原著第3版 著者エドガー・シャイン
新訂 現代心理学 入門
訳者 松井賚夫 岩波書店 1981年3月
組織開発は行動科学を基礎として行われるとされていますが、その行動科学とも密接な関係がある「組織心理学(経営心理学)について、プロセスコンサルテーション(ミクロ組織開発)の著者でもあり、組織心理学を確立したとされるエドガー・シャインの書籍をご紹介したいと思います。
組織心理学は現代のマネジメント・組織開発の基礎であるとともに、臨床心理士試験の項目となっている心理学の一分野です。
エドガー・シャインの「組織心理学(経営心理学)」については再度のブログ投稿となりますが、今回は原著の内容のご紹介になります。
また、解説については、
「経営心理学 第2版」 エドガー・H・シャイン著 尾川丈一他監訳者 (株)プロセス・コンサルテーション発行 2023年9月」の内容及びそれに際して事前に行われた尾川先生による講義(前回投稿)内容も反映をしております。
また、この講義の内容も踏まえた細かい解説内容投稿しますので、各章毎にリンクを随時貼っています。
まずは、目次(文中の小細目を含む)を確認し、まずは全体を俯瞰したいと思います。その後でそれぞれの章のポイントについての整理をしてゆきたいと思います。
本書では下記の目次にあるように、産業心理学と対比させながら組織心理学の人間の心理学的側面を重視する特徴を明らかにした後、「人間」「人間と組織」「モチベーション」「管理者の人間観と組織管理」「リーダーシップ」「組織への参加」「組織の中の集団的側面」「公式組織と非公式組織」「組織構造と組織の動態」「組織の有効性」等についてまでの幅広い内容が含まれています。この中にはシャインが提唱した「キャリア・コーン」や特に「心理的契約」「組織社会化」についてはその重要性が特に強調をされています。
第Ⅰ部 個人と組織:組織心理学
1 組織心理学とはどのような学問か
組織心理学は複合的視点にたつ
組織心理学はどのように発達をしてきたか
システム的・発達的背景を促した背景
本書の構成と各部の狙い
2 組織における人間問題
組織とは何か
調整
共通目的
分業
統合
組織の当面の定義
公式組織モデル
組織はどのように作られるか
募集、選抜、訓練、社会化および配置
人的資源の活用と管理
心理的契約
権力と支配
依法的支配の根拠
部門間の調整と統合
組織の有効性、存続、成長
要 約
第Ⅱ部 モチベーションと人間性についての考え方
3.人間性:なぜとらえにくいのか
生物学的誤信
社会学的・状況的観点の必要性
発達的観点
組織的観点
条件適応理論
要約
4.管理者の人間観
はじめに
Ⅰ「合理的経済」人の仮説
X理論
この仮説から生まれる管理的戦略
「合理的経済」人の例証
Ⅱ「社会」人の仮説
ホーソン実験
タビストック研究所の炭鉱における研究
初期の研究の含意
この仮説から生まれる管理戦略
「社会」人の例証
Ⅲ「自己実現」人の仮説
Y理論
この仮説から生まれる管理戦略
「自己実現」人の例証
要 約
5.モチベーションの発達的・状況的観点
はじめに
人間性の生物学的起源
社会化と幼少時の発達の衝撃
職業選択と職業経歴の発達
ホランドの職業経歴理論
スーパーの発達理論
キャリア・アンカー
基本的欲求理論の訂正
職務価値と職務次元
職務寿命
要 約
6.人間性の複雑さ
「複雑」人の仮説
管理への含意:条件適応理論
「複雑」人の仮説の例証
結論:モチベーションと心理的契約の展望
第Ⅲ部 リーダーシップと参加
7.なぜリーダーシップの分析は難しいか
問題1:「リーダー」の確認
問題2:「リーダーシップ」の範囲
問題3:文化的文脈とは何か?
