経営学の基礎と経営の実践


経営学の基礎と経営の実践

しっかりとした基礎・基本に基づく実践の検討

⇒今回は科学的管理法の思想(テーラーリズム)の正しい理解まで

 

人の行動と立場

1.立場と行動

「生物の行動」

 

動物の行動   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━   人間の行動

・動物行動学/エソロジー(Ethelogy)          行動科学(Behavioral Science)

動物の行動を対象とする科学               人間の行動を対象とする科学

ex)コンラート.Z.ローレンツ               ⇩

オーストリアの動物行動学者           組織の行動科学(Behavioral Science of Organization)

動物行動の観察

⇩                  組織行動論(Organizational Behavior)       

「刷り込み」(imprinting)の発見

 ○

1)行動 (行動概念 = 社会科学上。 ○概念;頭の中に浮かぶもの)

= 人間の行動(human behavior)

生きている証 ex)呼吸する・食べる・見る・話す・聞く・歩く・走る・考える・眠るetc=現象・事実

 

ふたつの捉え方 ⇒ 行為概念と行動概念

人間の活動(activities)━━━━ 行為( action) ;

活動の主体である自己が考動を内省  (introspection)によって把握した時に得られる概念(Concept)=活動の「主観的」把握

 

━━━━ 行動 (behavior); (= 表出した活動)

活動主体以外の他者が外部からの観察(obserbation)によって把握した時に得られる概念=活動の「客観的」把握 

 

2)立場

「立場」;その人が置かれている地位や状況

  =役割(role)

 

経営学;作業者の作業行動から出発

ホーソン実験

照度と疲労の関係;どの照度が良いか?

 

立場の違いによる行動の違い

「立場をわきまえない行動」

=役割期待から外れてしまう

 

社会的状況

立場の違い ━━━→ 行動の違い

 

個人間の立場の違い ━━━→ 個人間の行動の違い

個人Aの立場 ━━━→ 行動

個人Bの立場 ━━━→ 行動  ⇒二つの行動は違ってくる

 

時間の経過に伴う個人の立場の変化

⇒個人の行動の変化

 

時間

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━→

人の立場✕ ━━━━━━━━━━━━→ 立場Y

↓                  ↓

 行動1                行動2 ⇒ 立場の違いが行動の違いにつながる 

2.今回のテーマについて

テーマ;経営の基礎と経営の実践

(science)    (practice)

 

現代の日本企業の経営の実態と教育が行われてきた経営学の内容との乖離

経営学を勉強した事をない人が経営を担っている現状

⇒経営学と経営の現状に際し

「現代人にとって必須の科学である経営学の基礎を学ぶ。

 経営学が正しく理解されておらず、経営の実践に有効に活用がされていない現状の中で、

 経営学の基礎を正しく学び、経営の実践に応用することを考察する。」

 

3.科学と実践

経営学=経営についての学問/科学

科学(science) ⇒講義と狭義があり

(広義の)科学 = 学問(scholarship)

一定の原理によって体系化された知識(学問的知識・経験的知識)と研究方法の総称

※学問をする人 = 学者(scholar) ≠ 研究者(researcher)

 

科学の2分類と3分類

 

科学(science) 人文科学(humanities)人間の本性を解明する科学 人文科学

社会科学(social science)

社会現象を解明する科学

自然科学(natural science)自然現象を解明する科学

 

2分類⇒人文科学・自然科学

3分類⇒人文科学・社会科学・自然科学

 

 

 

実践(practice)

「考えを実際に行うこと」

自分で実地に行い、行為・動作に表す事、実行

「理論に対して、行為・行動・態度など」

=実際/現実/事実(reality) → 現象

 

 

Cf  社会人講座 (役に立つかどうか) ≠ Business School

→就職を考えると役に立つこと

科学的知識は必要ない。実践的知識を学びたい」    

||           ||  

||          役に立つ   

役に立たない      

(中世から近代に向けての近代化において科学は役に立った)

⇔科学の進歩 ⇒ 実践の高度化

→組織革命(ケネシィ・ボールディング) 現代社会は組織社会だ

科学(technology)

科学技術 ex 火起こし ← 科学でない

科学を技術に応用することで、社会は進歩した

 

4.経営学と経営の実践

 

現象 = 主

|| 関係

科学 = 従

 

現象(自然現象(→自然科学)・社会現象(→社会科学) ━━→ 科学(理論・実証)

