プロセス・コンサルテーション

― 組織開発における「関わり方」の理論と実践 ―



エドガー・H・シャイン(Edgar H. Schein)によるプロセス・コンサルテーション(Process Consultation)を

組織開発(OD)におけるミクロレベルの理論および実践として整理しています。

 プロセス・コンサルテーションは、単なるコンサルティング技法ではなく、

「支援者がどのような立場で、どのように関わるのか」という、組織開発の根幹に関わる思想を提示した理論です。

 


Ⅰ.プロセス・コンサルテーションの位置づけ

 

 組織開発(Organization Development:OD)は、組織を一つのシステム(Client System)として捉え、
その変化を支援する理論と実践の総称
です。

 その中でプロセス・コンサルテーションは、

  • 組織全体の制度設計や構造改革を扱う「マクロなOD」

  • 組織内で起きている相互作用・関係性・意思決定のあり方を扱う「ミクロなOD」

のうち、後者に位置づけられます。

 1969年、ウォレン・ベニスがマクロな組織変革を扱ったのと同時期に、

シャインは「組織に介入する支援者の関わり方」そのものを問い直しました。

この問いは、その後50年以上にわたり、組織開発、リーダーシップ論、プロセス・コンサルテーションとして深化していきます。

 

プロセス・コンサルテーションとは、

・診断型・対話型いずれの組織開発においても、支援者がどのような立場・姿勢・関係性で関わるかを規定する基盤理論
・診断型ODでも、対話型ODでも「関係性の質」「問いの立て方」「聴き方」を支える

共通のミクロ理論として位置づけられます。


Ⅱ.なぜ「教えない支援」が必要だったのか

 

 シャインが問題視したのは、当時主流であった専門家主導型コンサルティングの限界でした。

多くの組織課題は、

  • 技術的な正解が存在しない
  • 状況依存的で複雑
  • 当事者自身も問題を十分に言語化できていない

という特徴を持ちます。

このような課題に対し、

  • 外部専門家が診断し

  • 解決策を提示する

という関わり方は、

一時的な改善は生んでも、持続的な変化にはつながりにくいという問題が顕在化していました。

 シャインは、こうした課題を後にハイフェッツ(1994年)の理論等も参考に、

「適応を要する課題(Adaptive Challenges)」として整理してゆきます。

 


Ⅲ.プロセス・コンサルテーションの中核思想

 

プロセス・コンサルテーションの中核には、
以下の三つの前提があります。

 

1.問題と解決はクライアントが所有している

支援者は「答えを与える存在」ではありません。
問題を理解し、意味づけし、解決を引き受けるのは、常にクライアント自身です。

2.支援者のあらゆる行為は「介入」である

質問、沈黙、表情、態度、関係の取り方。
それらすべてが、組織に影響を与える介入になります。

3.関係性の質が変化の可能性を決定する

どのような分析や提案よりも、どのような関係性で関わっているかが、変化の成否を左右します。

 


Ⅳ.支援関係のレベルと「謙虚なコンサルティング」

 シャインは、支援関係を以下のレベルで整理しています。

  • Level −1:距離を置きすぎ、関与が成立していない状態
  • Level 1:形式的・表面的な関係
  • Level 2:役割に基づく協働関係(最も望ましい)
  • Level 3:過度に個人的・情緒的な関係

 プロセス・コンサルテーションでは、Level 2の関係性を維持することが重視されます。

そのために必要とされる姿勢が、シャインの言う「謙虚なコンサルティング(Humble Consulting)」です。

謙虚さとは、知識がないふりをすることではなく、「クライアントの文脈を理解しようとする態度」を意味します。

 


Ⅴ.聴くこと・問うことは、すでに介入である

 

プロセス・コンサルテーションでは、

  • 聴き方

  • 問いの立て方

  • 会話の進め方

そのすべてが介入と見なされます。

シャインは聴くことを次のように整理しています。

  • 純粋な傾聴

  • 情報収集としての聴取

  • 関係性を意識した聴取

また、質問についても、

  • 診断的質問

  • 循環的質問

  • プロセスに焦点を当てた質問

が区別されます。

 

ここで重要なのは、「どの質問をするか」以上に、「なぜ今その質問をするのか」という支援者の意図と立場です。

 


Ⅵ.プロセス・コンサルテーションの10原則

 

シャインは、プロセス・コンサルテーションの実践原理として
10の原則を提示しています。

これらは、「何をしてよいか」よりも「何に注意すべきか」を示す指針です。

 

  1. 常に援助的であること
    〖常に支援的な立場に立てるように努めること〗
    (Always try to be helpful)
  2. 常に現状を認識しておくこと
    〖現実の状況に常に関わること(そして、考動する事)〗
    (Always stay in touch with the current reality)
  3. (支援者自身の)無知にアクセスすること
    〖自身の無知領域の部分を意識する事〗
    (Access your ignorance)
  4. 自分のすることはすべて介入である
    〖あなたの行う事はすべて介入となる〗
    (everything  you do is intervention)
  5. 問題も解決策も握っているのはクライアントである
    〖問題も解決策もクライアントの中にある〗
    (It is the client who owns the problem and solution)
  6. 流れに身を任せる
    〖その場の流れ(得意先の企業文化)に乗りながら進める〗
    (Go with the flow)
  7. タイミングが(極めて)重要である
    〖切り返しや介入のタイミングが極めて重要である〗
    (Timing is crucial)
  8. 対決的な介入で好機をうかがう
    (真っ向から対決する介入については、建設的オポチュニズムであること)
    〖積極的な介入については、建設的に前向きの姿勢で行うこと〗
    (Be constructively opportunistic  with confrontive interventions)
  9. 全てはデータの源泉である。誤りは避けられないが、そこから学ぶことが大切である
    〖すべてはデータである:誤解によって生じた反応の失敗はいつも生じてしまうが、それは(次の展開の為の)学びの為の一番大切なリソースとなる。【注;ここでのデータは、心の動きや関係性等の観察された事実のことを指します】〗
    (Everything is data ; Errors will always occur and the prime source for learning)  
  10. 問題がある時には(疑わしき時)は、問題を共有する
    〖疑問があるときは、その問題を(クライアントと)共有(し、確認)する〗
    (When is doubt, share the problem)

