「経営のフィロソフィー」 企業の社会的責任シリーズⅠ


 「現代企業の特質と社会の調和」の視座となる「企業の社会的責任シリーズ」についてご紹介します。

 

最初は、「経営のフィロソフィー ~企業の社会的責任と管理~

 オリバー・シェルドン著 企業制度研究会訳 1975年1月 (株)雄松堂書店 発行」です。

(THE PHILOSOPHY OF MANAGEMENT by OLIVER SHELDON  First published 1924, Reprinted 1965) 

2章の訳文内容から考えると、表題は「経営管理のフィロソフィー」の方が妥当かもしれません。

 

 各章に要約が記されており、まずはその各章の要約を確認することとします。少し理解が難しい部分がありますので、本文より補足できる場合は、(  )内で補足してあります。

 

”四書への期待

「なかでもシェルドンの『経営のフィロソフィー』は明らかに経営学の古典であり、イギリスの企業の経験等に基づきながら、およそ自由企業対体制にある限り、企業が意識せざるを得ない社会関係がいかなるものであるかを具体的に論述している。」(PVi~Vii)

(東京大学教授 中川敬一郎)”

と、されています。

 

著者序文には、

 「全体としての経営管理活動を支配する目的、成長の方向、および諸原則を明確化しようと試みているという点が理解されなければならない」(Pxxii)と示されており、これがフォレットの「創造的経験」と同じ年に書かれている事実も興味深い点です。

 


第一章 社会的背景と企業の背景

  1. 歴史的進歩の連続性。歴史的視野の必要性。企業に対する社会生活の一般的影響━企業に対する社会的関心の増大、人間的自覚の増大、集団化の傾向、科学精神(が、現代社会の一般生活の特徴である)
  2. 情報伝達手段の発達によって促進され、大戦の影響によって促された企業や企業活動に関する人々の知識の向上、ならびにその経営管理に対する影響
  3. 労働に関する新しい概念。利益よりむしろ興味の為の労働。リクリエーションの社会的価値の認識、そしてその経営管理に対する影響。
  4. 集団化の精神(組織化の方向性)。現在の社会的(集団化への)分解力、公式的労働組合の運動の非代表的性格、工場を集団化の基礎とする経営側の機会(の発生)
  5. 労働と経営の双方における科学的精神の発達。経営管理の科学の可能性。
  6. 労働者及び資本家の心理を研究する必要性。労働者の心理は、個別的な労働者又は労働評論家のいずれからも判断することが出来ない。(理論化や過激派の)「前衛」と(一般労働者としての)「大衆」の区別。革命的精神の性格。教育普及の効果。労働者の心理の倫理的性格。企業行動の変化。労働者の心理の力、身分及び労働条件に対する態度(の変化)。(これらは、)経営管理にとっての教訓。
  7. 資本それ自体は人格を持っていない。株式所有の影響、資本を人間的にさせる(人間性の)必要性。経営者の地位。雇われ経営者における資本と経営管理の結合(は)、資本が人間化される可能性(を持っている)。
  8. 企業に必須な人間性、企業の物質的および人間的側面の不均衡な発展。動機、リーダーシップおよび労資協働の必要性。正しい理想を掲げる経営者の責任。企業がこのような理想に従うようになる前に、(第一次世界大戦後の)人々の思考を一新させる必要性(がある)。

 「教育がますます求められるところでは、暴力革命の精神は減退する。真の革命は着実に進行している。(P16)

 「経営管理の目的は、企業をいっそう能率よく人間的にすること、すなわち共通の為に統合され、共通の動機によって動かされるいっそう真実な人間の協働的努力にしなければならない。その目的を達成する為に、第一に動機と理想を必要とし、第二にリーダーシップと調整を、第三に労働と協働を必要とする。これらのすべての要因は相互に依存しあっている。

 以下の章を進めてゆくうちに、企業の究極的動機はコミュニティに対する奉仕でなければならず、リーダーシップの技術は科学の進歩と経営管理の社会的責任の認識と共に発達し、更に協働は、動機あるいは理想が真実であり、かつ指導力が人を動かさずにいられないような時に生じてくるということが明らかになるであろう。有効な経営管理だけが、労働者から一層高い能率を正当に要求できる。」(P27)

 「この世代の課題、特に企業経営者のそれは、企業が新しい時代へのハイウェイを築くことが出来るように、その思想(第一次世界大戦後の雑多な思想)を統合し再指導することである(P29)


