ここでは、「企業と社会 ~現代企業の特質と社会の調和~ まとめ」の流れにそって、
P.F.ドラッカーの「マネジメント ━課題(TASKS)・責任(RESPONSIBILITIES)・実践(PRACTICES)」を資本主義(自由市場経済体制)の改良主義、企業企業体制による「企業と社会」の調和(自由企業体制の擁護)、企業の主体的責任に基づく自由資本主義経済・社会の歪みの調整 という視点から、この内容を確認してみたいと思います。
ボリュームのある本ですので、まずは上記の主旨が表明されているような部分と目次を眺めながらその内容を確認してゆきたいと思います。《 》作成者のコメントです。
参考) マネジメント(上) 著者 P.F.ドラッカー 監訳者 野田一夫 村上恒夫 1974年3月 発行 ダイアモンド社
(P.F.Drucker "Management : Tasks, Responsibilities, Practices" 1974)
(☆印は今後拡充の予定部分)
日本語版への序文 (1974年の春)
「日本の日本の経営が成し遂げた偉業を、批判攻撃することが、今日の世界はもとより、日本国内においてすら一つの風潮となってはいるが、これはとんでもない被害妄想というべくであろう。」(P2)
「必要とされたのは、経営者の新しい課題と責任に対して一つの洞察を与える書物、なかんずく、新しい目的意識と使命感を与える書物であった。従って本書の表題『マネジメント:課題・責任・実践』は、私に関しては思いつくどの表題よりも、本書の狙いを的確に表現していると言える。
誤解のないために、是非ここで付け加えておきたい事は、本書は単に企業経営を論じたのではないということである。」(P4)
「ただ私がひそかに期待しているものは、日本読者が、本書を通して彼ら自身の伝統について新しい見方を持って下さるということである。」(P8)
「企業を含む現代社会のあらゆる組織体が、社会や国民経済全体のためにも、また地域社会あるいはそこに住む個々人のためにも、ますます生産的かつ効果的でなければならない時代こそ、まさにこれからの時代なのだというのが、本書で我々の主張したい事なのである。組織体の活動をより効果的なものとし、責任あるものとする事こそ、経営者の役割である。経営者を除いては、これを可能にしうるものはない。我々を取巻く現代社会ないし経済は、各種の組織体の活動なくしては存在し続けることが出来ない。なかんずく、中心的なものは企業である。それゆえに我々の社会は、以前のいつの時代にもまして、経営者の品性、責任感、および能力の向上に依存しているのである。
また、本書は経営の『社会的責任』と『利潤』の間には、いささかも基本的対立のない事を主張している。逆にもし経営者が『”利潤の確保”こそ第一の社会的責任である』ということを認識し損なうなら、それは経営者の資格要件を問われるほどの決定的な五人である。」
「しかし我々現代社会が切実に必要としていることは、利潤がなくてはならないものだという認識である。」
「利潤は、‥‥‥‥それは経済社会全体が必要とする何ものかである。」(P8-9)
「社会は資本形成━これは経済学者が「利潤」のかわりに使う言葉である━がそこに住む人々の為に、好ましい未来の仕事を用意する為の唯一の方法であるがゆえにこそ、それを必要としている。」
「最後に利潤は、‥‥‥‥満足な人間生活のためになくてはならない他のあらゆるもの━教育から芸術まで、保険から引退した老人の年金まで━をまかないうる唯一の原資であるがゆえにこそ必要とされるのである」
「環境危機やエネルギーの危機の克服は、まさにそのことを必要とする。」(P10)
「アメリカ人がこれまでそうであったように、「利潤」が投資家や企業の経営者のみの求めるものと考えるのは、無責任極まる態度である。しかしまた多くの日本やヨーロッパの企業経営者のように、それを「汚い用語」だとして、なるべく考えようとしないのも同じく無責任な態度ではなかろうか」(P11)
「私が経営をたんに『私的な職能』としてではなく『社会的な職能』と信ずる他ならない。従って本書では、『責任』ということが繰り返し述べられており、言ってみれば全巻が『責任』ということについて論じられていると言っても過言ではない。‥‥‥‥100年前の渋沢栄一が我々に教えたことがあるとすれば、それは『経営者には責任がある』というひとつのことである。」(P12)
まえがき 専制にかわるもの
「我々の社会は『多元的な社会』になってしまい、そこでは経済財(およびサービス)の生産から、保健・社会保障・福祉・教育・新知識の探求・自然環境の保護まで、大きな社会的課題はすべて大きな組織に付託されている」(P25)
「こうした社会構造の本質的な変化に気付いた為に、『組織をぶっ潰せ』と怒りの声をあげるのは理解できる。だが、それは間違った反応の仕方なのである。自律的な組織体が機能して業績をあげるのに取って代わるには自由(フリーダム)ではない。取って代わるのは全体主義の専制だからである。」(P25)
