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U理論(C・オットー・シャーマー著)


『U理論 (Theory U)[第二版](過去や偏見に捉われず、本当に必要な「変化」を生み出す技術)

C・オットー・シャーマー著 中井戸僚 由佐美加子訳 英治出版 2017年12月出版』より、

U理論を簡単にご紹介したいと思います。


 U理論とは何かですが、やはり難解なところもあるようです。(P10)

訳者前書きから拾ってゆくと、

 「U理論は、外側からは「目に見えない」内面の変容と「目に見える」外部の変革の関係性を示した、数少ない実践的理論である」とのことです。

 「内容の変容に対するリテラシーの向上を促す学習システムの構築」とあり、「内面の変容に対するリテラシーを高める為には、‥‥‥‥‥‥「学習する組織」の構築を目指したり、内省の為の実践コミュニティを‥‥‥‥‥‥所属する組織以外で構築したりすることが大切になります。そうした取り組みの中で、ダウンローディングやプレゼンシングといったU理論の言語は共通言語の役割を果たす」ということです。(P14)

 「自分は何物であり、何をなすか」に対する気づきと「自己変容型知性を向上」すると記述されています。こちらは「エフェクチェーション」というイノベーションに関する書籍でも同様の指摘がされています。

 「三つのメタ・ナラティブがこの本全体と私の人生に流れている」とされ、「フィールド・ウオーク 土壌の状態を調べる」「物質と精神の再統合 U理論はその問題を探求する」「一つの世界と現実を手放して、もうひとつのものを迎え入れ、その中に踏み込む深い経験」の三つがあげられています。(P48・49)

 「U理論では、未来は過去とまったく違うものにならざるを得ないと主張する」とピーター・センゲの序文で述べられています。(P63)

 

 「この本はただリーダーシップの盲点(ブラインドスポット)に光をあてようとだけするものではない。むしろ、我々が日々の生活の中で常に遭遇している社会プロセスの隠された一面を明らかにすることに主眼を置いている。」(P87)

 「本書は三つのことを達成する為に書かれている。

 まず盲点(ブラインドスポット)への扉を開ける鍵、あるいは我々が社会的な場(ソーシャルフィールド)の文法と呼ぶものを提供すること(第15章、20章)。

 次に、社会的現実を生み出している集団的プロセスにある四つのメタ・プロセス(思考、会話、構造化、つながり[グローバル・ガバナンス)を明らかにすること。(第16~19章)

 そして、最後にプレゼンシングの原則と実践を通じてこのアプローチを実践可能なものにする、自由の為の社会テクノロジーの概要を示すこと(第21章)である。」と記述されています。

 「24の原則は互いに密接に関連し合ってひとつの集合体として機能している。これはUの形に沿った五つの運動としても表現できる。その五つの運動とは次の通りである。

共始動

 『人生があなたに求めていることに耳を傾ける。』そして、そのことに関わりのある人や状況とつながり、共通の意図を持ったお互いの触発し合う中核的な仲間を招集する。

共感知

最も大きな可能性を秘めた場所に行く。そして。ただひたすら観察する。大きく開かれた思考と心で耳を傾ける

共プレゼンシング

一人または集団で静寂な場所に行き、深い叡智の源に自らを開き、『自分を通して出現しようとする未来につながる。』              

共創像

 生きているマイクロコズム(小宇宙)のプロトタイプを作り、未来への滑走路を用意することによって『実践を通じて未来を切り拓く。』

共進化

 より大きく革新的な生態系をともに築き、人々が『全体を見て行動すること』によって、境界を越えて互いに結びつける場所を確保する。」(P91~P92)

 

 「本書ではリーダーシップを個人のものというよりも、より広範囲の人々によって担われるもの、あるいは集合的なものとして扱っている。‥‥‥‥‥‥今世紀のリーダーシップとは、あらゆるレベルでの集合意識の領域構造、すなわち聞く力を変容させることに他ならない、」(P93)

 「何を調べるにしても大元の出発点として自分の感覚、観察力、認識力を信じることだ。」(P105)

 

 「何をすべきかは自ずと明らかになる。‥‥‥‥‥‥これは経営にも大いに関係がある。要するに、自己を自己たらしめている内部の源が大切だ」ということがポイントになるようです。(P107)

 

「 ・U理論の左側を下る三つの動作

ダウンローディング(過去のパターン)=新しいものが思考に入ってくることはない

『;あたりさわりのない発言』(P385)

(習慣的な判断を)保留する

新しい目で観る

視座を転換する

場(状況)から感じ取る

(古いものを)手放す

プレゼンシング(源[リソース]につながる):生成的な流れ

 『プレゼンシングとはsensing(感じとる)とpresence(存在)の混成後で、最高の未来の可能性の源からつながり、最高の未来の可能性を今に持ち込むことである』(P259)

 

・U理論の右側を描く

迎え入れる

結晶化(ビジョンと意図)

具現化

プロトタイピング(頭・心・手をつなぐ)

実体化

実践(実態から行動する
共創像(P377)

 

これら七つの認知の場(スペース)の全体は、それぞれに異なる七つの部屋または空間(スペース)からなる家と考えると良い

 

・「自分たちがどのようにものを見ているかを観る」には三つの能力が必要(P65)

開かれた思考

開かれた心

開かれた意志

 

・「私とは何者か?私の『成すこと』は何か?」を得ることが重要

 

・以下の三つの敵と向き合い克服すること

「判断・評価の声(VOJ);開かれた思考への入り口を塞ごうとする

「皮肉・諦めの声(VOC)」;物事から距離を置こうとするあらゆる感情の動き

「恐れの声(VOF)」;開かれた意志への門を防ごうとする

 

