M. P. フォレットの思想


――「管理」から「関係とプロセス」への転回――

1.ドラッカーが「マネジメントの予言者」と呼んだ思想家

 

 このサイトでいろいろとご紹介している内容をまずは整理してお伝えをしておきたいと思います。

 メアリー・パーカー・フォレット(Mary Parker Follett, 1868–1933)は、
P.F.ドラッカーによって「マネジメントの予言者」と評された思想家です。

 フォレットは、F.W.テイラーの科学的管理法が提示した効率・標準化・分業という視点とは異なり、
人間と組織を「関係」「相互作用」「プロセス」として捉えました。

ドラッカーは『マネジメント ― 課題・責任・実践』(1974)において、

 メアリー・パーカー・フォレットとチェスター・バーナードは、
組織内の意思決定過程、フォーマル組織とインフォーマル組織の関係、
経営者の役割と職能を最初に体系的に研究した

と述べ、現代マネジメントの核心を先取りしていた存在として位置づけています。


2.フォレットの基本視座

――「個人―組織―社会」をプロセスとして捉える

 

 フォレット思想の根幹にあるのは、次の人間観・組織観です。

個人、組織、社会の関係を
固定的な構造ではなく
相互作用によって生成され続けるプロセスとして捉える

 個人は組織に「属する存在」ではなく、他者との相互作用を通じて組織をつくり、
その組織間・個人間の相互作用によって社会が生成されていく。

この「個人―組織―社会」が連なる動態的プロセスという発想は、

100年後に展開される社会構成主義対話型組織開発と強く共鳴しています。


3.円環的反応 ― 人間と組織は相互に「創られ続ける」

 

 フォレットは、人間の行為や関係を「刺激 → 反応」という直線モデルでは捉えませんでした。

彼女が用いた中心概念が「円環的反応(circular response)」です。

  • AがBに影響を与える

  • その影響を受けて変化したBが、再びAに影響を与える

  • そのやり取りの中で、AもBも、状況そのものも変化していく

つまり、

人は相手に反応しているのではなく「関係そのもの」に反応している

という視点です。

 この考え方では、個人の行為は常に「状況」を変化させ、その変化した状況が、次の行為を生み出します。

組織とは、人々の円環的相互作用が累積された「生きたプロセス」なのです。

 


4.コンフリクトの再定義

――対立は「問題」ではなく「発展の契機」

 

 フォレットは、組織における「コンフリクト(対立)」を否定的なものとは捉えませんでした。

彼女は、コンフリクトの解決方法を次の三つに整理しています。

  1. 支配(domination/抑圧)
    ─ 一方の欲求が他方を押さえ込む

  2. 妥協(compromise)
    ─ 双方が不満を残したまま折り合う

  3. 統合(integration)
    ─ 双方の欲求を包み込む新しい状況を創り出す

フォレットが重視したのは、明確に③の統合です。

統合とは、対立を消すことではなく
新しい価値を生み出すプロセスである

統合は、高度な知性、洞察、創意工夫を必要とする創造的な対話の営みです。

ここで初めて、コンフリクトは組織を停滞させるものではなく、発展と変革のエネルギー源となります。

 


5.「状況の法則」と権威の再定義

 

 フォレットは、組織における「権威(authority)」を個人の地位や役職から切り離しました。

彼女の有名な言葉に、

人が人に命令するのではない人も上司も、ともに「状況」から命令を受ける

というものがあります。

 

ここでいう「状況」とは、単なる外部環境ではなく、

  • 人々の関係

  • 感情・信念・目的

  • 組織の文脈

  • 変化し続けるプロセス全体

を含む「全体状況(total situation)」です。

フォレットにとって、

  • 権威とは「上から与えられるもの」ではなく

  • 組織が状況に適応しようとする中で

  • 対話と共同理解から生成されるもの

でした。

 これは、バーナードの「権威受容説」やサイモンの「意思決定過程論」とも響き合いながら、
非個人化された権威観を提示しています。

 


6.職能・責任・権限の三位一体

 

