ナラティヴ・セラピー


「ナラティブ」について

 社会構成主義の所でも同様に記述していますが、社会が「ナラティヴ」で構成されているというと違和感を覚える方もいらっしゃると思います。しかし、例えば「市場原理主義」や「株主資本主義」はどうでしょう。

多くの人は、「アダム・スミス」の「(神の)見えざる手」により市場が調和するという市場原則を思い出されるでしょう。また、弱肉強食の競争原理を想起される方がいるかも知れません。

 ところであなたはその出典であり現代市場主義のベースとなっている「国富論」は多分教科書を含めてマスコミ等によるナラティヴとして把握しているのではないでしょうか。それではその国富論で「見えざる手(Invisible Hand)」は何回出てくるのでしょう。わずか1回です。また、アダム・スミスは自然摂理として弱肉強食を推奨していたのでしょうか。おそらく違うようにも思われます。アダム・スミスはもともと道徳哲学者であり、国富論の前は「道徳感情論」を著しています。また、「自由放任」という事も言っていません。また、日本では「見えざる手」をなぜか「神の見えざる手」と訳します。なぜ「神の」なのでしょうか。道徳に基づいた公明正大な競争をイメージさせる為でしょうか?一方で、現在、「自由放任」市場原理主義は全世界を覆い、市民の間で混乱も見られます。

以上もひとつのナラティヴですが、このように考えると、社会がある「ナラティヴ」を基に構成されているとしても、少し違和感がなくなるのではないでしょうか。このようなナラティヴで構成されているような例は身近な組織でも案外多く見られるのではないでしょうか。

 

【詳しくは、「あなたへの社会構成主義」をご参照ください。】


「社会構成主義 キャリアカウンセリングの理論と実践」

(渡部昌平著 福村出版 2015年 7月) 

第6章 キャリアカウンセリングにおけるナラティブ・アプローチ」

上記の書籍の紹介とキャリアカウンセリング型組織開発®の理解に関連する部分の抜粋です。

 

 ナラティブ(narrative)は、「語り」あるいは「物語」と訳される。物語は語りの生成物である。(P188)

 キャリアについてのナラティブは、語り手のこれまでの生きざまを表現するものであると同時に、語られた物語によって語り手のこれからの生き方やキャリアを規定することにもなるのである。

 ナラティブアプローチは、語り手と聞き手との対話という関係を通じて、語り手によって自分らしい物語(=自己物語)を創造することを主眼としているのである。このようなナラティヴアプローチが心理療法に導入され、ナラティブ・セラピーと呼ばれることになった。(p189)

 

 このようなナラティブ・アプローチが心理療法に導入され、ナラティブセラピーと呼ばれることになった。キャリアカウンセリング分野では、1990年代以降、ポストモダンや社会構成主義(あるいは構成主義)の影響を受け、ナラティブ・アプローチが導入され始めた。キャリアカウンセリングでは、独自の発展を遂げている。(P189)

  ナラティブアプローチは社会構成主義の影響を受けている。(P189) 

 言語によって外在化され、客体化されて社会に共有された価値観の事を社会的言説(ディスコースdiscourse)という。それは、社会的思い込みのようなもので、常識や規範等といった形で共有されていることが多い。

 (行為をナラティブとし、生成物を物語あるいはストーリーとする)

 ナラティブとは、「出来事と出来事を時間的・因果的・主題的な一貫性を持って結びつける行為である」と言い換える事が出来る。(P192)

 

1.ナラティブアプローチのスタンス(P192~)

 1)機械の治療(故障した機械を修理する)

   認知・行動療法、論理療法などのスタンス

 2)ロマンティズムの治療(玉ねぎの皮をむく)

   保護膜を取り去って、玉ねぎの核である真正の自己をあらわにすることを目ざす)

 3)ポストモダンの治療(ナラティブアプローチ

   クライアントが語りの中で経験に付与した意味構造を理解することである。

   この方法論が他のモデルと大きく異なる点は以下である

   ①人が問題ではなく、問題のみを問題として捉える事

   ②問題解決よりも問題解消(問題が問題でなくなること)を目指すこと

   ③カウンセラーとクライアントは、上下関係でなく、対等であること (P189)

 

2.キャリアカウンセリングとセラピーの違い (P196)

 キャリアカウンセリングは「未来の肯定化」、ナラティブセラピーは「過去の肯定化」と言える。

 

3.ナラティブセラピーの3大流派

 1)WhiteとEpsonの(狭義の)ナラティブ・セラピー(P197~)

  ドミナントストーリーをオルタナティブストーリーへ

  外在化する会話

  ユニークな結果

 2)AndersonとGoolishianの無知の姿勢(コラボレーティヴ・アプローチ)(P207~)

 クライアントを「専門家のナラティブ」に、はめ込んでしまう事に警笛を鳴らしている。

 専門知識によって診断されると、「クライアントの問題」は「専門家による問題」へと変質してしまう。

 「無知の姿勢」

 3)Andersenのリフレクティング・チーム(P211~)

  空間構造を転換することで、新しい語りを生成することを考えた。

 

4.Brottのストリード・アプローチ(P215)

 クライアントとカウンセラーが「協働して人生のストーリーの意味を明らかにしてゆく」

 基本的な流れ①共構築(過去を明らかに)②脱構築(異なる視点)③構築(未来に向けて)④ストリー展開(ゴールマップ)

