第Ⅰ部 経営組織論を考える為の前提整理
はじめに|なぜ「組織の理論」をここで扱うのか
組織を「人の集まり」ではなく、協働が成立する構造として捉え直すための理論的整理
本ページでは、組織の中で起きる問題を「個人の能力不足」ではなく、「構造と関係性の問題」として捉えるための理論的視点を整理します。ここでは、現場で起きているマネジメント上の違和感を個人の問題ではなく「理論で整理できる構造」として捉え直すための前提を共有しています。
経営組織論とは、人はなぜ組織の中で協働できるのか、また、なぜ協働がうまくいかなくなるのかを理解するための学問です。
対象は「組織そのもの」ですが、実際に扱っているのは、組織を構成する人と人との関係性、目的の共有、コミュニケーションのあり方になります。
組織で働くということは、単に業務をこなすことではなく、
共通の目的にどのように参加しているのか
誘因と貢献のバランスがどのように成り立っているのか
指示や期待が、どのように理解・受容されているのか
といった「協働の条件」の中で行われています。
経営組織論はこうした協働をシステムとして捉え、構造的に理解する枠組みを提供します。
キャリアの悩みや葛藤は、多くの場合、個人の問題として語られます。しかし実際には、組織の目的、マネジメントのあり方、関係性の構造が影響していることも少なくありません。経営組織論は、キャリアを「個人の選択」だけでなく、
組織社会の中で形成されるプロセスとして理解するための基礎となる学問です。
組織の問題は個人の能力や努力ではなく、
構造として再生産されるため、感覚や経験だけでは扱いきれない
この章では、マネジメントの知識が「知っているのに使われない」状態がなぜ起きるのかを、理解不足ではなく構造の問題として整理していきます。
多くのキャリア支援や人材育成の現場では、「個人のスキル」「経験」「意欲」といった要素に焦点が当てられがちです。
もちろん、それらは重要です。
しかし実務の中で繰り返し立ち現れるのは、個人がどれほど有能であっても、組織の構造や関係性次第で力を発揮できなくなる
という現実です。
たとえば――
・意欲の高い管理職が、意思決定の構造に阻まれて動けない
・能力のある社員が、役割の曖昧さや関係性の緊張によって消耗していく
・昇進や配置をきっかけに、かえってパフォーマンスが下がる
こうした現象は、個人の資質や努力だけでは説明できません。
キャリアは「個人の選択」や「成長」の問題であると同時に、常に組織というシステムの中で形成・制約・促進されるものです。
・どのような役割が期待されているのか
・誰が、どの範囲で、何を決められるのか
・失敗や試行錯誤が、どの程度許容される文化なのか
こうした要素はすべて、個人の行動や意思決定に直接影響を与えています。
そのため、キャリア支援を本気で「組織内での実務に効くもの」として扱うなら、
組織の理論を理解せずに個人だけを扱うことには限界があるという前提に立つ必要があります。
本サイトで扱う経営組織論は、組織を単なる「人の集合体」としてではなく、
役割・関係性・意思決定・文化が相互に影響し合うシステムとして捉えます。
この視点に立つと、
・なぜ合理的な施策が実行されないのか
・なぜ対立や停滞が繰り返されるのか
・なぜ現場と経営の間にズレが生まれるのか
といった問いが、個人批判ではなく「構造とプロセスの問題」として見えてきます。
これは、経営者だけでなく、管理職、専門職、そしてキャリア支援者にとっても極めて実務的な視点です。
キャリアの停滞や葛藤の多くは、「本人の内面」だけで完結しているわけではありません。
むしろ、
・組織の期待が曖昧なまま役割を担っている
・責任と権限のバランスが崩れている
・評価や意思決定の仕組みが不透明である
といった組織側の条件が、個人の選択や行動を縛っているケースが少なくありません。
経営組織論を踏まえることで、キャリアの悩みは「個人の問題」から組織との関係性の問題として再整理されます。
これは、エドガー・シャインが「キャリア・ダイナミクス」として指摘をしています。
このような視点を持つことにより、無理に本人を変えようとするのではなく、
「どこに調整点があるのか」「何が滞っているのか」を現実的に検討できるようになります。
ここで整理していく理論は、知識として理解すること自体が目的ではありません。
