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アージリス研究 ―行動科学による組織原論ー


 個人のキャリア開発を考える上では、彼の属する組織への環境適応を念頭に置く必要があり、個人と組織の調和を考える上では、クリス・アージリアスの理論を勉強する必要があるようです。

 今回は、「アージリス研究 ―行動科学による組織原論ー(大友立也著 ダイアモンド社 昭和44年(1969年)7月)

から気になった部分を残しておきたいと思います。


 

第一部 行動科学経営学の胎動

第一章 アージリス理論の概要

 

 

第二章 基礎概念

第三節 問題の水準

 組織の課題解決策を整合、リーダーシップ、次にモラール、モチベーション等視点をすり替えることに終始している。目標による管理、これもすりかえのひとつである。(P68)

 

 組織の原理と言われるもの、管理の原理と称されるもの、これを全面的に否定した学者として、サイモンがあげられる。そのサイモンとは違った角度からやはりこれを批判し否定するのがアージリスである。(P69)

 

 

本論 組織原論

第二部 社会心理学水準基礎概念の体系化(組織原論 前篇)

―”やる気”を否定する伝統的経営学の認識―

第三章 人間(パーソナリティー)なるもの

第一節 順応。適応、自己実現

 アージリスによれば、自己実現とは、内部的に適合(adjust)し、対外的に順応(adapt)し、その上で目標を達成する事である(P80)

 

 パーソナリティは、それを構成する部分の集まりであるという。その上、単なる集まりでなく、”全体なるもの”が生まれているという。(P81)

 

第六節 本物の関係。能力(コンピテンス)

 パーソナリティ理論は、パーソナリティーは他の人々・いろいろの考え・社会組織と相互作用するのであって、それで初めて完全な・有機体化できた、統合したものになってゆくのである。(P116)

 

 有機体の持つ能力(コンピテンス)とは、自らを維持・成長・隆昌させる為の環境対処の適合力(フィットネス)ないし能力(アビリティ)をいう。(P118)

 

第八節 能力の成長、心の状態

能力(コンピテンス)は、心理的成功が増加すると高められ る。(P130)

 

第六章 上役側の世界

第三節 経営職

科学的管理法や能率”学”が跋扈した時代になってしまう。それもこれも、全ては対人能力を軽視している為である。(P192)

 

 

第三部 社会心理学水準基礎概念の導入(組織原論 中篇)

―組織の本質の認識―

第七章 開放体制

第一節 経営学の組織論

 わが国で組織論というと専門家の間でも、伝統的経営管理論ならびにL・A・アレン58年著に基礎をおいた高宮晋「経営管理論」からハウツウものの幸田一男「経営組織の編成と改善」あたりまでが念頭に浮かぶのであって、バーナード/サイモン理論に思いを馳せるほどの人はめったにいない。(P197)

【「経営組織論」高宮晋著 ダイアモンド社 昭和36年6月が手元にあるが、バーナード(P40)サイモン(P44)更にフォレット(P42)と最初の所で押さえられている。高宮先生に学んだ先生から経営組織論を学んでいますが、この部分の評価に対しては少し疑問が残ります。】

 

第二節 有機体の組織論

 アージリスは、‥‥‥情を離れた知・理単独の協調を否定する。(P210)

 

第三節 開放体制の概念

 開放体制の概念の説明として、システム論のベルタランフイとエントロピーの法則についての解説がされている。(P222)

【このホームページの中では、これらについて組織論の枠中で触れているので、興味深い内容であった。】

 

第八章 組織の効率

第一節 従来的効率概念の排除

 このページでは、バーナードのと有効性と能率の概念に触れられている。

「権限受容説」の衝撃が大きかったことも記載されている。(P230)

 

 第四部 組織基準(組織原論 後編)

━ アージリス組織原論の結論 ━

 我々は第八章において、組織の効率を考えてみた。要約すれば、「目標の達成だけを考えていたのでは実現しない、諸問題を効率的に解決できる仕事秩序に内部体制を維持する力量があること、人間のエネルギー投入を持って算出を生みだすのであるがそのコストがそれ相応のものであること」、この三つのバランスがとれていなくてはならぬのをいうのであった。更に焦点を絞れば「仕事に有効に用いられる、心理的エネルギーの量」をどう増加するかの問題であるということができる。それには無駄なエネルギーを食っている非生産的な活動を減少する事から攻略してかかるのが実際的であり、その為にまずその実態をみてきた。そして、非生産的な活動を減少するには個人に心理的成功感を体験させ、自己責任の機会を持たせるのが必要であるというところに到達したと要約することが出来る。‥‥‥ではどのように変えたらよいか、それを我々は、「アージリス組織原論」の結論にしよう。(P259)

 

 第十章 組織のための基準

第一節 「混合(ミックス)」モデル

 互いに相克関係にある組織と個人の統合の為、相克関係にある組織の欲求と個人の欲求とをお互いの我慢の出来るところで満足し合えるよう、適当凱切に種々混ぜ合わせている小理論(モデル)体系と読み取ることが出来る。(P261)