「組織体に業績をあげさせるのは、経営者とマネジメントである。業績を上げ、責任あるマネジメントだけが専制に代わるもので、専制に対する我々の唯一の防衛策なのである。」(P26-27)
「本書はマネジメントをまず外部から眺めて、経営者の課題の諸次元とか、それらの次元に関する必要条件とかを研究する(第一部)。その後は初めて組織化の仕事と管理技能に転じ(第二部)、そしてさらに、最高経営者、その課題、その機構、その戦略へと論を進める(第三部)。」(P27)
「マネジメントは課題である。マネジメントは規範である。だが、マネジメントは人でもある。マネジメントによる達成はすべて経営者による達成である。」(P32-33)
「結局のところマネジメントは実践である。マネジメントの本質は『知ること』ではなくて『行うこと』である。‥‥‥‥マネジメントの唯一の権威は業績である。」(P33)
(以上まで前文のページ)
以下、基本的には目次(項目)の書き出しになります。
序論※マネジメント・ブームからマネジメント・パフォーマンスへ
1.マネジメントの出現
組織体の社会
1900年から1970年まで
被雇用者の社会
「どの先進国でも、今日の市民は、典型的に言うと被雇用者になっている。」(P5)
経営陣は組織体の機関
経営者はプロ、その本質は責任
「マネジメントとは、客観的な職能、学問、課題であって、『経営者』とはこの職能を遂行し、この学問を実践し、この課題を果たす専門職業人なのである。‥‥‥‥近代日本の初期に渋沢栄一が画いた『専門経営者』の儒教的思想は実現されている(後出、次章を参照)。また、経営者の本質は、富でもなければ階級(ランク)でもなく、責任であるという渋沢の基本的洞察も現実のものになった。」(P8)
企業の社会から多元社会へ
「今世紀になってから、企業の重要性は低下してきた。‥‥‥‥他の組織体のほうがはるかに急速に成長してきたからである。つまり、社会は多元的になったのである。」(P8-9)
「まったくのところ『新左翼』は『大企業の社会』をうんぬんするけれども、その行動はかえって、企業が支配的な組織体ではないという彼らの鋭い意識を示している。」(P11)
企業のマネジメントを中心にする理由
企業のマネジメントは成功
マネジメントの出現は重大な出来事
「今日の先進社会には、貴族もなく、大地主もなく、『資本家』と『タイクーン《注:大君から発生の英語》』さえもないので、社会は、その大きな組織の経営者に指導性を求めている。今日の先進社会は、彼らの知識・ビジョン・責任感を頼りにしている。こうした社会では、マネジメント、すなわちその課題・その責任・その実践が不可欠のものであり、また本質的に貢献するものになっている。」(P15)
2.「マネジメント・ブーム」教訓
マネジメント・ブーム
「電話会社にいたバーナードの同僚さえ、彼らがバーナードの『道楽』と考えたものに興味を示さなかった。当時の経営者で、自分たちが実は『マネジメント』を実践していることに気づきもしない人も多かった。」(P17)
マネジメント・ブームの発生
「マネジメントの軽視から、マネジメントの認識へ、次いでマネジメントの重視という変化は、第二次世界大戦の結果として生じた。マネジメントに注目をさせたのは、何よりもまず、戦時中にアメリカの製造業があげた業績である。」(P18)
マネジメント・ブームの伝播:開発途上国のマネジメント
「結局、『マネジメント・ブーム』は共産社会にも達した。‥‥‥‥経済停滞の解決策として『マネジメント』を教え始めた。」(P19)
マネジメント・ブームの終焉
「起こっていたのは、経営の『秘法』というものが突然消え失せたことであった。その一つの原因は1971年の『ドル危機』であったかも知れない。」
「マネジメントを力として、職能として、責任として、規範とすることは今後とも残るであろう。それが『マネジメント・ブーム』の唯一の永久な成果であり、また、それが最も重要な成果なのである。」(P24)
何を学んだのか
「我々が学んだ最も重要な事は、経営陣、すなわち、我々の社会組織、特に企業において指導し、指揮し、決定する機関は、普遍的な職能を果たしており、どの国でも、または本質的にはどの社会でも、同じ基本的な課題に直面することである。経営者は、 ‥‥‥‥最大の成果と貢献を目指して、ビジョンと資源を方向づける責任を負っている。」(P25)
規範としてのマネジメント
「経営者がマネジメントを職業として実践することを意味する。」(P25)
テクノクラシーでは不十分
「『マネジメントブーム』は、経営者が『テクノクラート(技術官僚)』以上のものでなければならにことを証明した。」「マネジメントは社会的な職能である。従ってマネジメントは、社会に対して責任を負うとともに文化の中に根ざしている。」「経営者は『クラフトマン(《創意工夫のある》熟練職人)』でなければならない。」(P27)
