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意識マトリクス理論(基本的枠組み)


 ここで改めて、各種の関係性を意識マトリクス理論で把握する為に、その基本的枠組みについて確認します。

 この理論の枠組みは、主体と客体の双方の無意識レベルにある潜在的な可能性を、「創発」という概念で如何に課題解決に向けて意識化に結び付けてゆくかを説明することが出来ます。

 ここでは調査主体側を主体、調査対象側を客体として、改めて枠組みを確認します。

主体の意識は、「関心項目」に向いており、客体の意識は「課題項目」に向いているとします。

ここでは、課題解決を進めることを主な視点として、各領域の特性を再確認しておきます。

 

 ①C/C領域:(現実認識の領域)
  通常の対話はこの領域が確立をされていることを前提に成立しています。

  この領域の課題解決については

  1. 客体は「課題項目」への意識があります。また、主体も「関心項目」の意識出来ていています。
  2. 主体が双方が意識が出来ていているレベルでの課題解決を提示することになります。
    現実的な対話ができる領域といえます。
  3. 現実的な確認ができる領域ですので、主体は「関心項目」に沿った課題解決を提示します。
    客体は「課題項目」に沿って、主体の課題解決の提案の中から自らの課題解決の方策を選択します。
    この為に、課題解決の選択は客体側に委ねられます。
  4. 客体が課題を意識出来ているがゆえに、主体が提示した課題解決が根本的な解決につながらない場合や、それぞれの意識や経験が交錯しコンフリクト(軋轢)が発生するなどした場合は、「妥協」や「抑圧」等不満が残る形で課題解決が行われることも想定されます。
  5. この領域の調査活動では、現状認識の肯定・強化という位置づけを持ちます。
    言い換えれば、意識がある領域ですのでどちらかというと目新しさのない調査結果となります。
  6. シャインのプロセスコンサルテーションでは、客体の課題を主体の情報提供によって解決する「情報購入型」の「専門家的な関り」を行う領域に分類されます。
  • 「情報購入型」の「専門的な関り」においては、購入の選択権は客体にあります。
  • 「専門家的な関り」においては、主体が客体を理解し、客体にあった情報や製品を提示する必要があります。
  • 最終的には、客体が主体に頼り切って、無力になる可能性もあります。

 

 ②S/C領域(本質主義的な領域)

  1. 客体は、提示される「解決項目」への意識がないので「話せません」ので、通常の対話は成立しづらくなります。
  2. 主体は、自らの「関心項目」が意識出来ているので「話せます」。つまりここでは「課題解決策」を提示できます。
  3. この領域では、主体が「解決項目」に関する意識はあるが、客体がどこまで「課題項目」に関する意識があるかを把握できない為、C/C領域と同様に客体に「課題項目」への意識があると仮定して解決策の提案を進めてしまいます。
  4. 客体側の無意識の領域に入ってきていますので、①C/C領域と異なり基本的には対話が成立しなくなります。
    主体の主導による本質主義的な情報提示が行われる領域とも言えます。
  5. 客体は主体から、今まで意識をしたこともないような経験を訊ねられている領域になります。
    実際の経験がないので解答がわからずに、詰問(Asking)されているようにも感じます。
    客体側は以下のような認識を持つことがあります。
    (ア)強制的で納得できないような解決策
    (イ)一般的などこかで聞いたような解決策
    (ウ)自身の事情とか本音が理解されていない解決策
  6. この領域では主体が「関心項目」に関する質問をしても、客体はそれに伴った「意識」がないので、表面上の受け答えをしてしまう可能性が高くなります。自らの経験には基づかないで、その場で得た情報や一般的な知識を基に迎合的で当たり障りのない返答をすることになります。
  7. 客体の「関心項目」に関する上記のような返答は、経験に基づいたものでないので、マーケティング等の目的成果としてはあまり価値のないものになると伴に、主体の意識が強く反映したものとなるリスクがあります。
  8. シャインのプロセスコンサルテーションでは、客体の充分に把握できていない課題を主体を中心とした情報によって解決する「診断型」の「医師的な関り」を行う領域だと言えます。
  • 「医師的な関り」が成立する為には、客体が主体に絶対的な信頼を置いているという前提条件が必要になります。
  • 「医師的な関り」においては、主体は客体から新たな知識や情報を得ることはありません。
    (主体の既に持っている知識への追加情報として、客体の行為や状態が参考になることはあります。)
  • この医師的な役割の難点は、主体が客体から正確な診断に関する情報を得られていないかも知れないという点にあります。
    実際に客体が意識出来ていない領域なので、その客体の情報を正確に提供することは難しい状況になります。
  • 主体が、客体に対してより強大な権力を手にする可能性があります。

