験代謝のメカニズム」を活用すること有効になります。
  4. キャリアコンサルタントが新たに認識できた「クライアントの課題」を解決する為には、次の3通りがあります。
    (1)CC領域の拡張
     新たに認知出来た課題が、既存の「見立て」で解決できる場合は、C/C領域の拡張となり、既存の「見立て」でクライアントに解決に向けての「助言と指導」を提示します。
    (2)S/C領域への展開
     クライアントの「相談の背景」からのより根本的な「解決に向けての課題」の解決の糸口を「見立て」で解決できる場合は、「リフレクション」によりクライアントにこれまで充分に意識が出来ていなかった課題に気づいてもらい、S/C領域に展開します。その上で既存の「見立て」で、クライアントがこれまで意識していなかった課題を含めて解決に向けての提示を行う事が出来ます。
     このように自ら「相談」内容に関する経験から展開されて意識化される課題とその「解決策」の提示は、自らの「相談」内容や経験を踏まえていますので、クライアントの満足感は高くなります。
    (3)S/S領域への展開
     キャリアコンサルタントが意識していなかったクライアントの相談の背景を認識した時に、その課題解決を検討する中でまったく新しい「見立て(解決策)」に気づく場合。これは同時にクライアントがこれまで意識出来ていなかったより根本的な課題を解決に向けて進めることが出来ます。これにより、S/S領域の双方の対話を通じた「創発」の領域に展開することが出来ます。
  5. この領域では、キャリアコンサルタントがクライアントをリスペクトすることが重要になります。

 

 ④S/S領域「話せない/質問できない」

  1. クライアントは、実感としての「解決策」が把握できておらず、無意識な領域です。キャリアコンサルタントも、既存の「見立て」の意識外なので無意識の領域です。以上の点から、通常のキャリアコンサルティングではなかなか到達が難しい領域です。
  2. この領域に到達する為にも、次に示す「リフレクション」やそれに伴う新たな「気づき」が必要です。
  3. この領域には、クライアントも気づいていない新たな「課題」やそれに対応する「解決策」が眠っている領域と言えます。キャリアコンサルティングの効果的な課題解決への提示等が存在しているとも言える領域です。
  4. これまで全く意識されてこなかった領域ですので、クライアントの意識の変化(自己概念の成長)による課題解決が期待できる領域です。この領域への到達には2通りの方法があります。
    (1)C/S領域からの展開
     C/S領域で、これまで意識出来ていなかった相談の背景を把握できた場合に、その課題解決を考える中で、まったく新しい「見立て(解決策)」に気づく場合。クライアントがそれまで充分意識出来ていなかった課題を解決する。
    (2)S/C領域からの展開
     「リフレクション」とそこから更にクライアントが自己概念に関する「気づき」があった場合。クライアントがこれまで気付いていな課題を新たに提示された「解決策」で解決するが、その過程でその延長線上の課題解決として、より新しい「見立て(解決策)」やクラインと自身の自己概念の成長による解決が意識され、それらが双方で共有され、「相談」内容がより根本的な解決が図れるように進める事が出来ることに気づく場合。
  5. この領域でのより根本的な解決策への道筋は、それぞれが無意識の領域だったことから、キャリアコンサルタントとクライアントの相互の信頼とリスペクトに基づいた会話が相互に影響をする中で実現してゆきます。相互の円環的反応による「創発」により、クライアントの自己概念の成長も図られます。また、キャリアコンサルタント自身の自己概念の成長も期待が出来るかも知れません。

注)

 ここで示している「リフレクション」は、相互の関係性における「リフレクション」ですので、純粋にクライアントの意識や認識をキャリアコンサルタントの反映・反射を通して、クライアントが自ら意識をするという概念になります。 

 より効果的な「リフレクション(反映・反射)」の為には、キャリアコンサルタントのリソースが重要になります。キャリアカウンセリング型組織開発にはおいては、「経営組織論」や「組織開発」の知識がキャリア支援における重要なリソースの一つだと考えています。

 

 ロジャーズは「リフレクション(伝え返し)」について、「理解の確かめ(testing my understanding)」という言葉を使う事を提案しています。(Rogera,1986)「あなたがおっしゃていることを、私はこう理解し受けとめているが、それでよろしいでしょうか」と「確かめる」ような応答がロジャーズのカウンセリングにおける応答の中心です。(CDA養成講座 2 P29より)

 この「私がこう理解し受けとめている」中にキャリアコンサルタントのリソースが反映します。それを鏡として見てクライアントがそれまで無意識であった自己の一部分に気付くのが、「リフレクション」であると捉えています。

 

また、以下に示す経験的学習におけるリフレクションとの共通点も多いかもしれません。

 組織行動学者のディビット・コルブは、デューイの「経験から学ぶ」という思想を、ビジネスパーソンにも判り易いように2次元化して、「経験学習サイクル」として表現しました。デューイの「経験から学ぶ」とは、「知が生まれるのは、経験を振り返るとき、リフレクションする時だ」と言いました。私たちは経験から(直接)学ぶのでない、経験(experience)を内省(reflection)する時に学ぶのだ、ということになります。ここでのリフレクションとは、「経験を意味づけ、学びにつなげていく認知的作用のこと」を言います。(組織開発の探求 2018年10月 ダイアモンド社 p78~79より)

 

 「リフレクション」については、日本での人事用語として内省(introspection《内観》)とされていることがありますが、これは経験を外在化した(距離をおいた)上で、その経験の反映を自身におこなうことだと理解しています。

(Introspection consist of reflections from his own experiences)。


続いて、「経験代謝」における意識マトリックス理論を確認します。

意識マトリクス理論(経験代謝)に続きます。


☆「意識マトリクス理論」についてのマーケティング関連情報は、こちらを参照下さい。

 意識マトリクス理論」に関する論文「マーケティング実務における初心者理解促進と品質向上の為の定性調査体系の試み」(井上昭成,2020)もダウンロード出来ます。


ブログでは内容を分割して紹介をしていますが、「意識マトリクス理論」を通しでまとめたページは、こちらになります。