現場で起きている違和感や停滞を、構造・関係性・意思決定という言葉で捉え直すための道具として扱います。
そして最終的には、
・対話が前に進む
・意思決定が現場で実行される
・役割を引き受けられる人が増える
そうした「組織が動き出す状態」をつくるための実務的な基盤として位置づけています。
組織の問題は、個人の能力や努力ではなく、
構造として再生産されるため、感覚や経験だけでは扱いきれない。
この章は、人が集まっている状態と「組織として機能している状態」の違いを協働という視点から明確にするための章です。
多くの経営者や管理職は、これまで経験や感覚、現場での試行錯誤によって組織を動かしてきました。
それ自体が間違っているわけではありません。むしろ、日本の多くの組織は、その積み重ねによって成り立ってきました。
ただ近年、
「やるべきことは分かっているのに進まない」
「判断が遅れ、現場が重くなる」
「人はいるのに、組織として動けない」
と感じる場面が増えています。これは、個人の力量や努力が足りないから起きている現象ではありません。
組織が大きくなり、役割が分化し、関係性が複雑になるほど、経験や勘だけでは捉えきれない“構造”がより強化されるからです。
「理論は現場では使えない」そう感じた経験を持つ方も少なくないと思います。
しかし多くの場合、問題は理論そのものではありません。
理論が
このような “使われない構造”の中に置かれていた ことが原因です。
理論は、本来「覚えるもの」でも「当てはめるもの」でもなく、
何が起きているのかを捉え直すための視点として機能するものです。
クルト・レヴィンはこの点を重視し、「アクション・リサーチ」を主張しました。
理論が実務で機能するかどうかは、理解度や知識量で決まるものではありません。
鍵になるのは、次の点です。
今、組織の中で何が起きているのかを当事者自身が言葉にできること
人や関係性、意思決定の流れを「評価」ではなく「構造」として見られること
正解を探す前に、状況を一緒に整理する対話の場があること
この条件が整ったとき、理論は
現場を管理するための道具ではなく、意思決定と実行を前に進めるための視点として働き始めます。
本サイトで扱う理論は、知識として理解するためのものではありません。
すべて、現場で何が止まっているのかを捉え直し、次の一手を考えるために使う ことを前提に整理しています。
組織とは、目的のために人が集まっている状態ではなく、
協働が継続的に成立している状態である
この章は制度や役職では説明できない「人のつながり」が、実際の組織行動にどのような影響を与えているかを整理する章です。
A.「組織」を「構造」で観る
組織という言葉は、「人が集まったもの」として捉えられがちです。
しかし実際には、組織は人そのものではなく、人と人の間にある役割・関係・期待のつながりによって成り立っています。
誰が何を期待され、
どこまで判断してよく、
どこから先は別の誰かに委ねるのか。
こうした暗黙の了解や役割の分担が、日々の意思決定や行動を形づくっています。
組織がうまく機能しているとき、この構造はほとんど意識されません。
一方で、
といった場面では、人ではなく、構造のどこかが噛み合っていない可能性があります。
「もっと連携してほしい」「部署を超えて協力してほしい」
こうした言葉は、多くの組織で聞かれます。
しかし協働は、気持ちや姿勢だけで自然に生まれるものではありません。
どこまでが自分の役割なのか
誰と、何を、どのタイミングで決めるのか
失敗した場合、どう扱われるのか
こうした条件が整理されていない状態では、人は無意識に自分の守備範囲を狭めます。
協働が進まないとき、そこには必ず 協働しにくい組織上の構造 が存在しています。
組織には、必ず「ここまでが自分たちの組織である」という範囲があります。
この範囲が曖昧になると、次のような現象が起きやすくなります。
結果として、個々は忙しく動いているのに、組織全体としては前に進まない状態が生まれます。
組織を捉える際には、
「どんな人がいるか」ではなく「どこまでを一つの意思決定単位として扱っているか」を見る必要があります。
組織内の現場で語られる問題は、しばしば個人の性格や能力の話として表現されます。
あの人が動かない
判断が遅い
現場が主体的でない
しかし、少し視点を引いて見ると、それらは 関係や役割の配置の結果 として起きていることが少なくありません。
