· 

組織の罠 ー人間行動の現実ー


「組織の罠 -人間行動の現実ー」

(クリス・アージリス著 河野昭三監訳 文眞堂 2016年4月)参照


 本書はアージリスの遺作になるということですが、その視点は一貫しており、「新しい管理社会の探求(1964年)」で示したように、「良からぬ影響を組織にも個人にも与えて、意図せぬ結果に持ち込んでいる要因は、実は組織の伝統的管理論と実際の中に備わっているのである」と、管理の原則や人間関係論が従業員を憂慮すべき行動へと強いらせていることを主張し続けています。
 組織の中で個人が如何に能率的な働けるか、また、それを阻害しているものは何か、 どうすれば解消されるのかという一貫した視点で構成をされています。

 

 このように初期の理論から指摘がされていた「自己概念の成長や組織における対話(ナラティブ)の結果が、組織にとって必ずしも有益な方向に進むとは限らない。」という事実から、基本的には理論が組み立てられているようです。 その意味ではこの間の時間の経過を考えても、それだけこれが大きな課題だと感じられました。

 事例としては、いわゆる「小田原評定」がどのように発生し、それをどう防いでいくのかが主要なポイントになっています。

その中でのポイントとしては組織の構成メンバーが私はこうあるべきと主張する「標榜理論」と、実際の組織の中の関係性を意識して実際に行動を行う「実用理論」との乖離がまず大きな問題となります。

 

また、実用理論のモデルⅠとⅡを次のように定義しています。

 

モデルⅠの実用理論・防衛的思考

1. 一方的に統制せよ (Be in unilateral control)

2. 勝て、負けるな (Win and do not lose)

3. 弱気は見せるな (Suppress negative feelings)

4. 合理的に振る舞え (Behave rationally)

モデルⅠの目的は、根本的で破壊的な変化(fundamental, disruptive change)に対して、わが身を守り防衛することにある。

 

モデルⅡの実用理論:建設的思考

モデルⅡは、モデルⅠのもたらす逆効果を阻止する為に用いられる実用理論である。 標榜理論を実用理論に転換させることでもある。

1. 根拠の確かな(検証可能な)情報を求めよ

(Seek valid (testable) information)

2. 充分な情報のもとで選択せよ

(Create informed choice)

3. 誤りを発見し、修正するよう常に監視せよ

(Monitor vigilantly to detect and correct error)

 

 一般には有機的な組織が優れているとされていますが、次のように主張しています。

「人々がモデルⅠの実用理論の防衛的思考を用いると罠が発生し、持続することになる。 ‥‥‥しかし、有機的な組織構造の中にいる人々がモデルⅡの実用理論の建設的思考によって教育されていなければ、彼らが技術問題や人事問題を議論する場合はいつもモデルⅠの実用理論だけを用いる事が予想される。 ‥‥‥たとえ組織が有機的な構造であっても、人々の現実構造は機械的な組織行動の場合と変わらないのである。 (P75-P76)

そして、これまでの組織に対するアプローチが如何に罠が無視されてきたのか、そしてどのように罠を取り扱う事が良いのかが論じられています。

最後に、組織における罠の議論の重要性を説きつつ、「組織改革の研究者や実務家による罠の無視は、恐るべきモラルハザードの極みであるあるというほかならない」と締められています。 (P180)

 

組織の本領(プロパティーズ)を環境(内的・外的)に合わせてどう発揮していくかが、一つの課題になります。

 

この後は書籍の中の単語等を少し拾っておきます。

 能力論・調査論・政策論=組織論

 罠は随所にある

 罠にはまった行動 

自己強化  (self-reinforcing) 

自己封印 (self-sealing)

自己駆動的(self-feeling)


 特に、監訳者のあとがきがアージリスを理解する助けになります。

 「アージリスの一貫した立場は、個人と組織双方がともにその能力を発揮し責務を全うすることにある。 彼は「健全な社会」を構築してゆく為に、個人と組織が有効な成果を生み出すことが必要だと主張する。 従って、望ましい社会の実現を阻害するような問題やジレンマを見つけ出し、それを解決してゆく事がアージリスの目指す方向性なのである。 ‥‥‥それゆえ、深層的な自己防衛の枠組みを棄却させて建設的な行動をもたらす改善学習(ダブル・ループ学習)が必要であると主張される。」

 

あとがきのマズローに関する部分は従来の認識とは違ってきますので、引用をしておきます。

 「マズロー本来の「自己実現」概念を基盤にした「個人・組織・社会も三位一体化」が基本となる。

自己実現人は「課題中心的」(Problem-Centered)や「共同体感情」(Gemainshaftsgehuhl)等の特質を持ち、「自他合一」の考えで日々を送る人と定義されたのである。

「マズローの自己実現概念は潜在能力の発揮である」というのは正しくなく、モデルⅢとして、「自己超越(transceendence)=マズローの自己実現(self-actualization)を提案したい」とされています。