 フォレットは、「究極的権限(final authority)」という考え方を幻想であると伝えました。

彼女の主張は明確です。

  • 各人は「職能(function)」を担う

  • 職能に対応して「責任(responsibility)」が生まれる

  • 責任と等量の「権限(authority)」が形成される

つまり、

職能・責任・権限は
三位一体として組織計画に内在する

 組織とは、命令系統のピラミッドではなく、職能が交錯するネットワークなのです。

この視点は、後のマトリクス組織、チーム型組織、さらには現代のアジャイル組織にも通じていきます。

 


7.創造的経験 ― 組織変革の原点

 

 フォレット思想の集大成が『創造的経験(Creative Experience, 1924)』です。

彼女にとって「経験」とは、

  • 個人の内面に閉じたものではなく

  • 他者との相互作用によって織りなされ

  • 新たな価値・目的・意味を生み出す力の源泉

でした。

経験は、

  • 検証されるものではなく

  • 創造され続けるプロセス

であり、

人は経験を通じて成長し
組織と社会も同時に前進する

とフォレットは考えました。

ここには、「相互作用 → 統合 → 創発」という明確な変革プロセスが描かれています。

 


8.現代的示唆

――対話型組織開発とキャリアカウンセリングへ

 

 フォレットの思想は現代においても次のような形の中で続いています。

 組織の問題は、個人の資質や能力の問題ではなく、関係性と意味づけのプロセスにあります。

そのため、

  • 傾聴

  • リフレクション

  • ナラティヴの再構成

を軸としたキャリアカウンセリング型組織開発は、

フォレットが構想した「統合」「創造的経験」「状況の法則」を現代的に実践する方法論だと位置づけられます。

 


9.テイラーリズムの先へ

 

  テイラーが「作業を科学化」したのに対し、テイラーリズムとも通じるよう形で、

 フォレットは「関係と経験を創造的に扱う科学」を提示しました。

 間違ったテイラーのマネジメント解釈から出発した効率・管理・統制の時代から、対話・統合・創発の時代へ。

 

フォレットの思想は、今なお未完の未来理論として現代の組織変革に問いを投げかけ続けています。

 

 




 フォレットの代表書籍「創造的経験」について詳しくは、左のリンク先のブログを参考にして頂けばと思います。

現代ではフォレットの思想はあまり顧みらえる機会もあまりありませんが、1980年代頃までは、フォレットの考えは経営組織論において主要なマネジメント理論(権威の取り扱い)として取り扱われていました。 

(欧米では神の下での平等という観点と相反する行為だからか、組織内の権威(権限)の性質について議論されます。)

 以下では、高宮晋「経営組織論」(1961年)と占部都美「近代管理論」からフォレットの権威の捉えられ方を紹介致します。


 高宮 晋 著 「経営組織論」 昭和36年(1961年)6月 初版発行 昭和48年(1973年)8月 29版 ダイアモンド社 発行より

(権威の性質の第2節のバーナード「協働システム」と第4節のサイモン「意思決定過程」の間に置かれています。また、索引にもフォレットの名前は明記されています。)

 

『第三章 経営組織構成の原理』

第三節 職能を中心とする見解

 第3の見解は、職能を中心とする見解である。それは究極的権限(final authority)、権限の委譲を中心に考える見解に対立するものである。第2の見解は人間関係における受容の観点からこの権限中心の観点を批判したものであるが、第3の見解は、職能という基調からこれを批判する。フォレット(M.P.フォレット)は次のごとく言っている。

 「究極的権限(final authority)は幻想である。各人それぞれ職能(function)を持っている。科学的に管理されている経営においては、調査と科学的研究によって職能が規定されている。各人は彼の職能(function)ないし仕事(task)とちょうど同じだけの━それよりも大きく小さくもない━責任(義務)(responsibility)を有するべきである。彼は責任(義務)とちょうど同じだけの━それよりも大きく小さくもない━権限(authority)を持つべきである。経営組織においては職能(function)、責任(responsibility)、権限(authority)は三位一体となっているのであって、密接不離の関係にすべきである。」ここでは職能が決定的要素である。‥‥‥‥究極的権限があり、それが漸次委譲されてゆく「権限の委譲」はここではあり得ない。(P42-43)

 「職能・権限・責任は組織計画 (plan of organization) の中に内有されているのである。組織計画においてまず職能定められ、それに対応する責任と権限が定められるという考え方である。組織の本質は、職能・権限・責任の交織(interweaving)である。」