同じ人でも、役割や期待、関係性が変われば、振る舞いは大きく変わります。
そのため本サイトでは、人を評価するよりも、構造を整理することを優先しています。
例えば、次のような状態を想像してください。
会議では合意しているはずなのに、実行に移らない
現場は指示待ちになり、上は忙しくなる
問題が起きるたびに、個別対応が増えていく
このとき起きているのは、意欲や能力の欠如ではありません。
多くの場合、
意思決定の範囲が曖昧
責任の所在が重なっている
判断と実行の距離が遠い
といった 構造上のズレ です。
このズレを捉え直すために、次章以降では組織をどう診断し、どのように対話によって動かしていくのかを整理していきます。
協働は自然発生するものではなく、成立するための条件がそろったときにのみ起こる
組織の前提である「協働」が生まれる前提を整理してゆきます。
企業(組織)とは、キャリアが育まれる代表的な場でもあります。
では、そもそも「会社」とはどのような存在なのでしょうか。
古くから、会社は「人・もの・金」で成り立つと言われてきました。
人(人材)が集まり、もの(設備・場所・仕組み)を使い、そこに資本としての金が投入されることで、企業活動は成立します。
ただし、重要な前提があります。「もの」も「金」も、最終的には「人」が使うものだという点です。
では、その「人」を、組織として活かすには何が必要なのでしょうか。
人は、ただ集まっただけでは、同じ方向には動きません。
むしろ放っておけば、それぞれが自由に、非効率に動いてしまいます。
それでも私たちは、企業という場で人が一定の方向に向かって働いている現実を知っています。
この「人の協働」が、どのようにして成立しているのか。
ここを明らかにすることが、組織論の中心的なテーマになります。
キャリア面談の中で、「働きたくない」「組織に行き詰まりを感じている」と語られる背景も、
この視点から見ると理解が進みます。
人は本来、自由に動きたい存在です。正直に言えば、できればあまり働きたくない、という感覚を持つ人も少なくありません。
それでも人は、組織の中で協働しています。この協働(Cooperation)が、どのような条件で成立し、機能するのか。
組織とは、そのための「ツール」である。ここから経営学・組織論が発展してきました。
~協働とは、善意や仲の良さではなく、
各人が役割として行動を引き受けている状態である~
マネジメントとは、組織を「うまく扱う」ことです。
対象は組織ですが、実際に扱っているのは、人と人との協働行為です。
C.I.バーナードは、組織を次のように定義しています。
「組織とは、社会的目的を達成するために、人の諸力によって構成された協働システムである」
ここでいう「諸力」とは、
フォーマル・インフォーマルな対話を通じて生まれるナラティブやディスコースと捉えることができます。
そして、これらの力をどう整え、動かすか。
この視点は、ブリーフセラピー(MRI・SFA)や人間工学的アプローチとも親和性が高いものです。
バーナードは、協働が成立する条件として、次の3点を挙げています。
A.協働に参加するメンバーの存在
人が集まるだけでは不十分で、そこには「貢献意欲」が必要です。
誘因(インセンティブ・満足度)が、貢献を上回っていることが前提となります。
B.共通目的の存在
協働として認識できる、明確な目的が設定されていること。
C.組織内コミュニケーション
目的が共有され、メンバーが「理解でき、受け入れられる」形でリーダーの指示が伝えられていること
(いわゆる権威受容の成立)。
組織論においては、実際に観察される「協働行為」こそが現実であり、分析の対象です。
協働は人間同士の相互作用であり、システムとして捉える必要があります。
この点で、ブリーフセラピーが「クライアント・システム」を扱うという形で、自然と組織開発につながってゆきます。
次に、組織の統制について整理します。ここでは単純化して、「マネージャー」と「メンバー」という関係で考えてみます。
マネイジャーは、
① 指示・要請を出す
メンバーは、
② 報告・連絡・相談を行う
この①②が円滑に回っている状態が、経営管理(Administration)です。
ただし、その前提には、メンバーによるマネイジャーに対する「権威の受容」があります。
同時に、メンバーが組織に参加し続けるためには、
③ 誘因の増加(報酬・意味・満足感)
が必要です。
これを受けて、