第二章 経営管理の基礎

  1. 経営(adominiration)、組織(oraganization)、管理(management)の定義。経営管理はある一定の目的を持つ人間集団には必ず存在する。経営管理の技術と科学の区別。経営管理の科学は人間的要素を含むので精密化学ではない。
  2. 経営管理は資本の同義語として出現した。発明及び市場の拡大、それに伴う企業の拡張によりこの二つは分離した。これは人々の道徳の全体水準の向上や、工場の団結心の高揚、工場立法により促進された労働組合の隆興は経営管理に新しい方向性を与えた。
  3. 経営管理はしだいに専門職化してきている。戦争のある種の作用により一層こうした傾向に拍車がかけられた。これは産業における経営管理の安定性に依存をしている。
  4. 経営管理は分析的精神によって遂行される様になった。それは他の諸科学の応用化学である。経営管理は相互依存的機能の集合体である。基本的には、財務、経営、準備、生産、促進、販売に分化する。準備は設計と施設という機能に分化し、生産は製造という機能に分化し、促進は輸送、計画立案、比較(分析)、労務という機能に分化する。販売と生産の区別。販売は販売計画と販売促進という機能に分化する。
  5. 職能は機能遂行の為に不可欠である。事務に関する誤解(事務自体は職能ではない)。決定、経営、実施、サービス、作業への職能分化。
  6. 3つの基本的原理の確認、すなわち、経営管理の科学的基礎が存在し、経営管理は科学的手段によって機能しうるのであり、大学における科学的な訓練が経営管理者の主要な資格にならなければならない。

 「企業の構造を検討する場合、‥‥ある程度正確に定義することが重要である三つの用語がある。すなわち、経営、管理、および組織である。」(P31)

 「本書の目的から、それらを次のように定義しよう。

  経営(administration)とは、企業の方針の決定、財務・生産・販売の調整、組織の範囲の決定、および経営者の最終的なコントロールに関する企業における機能である。

  本来の意味の管理(management)とは、経営によって設定された範囲内での政策に実施、および事前に設定されたある特定の目的の組織の利用に関する企業における機能である。

  組織(organization)とは、個人あるいは集団が遂行すべき仕事とその遂行に必要な能力を結合する過程であり、その結果、両者の結合によって形成される職務が利用可能な能率的、体系的、積極的、そして調整のとれた形で利用する為の最善の経路を与える。

 組織は効果的な機構の形成であり、管理は効果的な遂行であり、経営はその効果的指揮である。経営が組織を決定し、管理がそれを利用する。経営が目標を定め、管理はそれに向かって努力する。組織は、経営によって定められた目的を達成する為の管理機構である。

 本書はこれら三つをすべて取り扱う。本書の表題を選んだ理由は、この三つを包括する最も一般的な用語だからである。「経営管理(management)」という用語は、通常、政策も形成やその実施、組織設計、その利用などを包含するものとして用いられるので、‥‥‥‥‥‥‥‥。

 経営と組織の両方を含めたような一般的な意味で経営管理(management)は、企業にせよ、国家にせよ、人間集団において必然的に出現する。人々がある共通の目的の為に集まる所はどこでも、政策を決定し、権限の範囲を定め、組織し、力の適応をコントロールするリーダーシップの必要性が生じてくる。」(P31-32)

 

  「ここでは、本章で明らかにされた3つの基本的原理を述べるに留めておこう。第一に、経営管理(management)の科学的な基礎が存在するということを我々は確認できる。前世紀のあらゆる成行き的な発展の下でも、事実によって支持されるような一般的な原理を確認できる。‥‥‥経営管理が資本や労働とはっきり区別される産業における実態であることを信じている。‥‥‥‥

 第2に、経営管理が科学化されうる原理を確立したとするなら、同時に経営管理は「親分(boss)」の独裁ではなく、科学的な手段によって遂行をされうるという結論に達することになる。‥‥経験の探求であり、事実に基づく構築である。そのリーダーシップは力ではなく、知識に基づいている。‥‥‥‥

  最後に、経営管理の実践はもはや無能な人に委ねる事は出来ないということを充分に理解しなくてはならない。それは長男の為の名誉職ではないし、退屈した居候の暇つぶしでもない。経営管理が科学を基礎にするなら、またその実践が専門職であるなら、将来これを代表する人物は高い能力と知識を持った人━━専門職としての教育を受け、その実践に伴う責任を担いうる資格を持った人━━でなければならない、と我々は考える。」(P63-64)