「各種の組織体の経営者は『社会的責任』を取らなければならない。つまり、彼らが住む世界の価値観、信条、公約について充分に検討し、彼らの組織体に特有な、限られた使命を超えた、高次な社会の指導者としての責任を取らなければならない。」(P28)
マネジメントと社会風土
「マネジメントは課題によって決められる客観的な職能である。つまり、マネジメントは規範になる。とはいえマネジメントは、文化的に条件づけられ、ある所与の社会の価値観、伝統、慣習に従う」(P28)
マネジメントの多様化
「『経済的』に多極化したのとちょうど同じく、マネジメントもまた『多様化』した。
補記 マネジメントの起源と歴史
「マネジメントは、これといったマネジメントが無かった時に『発見された』といえよう。」
「アダム・スミス(1723-90)からデビット・リカルド(1772-1823)、更にジョン・スチュアート・ミル(1806-73)に至るイギリスの偉大な経済学者は、彼らの後継者で敵対者であるカール・マルクス(1818-83)を含めて、マネジメントを知らなかった。彼らにとって経済とは、没個人的で客観的なものであった。」
「古典派の伝統を持ったケネス・ボールディング(1910-)『経済学は人間の行動よりは、むしろ財貨の動きを扱う。』」
「アルフレッド・マーシャル(1842-1924)は、『マネジメント』を『生産要因』に追加」(P33)
「はじめからそれらとは違った考え方があって、経営者を経済の中心に据え、資源を生産的なものにする経営者の課題を強調していた。こうした考え方をしていたJ.B.セイ(1767-1832)は、フランスが生んだ、ないしヨーロッパ大陸が生んだ、おそらくもっとも素晴らしい経済学者であろう。彼はアダム・スミスの早くからの弟子で、『国富論』の仏訳者であった。だが、彼の著作では、中心はスミスのような『生産的要因』おかれていたのではない。中心は『企業家(アンツルプルヌール)』━これはセイの造語である━で、企業家というものは資源を比較的に生産的でない投資先から、より生産的な投資先へ方向替えすることによって富を創造するものとされた。」
「『空想的社会主義者』とりわけフランソワ・フーリエ(1772-1837)と天才サン・シモン伯(1760-1825)‥‥‥‥はともにマネジメント発見した。とりわけサン・シモンは組織の出現を預言した。‥‥‥‥社会機構を築くという課題も予見した。彼らを経営者を‥‥‥‥強調したために、マルクスは‥‥‥‥彼らに『空想家』という嘲笑した名前をつけた。」
(P33-34)
「アレクサンダー・ハミルトン(1757-1804)‥‥‥‥は、マネジメントの建設的で、合目的的で、システマティックな役割をスでい強調していた。」(P34)
「ヘンリー・クレー(1777-1853)が、‥‥‥‥『アメリカン・システム』という本を著したが、これはシステマティックな経済発展の為の『青写真』と言ってよいものであった。
「スコットランドの産業家ロバート・オーエン)1777-1858)が、実際に最初の『経営者』になった。オーエンは1820年代にラナークにある彼の紡績所で、生産性と動機の問題・労働者と仕事との関係の問題・労働者と企業の関係の問題・労働者と経営者の関係の問題といった今日に至るまでマネジメントの重要問題とされてきたものと最初に取組んだ。
大規模な組織の出現
「アメリカではヘンリータウン(1844-1924)によって、‥‥‥‥マネジメントの課題とマネジメントの作業との関係に、システマティックな関心を寄せた最初の人である。」(P35)
「ほぼ同時にドイツでは、ゲオルク・シーメンス(1839-1901)が、‥‥‥‥効果的なトップ・マネジメントを最初に設計し、その課題について最初に検討し、また大きな組織内での意思疎通と情報の基本問題に取組んだ。(後出第49章を参照)」
「日本では、‥‥‥‥渋沢栄一(1840-1931)が、企業と国家目的との関係、また企業が必要とするものと個人としての倫理との関係について、それぞれ基本的な質問を最初に提起した。」「渋沢は。『専門経営者』像を最初に描いた。今世紀に日本が経済的主導を取るまでになったのは、渋沢の思想と働きに基づくところが大きい。」
「それから数十年後、1900年頃に、近代経営の主要な考え方はみな形作られた。」「1880年代にフレドリック.W.テイラーという独学のアメリカ人技師が‥‥‥‥テイラーこそ、作業を当たり前のことと思わないで、作業を良く眺めて研究した人類の歴史上最初の人である。」「彼は技術的な目標ないし、利益目標よりは、社会的な目標から出発をしていた。」(P36)
「テイラーの希望━それは、先進国で大いに実現されたのであるが━は、作業の『生産性』向上を通じて労働者に見苦しくない生計を立てさせるとうものであった。」(P37)