④ 貢献意欲が高まり、
より良い結果が生まれます。
この③④を扱う視点が、ここでいうマネジメント(Management)です。
組織に不満を抱えるクライアントの背景には、次のような要因が隠れていることが多くあります。
指示・要請が不当だと感じられている
ほうれんそうが機能していない
誘因が不足し、心理的に組織に参加できていない
貢献しても全体に活かされている実感がない
共通目的が共有されていない
組織目的が個人の価値観と合わない
これらはすべて、エンゲジメントと組織プロセスの問題です。
では、その範囲はどこまでを指すのでしょうか。
狭義には、
会社、事業所、部署、チームといった単位が組織と捉えられます。
一方、実務的に見ると、売上達成のためには、
社内の関連部署だけでなく、取引先、流通、顧客まで含めた協働が必要です。
社会構成主義的な視点としては、対話と協働が成立している範囲が、組織であると考えます。
~組織の範囲は、制度や肩書きではなく、実際に協働が成立しているところまでで決まる~
では、組織とはどのような状態を指すのでしょうか。
次の例を考えてみます。
電車内で、たまたま同じ車両に乗っている乗客
電車が止まり、協力して障害物を取り除く乗客
社内旅行で同じ電車に乗っているメンバー
多くの人は、2と3を「組織的な状態」と感じるはずです。
違いは何でしょうか。
それは、共通目的の有無と、それを共有するコミュニケーションです。
同じ人がそこにいても、目的と対話がなければ、組織(協働)は成立しません。
実は、企業内部でも同じことが起きています。
形式的には組織であっても、共通目的が曖昧になり、協働が成立していないケースは少なくありません。
反対にこの視点で見ると、3の場合も実は鉄道会社にとっての広義の組織であり、
顧客もまた広義の協働メンバーであることという視点も組織の課題を観ていく上では大切になります。
売上とは、共通目的を共有できた協働の結果とも言えるのです
この章では、人はなぜ組織にとどまり協力し続けるのかという点に触れてゆきたいと思います。
組織における協働は、「誘因 > 貢献」
という関係が、構成員個人にとって成立しているときに初めて維持されるということです。
ここでいう「貢献」とは、労働・献身・協力といった、組織に対して提供する行為全般を指す。
一方「誘因」とは、それに見合う、あるいはそれを上回る参加動機・報酬・意味づけを意味します。
キャリアカウンセリングの前提として重要な視点
たとえば、クライアントが「辞めたい」と訴えていたとしても、現時点で組織に在籍している限り、
原則として「誘因 > 貢献」の状態にあると捉えることが重要です。
すでに退職している場合
次の会社が決まっている場合
このような状況では、すでに 「誘因 < 貢献」 に転じていると理解し対応をする必要があります。
カウンセリング場面では、
何がクライアントの「誘因」になっているのか
どの点で「貢献」をすることが重く感じられているのか
を丁寧に言語化し、
クライアント自身に「誘因と貢献のバランス」を確認してもらうことが、重要な支援ポイントとなる。
マネジメント視点との関連性
キャリアドック等でキャリアコンサルティングを導入すると、
自律性が高まり、退職や異動希望が増えたらどうするのかという懸念が語られることがあります。
しかしこの問いには、マネジメントにおける「誘因」という概念が抜け落ちているといえます。
バーナードは、うまく機能しない組織の特徴として、誘因に対する認識の欠如ということを指摘してしています。
この観点から見ると、「誘因をどう構成するか」こそが、組織マネジメントの核心であると言えると思います。
営業活動においても、得意先にとって「誘因 > 貢献」をいかに成立させるかが重要である
→ その前提として、目的や価値の共有が不可欠となる
消費者行動においては、「商品の価値・バリュー > 価格」が成立して初めて、購買動機が生じる
誘因を構成する要素を整理する
誘因を考える際の補助線として、ハーズバーグの二要因理論は有効です。
達成すること
承認されること
仕事そのもの
責任
昇進
会社の政策と管理方式
監督
給与
対人関係
作業条件
衛生要因は、不足すると不満を生むが、充足されても必ずしも動機付けにはなりません。
誘因をどこに置くかという組織設計の重要性が、ここからも見えてきます。
なぜ、その組織に参加するのか?