第三章 経営者の社会的責任

  1. 経営管理は主に人間活動を指揮する技術であって、科学は補完的な役割を持つ(人間的側面)。これは経営管理と技術を区別させ、経営管理を専門職へと結びつける。経営者の社会的側面に関する二大部門━(a)社会に対する経営者の関係、(b)経営者が指揮する人々に対する経営者の関係。(この二つがある。)
  2. 生産と販売は社会の必要性に関連している。(需要と供給ではない。)これは産業が社会奉仕の為に存在をしているという信念に対する経済的基盤を形成する。奉仕がまったく経済的(なもの)であるはずがない。それは動機において倫理的である。子の動機は経営者が新しい役割を引き受けるにつれて次第に明確化する。それは労使双方が承認することが出来るような動機である(状況の法則)。この動機もしくは理想は、富を福祉に従属させ、財に対して経済的な価値ばかりでなく、倫理的な価値をも与える。この動機は社会に経営方法や企業構造に関する関心を抱かせる。この動機からある種の意味を引き出すことが出来るが、その実現は産業の能率に依存をしている。
  3. (企業の社会への)奉仕の教義は労使関係に関する新しい考え方をもたらす。労働者はまず第一に人間であり、市民である。工場の生活は社会生活に影響する。従って、経営者は社会的責任をもっている。経営管理の人間的側面の必要性(がある)。新設や友情の必要性。経営者はこうしたもの(倫理的側面)を指導しなければならない。産業における心理的研究の必要性。産業の理想の必要性。産業(領域における)民主主義の必要性。
  4. 奉仕の教義は、生活水準と労働時間に関係する。生活水準は物質的なものだけでなく、全体的な生活水準を向上させる為の基礎として能率にも依存している。疲労の研究が余暇(レジャー)の問題に及ぼす影響。長時間労働と単調に関する社会的不利益。(これらは産業)心理学の実り豊かな領域(である)。
  5. 奉仕の教義により、失業、産業のコントロール、繁栄の成果配分に関して与えられたある種の示唆。権利は義務を伴い。特権は奉仕を伴う。企業の基本的倫理観を復活させる必要性。協働が競争に取って代わらなければならない。物質的進歩は道徳的進歩を伴わなくてはならない。これは企業の基本目標の認識から始まる。

 「企業の経営管理は主に人々の管理である。現在、経営管理の科学的研究が高まっているが、人間的要素を無視しようとする傾向があるという理由でしばしば批判されている」(P67)

「経営者の責任は、自ら指揮する企業が物質的欲求だけではなく、人間的要素からも構成されているという事実にある。‥‥‥‥経営者は単に企業内の人間的要素に対してばかりでなく、企業が奉仕する人間的要素に対しても責任を有している。」(P68)

「経済的進歩が如何に曖昧にしようとも、基本的には企業、更には具体的な企業の経営者は経済的な意味においてとにかく社会に従うものであることは明らかである。このことが企業の主要な動機や根本的基礎として「社会への奉仕」を仮定している理論の根拠である。」(P69-70)

「経営者がその領域を拡大するにつれて、単なる利潤動機はしだいに遠い昔の時代遅れのものとなる」(P71)

「企業はシーボン・ロウントリー氏が次のように要約した三つの具体的目標を持つであろう。

  1. 企業は。社会にとって有益であるような種類の、またそのような方法で財を生産し、またサービスを提供しなければならない。
  2. 富を生産する過程において、企業は社会全体の福祉に最大限の配慮をし、それに反する政策は取るべきでない。
  3. 企業は、社会の最高目的にもっともよく奉仕するような方法で生産された富を分配すべきである。」(P72)

「企業が私利を超えた動機によって日常の活動を行うようになった時、我々の社会の道徳的進歩が始まったといえる。神の御国を築く費用は企業の損得勘定の中に見られるのではなく、すべての人々の誠実な奉仕の記録の中にみられるだろう」(P92)

 