最初のマネジメントブーム
「第一次世界大戦後に、最初の『マネジメントブーム』といえるものが起こった。」(P37)
「政治家のうちの二人、‥アメリカのハーバート・フーバー(1874-1964)とチェコ人のトマス・J・マサリーク(1850-1937)‥‥‥‥二人は、『国際的管理運動』を起こして、マネジメントを社会的に大きな力として動員する努力をした。(P38)
1920年代から30年代の研究
「1920年代初めに、ピーエル・S・デュポン(1870-1954)がデュポン社で、アルフレッド・スローン・ジュニア(1875-7966)がGMで、新生『ビッグ・ビジネス』向きの組織原理━すなわち『分権制』の原理を最初に開発した。」
「外見は停滞していた陰で、マネジメン-トについての研究は進められていた。」(P38)
「経営学もまた、いっそう発展した。アメリカではテイラーの後継者として、フランク・ギルブレス(1868-1924)とリリアン・ギルブレス(1878-1972)というオシドリチームとヘンリー・ガント(1861-1919)がいた、イギリスでは、アイアン・ハミルトン(1853-1947)が、‥‥‥‥フォーマルな機構と、その組織に『魂』を与える政策とのつりあいを取る必要性を認めた。」
「メアリー・パーカー・フォレット(1868-1933)とチェスター・バーナード(1886-1961)という二人のアメリカ人は、組織内の意思決定過程とか、『フォーマル』組織と『インフォーマル』組織との関係とか、経営者の役割と職能とかを最初に研究した。」
「エルトン・メイヨーが、それぞれ『産業心理学』『人間関係論』を開発して、企業のマネジメントに応用した。』(P39)
3 新しい挑戦
”マネジメント・ブームの基礎になった概念 《*マネジメント・ブーム=第二次世界大戦後~1960年代》
「━生産性のカギとしての仕事の『科学的管理法』
━組織の基本原則としての『分権制』
━人間を組織機構に適合させる、秩序だった方法としての『人事管理』
(これには、職務の記述・評価並びに、賃金・給料の管理だけでなく、『人間関係』といったものも含む)
━明日の経営に必要なものを、今日準備する為の『管理者開発』
━『管理会計』、すなわち分析と情報を経営者の意思決定の基礎として利用すること。
━『マーケティング(市場開発)』
━最後に、『長期計画』
この七つは、それぞれ『マネジメント・ブーム』が始まるずっと以前に、前章末の『補記 マネジメントの起源と歴史』で論じたように、実践されて成功を収めていた。いいかえると、『マネジメント・ブーム』は、洗練し、追加し、修正こそしたが、創造したものはほとんどなかった。だが、『マネジメント・ブーム』は、どこの経営者にもそれまで少数の『エキスパート』の奥義であったものに近づきうるようにした。『マネジメント・ブーム』は、それまでまれな例外であったものを一般に実践させてのである。”(P41-42)
基礎分野で新知識が必要
生産性が必要
「経済的な業績に対する要求は、ますます高まってきているが、これは生産性の向上を通じてしか満たされない。」(P42)
分権制を超えて
新しいモデルが必要
「要するに我々は、『マネジメント・ブーム」の際に普遍的なものとして受け取られた『モデル』が部分的なモデルにすぎず、事実もはや支配的なモデルではなくなっていることを知っている。」(P45)
人事の管理から人間の指導へ
新しい要求
「新しいビジョン、新しい研究、新しい知識が要求されている。」(P47)
企業家的な経営者
「既存のものを最適化するのに加えて、新しいものを創造するのに、経営者はますます関心をよせる必要があろう。」(P47)
多元的な組織体のマネジメント
知識と知識労働者
「先進国のビジネスにとって今後の第一義的な課題は、知識の生産性を高めることであろう。」(P50)
多国籍で多文化なマネジメント
マネジメントと生活の質
「どの組織体も、「生活の質」と自己の主要な課題をはたすことと両立させることを学ぶ必要があろう。これは、企業の場合には『生活の質』の達成がますます事業機会と考えられる必要があり、経営者によって収益が上がる事業に変えられる必要があることを意味する。」(P53)
マネジメントの新しい役割
「経営者は‥‥‥‥ますます[社会の]基本的な信条と価値観の実現にも関心を寄せるようになろう。経営者は、社会の生活水準に劣らず、ますます社会の生活の質の為にも戦うようになろう。」
「マネジメントにとって最も重要な変化は、先進国では社会の願望・価値観・存続そのものまでも、ますますそれらの国の経営者の業績、能力、熱意、価値観いかんによるようになるということである。今後30年間の課題は、個人・地域社会・一般社会の為に、『新しい多元性』を持った、新たに組織される組織体を実り豊かにすることである。また、それが何よりまず、経営者の課題(tasks)[正しくは責任(resonsibilities)]なのである。」(P55)