問題4:何が課業か
問題5:リーダーシップとフォロアーの間はどのような発達段階にあるのか
リーダーシップの為の診断的枠組
8.リーダーシップと参加に関する諸理論
リーダーに焦点をあてた理論 : フィドラーのリーダー適合理論
課業・状況に焦点をあてた理論 : ブルームの条件適合理論
管理者の決定スタイルのタイプ
決定の質を損なわない為のルール
下された決定の了解を損なわない為のルール
部下に焦点をあてた理論 : ハーシィとブランチャードの状況的リーダーシップ理論
リーダー行動に焦点をあてた理論: アージリスのモデルⅠおよびⅡ
要約1:課業志向 対 人間志向
要約2:専制主義、相談、参加または委譲
機能の分布としてのリーダーシップ
意思決定領域:仕事そのもの、相互作用、組織の政策
結 論
第Ⅳ部 組織の中の集団
9.集団の構造と機能
集団の定義
組織内の集団のタイプ
公式集団
非公式集団
非公式集団のタイプ
集団が果たす機能
集団の公式組織上の機能
集団の心理学的・個人的機能
複合ないし混合的機能
組織目標と個人的欲求の統合に影響する要因
環境的要因
メンバーシップ要因
力動的要因
製油工場の労使紛争
リーダーシップと組織的要因
集団の発展と訓練
集団の活用が不適切な時
集団による問題解決と個人による問題解決
集団の冒険と個人の冒険
集団思考
要 約
10.組織における集団間の諸問題
集団間の競争がもたらすもの
A.互いに競争をしているそれぞれの集団の《中では》どのようなことが起きるか。
B.互いに競争をしている集団の《間には》どのようなことが起こるか
c.《勝利集団》にはどのようなことが起こるか
D.《敗北集団》にはどのようなことが起きるか
集団間の競争から生まれる好ましくない結果を緩和すること
共通の敵を設ける
競争をしているリーダー又は下位集団間で相互作用させる
両集団を超えた目標を与える
実験室的集団間訓練
集団間の葛藤の防止
統合の問題:その展望
第Ⅴ部 組織構造と組織の動態
11.複雑な開かれたシステムとしての組織
はじめに
複雑さの源
初期のシステムモデル
ホマンズのモデル
タビストックの社会・技術モデル
働きがい運動
重複集団、役割組合せ、連合
リカートの重複集団モデル
カーンの重複役割組合せモデル
サイアート、マーチ、サイモンの「企業の理論」
新構造主義者:公式組織理論構築への新しい動き
環境と組織の相互作用に焦点を当てた理論──トンプソンとダンカン
組織目標に焦点を当てたモデル──マーチとサイモンおよびペロー
技術と組織の課業に焦点をあてたモデル
ペローの統合的枠組み
要 約
12.能動的で発展するシステムとしての組織
はしがき及び目的
動態的モデル
分化と統合の効果に焦点を当てたモデル:ローレンスとロッシュ
情報処理に焦点を当てたモデル──ガルブレイスの設計理論
要約
組織の診断に焦点を当てたモデル──コターの組織診断
「組織」の再定義を目指して
13.組織の有効性の増進
組織の有効性とは何か
組織の対処
順応的対処のサイクル
順応的対処のサイクルにおける問題と陥偵
組織変革と組織開発
アクション・リサーチ
計画的変革の理論
段階1:解凍──変化へのモチベーションを作ること
段階2:変化すること──新しい情報と新しい見方に基づく新しい態度と行動を発展させること
段階3:再凍結:──変化を定着させること
組織開発におけるコンサルタントの役割:プロセス・コンサルテーション
結論:効果的な対処の為の組織の条件
それでは、各章毎に要約をまとめてゆきたいと思います。
第Ⅰ部 個人と組織:組織心理学
1 組織心理学とはどのような学問か
組織心理学は複合的視点にたつ
組織心理学はどのように発達をしてきたか
システム的・発達的背景を促した背景
本書の構成と各部の狙い
第1章では 「組織と個人の関係性とは何か」 を扱います。
冒頭で、ぜひ次の問いを投げかけてください:
「個人のキャリアは、組織というシステムとどう影響し合っているのだろう?」
この問いが、章全体・組織心理学全体を捉える“レンズ”となります。
組織心理学とは、組織と個人の相互作用を心理学的に理解する学問です。
基礎的には、産業心理学(Industrial Psychology)に対して、組織心理学(Organizational Psychology:シャイン)という構造になっています。この2つを統合するものが経営心理学の位置づけになります。この章では、産業心理学 → 組織心理学への転換 が最重要ポイントになります。
産業心理学は外部環境は「固定」的で、
• 外部環境は安定している
• 個人は「機械の一部」
• 主な関心は 評価・選抜・配置
この世界では、“修理・治療モデル” が中心となります。
対して、組織心理学では外部環境は「可変」であり、本書の世界観では:
• 外部環境は絶えず変化する
• 個人は成長する主体
• 支援は 発達・動機づけ・協働
となっており、「修理の時代が終わり、発達の時代に入った」こと。これが大きなパラダイムシフトになります。
「個人志向的な産業心理学からシステム・発達志向的な組織心理学への進化」と表現されています。(P9)
「組織心理学は複合的視点にたつ」と表現をされているように、「組織の問題を個人及び組織の両面から分析をする上で役立ついくつかの概念・調査結果及び見方を読者に提供する」というのが本書の主題になっています。
また、キーワードとしては個人と組織の関係性の中での各種の「非対称性の存在」が重要な点になります。
本書の構成と各部のねらいが、この章の最後にまとめられていますので、引用をします
本書は5部に分かれている。
第Ⅰ部では、個人と組織の関係が述べられ、その分析に役立ついくつかの概念が示されている。
第Ⅱ部では、これまで管理者や心理学者を悩ませてきた問題─人間性とモチベーションが扱われている
人はなぜ働くのか?
