社会構成主義


☆社会構成主義は「キャリアカウンセリング型組織開発®」のマインドセット

 現在、注目を集めている「ナラティブ・セラピー」や「対話型組織開発」は「社会構成主義」を前提としています。同じく、これらを基本とする「キャリアカウンセリング型組織開発®」においても、やはり「社会構成主義」にマインドセットを置くことが必要になります。

 一方で、上記のような理論が「社会構成主義」を前提にしているにも関わらず、その肝心の「社会構成主義」についてなかなか学べる機会も少なく、実践違った形のマインドセットで行われてしまい、内容がまったく違うものになっている場合もあります。

 社会構成主義を単に形式上の前提とするのではなく、各種の支援活動において社会構成主義をマインドセットとすることがどういう事かという点について、確認をしてゆきたいと思います。

  組織内での個人に対するキャリア面談を通しての組織への働きかけも、結果的に少なからず組織の変化につながり(一般システム論)ます。これは組織開発にあたると言えます。このように、キャリアコンサルタントのマインドセットがクライアントの所属組織にも影響を与えます。個人や組織を支援するにあたり、どのようなマインドセットで臨むかというのが重要な点になります。

社会構成主義で大事なポイントとして、「モダン」「ポストモダン」の取り扱いがあります。

 「モダン」を現代、現代風と訳されることもあるが、ここでは「近代」として把握します、一般的なイメージではどちらかというと「前近代」という感覚になると思います。現代は「Contemporary」「Present day」とします。

 現代は「モダン」的な考え方から、「ポストモダン(ポストモダニズム)」へ移り変わっている状態と捉えています。

そのような状況の中で社会構成主義は、「モダン」を批判し「ポストモダン」へと向かう考え方になります。但し、社会構成主義と「モダン」である「本質主義」は是非を争うものではなく、実際は共存をしているというスタンスを取っています。

 組織開発では、過去の学校教育などを通じて獲得された「モダン」をベースとしたマインドセットを「診断型」、ポストモダンを前提としてマインドセットを「対話型」と想定しています。つまり、対話型の源流は「社会構成主義」になります。

 キャリアカウンセリングについても、検査によるマッチングを重視するような「モダン」を基本とする「診断型」の取り組みと、ナラティヴ・ブリーフセラピー等を重視した「ポストモダン」をベースとする「対話型」の取り組み(構成主義的)では、結果として、クライアントや組織社会に与える影響は違ったものになると考えています。但し「診断型」と「対話型」が実際は共存するという考え方がキャリアカウンセリング型組織開発®での「対話」でのスタンスになります。


 社会構成主義を前提とした「対話型組織開発」「ブリーフセラピー」「プロセスコンサルテーション」等が広まりつつありますが、社会構成主義をよく理解せずに本質主義的な感覚や構造主義的な視点のままでこれらを進めてしまっている場合もあります。このような事を避ける為にも社会構成主義の基本的な理解が大切になります。ここではその基礎的な理解の為に「あなたへの社会構成主義」をご紹介しています。

 社会構成主義の理解は、マーケティングや営業活動・経営組織論等についても改めて理解し直すことにつながります。また、社会構成主義をマインドセットとして支援活動を行う場合は、クライアントの主体性を確保することが大切になります。

 社会構成主義と近代の産業革命以降の世界を支えてきた本質主義について、以下のような概観で把握を試みています。

 

社会構成主義(ポストモダン主義・全体性《システム論》・多声性     ・関係性・対話型・動的分析・解釈主義・相対的事実・偶然)

本質主義  ( モダン主義  ・細分化《原因の追求》・唯一の解・唯一性・診断型・静的分析・実証主義・客観的事実・必然)

 

 ここでの重要なポイントとしては「社会構成主義」と近代(モダン)の主流な価値観である「本質主義」とは、決して相反するものではなく、それぞれが準拠し社会や組織に影響を与え構成しているものとして捉えることです。

 この視点で「社会構成主義」を理解することは各種の活動を行う上で、とても有効になると考えています。

 (参考:意識マトリクス理論:社会構成主義と本質主義の意識の方向性

 社会構成主義と本質主義は論理階梯が異なりますので、個人の認知の中で階層を行ったり来たりするとも言えます。

 

 社会構成主義では、社会を個人の発する言葉とその認知(ナラティヴ)で構成された集合体として捉えます。 広義の組織(家庭やエリアコミュティ等も含む)も同じく社会の下部システムとして、構成員の発する言葉とその認知で構成された集合体と捉えます。

 例えば、支店長1名・メンバー5名の支店で、支店長とメンバー1名の異動があった場合にも以前は良かった、今回の異動で良くなったと等の会話が行われる事が往々にあります。但し、この場合の組織の物理的なシステム構成はまったく同じです。ここでの組織が変わったとの認識は、新支店長の発する言葉と支店内でのその受けとめや認知、支店長の行動とそれに伴うメンバーの経験との交錯とそれらを受けてメンバーの発する言語と対話、その認知が変化することにより発生します。

 組織は、その中での構成員同士の対話や行動に伴う経験の言語化とその認知、それらが交錯して組織が変化していくものだと捉える事が出来ます。特に重要な点は、リーダーの発言や行動が組織の変化に一番大きな影響を与えて、組織全体の認知が変わってしまうという点です。

(参考 あなたへの社会構成主義 ケネス・J・ガーゲン 2004年 ナカニシヤ出版)


 社会構成主義を意識しながら「キャリアカウンセリング型組織開発」を行う場合は、下記のポイントが大切になります。

 