第一部*課題(THE TASKS)
「■経営陣は組織体の機関である。またその組織体は‥‥‥‥社会の機関であり、特定の貢献をなし、特定の社会的機能を果たす為に存在する。従って経営陣は、自己の業績の種類ならびにそれらの業績に対する社会からの要求という観点を抜きにしては、マネジメントの実践をするのはおろか、マネジメントを定義することも理解できない。つまり、経営陣の『課題』こそ経営陣の存在理由となり、経営陣の仕事を決定する要因となり、経営陣の権限と正統性の根拠にもなる。」(P57)
《課題(tasks)は、社会からの要求に基づいたやらなければならない事=課題と理解するのが判り易い様に思います。》
4 経営者の課題 (The Dimensions of Mnagement《経営者の立ち位置(値する次元)》)
経営陣は機関
目的と使命
「(1)第一に組織体《非企業の公共サービス組織体を含む》は、ある特定の目的と使命━すなわちある特定の社会的職能━を果たす為に存在する。これは、企業の場合に経済的な職能を遂行して業績を上げることを意味する。」(P60)
生産的な仕事と達成意欲がある労働者
「(2)経営陣の第二の課題は、仕事の生産性をあげて労働者に達成意欲を与えることである。」(P62)
社会的な衝撃と社会的責任の管理
「(3)経営陣の第三の課題は、企業の社会的衝撃と社会的責任を管理することである。我々の組織体の中には、他と離れてそれだけで存在し自分自身を目的にしているものはない。どの組織体も社会の機関であり、社会の為に存在する。企業も例外ではない。『自由企業』は『企業にとって良い』から正当化できるのではない。『自由企業』は、『社会にとって良い』から正当化できるに過ぎない。」
「我々の組織体はどれも外部に貢献して、当の組織体に属していない人々に何かと供給して満足させるために存在する。企業は、‥‥‥‥財貨とサービスを顧客に供給する為に存在する。」(P63)
「以上、三つの課題は、常に同一時点で同一の経営行為によって果たされなければならない。」(P64)
時間という次元
「経営者は常に現在と未来の両方を、つまり短期と長期の両方を考えねばならない。」
「その人が会社を運営している間は驚くほどの経済効果を生むが、引退した後では燃え尽きて急速に沈んでゆく廃船しか残らないという経営の『神様』たちにあまりにも共通して見られる事例は、無責任な経営行為であり、現在と未来とのつりあい(バランス)をとるのに失敗した例である。」(P66)
管理と企業家活動:能率と効果
「効果性こそ成功の基礎である。そして成功した”後で”はじめて能率が存続の為の最小条件になる。
能率は物事を正しく行うことと関係がある。効果性とは正しいものごとを行うことである。」(P70)
《能率=efficiency、効果性・効率=effevtiveness》
経営者の課題《Tasks》
「経営者は、自己の課題を成し遂げる為の手段に関心を持たなければならない。経営者は、経営者の職務・経営者の仕事・経営者に必要な技能・経営者の組織に対して関心を持たなければならない。」(P74)
課題を中心に
「およその経営書で、遂行すべき課題から説き始めていないものは、マネジメントを思い違いしている。‥‥‥‥その種の本は、経営陣をそれ自体独立した実体として扱っているが、経営陣は機関であり、その存在・経営者たること・その正当性は、経営陣が果たす職能だけから理論的根拠を得ている。従って中心は、経営陣が果たすべき課題(Tasks)におかれなければならばい。
マネジメントを論じる際に、‥‥‥‥経営者の仕事とか、経営組織から始めるのは『テクノクラート』の考え方で、しかもそれは、早晩哀れな『官僚独善』の考え方に堕ちてしまうものなのである。‥‥‥‥企業の使命、目標、戦略を理解しなければ、経営者を理解する事は出来ないし、組織を設計する事は出来ないし、経営者の職務を生産的にすることも出来ない。」(P74)
企業が業績をあげるには(Business performance)
5.企業の経営:シアーズ物語(managing a Business:The Sears Story)
企業とは何か、どのように経営されているか
シアーズ・ローバックという企業の生い立ち
ローゼンワルドの革新
通信販売工場という発明
ウッド将軍とシアーズ社の第2期
商品計画と管理者開発
シアーズ社の第3期:販売から仕入れ、調達へ
上流階級市場と大衆市場
前途に控えた挑戦
「『自社の事業は何か、自社の市場はどこにあるのか、どの分野で革新が必要なのか』について十分に検討する必要があるかも知れない。」
「『正しい答え』というものは、答えが証明される”までは”、はっきりしたものでない、」(P87)
6.企業とは何か(What is Business?)