 ③C/S領域:(社会構成主義的な領域)

  1. 客体は、「課題項目」への意識があり「話せます」。調査主体は「関心項目」の対象範囲外ですので実は「質問ができません」。つまり、この領域は主体が意図的に到達することが難しいエリアになります。
  2. 一方で、この領域では客体の「課題項目」に基づいた新たな「関心項目」を主体が発見できる可能性があります。主体が新たな「関心項目」の可能性を見つける為には、まだ意識が出来ていない客体の「課題項目」に関する認識を行う必要があります。
  3. 客体側が意識している課題があるにも関わらず、主体側が理解するようにアプローチが出来ない場合は、課題解決へとつながってゆきません。この場合は、客体は「課題項目」自体を主体に把握してもらえなかったという不満につながります。
  4. 主体は意識が出来たいないこの領域においては質問は出来ないので、客体の「課題項目」に関する経験を丁寧に「傾聴」する必要があります。その為には、特にキャリアコンサルティングやGDI等では「傾聴」が必要とされています。
    (ここでの「傾聴」は良く聴くという一般に想定されているものより、若干難しいものです。自らの「商品・サービス」に関する知識などを一旦棚の上において、積極的に(Active)に傾聴(Listening)する必要があります。
  5. この領域においては、主体は無意識ですので直接に課題解決策を提示する事が出来ませんが、傾聴を通じて認識できた課題を解決する方法は次の3通りあります。
    A. C/C領域の拡張
      双方の対話を経て、事象を認識し共有化することが出来れば、C/C領域の拡張となり、主体の関心項目で客体の課題項目を解決する事が出来ます。
    B. S/C領域への展開
     C/C領域の拡張とならない場合は、主体側の関心項目を活用できるS/C領域に展開する必要があります。
     この展開に必要なスキルがマーケティングにおいては「ホンヤク」、キャリアコンサルティング等では「リフレクション」になります。これらのスキルについては別途詳しく解説する必要があります。
     ここで展開されたS/C領域においては、客体側がC/S領域で意識出来ている経験認識から展開をされていますので、無意識化されていたものが意識化されている為に、主体側の解決策を受け入れやすくなります。
    C. S/S領域への展開
     新たに主体によって認識された課題や経験がこれまでの関心項目では解決できないが、主体が新たな解決策に気づくことが出来た場合はS/S領域に展開することが出来ます。
  6. 主体と客体で社会構成主義的な会話(対話)が行われる領域とも言えます。シャインのプロセスコンサルテーションでは、主体が客体の課題に関する経験をまずは傾聴する「プロセスコンサルテーション的な関り」を行う領域だと言えます。
  • 「プロセスコンサルテーション的関り」では、主体は自らの知識を脇において、客体の経験を傾聴し客体の経験を理解する必要があります。
  • 基本的な関りは、クライアント(客体)自体が洞察を得たり解決策を考えたりすることに重点を置くことを重視することになります。

 

 ④S/S領域(創発の領域)