 

5.日本におけるナラティブ・アプローチの応用例 

 1)人生すごろく『金の糸』(日本キャリア開発協会 JCDA)(P221)

 2)人生すごろく~人生これからノート~(ホワイトアイコロキアム研究会)

  対象者:60歳前後のシニア層(P223)

 

6.ナラティブ・アプローチの課題と展望

 ビジネス界はモダンの思想である。(ポストモダンである)ナラティブ・アプローチと大きなギャップが生じている。(P227)

 

【上記の課題を解決される為には、ビジネス界におけるディスコースの源流をM.P.フォレットの理論(1924年)まで遡り、再構成することによって、ナラティブ・アプローチ(ポストモダン)との整合性を取る必要があるように考えます。ドラッガーが、M.P.フォレットを「経営学の預言者」と称している点がここにもあると思います。】


社会構成主義キャリアカウンセリングにおいては、「質的アセスメント」が重要です。

 転職などの時の履歴書・職務経歴書の振り返り(特に、入社理由・退社理由・組織内での記憶に残るイベント等)をしっかりと行い、再構築する作業が結構シンプルで良いのではと思います。


物語としてのケアより━━ナラティヴ・アプロ地の世界へ 

(野口裕二著 株式会社医学書院 2002年6月発行)の紹介です。

 

ナラティヴ・セラピー ナラティヴ・アプローチ≒「経験代謝」

 

「未だに語られていないナラティヴ」=オルタナティヴ・ストリーの引き出し方

                   ⇒クライアント自身で書き進める

 

下記のような「言説に内在する権力」をいかに無効にするかという視点から、「未だに語られていないナラティヴ」を得る

 

ホワイト        ドミナント・ストーリー(権力)   形式的構造        ナラティヴの共有者

グリーシャン  専門家(権威)によって定義されたナラティヴ コミュニケーションの過程 個人の姿勢

アンデルセン            〃           セラピーの構造変化    集団の構造

                                 ⇒リフレクティング・チーム

 

社会構成主義を基礎とする3つの専門性(P146)

①会話の方向性を専門家がリードしない

②逆立ちした専門性 = 専門性を後ろの棚に置く    専門性でクライアントを包み込む感覚

       ⇒否定しない              専門性はクライアントの関係性に関して大切

③対等な立場での会話

 

新しい何かを生み出し、作り上げる作業、 つまり、 

「問題の染み込んだスートリー」から脱却し、新しい物語を創ってゆく

   ⇒本質主義             ⇒構成主義の世界に委ねます

 

傾聴と共感

  ロジャーズとの違い 

「パーソナリティの成長がある」という専門性、望ましい成長という目標がある

 構成主義では、自己の核心は想定しない。自己は対話により変化するもの

 

本質主義(P161)

 ・専門家が専門知識に基づいて、適切な判断をすること

 ・「問題」には、必ず本質的な原因があること

 ・専門家であれば、本質的な原因を探り出せること

 上記のような信念こそが「問題」を引き起こし

            「問題」をより強固にする

 ナラティヴ・アプローチが乗り越えようとしているのは。まさにこれらの信念なのである

 

セルフヘルプ・グループ

 「言い放し、聞き放し」のミーティング

   ナラティヴ・セラピー

    ・問題の背後に「権力作用」を見出だす

    ・問題を外在化する ⇐ 個人の個別問題ではないというスタンス

 

セラピー 療法 = 医学用語

  家族療法(セラピー)

    ⇒変化を目指す積極的行為

 

ナラティヴ・セラピーの主張

 専門家とクライアントが共同で同じ問題に取り組むという「関係」である。

 

 「関係」として捉える ≒ 外在化

      関係は、個人にとって「外在化」しているという意味

  物語⇒新しい関係の手がかり

  「内在化」という現代社会の支配的原理

 

(※ナラティブとナラティヴの2種類の表記になりますが、参考書籍に合わせて表記しています。)



メモ)

ナラティブ・セラピー

 バーガーとルクマン 現実の社会構成(1966年)

  古典的知識社会学理論

 

構築主義⇔本質主義

 ・客観的事実 科学的証明(一般性・普遍性) 必然

   機械モデル(有機体モデル)・科学的法則

 ・主観的事実 物語的説明          偶然

   テクスト・モデル=テクストアナロジー  Story

 

 自己とはセルフナラティヴである

       ⇒エンパワーメント

         個人や集団が本来持っていた潜在能力を引き出し「権限委譲」「能力開花」

  経験⇒自己語り⇒現在が物語の終点

  体験⇒事実語り

 

   支配的物語 「立身出世」

   ドミナントストリー「御国の為」=人々の物語

      ⇒オルタナティブ・ストリー

 病 illness  疾病 disease

 

 ナラティブ・・・簡単に変更できない=重さ

 

 独り言⇒対話 「社会的な事実」=共通の出来事

     語る 「社会的現実」

 

 システムが問題を作る ⇒ 家庭とセラピストのシステム

 問題がシステムを作る(ナラティブ)

 

 物語・ストリー

  問題が語られなければ、問題は存在しない

    ⇒問題を解消するシステム

 

 無知の技法×「無知の姿勢」 グリーシャン 

「物語としてのケア

 ーナラティヴ・アプローチの世界へ」

( 野口裕二著(株)医学書院 2002年6月)

 

 

 「無知の知」 ソクラテス

 傾聴と共感