第四章 工場組織

  1. 組織の定義。(単純に組織としてひとくくりにせず、以下のように区分して取り扱う必要がある)組織設計能力、組織設計過程、および組織との区別。組織設計、計画立案、及び統制(control)との区別
  2. 組織設計の問題は、委譲が増大するとともに発生する。組織の基本的な五つの要素、すなわち、機能、目的、職能、諸関係、方法。組織設計は職務に影響する限りにおいて(範囲で)経営に関係するに過ぎない。
  3. 科学的組織設計の五つの要素。すなわち、恒久性(人や方法の変化にもかかわらず持続し発展する組織の能力)、集権(集中:関係する職務の適正配置等あらゆる作業に関する明瞭性)、独自性(作業の個人的所有感及び誇り、ならびに責任、権限、範囲、地位の保証)、結合(職務や諸関係の定義から結果として生じる各組織単位間の緊密なそして経済的な作業)、人的標準(個人に期待をかけすぎたりあるいは過少に期待する事が無い様に、正常な人間の知識、熟練、性格に従って個人の範囲を決定すること)。(P104の内容を追記)組織形態の吟味(評価)は、最善の経営管理の手段を提供する組織の能力にある。
  4. 組織形態は委譲の程度に依存をしている。委譲は専門化と調整を伴う。組織形態は次のような基本原則によって区別される。━(a)機能別組織形態において理解されるような機能化の原則、(b)部門別組織形態において理解されるような分権化の原則、(c)ライン・アンド・スタッフ組織において理解されるような専門化の原則、(d)委員会組織において理解されるようになった会議の原則。
  5. 組織形態は成長する。理論的に望ましいと考えられるものでも、直ちに実行をしうるものではない。「組織に関する感覚」の涵養の必要性。組織設計は大部分再組織の問題である。組織拡大という類似の問題。調整力は企業成長の制約要因である。
  6. 前に列挙した五つの長所に照らして組織形態を考察。委員会の助言を受けたスタッフの意見と機能別組織の相互関係の必要性。理想的組織形態の主な条件の要約。

 組織とは既に第二章で「個人あるいは集団が遂行すべき仕事とその遂行に必要な能力とを結合する過程であり、その結果、両者の結合によって形成される職務が利用可能な努力の能率的、体系的、積極的、そして調整のとれた形で利用する為の最善経路を与える」と述べた。(P94)

 (組織設計における)五つの基本必要条件がこれらの定義から生じてくる━‥‥‥‥この五つの基本条件は、(a)機能ーなされるべき仕事、(b)目的ー理想及び目標、(c)職能ー人間の能力、(d)諸関係ー採用される各職能間の経営上及び物理的関係(システムの結果と工場及びオフィスのレイアウトの結果として現れる)、(e)方法ー仕事が遂行される方法、に要約することが出来る。機能は目的に従属する。(P94&P98)


第五章 労務管理

  1. 産業の新精神。(が、)流行語となる危険性、その現代的意義、協力関係の神髄(によって、進歩することが出来る)
  2. 賃金問題。賃金の上昇を可能にさせるさせる源泉(が必要)。利益分配性━反対論と利点。(資本と労働が結びつく為に)それは賃金問題には触れない。最低賃金の問題。経済と倫理の調整の必要性。生産性との関係。最低賃金はそれを超える賃金の基準を設定する。出来高払い制━長所と批判。賃金カットに関する政策の必要性。賃金の調整と賃率に関する包囲の必要性。
  3. 人事業務(効率的な労働力の採用と維持)━その精神的背景。従業員の採用。職務診断と職務分析。労働力の維持。労働移動の定義、その原因。何故労働力の維持には価値があるか。従業員の解雇。規律の基礎。
  4. 経済的保証━雇用の反対としての失業。調整の問題。雇用量の制約。不可避的失業の影響への取組み。賃金支払い額。国家の役割。
  5. 福祉業務━一般的福祉精神への依存。他の動機の無益性、業務の範囲と方法。物的環境のみならず精神的、道徳的環境に及ぼす効果。福祉業務に対する従業員の協力の必要性。
  6. 訓練と教育━テーマより方法が重要。科学的管理法の訓練、その価値と反対論。訓練をめぐる真の協力関係の必要性。技法よりも自発的涵養。経営管理と教育の関係。工場生活による信条の形成。より良い教育の前提としての民主主義。経営管理者は受け身ではいられない。
  7. 労働組合━生産からの離脱の問題。防御を通しての発展。建設的になりうるか?労働組合との協調関係の必要性。経営者との協力の可能性。ショップ・スチュワード(労働組合役員のうち,みずからも就業しながら一般組合員と日常的に接して活動しているものの呼名)の活用。
  8. 協力(関係)━進歩の基本原則(である)。人間の集団形成本能(である)。産業における共通の動機の欠如によるこの本能の多様性(が起こった)。将来の協力関係の基礎となる(のは、)経営者。新しい方の経営者の必要性。賃金による刺激の失敗。一つの出発点としての工場委員会。協力関係は可能か?(労働者の経営管理への参加の拡大により、「共通の事業こそは、各人の苦労を全員の善を目指す活動へと貢献させるものである。」(P187))