企業を創造し、経営するのは人間で、力でない
利潤極大化の誤り
「企業を利潤の観点から定義ないしは説明することが出来ないということである。企業とは何かよ問われると、普通の人なら『営利組織』と答えよう。普通の経済学者も同じ答えをしよう。だがこの答えは間違っているだけではない。この答えはまとはずれである。
企業と企業行動についての通説的な経済理論は『利潤の極大化』という理論であるが、これは『安く買って高く売る』という古い諺の込み入った言い方に過ぎない。」(P90)
利潤は経済活動の理論的根拠ではなく、客観的な条件
「収益性は企業並びに企業活動にとって目的ではなく、制約要因なのである。」(P91)
「つまり利潤は、企業活動並びに企業の意思決定要因を説明するものではなく、またその原因・理論的根拠でもなくて、企業活動ならびに企業の意思決定の妥当性を判定するものなのである。」
「そもそも『利潤動機』が存在するかどうかは、企業の行動・利潤・収益性を理解するには的外れなのである。」(P92)
企業の目的:顧客の創造
「企業とは何かを決めるのは顧客である。」
「顧客こそ企業の基盤で、企業を存続させる。顧客だけが職場を与えてくれる。消費者が欠乏し、または必要とするもの供給する為にこそ、社会は富を生む資源を企業に委託するのである。」(P94)
二つの企業家的職能:市場開発と革新
「企業はその目的が顧客を創造することであるがゆえに、二つの、いや、二つだけの基本的な職能を持っている。それは、マーケティング(市場開発)とインベーション(革新)である。マーケティングとイノベーションだけが成果を生む。その他の職能はみな『費用(コスト)』だけしか生まない。
「マーケティングは企業に特徴的な独特の職能である。」(P95)
「日本でも同様に、前述の三井《1673年江戸と京都で呉服屋を開業》に倣うものは少なかった。日本で『マーケティング革命』が始まったのは、おそらくはソニーという向こう見ずな新人が、1950年代に最初は日本で、次いで世界的規模で『市場開発』し始めた時からであろう。それまでは日本の大部分の企業は、市場志向型より製品志向型であった。だがそれらの企業も驚くほど急速に学び取った。1950年代以降、世界市場で日本が経済的に成功し、それに伴って『経済的奇跡』がうまれたのも、まさにマーケティングを企業の第一の職能として、また企業の重大に任務として受け入れた為である。」(P98)
マーケティングは特殊な活動ではない
IBMの例
販売からマーケティングへ
『消費者運動』は『マーケティングの恥』
「消費者運動が企業に要求しているのは、企業が実際に『市場開発する(マーケティング)』のことだからである。
企業は経済の成長・発展の担い手
経済的職能としての革新《イノベーション》
「従って企業の第二の職能は、『革新(イノベーション)』つまり今までと違った経済的満足を与えることである(P101)
企業全体の一側面としての革新
富を生む資源の生産的な活用
何が生産的労働なのか
知識・時間・製品ミックス・機構も生産性の要因
利益の機能
「利益は原因でなく結果である。利益は企業が市場開発(マーケティング)、革新《イノベーション》、生産性の向上を行った結果なのである。」
「利益は、不確実性というリスクを補填する為の保険料なのである。」(P112)
「利益は、いや利益だけが、今日よりも”数多い”職場と”より良い”職場を明日作る為の資本を供給することが出来る。」(P113)
「『利益は、保健・国防・境域オペラといった社会の経済的満足とサービスを支弁する。」(P114)
社会的責任としての利益
どれだけの利益が必要か
企業経営は合理的な活動
「企業は目標というものを設定せねばならぬことを意味する。」(P115)
7.企業の目的と使命(Business Purpose and Busimess Mission)
企業の理論
「企業にとっては、『我々の事業は何か、また、どうあるべきなのか』が問われなければならない。」
「『企業の理論』は、‥‥‥‥かなり急速に古臭くなってしまうのが通例である。」(P118)
「機構は戦略に従う。」(P119)
ウンターネーマーの誤り
企業の理論が、特に今日の『知識組織』に必要な理由
『我々の事業は何か』は自明のことではない
セルアド・ヴェイルと電話会社
トップ・まじメントの第一の責任
『我々の事業とは何か』と《自らお互いに》質問するのは、トップ・マネジメントの第一の責任である。
企業の目的と使命を定義できなのが、挫折と失敗の大きな原因
まれにしか質問されない理由
異論が必要
『意見』ではなく『方法』を
顧客が事業を定義する
『我々の事業は何か』という問いに慎重に答えるには、まず顧客から、つまり顧客の現実・状況・行動・期待・価値観から出発せねばならない。」(P127)
誰が『顧客』なのか
消費者と顧客