組織の目的は、構成メンバーの誘因(参加動機)と結びついていることが望ましい状態です。
企業組織においては、単なる内部目標ではなく、
社会的必要性
社会的責任
といった視点が近年ではますます不可欠となっています。
組織は、社会環境に適応できなければ存続できません。これは、いわゆる企業の外部適応性の問題となります。
目的に対する外部の制約を発見し
それに組織としてどう対応するかを考える
営みでもあるという視点が大切になります。
また、マネジャーの重要な役割のひとつは、「共通の目的が存在している」という認識を、メンバーに植えつけること。
これは、組織内のコミュニケーションそのものによって成立するといえます。
組織における権威とは、役職の強さではなく、
意思決定が受け取られる関係性である
この章では、指示や命令が形だけ存在しても成果につながらない理由を、「権威の受容」という視点から読み解きます。
A.なぜ、組織内で人は指示に従うのか
権威とは、「指示する権利」であると同時に、指示が実際に効果を発揮する状態を意味します。
ここでは、法定説・職能説とは異なる、権威受容説の視点が重要となってきます。
権威が成立するためには、聞き手(メンバー)が以下を満たしている必要があるとバーナードは指摘をしています。
内容を理解できる
組織目的と矛盾しないと納得できる
実行可能である
個人的利益と共存できる
この条件が満たされたとき、コミュニケーションとしての指示が成立するということになります。
組織目的と矛盾しない適切な命令
個人にとって「無関心でいられる範囲」に収まっている
非公式組織を通じた「共通意見の醸成」がある
上位者の指示が、組織の存続と矛盾しないと感じられる
これらが逆転した場合、受け手は指示を受容できず、権威は成立しないということになってしまします。
~ 権威は「与えられるもの」ではなく「受け入れられるもの」~
権威は、コミュニケーションを通じて受け入れられて初めて効果を発揮するという視点が大切です。
逆に言えば、部下から権威を受け入れられなければ、権威は存在しないとも言えます。
具体例としては、
通常業務では適切に報告できているメンバーが、「ややこしい事案」になると報告を避けることがある。
これは、最終的に「報告するかどうか」を判断しているのが、メンバー側であることを示しています。
共通概念(エピステーメー)の重要性
共通の前提や価値観が成立していなければ、実はコミュニケーションは成立しません。
次のような共通の認識例があって初めてコミュニケーションが成立すると言えます。
「ならぬものは、ならぬ」、極端な例としては「なぜ人を殺してはいけないのか」等です。
組織においても、共通のスタンダードを確立し、それを通じたコミュニケーションを維持することが不可欠になります。
その基盤として、「目的の共有」が重要となってきます。
この意味で、権威の成立は、社会構成主義的に対話が成立することを前提としているということが言えます。
以上を踏まえると、クライアントが組織に不満を持つ場合、次のような組織的要因から整理することができます。
A.指示・要請が不当である
B.「報連相」ができず、関係性が崩れかけている
C.組織参加への誘因が不足している
D.貢献しているが、組織全体のニーズを満たしている実感がない
E.共通目的が共有されていない
F.組織目的が、クライアントの価値観から受け入れ難い
これらを見極めたうえで、
クライアントへの働きかけが適切か
組織への働きかけが必要か
を判断し、キャリアコンサルタントは行動する必要があります。
・ブリーフセラピー支援技法との関連性については
組織のマネジメントが十分でない場合、
ノーマライズ
コンプリメント
コーピング・クエスチョン
といった関わりが有効となります。
また、原因が組織側にある場合は、問題の外在化(ブリーフセラピー:MRI/SFA)という視点も重要となってきます。
一方で、クライアントが組織に在籍している間は、
組織の安定性・有効性が高いことが、結果としてクライアントの満足につながるという視点も、忘れてはなりません。
組織が存続するための“設計思想”を理解する
~権威は主張すれば成立するものではなく、