人事業務

「(賃金政策と人事という人の異動に関する仕事は、)共に機械よりも人間を重視する精神を持つ」

「人事の仕事では、工場の人的資本を物的資本より重視する。それは生産という事業に人間精神を吹き込む仕事である」
(P154)

「従業員の採用は事実、精神と科学の融合である。生来有能な人事担当者の直観的判断も科学的な心理テストに補完されなければならない。」(P155)

「労働力の最高能率を保つことは、実際に崇高な人間的な仕事である。」(P158)

 

訓練と教育

「『科学的管理」は、その創始者のF.W.テイラーによると、経営管理の仕事として、新しく四つの職務が付け加えられる。

1)一人の労働者の各要素についての科学を発展させること。

2)労働者の科学的選抜と訓練

3)科学的方法を確実に実施できるように、従業員と協力すること。

4)労使間の平等な仕事と責任の分担

従業員の訓練は、現代産業の問題に対して『科学的管理』がなした貢献の最大のものであった。実際、科学的方法の原理原則はそこにある。‥‥‥‥実際に、マッキロップ氏は、『科学的管理』の一般原則を『経営管理者から従業員への熟練の移転の過程』と要約している。

 時間的研究によって、経営管理者は職務遂行の為の最善の方法を決定する。」(P170)

「『科学的管理』は、あらゆる産業上の職種について、今より科学的な労働者訓練が必要な事を強調するが、その限りで大きな価値のある貢献をした。」

「このような『成り行き』的な制度の誤りを、『科学的管理法』は正しく指摘した。‥‥‥‥これらの研究が無駄な努力の排除を目指すものである限り、賛辞を贈る以外にない。」(P171)

「工場生活を通して社会的知性を高め、作り出した製品によるだけでなく。そこで形成される精神や品性を通じて産業は社会を豊かにすべきである‥‥‥‥」(P173)

「事実、教育は人的経済を探求するより大きな運動の一環である。ポッタリー委員会のある発言者は、「現代産業は、労使双方に良き教育がなされなければ、営みえない。」と述べている。」(P174)

 

協力関係

 「もし、経営者がこの新たな動機に従って行動するとすれば、将来の経営者は新しい強い性格を持った人物でなければならない。技術、統率力、仕事の正確さと信頼性はもはやその主たる資格ではなくなる。第一の要件は群居本能、すなわち、他の人々との協力関係を求め、彼らを自分の方に引き寄せて集団にまとめていく本能でなければならない。彼は技術の人というより『キャプテン』的な人物、『ボス』であるより指導者でなければならない。」(P185)

 


第六章 生産管理

  1. より経済的で良質の商品を一層大量に生産する必要性。本質の良くない製品を大量に生産することは最善の奉仕ではない。生産は人間的要素と物質的要素からなる。生産の非人間的要素をもっと効率的に利用する必要性。
  2. 製造問題に対する科学的態度の必要性。この点における科学的管理の貢献。比較機能における企業の調査研究の役割。純粋研究と応用研究。研究と原価計算の関係。製造管理に対する研究の関係。工場における研究の役割。
  3. 原価計算の性格。この問題に対する注意の欠如。原価計算が現在不可欠である理由。原価計算制度の特徴。原価の要素。間接費の問題。原価計算は標準化を促す。標準の定義。原材料、工程、設備に対する応用。標準化の普遍的適応性。経済における成果。科学的コントロールの基礎。
  4. 職長及び経営管理者の負担を取り除くための科学的計画立案の必要性。経営管理者の職務。計画立案の分析的側面。製品と工程の分析。定数と変数の分析。計画立案の範囲。部門の相互関係という理由による計画立案の必要性。委員会以外のものによる調整。経営管理者及び作業者のための指図書。経営管理における時間研究の利用。科学による浪費との戦い・
  5. 製造とその他の機能の区別。製造活動の分解。産業会社の最高統制。単独の責任者の必要性。このような責任者の職務。機能別組織における管理者の職務。機能は製造活動を補完する。製造管理者による機能の調整。その活動の実例。リーダーシップという管理者の第二の職務。事実を知るという管理者の第三の職務。管理者の人格。

