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心理的契約の再訪


 今週末と7月の週末の2日間、エドガー・シャイン先生の直接の講義を拝聴する機会がありました。

その中で感じた点をまとめておきたいと思います。

  1. 現代はVUCAAの時代ということで大きく変革期を迎えている。特に、パンデミック・気候変動・ロシアのウクライナの侵攻など、パラダイム・シフトとなる事象が起こり、それらは組織環境に影響を与え、公式的契約と心理的契約にも大きなシフトをもたらしているということが、改めて実感できました。
  2. キャリア・カウンセラーは、上記の環境変化に合わせて変化するこれらの契約環境を雇用者側が理解できるように支援を行う必要がある。日本では、キャリア・コンサルティング(カウンセリング)が臨床的な側面に傾きがちなので、組織内で支援する場合は、できれば組織開発のチェンジ・エージェント役割をも担う事が必要になっていると感じました。特に中間層・ミドル・マネジメント層への支援においては、キャリア・コンサルタントが主体的に組織開発の知識を持つことが、今後より重要になると感じました。
  3. ミドル・マネジャーの役割は、日本ではより雇用者に寄り添いプロセス・コンサルテーション的ではあるが、アメリカのマネジャーと比べると、採用権(haire)、解雇権(fire)の権限がなく、育成いう義務だけを負わされている状況にあるとも言えます。そのことがあり、日本企業ではその補完的機能として、転勤裁量権が存在しているように感じました。今後のJob型雇用の進展については、この転勤裁量権をどう位置付けるかが、雇用者・従業員にとっての心理的契約に大きな影響を与えるように感じます。
  4. 社会保障制度は、アメリカと日本で異なるが、アメリカでは「プロテイン・キャリア」の社会への浸透とその考えに基づいて、非雇用者が持ち運べる401Kが展開されているとの事でした。日本では、キャリア認知と社会保障が一体的に理解されていない為、より大きな混乱となっているように見えます。この点についても、今後はキャリア・コンサルタントが介入していく必要があるし、その関連知識の習得も必要であると感じました。
  5. アメリカでは、1980年代に企業は終身雇用の訴求からキャリアアビリティの訴求へと変わっていったが、日本でも一部のキャリアに限られるのかも知れないが、1990年代には転職市場が開かれていたし多くの人はバウンダレス・キャリアの時代に既に入っていたように感じています。しかしながら、2020年代になっても日本はまだ終身雇用制を前提としていると論じられることも多い。そういう意味では終身雇用を未だ固定化しキャリア開発を進めようとしないのは、ある意味において非雇用者側の問題でもあると感じます。日本では、国が・企業がキャリア開発を行ってくれないという風潮も強いが、講義の中でピーター・シャイン先生も示唆してしていたように、環境に依存せず自らが主体的にキャリアの開発を進めるのが、プロテイン・キャリアであり、バウンダリーレスキャリアであると言えます。また、今後このような考えを更に従業員側に浸透をさせてゆくのが、キャリア開発を進めるキャリア・コンサルタントにとって重要な役割のひとつであると感じられました。

 7月9日・10日には、後半の講義が行われました。

 一番興味を引いたのは、終身雇用(Life Time Employment)からその保証のない雇用への転換が、日本だけでなくアメリカを含めて世界的な変化として起こっているという部分でした。

 その為、キャリアカウンセラーが組織やマネジメントも理解した上で、このように心理的契約の変更を急に求められている従業員と雇用者側の間に立つような活動が必要とのことでした。

 これは、「キャリアカウンセリング型組織開発」として、ここで進めているものが今後大切になってくるように捉える事が出来ました。