構造として受容される条件が必要である~
・指示は、出せば実現するわけではない
権威の受容という考え方は、公式な組織内部に限らず、
得意先・消費者を含む非公式(Informal)な関係性においても同様に成立します。
組織の上長やマネジャーにとって重要なのは、「指示すること」ではなく、指示が受容されるて実現することです。
一方的に指示を出しても、受け手であるメンバーに受容されなければ、結果としてその指示内容は実現しません。
これは、「権威の受容」という概念からは、必然的に起こる現象となります。
・目標設定における注意点
たとえば、売上目標や数値目標の割り振りも、単なる配分作業ではなく、重要なコミュニケーション行為になります。
目標数字を割り振っただけで達成できると考えること自体が、マネジメント上の錯誤になり得えます。
・組織内の指示に関する整理
指示が有効に機能するためには、以下の条件が必要となります。
目的に対して明確かつ適切であること
→ メンバーと目的が共有されていること
(例:社内昇格の手段として意味づけられているか)
理解されていること
→ なぜその目標数字なのかを説明できること
物理的に実現可能であること
→ 目標達成に必要な具体的行動が提示されていること
→ 常に受け手(メンバー)の立場で考える
→ 自分が代わりにやっても実現可能かを自問する視点
飲み会などを含む非公式組織(Informal Organization)での
非公式なコミュニケーションが、共通目的・共通概念の形成に大きな影響を与える点も見逃せません。
組織は「がんばっている」だけでは存続できない
この章では、内部では評価されているのに市場では通用しなくなる組織が生まれる理由を確認します。
KPIに代表される「能率」が、組織内部の調和をどのように影響を与えているのかを整理しています。
まず前提条件としては、組織活動において能率(効率性)と有効性は異なる結果をもたらします。
プロセス重視
手段重視
内部環境の調和
例:営業活動における能率
どれだけ効率よく店舗を回ったか
店頭スペースをどれだけ迅速に立ち上げたか
POPをどれだけ全店展開できたか
売上数字をどれだけ細かく落とし込めたか
バーナードは、能率を高める前提として、構成員の満足度を高め、組織からの誘因を提供することの重要性を指摘しています。
結果重視
戦略重視
外部環境との調和
有効性こそが、組織(企業)の存続を左右します。
例:営業活動における有効性
実際に売上がどれだけ上がったか
消費者に価値が伝わったか
POPが購買行動につながったか
予算数字が納得され、現実の成果につながったか
能率だけを求められ、有効性が上がらないことを責められる状況は、メンバーにとって非常に厳しい。
その意味で、能率を高めれば有効性が実現されやすい設計が、マネジメントに求められます。
能率:KPI(Key Performance Indicator)
有効性:KGI(Key Goal Indicator)
有効性KGIにつながらない能率設定は、KPIとは言えません。
・能率は高いが、有効性が低い組織の事例
この状態が続くと、組織は必然的に衰退する。
アメリカの蒸気機関車会社の場合
蒸気機関の能率を高め続けた
しかし市場はディーゼル・ガソリンへ移行
努力(能率)は高かったが、市場に対する有効性は低下
結果として社会への有効性を維持できずに倒産
もし目的を「蒸気機関会社」ではなく「交通機関開発会社」と再定義できていれば、生き残る可能性はあったといえます。
・有効性認識の難しさ
組織内部では、自分たちの活動が有効かどうかを認識すること自体が難しい場合も多いと言えます。
この認識ができなければ、組織は外部環境との調和を失い、衰退の道を進んでしまいます。
この意味で、外部からの組織開発やキャリアコンサルティングの必要性が生じるといえます。
~マネジメントの本質的課題~
人の行動は、命令や制度だけで変わるものではない。
誘因・目的・意味づけ・関係性といった構造全体が変化して初めて、行動は変わるといえます。
(マネジメントについては、こちらを参照下さい)
この章では、経済学では説明できない組織間・個人間の差異をマネジメントの視点から整理します。
