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意識マトリックス理論(営業活動)


 「経験代謝のメカニズム(傾聴とリフレクション《反映》)」は、営業活動の中でも大いに活用をすることが出来ます。ここではその枠組みを考察します。

 下の図は、「キャリア開発の為の経営組織論」の中で示したバーナードの組織概念を使って、自社の対広域流通企業の営業担当者を中心に、広義の組織範囲の概念として表したものです。これが営業活動を考察する上での重要な組織概念となります。

 営業の担当者の組織というと、一般的には下図の左側の緑円で示された上司との関係性や所属する部署や企業を指すことが多いですが、幅広く組織の協働概念で捉えると、相手得意先との商談活動、消費者に届けるまでの販売活動、また下記のようにそれぞれにサポート部署がある場合は各部署まで含まれた幅広い概念となり、各円の中での活動連動や流通各段階担当者間の協働活動の確立が大切になります。この為には各協働体系における目的の明確化が大切です。

 商品を消費者まで届けるには、流通企業⇒卸(卸ベンダー)⇒個店での陳列⇒消費者の選択という手順をうまく乗り越える必要があります。各段階における協働目的を明確化する為には、得意先担当者の所属組織における満足度の充足(CES)の実現が大切になります。

 営業活動においては不思議なことに、結果として同じ提案を行って同じ自社としての結果を得たとしても、得意先の反応が全く違う事に良く遭遇することがあります。もちろん得意先の満足度が高い方が、次の営業提案がうまく行く可能性が高くなります。

 アプローチとして、得意先の話をよく理解して上で提案をした場合と、自社のノルマなどの駆られて一方的に自社の商品のお願いをする場合では、その後の得意先の担当者との関係性が大きく違ってゆきます。このことは感覚的には把握が出来ており、これまで上の図を説明する場合に「まごころ商売に徹するように」とか「何かお役に立てることはありませんか?」と営業活動をスタートするようにと説明をしていました。

 ここではCES(Customer Employee Satisfaction)と表現をしていますが、得意先担当者の先方企業内における満足度を高める事を念頭に営業活動を進めて、得意先とのパートナーシップを築いていくことを大切にするという考え方が営業活動においては重要です。

 ただこれまでは、上記のように説明の仕方が漠然としたものであったのですが、今回、意識マトリックス理論で把握することにより、より明確に枠組みの把握が出来るようになりましたので以下にまとめています。

 

 下図が、営業担当者が得意先とパートナーシップ(協働関係)を築くための意識マトリックス理論の枠組みになります。

上の図での中で言えば、CES(Customer employee  Satisfaction)を実現する為の枠組みという事になります。

この枠組みは、「まごころ商売に徹するように」等の漠然とした把握を、どのように営業活動を行えば良いのかより明確にすることが出来ます。

 

 この図にあるように、営業担当者は自社の「商品・サービス」に向いており、得意先の担当者の意識は自社の「社内課題(の解決)」に向いています。

 

①「通常の商品売買による解決」C/C領域

  1.  この領域では、得意先担当者も営業担当者もそれぞれが意識出来ている領域ですので、単純な売買による通常の取引によって得意先の課題解決が図られます。
  2.  得意先担当者は自社の課題解決が図れるように、営業担当者から「商品・サービス」の提供を受けます。この領域では課題解決の主導権は得意先担当者にあります。
  3.  担当者間だけの関係性では、双方が必要な量を必要な量だけ供給するという関係を続けてゆくことにより、得意先担当者のCESが実現され、パートナーシップへの確立へとつながってゆきます。
  4. 得意先の「社内課題」を営業担当者が提示する「商品・サービス」で得意先担当者が解決できないと判断した場合には、「商品・サービス」を購入するという判断に至りません。この領域では営業担当者と得意先担当者の意識が交錯し、売る・買う・買わない・売らない等のコンフリクト(軋轢)が発生します。双方が満足いかない場合には、それぞれに「抑圧」「妥協」による解決と不満足感が残ります。
     同様に、営業担当者の社内事情を受け入れて得意先担当者が必要数以上の購入をせざるを得なかったり、商品の欠品を受け入れその調整を行ったり、商品の販売不振などによるコンフリクト(軋轢)が起こります。それらの解決の仕方により、CESが実現できるのかどうかで、得意先とパートナーシップを築けるのかが決まります。問題解決の結果、得意先担当者に「抑圧」「妥協」の感情が得意先担当者に発生した場合は、CESの実現は難しく、安定的な通常の取引で培われたパートナーシップが解消されることもあります。