「仕事の科学的計画についての考え方は、故F.W.テイラーによって唱えられた『科学的管理』の研究から著しい刺激を受けた。そしてイギリスの製造業者は、自分自身の計画を立てるように十分な助言を受けるであろう。

 実際、テイラー自身は常に、それぞれの工場はそれ自体の制度を作り出さねばならないと強調をしていた。」(P209)

「あたかもはずみ車や蒸気ハンマーのごとく、ストップウォッチを手にした時間研究員によって監視されるという感覚ほど普通の人々を狼狽させるものは他にない。そして更に、仕事の処理方法と仕事の各要素に割り当てられる時間は一分の何分の一だと命ずる『指図書』を作業者に発行をすれば、彼らは必ずや激怒するであろう。

 科学的管理法のいかなる適用にも最大の注意をもって取り扱われるべき問題にさせるものは、こうした時間管理の心理学的な影響なのである。」(P216)

「時間研究の本質的な要素は労働者自身の協力である。それは機械が機械工の問題となるように、人間学の問題である。機械研究が技師を必要とし、材料研究が化学者と治金学者を必要とするように、人間研究は心理学を必要とする。」(P218)

「動作研究は心理学者によって訓練され、彼の下で研究する人々の仕事なのである。」(P219)

「官僚制度の危険はそのメンバーがお互いの中で仲間割れをすることである。それは機能化に伴う危険でもある。それゆえ機能の責任者と製造管理者とが、共に少しも個人的意見のない人でなければならないということが最も必要なのである。『彼らは”偉大な”人物でなければならない。━命令をする”偉大な”人物のみならず理解する”偉大な”人物、経営学を研究する”偉大な”人物、部下の精神を捉え燃え立たせる”偉大な”人物、人格の真のリーダーシップと産業界のすべての状況や動きに関する訓練された理解力とにより人々を鼓舞する”偉大な”人物でなければならない。』」(P234-235)


第七章 企業の経営管理者の為の訓練

  1. 経営管理者の地位の向上に伴い、彼らの訓練の必要性が高まった。科学の進歩に応じてその教育も発達する。思考と研究を進めることが緊急に必要である。経営管理が複雑化したため、経営管理の技法を定型化する必要が生じた。理論と経験の総体的価値。訓練なくしては機能別組織は不可能。科学を精密化する為に知識をプールすることの必要性。
  2. 上級管理者の訓練。産業における彼らの新たな地位。研究による訓練、大学による訓練の価値。教育科目━ 一般教養、産業史、通商の技術、経済学、科学的管理及び倫理(経営管理の科学)。
  3. 職長の訓練。機能別組織による職長制度の変化。古い『部門別』職長制度は去りつつある。職長の定義。主要なリーダーシップ。環境と授業による訓練。教育科目(━リーダーシップ、経営管理の技術、自らの仕事に対する哲学など)。
  4. 機能別組織形態のもとでの事務の新しい地位。それはもはや日常業務と同義語ではなくなった。促進機能の発展とともに専門化が進む。経営管理者との新しい関係・『事務所』観念は不可能(新しい位置づけが必要)。選抜と訓練の必要性。

「現在、経営管理者の科学的訓練が要請されている。研究と訓練がなければ、誰一人として専門職に従事するわけにはいかない。」(P239)

「経営管理者とは、企業において他人のコントロールもしくはこのようなコントロールへの援助を職務とする職員によって構成されると言えよう。」(P240)

F.W.テイラー氏は次のように述べている。『‥‥‥‥我々の任務と機会は、誰か他の人が訓練した人間を漁るのではなく、かかる有能な人間の養成の為に我々自身が体系的な協力を行う場合にのみ果たされることを我々が完全に理解することである。』」(P241)


第八章 結論

 

企業経営のフィロソフィー

 