経済学では、市場参加者は全知全能(すべての情報を把握)という前提が置かれています。
同じ品質の商品を提供できれば、理論上は企業間の優劣は生じないはずです。
例:日本のビールメーカー
品質差はほぼない
経済学的にはシェアは均等(25%)になるはず
現実には大きな差が存在する
この差は、経済学では説明できないといえます。
なぜ差が生じるのか。それは、経営(マネジメント)の違いによると言えるでしょう。
数学的均衡を前提としない
構成的・実践的な学問
優位な組織のマネジメントを分析し、再現可能性を探る
これが、経営学、そして本来のMBAの意味でもあります。
目的自体は極めて普通でも、共通の目的意識が組織内で明確になることで、有効性は大きく高まります。
特に現代ではAI時代を迎え、最適な答えを各企業が素早く持つことが出来る時代だからこそ、
より他社との差別化を図り、インベーション・マーケティングを推進してゆく経営組織論の視点がますます重要となっています。
リーダーの本質的役割
マネジメントとは、バーナードによると次の三点に集約されるとされています。
有効なコミュニケーションの提供
協働意欲(モチベーション)の維持
組織目的(Purpose)の継続的な保全
これらは、単なる指示や管理ということだけではありません。
(マネジメントについては、こちらを参照下さい)
本来は「悪」ではない官僚制という組織形態~
この章は、官僚制が組織にとって不可避である一方、なぜ問題も生み出すのかを整理します。
官僚主義とは、大規模組織において効率的に目的を達成するために設計された組織形態であり、
組織社会におけるスタンダードでもあります。
実は、市場主義経済における大規模企業体制は実際の実務上は官僚制なくして成立し得ないと言えます。
しかしながら、官僚主義には、
有益性(順機能)
不利益性(逆機能)
の両面が存在するというのが、やっかないな点にもなります。
~なぜ「悪しき官僚主義」が生まれるのか~
官僚制がなぜ多くの組織で採用されてきたのかを、効率性という観点から整理しています。
官僚制は、自由主義経済・共産主義経済・犯罪組織を問わず、一定規模以上の組織で成立しています。
明確な職務配分
階層組織(ヒエラルキー)
規則による管理
非人格性
専門能力に基づく採用・昇進
組織の継続性
職務の標準化
高い能率を実現する一方で、人は代替可能な存在として扱われやすい。その結果、
訓練された無能
全体最適への視野喪失
最低許容行動
目標置換
全人的成長の否定
革新・創造性の阻害
が現れてきます。
これらに対して、
外部から介入し、逆機能をコントロールすることが、組織開発やキャリアコンサルティングの重要な目的となります。
組織の理論は、正解を与えるためではなく、
組織を観察し直し、判断の精度を上げるための思考装置である
ここまで見てきた理論は、個人の問題に見える悩みの多くが、実は組織構造やマネジメントに起因していることを示しています。
キャリアカウンセリングや組織開発は、このズレを外側から調整するための実践です。
キャリア面談では、仕事・職場・上司・評価など、組織に起因する悩みが語られることが非常に多くなっています。
それは、官僚組織が社会に浸透し、順機能と同時に逆機能も拡大してきた結果とも言えます。
組織内の多くの不満は、
個人の問題なのか
組織構造やマネジメントの問題なのか
を見極めなければ、適切に扱えないと思います。
この判断を誤ると、
組織を混乱させ
クライアント自身に不利益をもたらす
支援としてのリスクが高まってしまいます。
そのために必要なのが、経営組織論を踏まえた関与であり、
それを実践的に統合する枠組みが、ここで提示をしている「キャリアカウンセリング型組織開発®」とも言えます。
――自由主義経済の歴史と、企業・官僚制の本来機能を振り返る――
本ページでは、組織を「協働が成立する構造」として捉え、
マネジメントやキャリアの問題を、個人ではなく構造から理解してきました。
ここでは最後に、組織や企業がそもそも何のために生まれ、どのような社会的役割を担ってきたのかを、簡潔に振り返ります。
これは正解を示すためではなく、現在の組織を評価・判断するための視座を広げる補助線です。
