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意識マトリックス理論(上司と部下の関係性)


 意識マトリックス理論では、上司と部下の関係性を改めて見直してみる事も出来ます。当然、上司は部下より優秀だと社内で公式に認定されているので上司なのですが、現実問題として「実務わかってるのかなぁ?」と部下の上司を小馬鹿にしたような発言を聞くことはよくあります。そのような事も踏まえつつ、ここでは「上司と部下の関係性」を意識マトリックス理論で枠組みを確認してみたいと思います。「経験代謝のメカニズム(傾聴とリフレクション《反映》)」が社内での上司と部下の関係性においても重要なことを提示します。


 この図の場合では、上司の意識は通常自らの管理の為に「自身の理論」に向いているが、部下の意識は「業務課題の解決」に向いています。

 

①「単純な指示・依頼」(C/C領域)

  1. ここまででも確認してきたように、この領域では双方が意識出来ている領域ですので、上司・部下とも業務上の課題を認識し、部下は上司の指示に従う事により、業務上の課題を解決する事が出来ます。上司の下で部下が自分の裁量で課題を解決出来ている場合もこの領域の範疇になります。
  2. 部下の「業務上の課題」を上司の「理論(方策)」で解決出来れば、双方に満足感をもたらしますので、両者の信頼性が醸成されます。
  3. 部下は上司を信頼し、指示に従って課題解決にあたりますが、上司の指示自体が間違っていたり、部下の力量が伴わず、課題解決がうまく行かない場合は、部下には「抑圧」「妥協」の感情が発生するとともに、上司に対する信頼感が低下します。
    逆に部下が上司の指示に従わず、結果も伴わない場合は、上司にも不満の感情が発生し、「抑圧」「妥協」という解決策を選んでゆくことになります。
  4. ここで発生したコンフリクト(軋轢)は、それぞれが相手の経験を理解し、前向きに認知することにより解消されます。
    これは、「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)で展開をされます。

②「上司による新たな助言と指導」(S/C領域)

  1. 上司は部署全体の課題を解決する為に部下に課題解決に関する指示を出しますが、この場合は他の事例と同様に「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)を経由をする必要があります。経由をしているしていないで、部下の指示に関する理解度と解決に向けての考動が変わってきます。
  2. 「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)を経由をしていない場合は、この領域では部下は組織や彼の業務上の課題が認識できていませんので、上司の指示を充分理解できているとは言い難い状況になります。図の左側にあるように、上司は自らの知見に基づいて一方的に指示を出し満足度は高くなりますが、部下は業務上の課題も認識できずに指示を受けている状態になりますので、不満足が高くなります。「抑圧」の状態となり、悪く進めばメンタル疾患や上司のパワハラと受け取ることにもなりかねません。
  3. 「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)を経由をした場合は、部下の経験の話に基づいて業務上の課題に気付くことが出来ています。部下は自らの業務上の課題を認識した上で上司の指示を受け入れますので、上司の指示に対する納得性が高くなります。「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)でどの様な事が必要かは次に確認をします。

③「部下の課題・背景の把握」(C/S領域)

  1.  この領域では上司が部下が感じている「業務上の課題やその背景」を認識する必要があります。このような課題は上司の意識外の事柄ですので上司は質問の形では状況を把握出来ませんので、部下の仕事の働きぶりなどの経験やその背景を傾聴し認識する必要があります。
  2. 部署課題の解決に結びつける為、「リフレクション」によりS/C領域に展開し部下に指示を提示する必要があります。ここでの「リフレクション」はいわゆる「マネジメント」と呼ばれているものに近くなるかも知れません。この関わりにおいても、上司が(傾聴とリフレクションのメカニズムである)「経験代謝のメカニズム」を活用をすることで、関りをうまく進める事が出来るようになります。
  3. 部下の課題把握の過程で、上司の従来の考え方・「理論」そのものを変える必要に気づいた場合は、「対話による業務改善」(S/S領域)に展開することが出来ます。まったく上司と部下ともこれまで気づいていなかった課題解決の方法や組織課題の解決法が生みだすことが出来ます。

④「対話による業務改善」(S/S領域)

  1. この領域では上司と部下との相互の信頼関係に基づいた対話から、それまで双方が意識していなかった課題に全く新しい対応策に気づき、新しいアイデアが生まれるいわゆる組織内における「創発」の領域です。
  2. この「創発」が生まれるような関係性は彼らの組織で「正のグループダイナミクス」が実現されていることになります。
     このような関係性を自らの組織で実現する為には、ここで示したようにそこでのリーダーが各メンバーの業務上の経験を傾聴し、しっかりと「リフレクション」することが必要となります。この関りには「経験代謝のメカニズム」を活用することが出来ます。

 ここまでに示したように、「経験代謝のメカニズム(傾聴とリフレクション《反映》)」のスキルは、キャリアカウンセリングだけでなく、マーケティングや営業活動、社内での活性化、上司と部下の関係性の改善等幅広く活用することが出来ます。この点に関しては、組織社会が「本質主義的な思考」と「社会構成主義的な思考」が併存しているからだと考えています。特に近代は「本質主義的な思考」をもとに進められ、勉学や受験活動において身に沁みついていますが、昨今はポストモダンへの以降に伴って「社会構成主義的な思考」の重要性が増してきたからだと考えています。

 続いては、意識マトリックス理論で「本質主義」「社会構成主義」の関係性を俯瞰してみたいと思います。


☆「意識マトリックス理論」に関するマーケティング関連情報は、こちらを参照下さい。リンク先からから「意識マトリックス理論」に関する論文「マーケティング実務における初心者理解促進と品質向上の為の定性調査体系の試み」(井上昭成,2020)がダウンロード出来ます。


 【追記】

 実際のキャリアコンサルティングの相談における悩みとしては、部下が上司から理解されない、上司のやることが理解できないという相談が多くなります。実はこの場合は「部下」が、「上司」の指示や「理論」の背景にある経験を傾聴し、上司を理解することにより解決できる可能性があります。但し、業務時間中に部下が上司の指示に対して経験を傾聴するということも現実的には難しいというのが現実だと思います。その為、過去の日本の企業組織では上司が部下を飲みに連れだし、無礼講ということで部下とある程度対等に会話する「社内飲み会」が会社の費用を使ったりしても行われていました。ここでは、上司が部下に昼間指導した事のそれに至る気持ちを説明したり、そう判断した自らの「経験」を語って、部下の悩みを軽減に努めていました(努めているつもりでした)。

 但し、仕事時間以外に会社の人と過ごすのは非効率であるとか、上司の経験談は「いつも上司の自慢話でつまらない」ということもあり、下火になっています。この意味では部下が上司のつまらない過去の自慢話(経験)を傾聴する力を養う為に、部下による経験代謝のメカニズムの習得が有効化も知れません。

 また、コロナ禍により在宅勤務が増え、会議時間以外の上司との触れ合う時間が減ると、更に上司の指示を出した理論の背景である「経験」に触れることが減り、日本の組織文化の中ではより上司との関係性は難しくなっていくかも知れません。また、社外懇親の場である居酒屋文化自体が2年近くも消滅状態ですので、時間的にも費用的にもこれを復活させることは難しくなりそうな気もします。また、働き手も多様性を増し、そもそも子育てと両立されているような方は夜に時間を割くことも難しいこと等もあります。これらの事を考慮すると、同様の機能を会社の時間内でやる場合には、キャリアカウンセリング型組織開発®が有効になります。