 企業は、社会の良き生活の為に、社会が必要とする数量の必要な商品及びサービスを提供する為に存在する。これらの商品およびサービスは十分な品質標準と両立しうる最低の価格で提供をされ、直接間接に社会の最高の目的を推進するような方法で分配されなければならない。

 

 企業経営は、広い意味においては、いかなる人もしくは階級によって実行されようとも、前記の目的に対して企業を指導することに責任を有している機能である。従って、それは社会に対する奉仕の動機を内在しているある種の原理によって支配されなければならない。

 その原理とは

 第一は、企業の政策・状況・方法は、社会の福祉に役立つべきだという原理である。それゆえ、ある倫理基準によって、このような政策・状況・方法を評価するのは経営の職務の一部である。

 第二は、こうした倫理的評価をする際には、経営者は集団もしくは階級の利害に基づく承認や制裁とは区別される社会全体の最高道徳の承認や制裁を解釈するよう努めるべきである。換言するならば、世の中の最も公平な人々によって一般的に承認されるような社会正義の理想を実行に移すように試みるべきだという原理である。

 第三は、社会はある種の代表的組織を通じてそれ自体の意見を公表し、従って正当な賃金及び利潤というような問題の決定の最終的な権威者であるが、経営者は社会の統合力として、また高度に訓練された部分として、それ自体のうちで可能な限り、全体的な倫理水準と社会正義の概念を向上させるようイニシアティブをとるという原理である。

 

 企業の包括的な区分として経営は、一方では資本と他方では労働と区別されるべきである。それは大きく三つの部分に分けられる━━

 経営(administration)は、企業の政策の決定、財務・生産・販売の調整、組織の範囲の決定、および経営者の最終的なコントロールに関係する。

 本来の意味における管理(management)は、経営によって設定された範囲内での政策の実施、および事前に設定された特定の目的の為の組織の利用に関係をしている。

 組織は、個人あるいは集団が遂行すべき仕事とその遂行に必要な能力を結合する過程であり、その結果、両者の統合によって形成される職務が利用可能な努力の能率的・体系的・積極的・調整のとれた形で利用する為の最善の経路を与える。

 

 経営者は、経済的な基準に基づいて企業を維持すると同時に、能率━━労働者、経営管理者、そしてこの二者の関係における個人的もしくは人間的能率、並びに工場の方法と物質的状態における非人間的能率の双方━━を発揮することにより、企業の存在目的を達成する。

 

 このような能率は、一般的には次のような手段を通じて経営者によって発揮されるべきである━━

 第一に、企業のあらゆる領域のあらゆる問題を、作業及び管理業務の標準を決定するという目的をもって、科学的分析方法と確固たる知識の総合的活用とにより処理する手段。承認された科学を適応可能な企業の問題に応用するという手段。実践において経営者が採用する承認された科学とは別個の経営管理の科学を漸次形成し、そして精緻化するという手段。

 第二に、産業における明確な動機と理想の共通の受容からもたらされる協働において、産業に従事するすべての人々の潜在能力を発揮させるという手段と、生産における人間主体に影響を及ぼし、コミュニティに対する社会的責任が強制するその政策を追求するという手段。

 

 これらの全般的手段による経営管理の能率は、まず第一に組織構造に依存をしている。組織はなされるべき仕事とそれを遂行する為に必要な職能との詳細な分析を基礎にし、すべての諸活動の経済的遂行、斬進的発展、継続的な調整を可能にするような方法で、関連諸活動を結合するという原則に基づいて構築される。

 

 主に資本の提供と利用に関係する財務と、本来の意味における管理の領域を設定し、管理活動の最終的なコントロールと調整を行なう経営とは区別される本来の意味における管理のいろいろな活動は、前述の原則に基づいて次の機能に区分される━━

 第一に、製造の開始に不可欠な機能━━

設計(購買):製品の最終的な特徴を決定し、仕様を定め、製造に必要な原材料を提供する活動のグループ。

施設:必要な生産手段を提供し、維持する活動のグループ。

第二に、実際の生産、すなわち原材料を完成品へと転形するように、技能や努力を活用するあらゆる活動を担当する機能。この機能は広く製造と呼ばれているようである。

第三に、製品の製造を促進する為に必要な仕事からなる機能━━

輸送:いろいろな生産部門を統合し、原材料を貯蔵したり製造工程の間で移動をさせ、各機能の為に輸送手段を提供するという活動のグループ。

計画立案:仕事の量と進度とを決定する活動のグループ。

比較:各機能の仕事を分析し、その活動の記録と各機能の為に設定された科学的標準とを比較するという活動グループ。

労務:生産における人間的要素を採用し、維持し、生産に従事するあらゆる人々の協働を推進することに関連する活動のグループ。

第四に、製品の販売の為に必要な仕事から成る企業━━

販売計画:利用できるデータにより、販売政策および方法を決定する活動のグループ。

販売実施:製品を販売し、実際に流通させる活動のグループ。

 