どうすれば人々に適切なモチベーションを起こさせることが出来るのか?
人は仕事や職業生活に何を求めているのか?
人間性について、一般化できるのか?
動機や欲求は、年齢や発達段階によって変わるのか?
─こうした問題が取り扱われている。
第Ⅲ部では、心理学で大変注目を浴びてきたもう一つの問題、つまりリーダーシップの問題が取り扱われている。
管理者やリーダーはどのように振舞えば、部下に個人として、また集団として成果を上げさせ、高いモチベーションを持たせ、個人的成長をさせることが出来るのであろうか?
第Ⅳ部では、集団の問題が取り扱われる。
集団とは一体何か?
集団はそのメンバーに対してどのような役目を果たすのか?
なぜ組織のうちに様々な集団が生まれるのか?
どうすれば集団をメンバーの為に役立つものにし、また良い集団間の関係が作れるのか?
どうすれば集団間の関係を組織効率を上げる上に役立たせ、また個人の欲求をみたすことが出来るのであろうか?
第Ⅴ部では、トータルシステムとしての組織に目を移す。
ここで我々は、まず組織とその環境の関係を明らかにするいくつかの分類法と理論を検討し、
次に、組織をさらに有効に働かせるためにはどのように組織は設計されるべきかという普遍的な問題について考える。
また、有効性と健康という概念を個人及び組織の変容という面から検討をする。
最後に絶えず変化してやまない環境への「対処」の過程をどう考えるかという、組織心理学にとっても社会にとっても含みの多い問題を取り上げるが、その一つの答えは、計画的変革と組織開発及び組織開発の根底にあるアクションリサーチという考え方で示されてきている。本書はこの変化の過程を述べることによって締めくくられる。
本書において著者が願ってやまないことは、読者が組織現象に対して更に診断的観点を持たれるように援助することである。
その為には個人、集団及び更に大きなシステム内で起こることを更に良く理解することを目指さねばならない。
我々は、まだ実際の行動に役立つような強固な原則をまだ必ずしも多く持ってはいないが、
しかし、組織でおこる完全な理解と診断能力こそ、いかなる場合にも、行動の基礎として基本的に重要なものである。
2 組織における人間問題
組織とは何か
調整
共通目的
分業
統合
組織の当面の定義
公式組織モデル
組織はどのように作られるか
募集、選抜、訓練、社会化および配置
人的資源の活用と管理
心理的契約
権力と支配
依法的支配の根拠
部門間の調整と統合
組織の有効性、存続、成長
要 約
第2章は一歩進んで、“組織とはそもそも何なのか”、そして
組織の中で人がどのように関わり合い、働き、成長し、対立し、調整されていくのか
というテーマを扱います。今回の章は、「組織を見る目」をつくることが狙いになります。
組織とは何か ― まずは組織の基本定義から確認していきましょう。
◆バーナードの組織定義
バーナードは、組織を次のように定義しました。
「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力のシステム」
ポイントは「人」ではなく「活動」が調整される点です。
◆ ここが重要!