「権限が人間活動を調整するのではない」「正常なる権限は調整から導き出されるのであって、調整が権限から導き出されるのではない。

 調整は本来職務上の調整であって、職能の体系に基づいてなされうるものである。‥‥‥‥この交錯した職能に対応して、累積的な責任 (cumulative responsibility) が形成され、更にこれに対応して、累積的な権限 (cumulative authority) が形成されている。ここに存在するものは、究極的権限 (final authority) ではなくて、交錯した職能に対応して、積み重ねられた権限である。(P44)」

 「組織の最も良い方法は、究極の権限の為の場所を細心に論理的に作り上げることではない。それは累積的な責任の為の可能性を提供するところのもの、経営に実際に存在しているすべての責任事項を結びつけているところのもの、各人、各グループの責任事項を交錯された職能体系 (system of cross-function) の形成によって、より能率的に運行せしめるところのものである。」ここでは、組織の本質は交錯された職能体系と考えられている。組織の構成原理は職能の体系化と言うところに求められている。

 

参照:M.P.Follet:Dynamic Administration 1947年 (P147/P149/P150/P159)』

 

  《ここでの職能体系 (system of cross-function) は、テーラーの科学的管理法の中の「テイラーの職能別職長制=ファンクショナル組織(functional organization)と結びつけて捉える事も出来そうです》

 

 ちなみに、大雑把に要約をすると、バーナードは協働システムの観点から権威は最終的には部下に「受容」されるもの、サイモンは個々の限定的な意思決定能力を補完する為の権威の性質として「意志決定過程」において権威が発生するとされています。

 フォレットは、組織全体がその状況(環境)に適応する為に権威が発生するが、その適応については部下も認識出来るものとしています。つまり、そこには対話を通じて進むべき方向性を決めてゆけば、権威による葛藤が生じないという考え方です。


占部 都美 著 「近代管理論」昭和56年(1981年)2月 白桃書房 発行より

 (残念ながら索引には提示されていませんが、下記のように著されています。)

 

 フォレットは、「一人の人が他の人に命令を与えてはいけないのであって、両者は情況(situation)から命令を受けることに同意しなくてはならない」と述べている。経営者は情況によって与えられる命令を受容するのであり、従業員も同じ状況から与えらえて命令を受容するのである。だから、情況の法則(the law of situation)を発見し、命令を非個人化することによって、命令は従業員にも人格的な屈辱感なしに受容される。科学的管理法は、時間動作研究を通じて、作業標準の設定についてこのような「状況の法則」を発見することを企図したものである。

 フォレットの説によれば、命令は変化する状況の一部である時に、その権限は受容される。つまり、情況の権限(the authority of the situation)のみが真の権限であると解釈されている。従って、権限が受容される為には「状況の法則」の発見が必要であり、その為には管理者と部下の間に情況に対する共同研究の態度がとられることが良いとされるのである。

参照:M.P.Follet: Dynamic Administration, ed. by Urwick  and Metacalf 1940年 (P59)

 

《参考》

 『バーナードのように権限受容を個人的な条件を強調するにせよ、あるいはフォレットのように権限受容の非個人的な条件を重視するにせよ‥‥‥‥組織における権限の条件としては不安定である。‥‥‥‥バーナードの権限受容の理論は、次に述べる権限の客観的側面の裏付けによって、はじめて、現実的な理論にされるものであることを注意しなくてはならない。』

【参考:指示における無関心層】


 フォレットが「創造的経験」(1924年)を出版した当時、つまり、1929年の大恐慌前の景気絶頂期の全体の雰囲気は、

「オンリー・イエスタデイ」で次のような記述がみられます。

このような記述からは、すでに当時から本質主義的なものから社会構成主義的な考え方へ動き始めていたことが推察されます。

 

「・・・彼ら(知識人)の中の若年層は実際にフロイトにの心理学を愛好していた。また、多くに知識人は、ファンダメンタルという言葉が新造されるずっと前から、新しい科学的知識の帰結として、不確定性の問題について考えていた。」

 (九章 知識人の反乱 P304より)

「大量生産と機械文明がアメリカ文化及び自分自身に与えた影響を彼らは恐れていた。また、彼らは、フォード主義とチェーンストア的頭脳によって単調に平均化された文明の中で、自分たちの権利を守るために、最後の土壇場で戦っているのだと思っていた。」