  1. 客体は、実感としての「解決項目」が存在せず、「話せません」。主体も、「関心項目」の意識外なので「質問できません」以上の点から、通常の対話ではなかなか到達が難しい領域です。
  2. この領域に到達する為には、次に示す「ホンヤク(リフレクション)」やそれに伴う新たな「気づき」が必要です。
    既に述べたように、C/S領域の傾聴からの気づきで展開する場合と、一旦S/C領域に展開をした後に客体側のリフレーミング等により、無意識だった課題に新たな解決策が得られた場合に到達することが出来ます。
  3. この領域には、まだ誰も気づいていない新しい「関心項目」や「解決項目」が眠っている領域と言えます。つまり対話による「創発」が期待できる領域だと言えます。「創発」に向けた相互発展的な対話が期待できます。
  4. キャリアコンサルティングにおいては、客体の「自己概念の成長」が実現できる領域とも言えます。

 以上が、それぞれの領域の特徴になります。

 大切な点は、主体は自らの本質主義的な価値観に基づいて「関心項目」に沿って①C/C領域から②S/C領域へと行きがちですが、効果的な「統合」や「創発」の実現の為には、社会構成主義的な関りとして③C/S領域に移行し必ず客体への「課題項目」に関する経験への傾聴を行ってから、②S/C領域に「ホンヤクやリフレクション」を使って展開をする必要があるということです。

続いて以上の枠組みを、再び具体的な関係性にて確認をしてゆきたいと思います。

 


(続いてここでの本題であるキャリアコンサルティングにおける意識マトリックス理論の枠組みを確認します。

意識マトリクス理論(キャリア開発面談《キャリアコンサルティング》①)に続きます。


参考1)「マーケティング実務における初心者理解促進と品質向上の為の定性調査体系の試み」(井上昭成,2020)

参考2)「プロセス ・コンサルテーション ~援助関係を築くこと~」

    (エドガー・H・シャイン著 稲葉元吉 尾川丈一訳 2002年3月 白桃書房 P10~27)

    「人を助けるとはどういうことか(HELPING)」

    (エドガー・H・シャイン著 監訳者 金井壽宏 訳金井真弓 2009年8月 英治出版 P90~P113)


注)

 ここで示している「リフレクション」は、相互の関係性における「リフレクション」ですので、純粋にクライアントの意識や認識をキャリアコンサルタントの反映・反射を通して、クライアントが自ら意識をするという概念になります。 

 より効果的な「リフレクション(反映・反射)」の為には、キャリアコンサルタントのリソースが重要になります。キャリアカウンセリング型組織開発にはおいては、「経営組織論」や「組織開発」の知識がキャリア支援における重要なリソースの一つだと考えています。

 

 ロジャーズは「リフレクション(伝え返し)」について、「理解の確かめ(testing my understanding)」という言葉を使う事を提案しています。(Rogera,1986)「あなたがおっしゃていることを、私はこう理解し受けとめているが、それでよろしいでしょうか」と「確かめる」ような応答がロジャーズのカウンセリングにおける応答の中心です。(CDA養成講座 2 P29より)

 この「私がこう理解し受けとめている」中にキャリアコンサルタントのリソースが反映します。それを鏡として見てクライアントがそれまで無意識であった自己の一部分に気付くのが、「リフレクション」であると捉えています。

 

また、以下に示す経験的学習におけるリフレクションとの共通点も多いかもしれません。

 組織行動学者のディビット・コルブは、デューイの「経験から学ぶ」という思想を、ビジネスパーソンにも判り易いように2次元化して、「経験学習サイクル」として表現しました。デューイの「経験から学ぶ」とは、「知が生まれるのは、経験を振り返るとき、リフレクションする時だ」と言いました。私たちは経験から(直接)学ぶのでない、経験(experience)を内省(reflection)する時に学ぶのだ、ということになります。ここでのリフレクションとは、「経験を意味づけ、学びにつなげていく認知的作用のこと」を言います。(組織開発の探求 2018年10月 ダイアモンド社 p78~79より)

 「リフレクション」については、日本での人事用語として内省(introspection《内観》)とされていることがありますが、これは経験を外在化した(距離をおいた)上で、その経験の反映を自身に対して行うことだと理解しています。
(Introspection consist of reflections of his own experiences)


ブログでは内容を分割して紹介をしていますが、「意識マトリクス理論」を通しでまとめたページは、こちらになります。