なぜ「傾聴」だけでは組織内支援はうまく行かないのか?

── 理論・技法・実践の関係
Ⅰ。支援場面での「理論・技法・実践(実技)」の関係

 キャリアカウンセリングの支援場面では、しばしば「理論」と「技法」が区別なく語られることがあります。

例えば、特に組織に関する理論は教科書的には一部でしっかりと触れられてはいるのですが、

個人への支援がメインだからと、一般的なキャリアカウンセリングではあまり顧みられない傾向があります。

 問題は「理論や技法が不足していること」ではなく、「それらが分離して使われていること」です。

 

特に、組織内における支援では、より理論と技法を知ることはより大切になります。

・理論

(経営組織論・組織心理学・カウンセリング理論など)

・技法

(傾聴技法やブリーフセラピー・キャリアコンサルティングに含まれるものなど)

といった形です。

 しかし、実際の支援の現場では、この二つを理解するだけでは支援は成立しません。
最終的に必要になるのは、それらを統合した実践力(実技力)です。

 つまり、理論を理解すること、技法を学ぶこと、そのどちらも大切ですが、それだけでは相談者の課題は解決しないのです。

 


Ⅱ.理論は「ケースを見る切り口」になる

 理論が役に立つのは、実践の場ではケースの見方を与えてくれる点です。

相談者は内面のシステムも含めて各種のシステムに関わっていますが、

その支援ではどのシステムを取り扱うかが大切になります。

支援者が、主に取り扱うシステムを決め切らないと、相談者の語りにいつまでも引っ張られすぎてしまい、

ただ聴いているだけにもなってしまいます。

 例えば、経営組織論や組織心理学の視点を持つと、

  • この問題は組織構造の問題なのか
  • 役割の問題なのか
  • 評価の問題なのか
  • 意思決定構造の問題なのか

といった切り口が見えてきます。

 理論がない状態では、相談内容は単なる「出来事の集合」に見えてしまいがちです。

しかし理論を持つことで、ケースの中にある構造や背景を整理することができるようになります。

その中で、この相談者のどのシステムにメインに関われば、相談者の求める状況に変化をさせることができるのか?

という点を面談の最初の方から明確にすることが出来ます。

 この視点がないと延々とインテークで1時間近く相談者の話を聴いても、なおこの後どう関われば分からない。

その為、支援者の状況把握の為の質問を繰り返して行う。そこから出てくる話をなお聴き続ける。

結果的に、相談者の相談内容には変化がなく、話せてすっきりとしたことで良しとする支援にもなってしまいます。

 一方で組織内の支援では明確な組織的な問題意識があることも多いので、

このような支援の形は不向きな場合も多くなってしまいます。

 この理論という切り口がない状態では、どこ(どのシステム)に介入すべきかの意思決定ができず、

結果として「とりあえず聴く」という対応に収束しやすくなります。

 


Ⅲ.技法は「どう関わるか」のノウハウになる

 一方で、理論だけでは支援は進みません。

相談者との対話の中で、

  • どう質問するのか
  • どこで整理するのか
  • どのタイミングでどのような意味づけを行うのか

こうした関わり方の具体的な方法が必要になります。

ここで役に立つのが、ブリーフセラピー・キャリアコンサルティング理論の中に含まれる「技法」という視点です。

技法は、支援者が相談者とどのように関わるかという実践的なノウハウの基礎を与えてくれます。

 つまり、技法は「どのタイミングで、どのような関りを行うか」という意思決定の選択肢を支援者に与えます。

 


Ⅳ.理論だけでも、技法だけでも支援は難しい

 実務の現場では、次のような状態が見られることがあります。

  • 理論は学んでいるが、実際の対話の進め方が分からない
  • 技法は学んでいるが、ケースをどう見るかの視点がない
    結局どのように対話を進めて良いかが、良く分からない

特に後者の場合、Ⅱ(理論)でも触れましたが、

  • 方向性が定まらないまま傾聴を続ける
  • 質問やリフレクションを繰り返す

といった形になりやすく、

結果として相談者が「話は聞いてもらえたが、何も整理されなかった」と感じてしまうこともあります。

これは、技法の問題というよりも、ケースを見る切り口が不足している状態と言えるかもしれません。

 つまりここで起きているのは、「理論・技法・実践が分離していることによる支援者の意思決定の不在」と言えます。

 


Ⅴ.実践(実技)は「理論と技法の統合」で生まれる

実際のキャリアカウンセリングでは、

  • 理論
  • 技法

この二つを切り離して使うことはほとんどありません。

例えば、

  • 組織の構造を整理する(理論)
  • その整理を相談者との対話の中で進める(技法)

という形で、二つは同時に働きます。

 つまり実践(実技)とは、理論を切り口としてケースを理解し、技法を使って対話を進め、

相談者自身の意味づけと意思決定を支えるこのプロセスそのものと言えます。

 これにより、支援者は「何を見るか(理論)」と「どう関わるか(技法)」を

 

同時に判断しながら支援を進めることが可能になります。

 


Ⅵ.組織開発キャリアコンサルタントとしての実践

 支援の中では、

  • 経営組織論
  • 組織心理学

といった理論を、ケースを見る視点として用いながら、

  • ブリーフセラピー
  • キャリアコンサルティング

の理論に含まれる対話技法を使い、相談者との整理を進めていきます。

 最終的に目指しているのは、

「答えを与えることではなく、相談者自身が状況の意味を整理し、意思決定できる状態」

をつくることです。

 組織開発キャリアコンサルタントの支援の視点では、

ここでの問題を「理論・技法・実践のズレ」ではなく、「支援者の意思決定が機能していない状態」として捉えます。

そのため支援においては、

  • このケースをどの理論で見るのか
  • どのレイヤー(個人/関係性/構造)に介入するのか
  • どのタイミングで何を行うのか

を整理しながら、「支援そのものの意思決定」を明確にして進めていきます。

 理論と技法は、そのための道具です。

それらが実際の支援の場での対話の中で統合されたとき、

初めて支援としての「実践(実技)」が成立します。

これにより、支援の方向性が明確になり、相談者の意思決定に一貫した変化を生み出すことが可能になります。

 

 


 

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