―― 行動科学・進化心理学を踏まえて、組織開発へとつなぐ理論的基盤 ――
本ページでは、ブリーフセラピー(Brief Therapy)、
とりわけMRI(Mental Research Institute:問題解決志向)ブリーフセラピー
および、SFA(Solution Focused Approach:解決志向アプローチ)ブリーフセラピーについて、
行動科学
進化心理学
システム論
組織開発(Organization Development:OD)
との理論的連続性を踏まえながら、キャリアカウンセリング型組織開発®の基盤理論として位置づけて整理をしています。
ブリーフセラピーは、しばしば「短期療法」「心理支援技法」等として紹介されますが、
本質的には、人間の行動・認知・相互作用をどう理解し、どう変化に結びつけるかを扱う理論体系です。
この視点は、個人支援と組織支援を分断せずに扱う為には極めて重要な枠組みとなります。
― 行動科学・進化心理学・構成主義との関連性 ―
ブリーフセラピーには、行動科学(Behavioral Science)の視点もあります。
行動科学では、人間の行動を「個人の内面特性」ではなく、
環境・関係性・相互作用の中で生じる行動として捉えます。
問題行動とは、「間違った性格の結果」ではなく、
ある環境・関係性の中で合理的に形成された行動パターンであるという立場になります。
さらに参考になるのが、進化心理学(Evolutionary Psychology)の視点です。
人間の認知や感情、行動傾向は、
不確実性を回避しようとする
危険を過大評価しやすい
変化よりも現状維持を選びやすい
といった特徴を持ちます。
これらは「弱さ」ではなく、進化の過程で獲得された生存に有利な認知傾向です。
組織において、
変革への抵抗
新しい施策への慎重さ
防衛的なコミュニケーション
が生じる背景には、この進化的に形成された認知特性が強く影響しています。
ブリーフセラピーは、こうした人間の「変わりにくさ」を前提にした現実的な介入理論であり、
「意識改革」や「価値観の矯正」を基本的にはその目的とはしていません。
ブリーフセラピーは、基本的には構成主義(Constructivism)の立場を取ります。
問題は客観的に存在するものではなく、
人と人との関係性やコミュニケーションの中で構成されるという考え方です。
したがって、
問題の原因を特定する
正しい理解を教える
ことよりも、
問題を維持している相互作用は何か
どのような認知の枠組みが意味づけを固定しているか
に焦点を当てます。
ブリーフセラピーは、グレゴリー・ベイトソンに代表されるシステム論の影響を強く受けています。
人は単独ではなく、常にシステムの一部として存在する
原因と結果は直線的ではなく、循環的である
行動はフィードバックによって維持・変化する
この視点は、そのまま「組織開発(OD)」の基礎理論でもあります。組織開発では、
「個人を変える」のではなく
関係性・相互作用・意思決定のパターンを扱う
ことが重視されます。
ブリーフセラピーは、この「ミクロな相互作用」を扱うための理論と技法を提供します。
― 問題構造の整理と介入 ―
MRIブリーフセラピーの中核概念は、「何度も試みられた解決策(Attempted Solutions)」に対する介入です。
問題は、問題そのものではなく、
「問題を解決しようとして繰り返されている行動によって維持されている」という考え方です。
組織では例えば、
統制を強めるほど現場が萎縮する
説明を増やすほど反発が強まる
会議を増やすほど意思決定が遅くなる
といった現象が起こります。
MRIブリーフは、これらの問題構造を整理しどのシステムに介入すべきかを明確にする診断的アプローチに活用することも出来、
診断型組織開発と比較的高い親和性を持っています。
― 意味生成と可能性創出 ―
SFA(Solution Focused Approach)は、
問題の原因ではなく、望ましい未来と例外に焦点を当てます。
SFAが重視するのは、
すでに起きている小さな成功
クライアント自身が持つ資源
未来志向の語り