カーペット産業の例
「絨毯産業の例が示しているように、『だけが顧客なのか』という問いに対する正しい答えは、『数種類の顧客がいる』となるのが普通である。
顧客はどこにいるか
「『顧客はどこにいるか』と問うのも重要である」(P131)
顧客は何を買うか
顧客にとって『価値』があるのは何か
不合理な顧客はいない
経済学者にとる『価値』の概念
《経済学では、価値が価格のことであるからとされているが、人をして誤らせる者である》(P134)
価格とは何か
『我々の事業は何か』と問う時
「困るまで引き延ばすのでは命をかけた賭けになる。それでは無責任な経営になる。
質問は事業のはじめにすべきである。」(P139)
企業が成功した時に問うこと
「『我々の事業が何か』と真剣になって問うべき最も重要な時期は、その会社が成功を収めた時である。」(P140)
「古代ギリシア人が良く知っていたように、成功のおごりに対する罰は大きい。会社が成功をしている時に『我々の事業は何か』と問わない経営陣は、結局独りよがりで怠惰で、傲慢なのである。そして成功が失敗に変わるまで間もない事であろう。」(P141)
「経営陣は会社の目標が達成した時には、必ず真剣に『我々の事業は何か』と問うべきである。それには克己心が必要である。責任感も必要である。だが、問わねば企業は没落する。」(P141)
我々の事業はどうなるであろう
「『我々の事業は何か』という問いに対する答えで、」成功したものでも早晩古臭くなってしまう。」(P142)
「『我々の事業の特性・使命・目的に大きな衝撃を与えると”思われる”どのような環境上の変化を認めることが出来るのか』。また『それらの予想を我々の企業理論、つまり、企業の目標・戦略・仕事の割り当ての中に”今日”どのように組み込んだら良いのか』このように問わなければならない。」(P143)
人口動向の重要性
経済、流行、競争の変化
顧客の満たされていない欲求
「経営陣は、‥‥‥‥提供をされている製品ないしサービスでは、充分に満たされていないのはどれかと問わなければならない。」(P147)
我々の事業はどうあるべきなのか
「『我々の事業はどうなるので”あろう”か』という問いの狙いは、予測した変化に対して適応をすることである。その狙いは、現存の継続事業を修正し、延長し、発展させることである。
だが、それだけでなく『我々の事業はどう”あるべき”なのか』と問わねばならない。企業を別の企業に『変身』させて、企業の目的と使命を実現するには、どんな機会がひらかれつつあるのか、ないしは創造することができるのか」(P148)
「この質問をしないような企業は、自己にとって大きな機会を見逃すことになると思われる。」(P149)
「『我々の事業はどうあるべきなのか』に答える際、考慮すべき要因には、[前述の]社会・経済・市場での変化に次いで、[第二に]革新があるのはいうまでもなかろう。この革新には、自分自身による革新と他人による革新の二つがある。」
「最後に[第三として]、『我々の事業は何か』を、『我々の事業はどうあるべきか』と改めなければならない特殊な、だが重要な理由として、『不適正規模』の事業という問題がある。(後出、第55章を参照)
計画的な廃止が必要
「どのような、新しい、違ったことをするのかについての決定に、全く劣らず重要なのは、もはや企業の目的と使命に合わなくなっているとか、もはや1種類以上の顧客に満足感を与えなくなっているとか、もはや優れた貢献をしなくなっているとかという『古いもの』を計画的にシステマティックに廃止することである。」(P150-151)☆
「企業の目的と使命を定義するのは、難しくて、苦痛で、リスクが多い。だが、定義してこそはじめて企業は目標を設定し、戦略を発展させ、企業の資源を集中し、働かせることが出来るようになる。定義してこそはじめて企業は、『業績を求めた経営』が出来るようになる。(P152)
8.目標の威力と狙い:マークス・アンド・スペンサー物語
(The Power and Purpose of Objectives: The Marks & Spencer Story and its Lessons)
企業の使命は『社会革命』
集中の決定
マーケティング目標
「[何に]集中すべきか決定したことによって、同社は[第二に]特定の『マーケティング』目標を設定できるようになった。」(P156)
革新目標
「次に[第三に]、同社が取り組んだ分野は『革新』の目標という分野であった。(P156)
基幹資源目標
生産性目標
社会的責任の目標
「[第六に]その『社会的責任』に対して、特に自社の労働力と納入業者という、大きな影響を与える分野に対して目標を設定した。」(P158)
「納入業者は同社との協力をすればするほど同社への依存度が高くなる。従って同社による搾取に対して納入業者を守るのが同社の経営陣の関心事に成った。」(P158)