⇒現象の「究明」 ①原理・原則・法則の発見

(principle/law)=帰納

  ②応用=演繹

社会現象としての経営現象(→経営の改善) ━━(究明)→ 経営学 = 社会科学

①原理・原則・法則の発見

②実践への応用(経営の実践) ⇒経営の改善=よりよい街になってゆく

 

Ⅰ.経営学 (訳語 ⇐ Business Administration)≒ Management

MBA =Master of Business Administration

上智大学 経済学部 経済学科 (Department of Management, Faculty of Economics)

 

1.上智大学経済学部経営学科の沿革

1913年(大正2年) 上智大学 創立 (15名でスタート)

3科  ・哲学科

・独逸文科

・商学科

1920年(大正9年)商学部商学科

1948年(昭和23年)経済学部商学科

1968年(昭和43年)経済学部経営学科に名称変更 (商学教育→経営学教育 = 教育内容の変更)

現在に至る

 

2.商学と経済学と経営学

学部・学科名称; 商・経済・経営学 ⇒ 異なる学問 (discipline)

商学 :Commercia Science (商学=実務知識と経営学=科学は違う)

経済学;Economics 

経営学;Business Administration ≒ management

「経営学とは何かを理解すること = 経営学の基礎の基礎」

 

1)明治大学の商学部と経営学部

1904年設立 日本の私立大学発の商学科

創設者;佐々木吉郎(1897~1970)

明治大学商学部卒業

1927年(昭和2年) ベルリン大学留学(3年間)

経営経済学 = ドイツ経営学(経済学の1分野)

(商業学=商学 → 科学でない ━ 大学教育で相応しくない)

1953年(昭和27年) 経営学 初代学部長 

日本の私大初の経営学部 ⇒ 商学部と経営学部を併設

「‥‥‥‥その佐々木が中心となり、戦後の経営学の隆盛に鑑み、商学部から分離独立し、『商学』と区別される『経営学』すなわち製造業やサービス業の経営管理を対象とする専門の学部を創設したのである。」

(明治大学ホームページ)

1960年(昭和35年) 明治大学総長

 

官立

1875年 商法講習所 (森有礼の私塾)

1900年 東京高等商業学校

  旧制 東京商科大学

一橋大学 商学部 経営学科

商学科

 

1902年(明治35年) 神戸高等商業学校

   神戸商業大学

1949年(昭和24年) 神戸大学経営学部

(商学と経営学の混同が発生する)

 (※欧州の総合大学での2つの要件 ⇒ 自然科学 ・ 神学)

 

2)商学の起源

・商学生成の起源

シルクロード(Silk Road)「絹の道」交易

 

主要交易路(隊商路)= シルクロード

南方路

東方世界(インド・中国)━━ 中央路 ━━→ヨーロッパ(ローマ)

北方路

━━━━ 東方世界の物差し ━━━━→

絹・胡椒(香辛料)・茶・陶磁器etc ≒ 金   

 

※7世紀前半以降に、イスラム教の発展

地中海貿易(イスラム教徒)による南海貿易

⇒イタリア諸都市による東方貿易 ⇒ 西ヨーロッパ各地への再輸出

オスマン帝国による地中海制覇(16世紀に最盛)

=イスラム

陸路

東方世界 ━━━━━━━━━━━━━━→ヨーロッパ

海路

 

大航海時代

15世紀から17世紀前半

 ヨーロッパに人々が(主としてポルトガル・スペイン)、アフリカ・アジア・アメリカ大陸に至る航海路を開拓し、世界各地に進出していった時代。

 健康と不屈の精神そして才覚と幸運に恵まれれば、貧者や下層民であっても一夜にして王侯貴族に匹敵するほどの富が転がり込んだ時代=ベンチャー(venture)

・ヨーロッパにおける商学の発達 = 商学の起源

「‥‥‥‥取引の増大により会計帳簿の方法の合理化が必要になって来た。ジェノバ・フィレンツェ・ヴェネチアの銀行家たちは、早くも1340年に複式簿記と同じものを使用していたが、フランシスコ会の修道士であるルカ・パチリオが1494年に出版した『算術・幾何および比例に関する全集』において、初めてその事を書き表した」(ダニエル・レン「マネジメントの進化」)

商学の生成(ヨーロッパ) 16世紀~17世紀

||

「商業技術」教育 ≠「商業科学」教育

商人を養成する為の教育

その為に必要とされる各種の技術的知識の教育

商品知識・簿記・商業通信・商業算術・商法・保険・交通・銀行取引・広告宣伝(マーケティング)etc

商業教育の為の学校

中等教育:商業学校(実業学校) → 商業高等学校

高等教育:大学の商学部・商学科

     ビジネス専門学校 etc

 

ex)A. カーネギー(Andrew Carnegie, 1835~1919)