(P326-328 《参考*P82》)〖参考:捉え方を追記〗

 

これらは、以下のようにまとめることが出来ます。

  • 常にクライアントの学習を優先する

  • プロセスに注意を向け続ける

  • すべての出来事をデータとして扱う

  • 関係性そのものを扱う

これらの原則は、技法ではなく支援者の立ち位置を規定するものと言えます。

 


Ⅶ.三つの支援モードとその往復

 

シャインは、支援のあり方を次の三つに整理しています。

  • 専門家モデル   (クライアントが問題を理解し、支援者が解決策を把握している支援)

  • 医師―患者モデル (クライアントは問題を理解していないが支援者を信頼し、支援者が解決策を理解をしている支援)

  • プロセス・コンサルテーションモデル

    (クライアントは問題を理解しておらず、支援者も有効な「解決策」を事前に把握していない支援)

重要なのは、これらは排他的ではなく、常に行き来しているという点です。

組織開発においては、

  • 診断が必要な局面

  • 専門知が求められる局面

  • 対話と学習を促す局面

が混在します。

プロセス・コンサルテーションは、その中で関係性と学習を支える軸として機能します。

 


Ⅷ.プロセス・コンサルテーションにおける3つのポイント

 

 シャインは、プロセス・コンサルテーションにおける3つのポイントを次のように提示しています。

クルト・レヴィンの流れを汲む次のような点になります。

  • アクション・リサーチに限られる。
  • 幅広い意味での組織開発に限られ、人間関係を取り扱う。
  • 活動の結果、なんらかの変化がおこる必要がある。

(参考:アクションリサーチは「実社会の問題解決と理論の構築を同時に目指す研究手法」。現場の人が主体となって、

問題解決のための行動を計画・実行し、その結果を評価することで、実践的な知識を生み出します。)

 


Ⅸ.キャリアカウンセリング型組織開発®との関係性

 

 

キャリアカウンセリング型組織開発®は、

  • プロセス・コンサルテーションの関係性思想

  • ブリーフセラピーの対話技法

  • キャリアカウンセリングの個人支援力

を統合し、個人の対話を起点に、組織全体の変化を支援する実践モデルです。

 

 プロセス・コンサルテーションは、「対話の重要性」を明確に示し、

「支援関係の質」や「関わり方の姿勢」を明確にした理論ですが、

  • ・対話をどのように構造化するのか
  • ・問題が維持される相互作用をどう整理するのか
  • ・認知や意味づけにどのように介入するのか

といった具体的なミクロ介入の方法については、必ずしも詳細には示されていません。

 これらを補完する実践理論として位置づけられるのが、「ブリーフセラピー」を主体としてキャリアカウンセリングです。

 ブリーフセラピーは、プロセス・コンサルテーションが示した「関係性を通じて変化を支援する」という思想を

対話と介入の具体技法として実装する理論と捉えることができます。

 

 

▶ ブリーフセラピーの理論的背景と組織開発との関連性については、
ブリーフセラピーの視点」のページで詳しく解説しています。

 


Ⅹ.まとめ

 

プロセス・コンサルテーションは、組織開発における「正解」を示す理論ではありません。

それは、

  • どのような立場で関わるのか

  • どのような関係性をつくるのか

  • 変化を誰のものとして扱うのか

を問い続ける理論です。

 

キャリアカウンセリング型組織開発®は、この問いを、現代の組織と個人の文脈において具体的に実装する試みと言えます。

これは、診断や対話という「方法」を超えて、組織開発そのものを「関係性の営み」として捉え直す視点であると言えます。

 


参考文献)
・「職場ぐるみ訓練の考え方 Organization Development : its nature origins prospects  1969年」
(W.G.ベニス (Warren G. Bennis)著 高橋達男訳 昭和46年 (1971年)7月 産業能率大学出版部 )

 ・「職場ぐるみ訓練の進め方 Process consultation ; Its role in organization development(1969)」

(E. H.シャイン (Edgar H. Schein)著 高橋達郎訳 昭和47年(1972年)1月 産業能率短期大学出版部)

「プロセス ・コンサルテーション ~援助関係を築くこと~」 

エドガー・H・シャイン著 稲葉元吉 尾川丈一訳 2002年3月 白桃書房

「組織開発の探求 ~理論に学び、実践に活かす」

 (中原淳+中村和彦著 2018年10月  ダイアモンド社 P198~P202)

 


本ページの位置づけ

 

本ページは、「プロセス・コンサルテーション(Process Consultation)を

組織開発における「支援関係の基盤理論」として位置づけています。

 

プロセス・コンサルテーションは、

  • 診断型組織開発

  • 対話型組織開発

いずれにおいても共通して必要となる、支援者の姿勢・関係性の築き方・介入の在り方を扱う理論です。

 

本ページは、組織開発におけるミクロレベルの関わり方を理解するための基礎的かつ横断的な位置づけにあります

 

※本ページは、組織開発やコンサルティングの具体技法を解説している訳ではありません。

 

診断型・対話型いずれの組織開発においても共通して問われる

「支援者はどのような立場で関わるのか」
「関係性はどのように変化に影響するのか」

という前提思想を整理することを目的としています。