 (九章 知識人の反乱 P315より)

「(年長で賢明な)これらの知識人たちはまた、科学的真理と科学的方法とを信じていた。」(P319)

「生活の中から確信が失われた。更に悪い事には、確信は科学それ自体からも離れ去ったのである。かつて神の秩序を否定した人々は、まだ確実な自然の秩序に依拠することが出来た。だが今ではそれさえも揺らいでいる。アインシュタインの相対性原理は、新たな不確実性と疑念とを導入した。かくて、確実なものは何もなくなり、人生の目的は発見できなくなり、人生の終焉はまた更に発見しにくくなった。こうした霧の中に閉じ込められていては、人間がそれに依拠し、これこそ実在するものだとか、これは持続するだろう等と言う事が出来る確実なものは一つもなくなったのである。」

(九章 知識人の反乱 P320より)

 

参考) オンリー・イエスタデイ F.L.アレン著 藤久ミネ訳 株式会社筑摩書房 初版1986年12月 1998年6月文庫版第3刷



    M.P.フォレットは、 P.F.ドラッカーより「マネジメントの予言者」とも表現をされています。

彼の「マネジメント ━課題(TASKS)・責任(RESPONSIBILITIES)・実践(PRACTICES)」(1974年)では、以下のように取り上げられています。

 『メアリー・パーカー・フォレット(1868-1933)とチェスター・バーナード(1886-1961)という二人のアメリカ人は、組織内の意思決定過程とか、『フォーマル』組織と『インフォーマル』組織との関係とか、経営者の役割と職能とかを最初に研究した。』(P39)

 

 また、社会構成主義の第一人者のガーゲンからも、

 『ある人の仕事に意味を与えているのは、その人個人ではなく、環境の力でもなく、この《日常的な》一群のやり取りに参加することである。』とあり、その注釈(6)として『組織研究分野において、組織の満足は構成するメンバーの心の中ではなく、関係のプロセスから生まれることを最初に示した人物として、メアリー・パーカー・フォレットの名前を挙げておかなければならない。(ボーリーン・グラハムのMary Parker Follet, Prophet of Management (Frederick, MD: Beard, 1995)』と提示されています。

参考)

「関係から始まる ━社会構成主義がひらく人間観━」 ケネス.J.ガーゲン著 

 鮫島輝美・東村知子訳 (株)ナカニシヤ出版、2020年9月     (第10章 組織(P384・P420))

 

 

 1920年代初頭のM.P.フォレットの思想は、早くも社会構成主義適の立場から経営組織論を捉えたものと感じられます。

 

 「個人、組織、社会の関係をすべてプロセスとみなすことにある。すなわち、個人が他者との相互作用を通して組織という社会過程をつくり、さらに組織と組織、個人と組織のそれぞれの相互作用の中で社会ができるというように、「個人―組織―社会」と連なる動態的プロセスとして三者の関係を捉えている。」を理論的な基礎としています。

 その中では個人毎の経験に基づく組織に内における相互作用における軋轢(コンフリクト)をどのように統合するかが重要になるとされています。この課題を現代において解決するにあたっては、次のように考えています。

 「社会構成主義」に基づいた「対話型組織開発」において、「傾聴とリフレクション」による「キャリアカウンセリング」を対話の軸とし、組織の改善を目指すことにより組織内の統合を進める事が出来る。これを「キャリアカウンセリング型組織開発」(プロセス・コンサルテーション)の基本スタンスとしています。

 具体的な進め方の想定としては、最初にリーダーの組織目的をナラティヴとしてメンバーに伝達し、それを受けてメンバーからよりもリフレクションとして、組織目標を念頭に置いてより良いキャリアの実現の為にどうしてゆくのか、ナラティヴやディスコースの集約を行います。これらを更に組織やリーダーを含めた組織環境全体への働きかけが行います。このように組織内のナラティヴ・ディスコースの変化を起こすことにより組織の変革につながり(ブリーフセラピーを活用したダブル・ループ学習の実現)、その結果として組織全体の活性化が進むことになります。

 (以上のフォレットの思想に準拠した基本的な考え方は意識マトリクス理論にて概念化することが出来ます。(参考)