 産業においての非人間的要素━━または純粋に生産単位とみなされる人間的要素━━の最も経済的な活用を確保する為に科学的方法を利用するには、特に次の点が関連する━━

第一に、実験もしくはそのような研究によって確定されたデータ演繹に従い、経営者が実施ないしはコントロールする活動の各領域の研究の発展や正確な測定。

第二に、実際に各機能の仕事を構成しているものは何か、ということについての正確な定義と説明の準備及び利用。

第三に、活動の構成部分を分析し、それを更に総合的に再編成したのちに、さしあたり望ましい成果の正当で正確な評価を意味する製造と管理の双方のために基準及び作業標準を決定すること。

第四に、このような標準の適用、遵守、改善を確保し、このような標準による実績の測定並びに最も経済的な生産様式と管理の計画立案の為の利用とを保障する為に必要な監督、権限、機構の設定。

 

 社会に対する責任が強制するその政策の実施は、肉体によるにせよ頭脳によるにせよ、生産の人間的要素に関するある種の活動を伴う。これらを列挙するなら次のようになろう━━

 第一は、このような人間的要素と社会の関係において━━

A)産業に従事する人々の目的が社会の福祉にとって有害であると社会によって主張をされない限り、産業に従事する人々の目的を推進する為に形成されたこのような集団形態を認識し、協働すること。

B)企業行動の必要な経済的敵範囲のうちで、個人が自己啓発をし、社会により良く奉仕する為に高度な能力を発揮するように援助すること

 第二は、このような人間的要素と企業の仕事との関係において━━

 個人及び集団の有効性を高めること。これは、以下に示すものよりもたらせれる。すなわち、

強制的なリーダ-シップ及び公平な規律の刺激、これによってもたらされる忠誠心及び高度な献身という団結心の発揮。

個人が自らの仕事を効率的に遂行するような資格を与え、同時に彼の全体的な知能能力を高めるような訓練を提供すること。

自らの最高の能力を出来る限り発揮させ、すくなくとも各人の気質に適するような仕事を各人に提供をすること。

最高の作業能率の発揮に役立つ物質的、精神的条件を提供をすること。

個人の特定の職務と企業の全般的な政策と進歩との双方において、興味を喚起するような正当で公平な誘因とその為の機会を提供すること。

そして、作業原理として、生産活動に関係するすべての人々の協働を奨励すること。

こうした手段により可能となる。

 第三は、このような人間的要素と個人としての生活において━━

A)すべての関係者が仕事の遂行される条件の決定および維持に参加できるような手段の準備

B)文明社会に相応しい生活水準を与える為に必要な手段の準備

C)心身の健全性を維持し、労働者としても市民としても、個人の能力を涵養するに十分な余暇の提供

D)経済状況もしくはその他の不利な事情に基づく、非自発的失業に付随する困難から有能な労働者を保護する手段の準備

E)このような繫栄の推進に対してなされる努力に比例する企業の繁栄の成果の配分

F)企業活動の過程おいて生じる関係を厳格な公平の精神をもって指導すること。

 

Ⅹ 

 科学の分析的、総合的方法を通じて、産業の非人間的側面を精緻化することにより、そして個人または人間的側面に関する経営管理の原理や方法の演繹的決定により、産業や企業の部門とは別に別個に知識や経験を共有して、企業経営の科学を発展させることが経営管理活動を実践する人々の目的である。この科学は産業の全体的な行動を支配する原理の体系を形成し、経営管理の全体的水準を向上させかつその標準的尺度を提供し、将来の発展と改善の為の基礎を形成し、専門職に就くための必要な資格基準を設定するということを目的としているという点で、経営管理者の利用する科学やある特定の産業の技術は区別される。

(P273-P279)


参考)経営管理に関する科学的知識を適応し、応用する能力をシェルドンは技術(art)と呼んでいる。(訳者あとがき:P284)