★U理論は生きている場の理論であり、機械的・直線的なプロセスではない

出現と創造の場(プレゼンシングのサイクル)の発生は、それに対応する破壊の場(不在化[デプレゼンシング])の発生と結びついている」

(以上、P111~124より)

 

 「これまでの組織学習は主として、シングルループあるいはダブルループの学習、つまり過去の経験に基づく学習プロセスを作り、発展させ、維持することに力を注いできた。‥‥‥‥‥‥しかし、実際に様々な文化圏やセクターの企業と仕事をする中で、私は過去を省察する(レベル3[ダブルループ学習])だけでは適切な解決方法を見出だせない難問と格闘をしていることに気づいた。 ‥‥‥‥‥‥第四のレベルの学習と知を獲得する方法があることがわかってきた。それが出現する未来から学ぶ方法だ(原著の図3-1)。私はこの方法に、今のこの瞬間に気づき、経験する方法という意味を込めて『プレゼンシング』という名前をつけた。プレゼンシングとは、個人と集団が未来の最良の可能性に直接つながっていく能力のことだ。それが出来るようになると、何かを生み出そうとする強い力を持った本当の自分らしい存在(プレゼンス)として、現在という瞬間から行動し始める。(P127-128)」とされています。

 「最初にインタビューをした人の1人はピーター・センゲだ。‥‥‥‥‥‥センゲは、最大の関心を抱いている問題は人間のシステムにおける意識的な変化だと答えた。‥‥‥‥‥‥彼の仕事の最も大切な問いかけは『解決不能で変えることが不可能に見える事実に立ち向かい、変革を起こそうとする人達が、潜在的に持つ能力を集団として発揮出来るようにするにはどう手助けすれば良いか』というものだった。‥‥‥‥‥‥ピーターの話‥‥‥‥‥‥『南老師は‥‥‥‥‥‥「世界が抱える問題はただ一つです。それは物質と精神を再び統合することです。」まさにそう言った「物質(マター)と精神(マインド)再統合」と』‥‥‥‥‥‥グループやチームとしての行動の質を高めたいと思うなら、それを生み出している源(ソース) ━我々の行動の起点となっているところ━ に注目をする必要があるということだ。」(P129-131)「我々は注意力を高め、新鮮な驚きを持って世界を眺める必要がある。習慣と化したものの見方を変えて、その視線を我々の一瞬一瞬の行動を規定している源(ソース)、盲点(ブラインドポイント)に向けなければならない。現れ出ようとしている未来をしっかりと捉える為には、この源とつながる必要がある」(P134-135)と解説されています。

 

 「表5-1(原著に掲載)の左端の欄には、社会的現実が現われる三つの領域を掲げた。‥‥‥‥‥‥第一の領域、つまり視点は客観性という哲学的なメタ分類が支配する。一見客観的な事実と物事の領域である。第二の領域、間主観性(インターサブジェクティビティ)は生命世界が集団的に進化する入り組んだ関係におかれている場合である。そして第三の領域を支配するのは超主観性(トランスサブジェクティビティ)だ。これは最も上流の視点であり、フッサールの言う『生命体としての存在』世界だ。この領域は現代の最も重要な戦いが繰り広げられている新たな戦場であり、プレゼンシングと不在化の間の線が小さなsの自己(古い自己、つまりいつもそうであった自己)と大きなS(出現する高次な自己、つまり、未来の最高を可能性を具現化する自己)の自己領域の真ん中を通っている。第三の領域で新しいのは、こうした一切が源(ソース)と自己(セルフ)の出現領域に根をおろし、互いに結び付けられていることだ。」(P181・P182より補足)「『今』におけるこの二つの自己、小さなsの自己と大きなSの自己の結びつきが、私の言うプレゼンシングだ}(P182)

 「盲点はもっとも希望が持てる確認の源だ。なぜなら人は、盲点の内側から深いプレゼンス力・目的に接近できるからだ。」(P186)

 

「組織学習と変化を阻む四つの障壁

1.見たことを認めない(認知と思考の分離)

2.思ったことを言わない(思考と発言の分離)

3.言ったことを実行しない(発言と行動の分離)

4.したことを見ない(行動と認知の分離)」(P211-P212)

 

 「シャインと一緒に仕事をする経験を通じて信じるようになったのが、リーダーシップの第一の仕事は個人と組織の『観る』能力を高めること、つまり、人々が直面し自ら役割を演じて作り出している現実に深く注意を向ける能力を高めることだ。すなわち、リーダーの本当の仕事は、人々が『観る』ことと、ともに『観る』ことの力を発見することを助けることである。」(P223)

 


U理論の詳細については、実際の書籍を手に取って確認して頂ければと思います。


【感想】

 現在の状態から心の深層にある希望に近づき(プレゼンシング)、それをもとに社会という現実を改革する為の考え方がまとめられていました。プレゼンシングは心の奥に沈んでいるので、そこまで下りるという感覚からU理論と名付けられているようです。

 キャリアカウンセリング型組織開発では、意識マトリクス理論を使ってイノベーションを進めてゆきますが、そのファシリテーターの心構えと共通するような点も感じました。また、「エフェクチェーション」(イノベーションの考え方の解説書籍)という書籍の内容と一部共通する部分もありました。MRIブリーフセラピーのポール・ワツラウイックも哲学者という形で紹介されていますので、ブリーフセラピーともやはりつながりがあるかも知れません。本書では「プレゼンシング」を「ダブルループ学習」を超える概念(P127-128)とし、またその能力を必要としています。キャリアカウンセリング型組織開発で取り扱っているブリーフセラピーと意識マトリクス理論を活用した創発は「ダブルループ学習(カウンターバラドックス)」として取り扱っていますが、本書で示された「プレゼンシング」の具体的手法に近いのかも知れません。