自由主義経済や資本主義は、しばしば「弱肉強食」「自己利益の最大化」と結びつけて語られます。
しかし、その成立過程を振り返ると、自由主義経済は強い宗教的・倫理的背景の中で発展したことがわかります。
初期アメリカ社会では、勤労・節度・誠実さといった価値観が、信仰と結びついて共有されていました。
アダム・スミスの『国富論』で知られるいわゆる「見えざる手」という概念も、実際には彼の主著の中で一度しか使われていません。スミス自身は道徳哲学の教授であり、市場が機能する前提として、個人の倫理と社会的信頼を重視していました。
自由主義経済は、「好き勝手に振る舞えばうまくいく仕組み」ではなく、
倫理を前提とした協働の拡張モデルとして構想されていたのです。
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の著者である社会学者マックス・ヴェーバーも「近代資本主義は、ただ合理的国家においてのみ育つのである。 それは、専門的官僚制と合理的法律を基礎として育つものである。」と指摘をしています。
その後、アメリカでの移民の増加や価値観の多様化とともに、資本主義は拡大し、企業活動も巨大化していきました。
蓄財と慈善、競争と公共性という緊張関係の中で、企業は次第に「経済的成果」を強く求められる存在になっていきます。
しかし、企業の成り立ちそのものを見れば、本来の目的は必ずしも自身の利益最大化ではありません。
株式会社の起源は、1600年代の東インド会社に始まりました。
その後は地域での大規模で公共性の高い事業を資金を集めて実現するための仕組みでした。
ダムや橋、インフラ整備など、一個人では担えない事業に広く出資を募り、社会的必要性に応えるために設計されたのが企業です。
そのため、企業の存続には社会に対する公共性が前提として組み込まれていました。
株主利益の最重視という考え方は、歴史的に見れば後から強調されるようになったものであり、
それはすでに20世紀半ばにはバーリー・ドットの論争で既に理論的整理がなされています。
組織が拡大すれば、専門分化・役割分担・規則による運営が不可欠になります。
これを支えるのが官僚制です。
官僚制は本来、
組織を安定的に運営する
恣意性を排し、公平性を保つ
ための合理的な仕組みでした。
しかし一方で、手段が目的化し、柔軟性を失ったとき、官僚制はすでに指摘をしたように逆機能を生み出します。
いわゆる「官僚主義」と呼ばれる状態です。
重要なのは、官僚制そのものが悪なのではなく、
機能していたはずの仕組みが、環境や目的とのズレを起こした結果だという点です。
これを是正する考え方が、「組織開発」という位置づけになります。
ここまで見てきたように、
自由主義経済
資本主義
企業
官僚制
はいずれも、人々の協働を持続させるために設計された社会的装置でした。
組織の理論は、これらの理念を踏まえた上でなりたっています。
変化した環境の中で、いまその装置が「何を果たし、何を果たせなくなっているのか」を冷静に観察するための道具としての位置づけです。
経営やキャリアの判断において必要なのは、善悪の断定ではなく、構造を見直し、判断の精度を上げる視点です。
この経営組理論のページ全体も、そのための「思考装置」として位置づけています。
本サイトでは、企業内における経営者・管理職の方々を対象に組織の課題と個人のキャリア課題を同時に扱う支援を行っています。
提供しているのは、
組織支援と個人支援(キャリア開発)を分けて考えない「キャリアカウンセリング型組織開発®」というアプローチです。
組織の停滞、マネジメント上の行き詰まり、関係性の問題などに対して、診断型組織開発・対話型組織開発・
プロセス・コンサルテーションの枠組みを用いながら、現場の状況に応じた関わり方や整理の視点を提示しています。
各ページでは、実際の相談場面を想定しつつ、支援の考え方や進め方、背景となる理論を紹介しています。
「何から手を付ければよいかわからない」「対話をしても変化につながらない」といった状況において、
支援を検討する際の判断材料として活用いただくことを目的としています。
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