貧しいスコットランド移民の子として育ち、アメリカ資本主義の発展期に鉄鋼業で成功して一代で巨万の富を築いた。「鉄鋼王」と呼ばれる代表的企業者(entrepreneur)。

慈善家としても世界的に有名。

『カーネギー自伝』

「13,4歳の頃、児童労働者として働きながら、友人と一緒に夜学に通って複式簿記(商業技術)を学ぶ」

 

3)経済学の起源

経済学生成の背景

中世

ヨーロッパにおける封建制(feudalism)の崩壊

近代

資本主義(capitalism)の勃興と発展

 

封建的経済秩序 ⇒ 資本主義的経済秩序

※資本主義:

経済主体の自由な経済活動が、市場の働き=「見えざる手(inbisivle hand)」によって調整され、最適な資源配分が実現される経済体制

究明=経済学の出発点  経済の活性化 → 経済成長

=不思議な現象 ← 知的好奇心 → 科学

 

Adam Smith, An inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations,1776

『諸国民の富の性質と原因の探求』

『諸国民の富』

『国富論』

資本主義経済(経済)の原理・原則・法則を究明する社会科学

 

アダム・スミス(1723~1790)

「イギリス(スコットランド)の経済学者。古典派経済学の始祖。

主著『国富論』は、19世紀の自由主義時代に、世界各国の経済政策の基調となる。」(広辞苑より)

「英国の社会科学者。古典派経済学の始祖。1751~1763年グラスゴー大学の教授(倫理学→道徳哲学)

1787年 同大の総長。主著『国富論』(1776年)は、経済学最大の古典である。」(マイペディアより)

「イギリスの哲学者・経済学者。彼の有名な著作である『諸国民の富の性質並びに原因に対する研究(国富論)』(1776)は、資本の性質とヨーロッパ諸国における工業および商業の歴史的な発展を研究した最初の試みであり、これによって近代経済学の基礎を確立した。」(エンサイクロペディア総合百科事典より)

 

3)経営学の起源

経営学生成の背景

伝統的農業生産中心の社会 ━━━━━→ 近代的工業生産中心の社会

=産業化(工業化)(Industriazation)

第一次産業(農業)から第二次産業(工業)への社会の変化

(ex)労働人口の移動

 

先進各国の産業化

W.Wロストウ(経済学者)による計量分析 ⇔ 経済史(定性的分析)

 

イギリス (1783~1802) 世界初の産業化 = 「産業革命」

フランス (1830~1860) 1855年パリ万博 1867年パリ万博(→渋沢栄一「日本資本主義の父」)

(ベルギー)

アメリカ (1843~1860) → 南北戦争(1861~1865) → 金ぴか時代:高度経済成長期

ドイツ  (1850~1873)

(ロシア)

(日本) = (日清戦争と日露戦争の間)

 

産業化の影響

産業化 = 工業化(農業中心社会 → 工業中心社会)       

|

⇩ 急速な経済成長(economic groth)━━→近代企業(modern enteprise)の成立

工業の急速な発達               ⇩

||                    急激な規模拡大の増大

工場制機械工業               および 経営規模の増大

⇧                    ||

「マニュファクチュア」=工場制手工業    経営の複雑化

⇧                    ⇩

(問屋制手工業)              プロフェッション(profession)としての経営者・管理者

⇧                    ➔高等教育機関における経営者教育・管理者教育の必要性

家内工業                   ⇩

 管理(management)に関する知識を体系化する養成

||

経営学(Business Administaration)の生成

産業化以降に誕生した大規模な近代企業(modern enterprise)の経営に(Business Administaration)に関する科学:

20世紀初頭のアメリカとフランスにルーツを持つ経営の科学

 

日本の大学における経営学教育

戦前:ドイツからの輸入学問

ドイツ経営経済学 = 経済学の一分野 → 衰退

 H.ニックリッシュ     ↓

 E.シューレンバッハ   経済学部経営学科

 E.グーテンベルグ

戦後:アメリカからの輸入学問 ~ 現在

アメリカ経営学

(ex)明治大学の経営学部・・・・

「・・・・製造業やサービス業の経営管理(mnagement)を対象とする・・・・」

 

アメリカ経営学の二つのルーツ

アメリカ;F.W.テイラー「科学的管理法」

フランス:F.ファヨール「管理原則論」

⇒上記の二つは、20世紀初頭にルーツを持ち、アメリカで発展

⇒世界に普及

 