1. 我々は、受けてきた唯一の答えを求める教育の影響から、基本的に「本質主義的な理解」を選好しがちな傾向にある。

2. 現実(の認知)は、対話によって構成される。

「問題」も「解決」も対話による相互認知によって構成される。

3. 「専門性による権威の否定(棚上)」、つまり「原因」を追究しない。「解決」を構成してゆくという姿勢が大切。

☆「原因」を追究しないので、関係者の中での「問題な人」や原因となる「悪い人」のような概念は存在しない。

「病気・症状・問題を敵に回さないスタンス」(2023、若島)が基本となります。

4. 「問題」は対話によって構成されるので、

面談を通じて、支援者(コンサルタント)がクライアントの「問題」を勝手に構成しない。

(「問題」を支援者が作り出さない(構成しない)。)

5.「対話」の位置は、クライアントとコンサルタントの間にある。

(感覚的には微妙な違いになりますが、カウンセラーの心の中での問題解決を中心としてはいけません。)

「対話(認知の構成)」の位置がクライアントの心の中にある場合は、心理構成(社会構築)主義と言えます。

6.「社会構成主義」を理解しているのと、実際に社会構成主義に基づいた「対話」出来るのは違っている。

⇒社会構成主義に基づいた「対話」が出来るようになる為には、ある程度の訓練が必要です。

ex「この点に気づいてもらう為に、・・・・のような投げかけはどうですか?」(対話を促進する)

 「お話を聴いていて、このようなことが浮かんだのですが、どのように感じられますか?」(構成的)

×「お話をお聴きして、私はこう思うので、あなたもそうすればどうですか?」(本質主義的な関り)
×「私の意見をお伝えして良いですか? お話を伺ってこのように思うので、

次のような点(×××)については、どうなっているんですか?」(本質主義的な関り)

7. 「社会構成主義」における「対話」の大きな要素として、

「傾聴&リフレクション」のスキルが重要で大切になります。

8.「社会構成主義」は、2項対立として「本質主義」と対立するものではなく、行ったり来たりし、併存するものだと捉える。

(クライアントとしては、本質主義的な問題把握や解答を必要とすることも多い為)


 「社会構成主義」というと比較的新しい考え方だと捉えがちで、確かに言葉自体は1960年代なってから出てはきています。しかし、元来、人類は古くから神話、伝説、伝承、昔話というナラティヴの中で生きていました。また、「経営組織論」においても、その社会構成主義的な源流は1900年初頭には見つけることが出来ます。その視点を持って「組織論(経営学)」や「マネジメント」についても社会構成主義の立場からの理解をすることが出来ます。これらの考えの出現は、アインシュタインの相対性理論の発見(1905年)から大きな影響を受けて、社会全体の考え方に変化が生まれてきたようです。

参考:オンリー・イエスタデイ F.L.アレン著 藤久ミネ訳 株式会社筑摩書房 初版1986年12月 1998年6月文庫版第3刷 9章P320



社会構成主義の組織改善への応用


指導力

 指導力・真のリーダーシップは、単にリーダーの役職に就くことによってのみで得られるものではありません。

 一番大切な事はリーダーの発する言語とその認識が、メンバーに受け入れられ、メンバーの言語とその認知としっかりと調和・統合する必要があります。

 これらを確認する為には、キャリアコンサルティングを通じて、組織内の組織内での発言によるナラティヴを確認し、組織内の認知を確認、必要に応じては新たな創発を目指する必要もあります。 

 最近(2024年春)では、トヨタのコマーシャルでも「立場」によって仕事をするのではなく、「役割」によって仕事を「対話」をしながら進めようと訴えかけられてています。つまり、言い換えるとこういうことになりますね。

組織の変革

 社会構成主義の概念では、組織の変化は構成員の発する言葉とその認識の変化によって構成されます。この変化を促進するのがキャリアカウンセリング(対話型)組織開発®の基本的な考え方です。

 組織を変革に導くために、まずリーダーにビジネス(キャリア)コンサルティングを行った上で、そのリーダーの組織認識や彼が求めている組織目的を明確にします。その内容を組織内でリーダーからメンバーに語ってもらった上で、その後、このリーダーのナラティヴを前提とし、メンバーのキャリアコンサルティングを実施します。リーダーのナラティヴに対するメンバーの変化に基づいて進めていきます。

 メンバーからはキャリアコンサルティングの実施後、メンバー間で組織に対しての思いや意見を共有化してもらいます。

 このメンバーでの討議の後、リーダーも交えて、内容を確認し、グループの組織認知や組織目的の再共有化を図り、組織の安定化や活性化を図ります。

 リーダー・メンバーの発言とその認識の変化が組織変革のキーポイントとなります(ダブルループ学習)。リーダーとメンバーの認知の調和が出来るようなステップが大切になります。

 これらが、キャリアカウンセリング型組織開発®の基本の形となります。

組織内の不祥事への対策

 組織内の不祥事はそもそも組織内部で「不祥事自体」が暗黙的にせよ認められている事に課題があります。これは組織の構成員の語る言葉とその認識が、不祥事を不祥事と認識が出来ない組織文化となってしまっている事に起因しているのではないかと考えます。

 なぜそれらが社会的な不祥事になってしまうのか?これはその組織の認識が外部や上位組織の認識と軋轢や認識のずれが発生している為だと捉えます。

 上位組織の認識を下部の組織が認知し適応出来ない点に「不祥事」の発生原因があります。

 不祥事をなくす為には、下部組織内の発言とその認知を上位組織と調和させる必要があります。(外部環境との調和)  この為には、組織に対してはプロセスコンサルテーションとしてアプローチし、キャリアコンサルティングによる個々のメンバーの自己概念の変化を基礎とする組織変化を促してゆくことが必要になります。