【混合モデルの理解はなかなか難しく感じますが、よくよく読むと右端の組織の状態が「ティール組織」の概念や過去に遡ってM.P.フォレットの「職能」を中心とした組織概念に似ているように感じます。】

 

 アージリスの見解は、生産的努力に用いられる心理的エネルギーの増加こそが究極の目的で、それには従業員に心理的成功感を体験できる機会を豊かに与えることが必要であり、その為にはエネルギーを消費している非生産的活動を減退させることが、まず必要、というのであった。

‥‥‥‥個人の心理的成功への機会は増大する。

 かくして、組織の本質の実現を追う事は、人の本質の実現を追う事と一致するのを知り得た。(P262-263)

 

第二節 人々中心管理(リッカート、マグレガー)の批判

 それは、近年、人々中心ないし従業員中心思考の管理が喧伝され、実務界においてもかなり普及した思想になっているが、この思想に関してである。

 アージリス自身には、これに反する、すなわち人々中心主義が組織を窮極的には破壊していることになる実証例(60年主著に登場するX工場)もあり、アージリスはリッカートないしマグレガーの人々中心主義には賛同しない。(P264)

 

 アージリスは、人々中心管理を組織の”素描”のひとつに扱う事も拒否する。「心理的成功を体験できる組織であるという事は、その組織が人々中心の組織であるという事にはならない」‥‥心理的成功は、成否の公算も定かでない、手応えのある、それゆえに現実的な目標に向けて努力する場合にして、はじめて獲得できるものであった。(P268)

 

第十一章 個人のための基準━精神的に健康な人

第一節 成熟概念の醇化

 すなわち、いう。エリクソン、マズロウ、ロジャーズは、自己実現が成長の方向性であるとしているが、(アージリスには、必ずしもそうとはばかりは言えぬことが見えてきた。なぜならば)感情鈍麻・(無関心・)自己疎外に向けてだって自己実現が出来るからである。自己実現は全部が全部、我々が期待する組織人としてプラスの意味を持つものでない。‥‥‥つまり悪い方への成長である。これもまた成長であることに間違いはない。そしてこの場合、この段階・水準では、いい方悪い方のいい悪いの基準を何に置くかが出ていない。(P278)

 

 かくて、自己実現あるいは成熟が、組織人の基準として十分なものではないこと。そしてさらに、いい悪いの基準を求めねばならぬこと、この二つが、1957年以降、X工場Y工場の実態を調査した(著書で言えば1960年著)以降のアージリスの課題となる。言い換えれば、エリクソン、マズロウ、ロジャーズからの離陸であり、57年自著からの脱皮である。(P279)

 

第二節 効率的な組織概念との一致

 アージリスが捉えたのが心理的エネルギーの概念である。いいか悪いかの基準として登場するのが効率の概念である。前者はアージリス自身がいう、後者がそうであるとするのは筆者の判定である。(P281)

 

第三節 個人規準・グループ軌範

 このようにして、アージリスが組織人個人に求めるのは、”自分の言動・思考に責任を持つこと”、”開放的であること”、”やってみる気のあること”、「本物の関係」において人にも手助けをしてそうさせるようにすること、グループが”不信”・”敵意”・”同調”を消し、”信頼”・”思いやり”・”個性の発揮”の出来る雰囲気のものであることであり、理論的活動の他に、これと並行して実際活動のTグループ訓練を行っている。(P294)

 

第四節 打ち込んだ仕事ぶり━インヴォルヴメント・コミットメント

 我々は、64年主著の冒頭でアージリスが心理的に健康な人の特徴特質として、責任感があること、コミットメントの働きであること(出来ること)、2件に要約しているその結論に要約到達した。(P302)

 

 このようにして諸々の諸概念が展示され、それぞれを理解すると、それらが一体となって、ある観念を醸し出しているような気がしないか。‥‥それは、すなわち”やる気”である。

 筆者は、ほぼ本書で展示し得た諸概念を内容とする概念こそ”やる気”というにふさわしいと考えている。従って、”やる気”を起こさせる、よりは起きる管理体制を考えねばならぬことを意味する。

 最近、経営における「意識の変革」が言われ始めている。「意識の変革」は、しかしながら、表向きだけで行われるものでも行われうるものでもない。(P303)

 

 

むすび

 アージリスは、57年主著の冒頭で行動科学を人々がなぜそのように行動するかを理解し、それを予測することによって我々の実生活に体制を立てることを可能ならしめる学問であるとしている。科学に予測の使命を期待したのはクルト・レヴィンである。そして予測はレヴィンによれば、概念作用を出来る人にして初めて可能だという。アージリスの著書がいずれも極めて概念的であるのはおわかりになったであろう。

 混合モデルは、この水準における現時点でのアージリスの到達結論であるともいえる。そこで、ここまでをまとめて、アージリス組織原論とした。(P305)


 【アージリスの理論を理解する上で土台となる初期の思想を理解することは役に立つと思うと同時に、「個人支援と組織支援の両立」というテーマが組織を考えるにあたっての重要な点であることを認識できます。】