これは、対話を通じて認知や意味づけを更新するプロセスであり、対話型組織開発でこの視点を活用することが出来ます。
ブリーフセラピーの姿勢は、エドガー・H・シャインのプロセス・コンサルテーションとも深く一致します。
支援者もシステムの一部である
すべての関わりが介入になる
関係性の質が変化の可能性を左右する
これらは、MRIブリーフにおける「治療同盟(セラピストクライアントによる上位システム)」の考え方と親和性があります。
この為に、ブリーフセラピーは組織開発におけるミクロ介入の実践知として機能させることも出来ます。
なお、ブリーフセラピー(MRI/SFA)が扱うのは、
対話や相互作用の「どこに」「どのように」介入するかというミクロな実践理論です。
一方で、支援者がどのような立場・姿勢・関係性で組織に関わるのかという前提を理論化したものが、
エドガー・H・シャインのプロセス・コンサルテーションです。
プロセス・コンサルテーションは組織開発実践において、
支援関係の質と介入の在り方を支える基盤理論として位置づけられます。
▶ 支援者の関わり方・姿勢・関係性の理論については、
「プロセス・コンサルテーション」のページで詳しく解説しています。
キャリアカウンセリング型組織開発®は、組織心理学等の組織開発に関する知識だけではなく、
ミクロ組織開発であるプロセス・コンサルテーションの関係性思想
ブリーフセラピーの介入理論
キャリアカウンセリングの個人支援力
等を統合した実践モデルです。
個人のキャリア観・認知・意味づけの変化は、やがて組織全体の意思決定や関係性へと波及します。
ブリーフセラピーは、その起点となる対話の構造化と現実的な変化設計を担います。
ブリーフセラピーは、『ブリーフセラピーは、問題を『個人の内側』に帰属させるのではなく、
周囲との関係性の中(システム)にこそ問題が存在する』というシステム論とコミュニケーション理論に基づいています。
組織開発で活用する際には「行動科学」「進化心理学」等も参考に、人間の「変わりにくさ」を前提にした実践的理論となります。
それは、
診断型組織開発(問題構造の整理)
対話型組織開発(意味生成・可能性創出)
プロセス・コンサルテーション(支援関係)
を横断的に支える基盤となりえます。
そして、キャリアカウンセリング型組織開発®は、これらの理論を現代組織の文脈で具体化する実践です。
「Interactional Mind Ⅻ(2019)」
国際ブリーフセラピー協会 編集 2019年12月 (株)北樹出版 発行(P10)
家族相互作用 ドン・D・ジャクソン臨床選集
ドン・ジャクソン著 ウェンデル・A・レイ編 小森康永/山田勝訳 2015年4月 金剛出版
「組織心理学」
エドガー・H・シャイン著 松井賚夫訳 1981年(原著第3版) 岩波書店
「謙虚なコンサルティング」
エドガー・H・シャイン著 金井壽宏監訳 野津智子訳 2017年 英治出版
「対話型組織開発 その理論的系譜と実践」
編集者 ジャルヴァース・R・ブッシュ ロバート・J・マーシャック 訳者 中村和男 英治出版(株) 2018年7月
『進化心理学入門』
J. カートライト 著 鈴木 光太郎 訳 河野 和明 訳
本サイトでは、企業内における経営者・管理職の方々を対象に組織の課題と個人のキャリア課題を同時に扱う支援を行っています。
提供しているのは、
組織支援と個人支援(キャリア開発)を分けて考えない「キャリアカウンセリング型組織開発®」というアプローチです。
組織の停滞、マネジメント上の行き詰まり、関係性の問題などに対して、診断型組織開発・対話型組織開発・
プロセス・コンサルテーションの枠組みを用いながら、現場の状況に応じた関わり方や整理の視点を提示しています。
各ページでは、実際の相談場面を想定しつつ、支援の考え方や進め方、背景となる理論を紹介しています。
「何から手を付ければよいかわからない」「対話をしても変化につながらない」といった状況において、
支援を検討する際の判断材料として活用いただくことを目的としています。
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