「逆に、納入業者を富ませて、安定感を与えようというものである。」(P159)
利益は目標ではなくて成果
目標を仕事《業務》の割り当てに具体化
教訓
目標の要件
目標は企業の存続がかかる分野で必要
目標の八分野
「要するに目標は、次の『八つの基幹分野』について設定されなければならない。
━マーケティング
━革新《イノベーション》
━人間組織
━財務資源(資本資源と同意語)
━物的資源
━生産性
━社会的責任
━利益という必要条件」(P162)
仕事とその割り当ての為の基礎
目標と測定尺度
「目標は『仕事にまで具体化』されねばならない。そしてその仕事は常に特定のものであり、常にはっきりした曖昧でない測定可能な成果と最終期限、特定の成績責任の割当をもったものでなければならない。」
「だが、目標が強い束縛になると却って害になる。目標は常に予想に基づいている。そしてその予想はせいぜい『情報を通じた憶測』にすぎない。目標は主として企業外にあって企業の管理下にない要因についての評価を表現している。しかも世の中は、静止しないでたえず変化している。」(P164)
目標の利用方法
「目標は『運任せ』ではない。目標は常に『方向づけ』である。目標は『命令』でない。目標は『公約、自己関与』である。目標によって『未来が決まる』のではない。目標は未来を創る為に、企業の資源と精力(エネルギー)を動員する手段なのである。」(P165)
9.戦略、目標。優先順位、仕事の割当 (Strategies, Objectives, Priorities and Assgnment)
基礎分野はマーケティングと革新《イノベーション》
[事業の]目標を設定するにあたってマーケティングと革新が『基礎的な分野』になる。企業がその成果を得られるのは、この二つの分野においてなのである。この二つの分野での成績と貢献に対して、顧客は代価を払うからである。目標はすべて『成績目標』であり、『実行』を狙ったものであり、『良き意図』をねらったのものであってはならない。マーケティングと革新以外の分野での目標を『実行』する目的は、マーケティングと革新という二つの分野での目標を達成出来るようにするおとである。
『マーケティング目標』を一つであるかのように話すのは、人を誤らせる。というのは、マーケティングを遂行するにはかなりの数の目標が必要になるからである。」(P166) ☆
集中についての決定
「目標は、『戦略(ストラテジー)』であるのに対して、集中についての決定は『方針(ポリシー)』である。集中についての決定は、云わばどんな戦場で戦うべきかという決定である。そうした『方針』の決定がない限り『戦闘の原則』はあっても『戦略』つまり意図的な行動はあり得ない。
市場についての決定
「マーケティングの目標の基礎になる今一つの主要な決定は、市場地位[マーケット・シェア]についyての決定である。」(P169)
革新の目標
「革新の目標とは、それを通じて会社が『我々の事業はどうあるべきか』という定義を、具体的な行動に移すことが出来るものにする目標のことである。
どの企業にも本質的に言って三つの種類の革新がある。①製品(ないしサービス)面での革新、②消費者行動や価値観や市場の面での革新、③製品(とサービス)をつくって市販するに必要な各種技能と活動という面での革新である。それらをそれぞれ、①製品の革新、②社会面の革新(例えば割賦信用《クレジット》、③管理の革新と名付けてもよかろう。」(P172-173)
『革新の目標を設定する際に問題となるのは、各種の革新の総体的な影響力と重要性を測定することが難しいことである。」(P173)
資源:その入手、活用、生産性
資源分野での「マーケティング目標」
「人間と資本の入手という二つの分野では、真のマーケティング目標が必要となる。」(P177)
ベルシステムの資本市場計画作成
目標分野としての労組関係
生産性こそ、経営陣の能力の第一の試金石
間違ったトレードオフという可能性
生産性の指標としての貢献価値
社会的次元
利益は必要なもの、限界条件
「以上、七つの基幹分野での目標が充分に検討され、設定されたのちに初めて、企業は『[それでは、いったい]どれだけの収益力が必要になるか』という問題に取り組むことが出来る。」(P185)
日本の例
収益率と資本コスト
収益力の計算
収益性の測定方法
制約条件としての収益力
目標間のバランスを取る
目標の対象期間
予算編成の役割
優先順位の設定
目標の[設定から]実施へ
補記 インフレーションについて
10.戦略計画の作成:企業家的技能 (Strategic Planning : The Entrepreneurial Skill)
盛んな長期計画策定
計画の対象期間
長期計画よりも戦略的意思決定
以下は、現在準備中です。