Ⅱ.アメリカにおける経営学のルーツ

1.産業化以前のアメリカ社会の特徴

植民地時代 → 独立建国 = アメリカ合衆国

17世紀前半~18世紀後半 = 伝統的アメリカ社会

 

特徴

・個人主義(individualism)

⇒民主制(democracy)

トクヴィル『アメリカのデモクラシー(民主政治)』

・プロテスタントの宗教倫理

マックス・ウェバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

=「古き良きアメリカ」 = 倫理的社会

➔ケネス・E.ボールディング『組織革命』

 

2.産業化以降のアメリカの変化

1843年~1860年 産業化(工業化)

M.C.  ペリー『ペリー提督 日本遠征記』

1861年~1865年 南北戦争

「金ぴか時代」:1865年~1890年半ば

(The Gilded Age)           ⇐資本主義経済特有の過剰生産性恐慌の発生

マークツエイン命名(1873年出版)

 急激な工業の発達に伴うアメリカ資本主義経済の成長の下で、飽くことなき利潤追求・物質主義・政治的腐敗・富の誇示・俗物根性が横行した時代

=物質文明の発達と精神文化の衰退(金ピカ時代)

 

3.盗賊貴族の登場

盗賊貴族/泥棒男爵(robber barrons)

あらゆる手段と方法を用いて利潤を極大化を図る企業者(entrepreneur) ≠ 企業者

⇔ 産業の将帥(captain of industry)

積極的な企業活動によって、生産性の向上・市場の拡大・雇用の増大・慈善活動をもたらすビジネス・リーダー

ex)トーマス・メロン(銀行)

J.P.モルガン(マネートラスト)

コーネリウス・ヴァンダービルト(鉄道)

ジェイムズ・フィスク(鉄道)

リーダント・スタンフォード(鉄道)

アンドリュー・カーネギー(鉄鋼)

ジョン・D.ロックフェラー(石油)

ヘンリー・フォード(自動車)  et.al。

「片手で悪事を働き、もう一方の手で事前を施す」

=「アメリカン・ドリーム」の体現者

 アメリカ合衆国における均等に与えられる機会を活かし、勤勉と努力によって勝ち取ることが出来る成功

⇧    ≠一攫千金

『独立宣言』における「幸福追求の権利」

 

企業者:危険を顧みず、積極的に企業活動を行い、勤勉と努力によって成功した「アメリカン・ドリーム」の体現者

 

4.経済成長と企業の大規模化に伴う諸問題

産業化から約半世紀

アメリカがヨーロッパ先進工業国を抜き、世界一の工業国に

➔諸問題

・無秩序な生産規模の拡大 = 資本主義経済体制の宿命 ⇐ 規模競争:大量生産・大量販売

⇒ 独占・景気変動(好況➔不況➔恐慌➔好況)

・未熟練労働者による工場生産 ⇐ 供給源:移民 = 「新移民」(1907年128万人が年間最高数)

☆アメリカの移民

時期区分

1.入植・植民地時代(17~18世紀)

イギリス・北アイルランド・オランダ中心のヨーロッパ人

2.旧移民( ~1180年)

西ヨーロッパ人:ドイツ・スカンジナビア・南アイルランド

3.新移民(1180年代~第2次世界大戦)

東・南ヨーロッパ人:イタリア・ユダヤ・スラブ

4.新々移民(第2次世界大戦後~ )

アジア・ラテンアメリカ・難民

 

旧移民(宗教的理由/政治的理由) ━━→ 新移民(経済的理由)

主に西欧・北欧(英語圏)から      主に南欧・東欧(非英語圏)

高学歴・富裕層             ⇒東保工場地帯に定住

⇒南部・西部の開拓            「英語が話せない未熟練工場労働者」

大農園主/大牧場主

・貧富の格差拡大とそれに対する不満と19世紀末の慢性的失業

➔過剰な労働組合運動 ➔ 険悪な労使関係

・工場における低い作業能率 (成り行き管理)

 

5.19世紀末の工場の課題と「能率増進運動」

「能率増進運動」

アメリカ機械技師協会(ASМE:American Society of Mechanical Engineers)が母体となって推進された工場生産の作業能率を高める為の運動

ASМE所属の機械技師 F.W.テーラー(科学的管理の父)

「科学的管理法」 = アメリカにおける経営学のルーツ

 「成り行き管理」から「科学的管理法」へ ⇐ 専門職能としてのマネジメント活動の一環

参考)「経営のフィロソフィー」 企業の社会的責任シリーズⅠ

 

Ⅲ.F.W.テイラーの「科学的管理法」に続く。