 ②「既存商品での課題解決」(S/C領域)【但し、「得意先担当者の社内課題の把握」C/S領域を経る必要があります】

  1.  この領域で展開される為には、「得意先の課題の認識」C/S領域を経ることが前提条件となります。
    この場合は、得意先担当者が今まで気づいていなかった得意先の課題を自社の「商品・サービス」で解決す提案を行う事が出来ますので、得意先担当者のCESを実現でき、パートナーシップの確立へとつながります。
  2.  一方で通常取引C/C領域からこの領域に直接展開した場合には、得意先担当者の営業担当者に対する絶対的な信頼が条件になります。このように「診断的な」「医師的」な関りで、有能なコンサルタントが自身の知識で得意先課題を断定し、それを自身の知識により課題解決が図られるような場合も想定されます。この場合は、仲介する得意先担当者の社内評価はあまり関係しませんので、CESの実現も難しく、パートナーシップが成立するかどうかも微妙です。
     一方で、結果として少しでも「得意先の社内課題」が解決されなかったような場合は、この関係の基礎となる信頼関係が減少しますので、取引の終了につながったり、得意先が選択の主体性を持つ通常取引の関係(C/C領域)に関係性が戻ったりします。
  3. 得意先の信頼感が無い状態で、営業担当者が自社の都合に合わせて一方的に新しい「商品・サービス」による得意先課題の解決案を提示しても、得意先担当者は自社の課題解決につながるかどうかの判断ができず、それは所謂「お願いセールス」になってしまいます。商談がもし成立したとしても得意先担当者に「抑圧」「妥協」の感情が発生し、得意先の不満となる可能性がありますので、CESの実現にはなりませんし、パートナーシップの確立も難しくなります。このような状態は営業担当者が得意先担当者に「借り」を作った状態になりますので、「通常取引のC/C領域」において「貸し」を返す必要が出てくるかも知れません。この「貸し借り」の関係性はパートナーシップとは少し違った関係性であると認識をしています。
  4. 最初の1で提示したように、下記のようにC/S領域から「得意先の社内課題の把握」を経て、それまで得意先が気付いていなかった課題を既存の商品・サービスで解決できる可能性がある領域です。

 ③「得意先の課題の把握」c/S領域

  1.  この領域では、営業担当者が得意先担当者の社内課題の把握を行います。
  2.  営業担当者は自身の意識外の範疇ですので、得意先担当者の社内での経験を丁寧に傾聴する必要があります。
     ここでの傾聴のポイントは、自社の「商品・サービス」に関する知識は一旦棚の上に置いて、得意先担当者の社内における経験を聴くことに意識を集中させることです。
  3. ここで得られた得意先の課題解決には次の3種類があります。
    (ア).「通常取引の延長線上での解決」「C/C領域」の拡張展開
     得意先担当者がすぐに話題に出せるような社内課題は、自社の「商品・サービス」で、「通常の取引C/C領域」の拡張として解決が可能です。
    (イ).「既存商品での解決」(S/C領域)への展開
     営業担当者が得意先担当者の経験を傾聴する過程で、得意先の社内課題に気付き、それを自社の「商品・サービス」で解決出来ると認識できた場合は、上述したようにこれまで得意先の気付いていなかった課題を自社の「商品・サービス」で解決をすることが出来ます。この関りおいても「経験代謝のメカニズム」を活かすことが出来ます。
    (ウ).「新商品(新提案)・イノベーション領域(S/S領域)への展開
     営業担当者が新たな得意先課題を認識し、それを解決する為に新たな「商品・サービス」を創造する場合は、「創発・イノベーションの領域S/S領域」に展開出来ます。これまで双方が意識がしてもいなかった「新商品」「新サービス」等のイノベーションにより課題の解決が図られます。これについては、次の領域で示します。

 ④「新商品(新提案)・イノベーションによる課題解決」S/S領域

  1.  この領域では、双方の担当者がこれまで意識をしていなかった形で、これまで充分に認識されていなかった社内課題を新しい「商品・サービス」による「創発」にて社内課題の解決を図ります。
  2.  ここでは、得意先の社内課題に沿った新しい「商品・サービス」が創発されていますので、得意先に大きなメリットのある提案が実現できますので、CESも実現できるとともに得意先とのパートナーシップが促進されます。
  3.  ここでの「創発」は、営業担当者と得意先担当者の両社にとって新しい「商品・サービス」によるイノベーションが期待できますので、双方の社内評価が向上する事も期待できます。この「創発」が実現される為には、営業担当者と得意先担当者それぞれが所属する部署や会社で「正のグループダイナミクス」が実現されていることも大切になります。
  4. この領域に達する事が出来れば、会社同士のパートナーシップも確立することが可能ですので、より良い環境にて営業活動を進めることが出来ます。

 このように営業担当者が「経験代謝」や「傾聴・リフレクション(反映)」の知識を持つことが営業活動では有効ですが、営業活動を統括するマネジャーがこのような認識を持つだけでも十分に有効に機能させることが可能です。

 営業担当者が「経験代謝」のスキルを充分に持たない場合でも、最初に示したように「まごころ商売に徹するように」とか「何かお役に立てることはありませんか?」と営業活動をスタートするように説明をすることで、マネジャーがしっかりここでの枠組みを認識しながら営業活動でのリーダーシップを取ることが出来れば、競合他社や社内に対して十分に優位に立てるような営業活動を展開することが出来ます。

 但し、予算達成の結果ではなく、営業のお願いセールス活動や一時的な期末の意気込みが営業努力としてより評価されたり、マネジメント力が乏しい社内環境で数字の良い所に更に期末に数字を上乗せするような形で日頃の営業努力が評価されなかったりと、自社の社内で十分に評価がされないこともありがちです。このような社内環境が続き、組織全体の営業活動の成果が上がらない場合はキャリアカウンセリング型組織開発®を活用し、組織内のナラティブの改善や組織のマネジメント力の改善から進めてゆく必要があります。



☆「意識マトリックス理論」に関してのマーケティング関連情報は、こちらを参照下さい。

 「意識マトリックス理論」に関する論文「マーケティング実務における初心者理解促進と品質向上の為の定性調査体系の試み」(井上昭成,2020)がダウンロード出来ます。