- 組織は“人の集まり”ではなく、“活動のシステム”
- 調整される対象は従業員ではなく、活動=タスク
- だから、計画・規則・役割・階層が必要になる
◆ 公式的組織と非公式的組織
バーナードは、組織を理解する際に必ず
「公式的組織」と「非公式的組織」 の両面を見る必要があると述べました。
◎ 公式的組織(formal organization)
- 経営計画、職務、組織図、指揮命令系統
- いわゆる会社の“正式な構造”
◎ 非公式的組織(informal organization)
- 給湯室での会話
- 喫煙所の雑談
- 部活動やサークル、OB会
- 飲み会でのネットワーク
◆ シャインの視点では?
組織とは何かから始まって、公式的モデル(キャリアコーンも含まれる)、個人とのかかわり(心理的契約等)、組織の有効性、存続、成長に関してまとめられている。
「組織の有効性、存続、成長」では、「人間問題に関して最後に論ずべきことは、組織とその環境の調整である。」とし、
「最後に、組織の柔軟性は重要な地位にある管理者が、組織の発展の為に組織心理学の知見を活用する態度と技能を持つことによって高まるであろう。
心理学が発展するにつれて、組織の健康と有効性は最終的には組織自体の問題を自ら診断し、独自の解決にかかる能力にかかることがますますはっきりとしてきた。
計画的変革の推進者は必然的に重要な地位を占める管理者であり、これらの人々はシステム的組織間を持ち、組織の問題の複雑さを診断し、必要に応じて外部の人材を活用し、組織内の他の人たちをもそのように教育しなければならない。
《すべての組織は、重要な地位にある管理者たちにどうすればこの様な態度と技能を身に着けさせることが出来るかという問題に直面しているのである。》
「要約」の部分の内容をご紹介したいと思います。
要約
この章では、公式組織、およびその内に生まれる人間問題の根底にある主要な考え方を説明した。
これらの問題は相互に関連し合い、重複もしてくるが、大まかに分類すると以下のカテゴリーに分けられる。
1)組織を作り、設計する問題。
2)募集、選抜、訓練、社会化、配置の問題
3)個人と組織間の心理的契約の性質から発生する諸問題、
すなわち、どのように権限を委譲し、
また個人は組織に影響を与えることが出来るかという問題
4)複雑な組織の各部門間の統合の問題
すなわち、公式組織内の各種非公式組織間のコミュニケーションの改善の問題
5)急速に変化する組織の中で、
組織が有効性を保ち、生き永らえ、成長し、変化に順応しかつそれを管理する能力を育てる問題
第Ⅱ部 モチベーションと人間性についての考え方
3.人間性:なぜとらえにくいのか
生物学的誤信
社会学的・状況的観点の必要性
発達的観点
組織的観点
条件適応理論
要約
第3章のテーマ提示は、 「モチベーション=人間性をどう理解するか」 です。
「クライアントの“モチベーション”を理解するために、“相手がどんな人間性を持っているのか”を、どう見立てていますか?」
この章の核心は“自分と相手の準拠集団(=どの環境で育ち、誰の影響を受けてきたか)を理解すること”に尽きます。
モチベーションと人間性 ― 基本の考え方。
最初のポイントは、「人間はパターン化しにくい」という事実です。
その為に、「社会学的・状況的観点の必要性」が解説をされています。
◆ 人間性を説明しようとする3つの代表的な仮説
1. 安全欲求説
→ 人は“安全”を確保できる仕事を選ぶ
2. 能力活用欲求説
→ 人は自分の能力を使える環境で力を発揮する
3. 自己実現欲求説
→ 人は成長・自己実現に向かう
どれも“部分的には”正しい。でも“どの人にも当てはまる”万能説ではありません。
だからこそ、『この人は、どのタイプの欲求が強いのか?』と一人ひとり丁寧に把握する必要があります。
第3章も要約をご紹介しておきたいと思います。
要約
この章では、「人間性」および組織と構成員間の心理的契約を明らかにする助けともなるいくつかの点を総括的にみた。
まず第Ⅰに、人間行動と動機は社会学的・状況的観点と発達的観点なしには理解できないこと、
第2に、行使する支配と権力が異なれば組織にも違いが出て、それが構成員にの関与の仕方を決めること、つまりそれによってどのような心理的契約が結ばれるか決まること、
最後に、支配と権力の行使には歴史的な進化が見られ、強制的なものから合理的・依存的または規範的なものへと変遷したこと
── 以上のことを我々は心にとめておかなければならない。
4.管理者の人間観
はじめに
Ⅰ「合理的経済」人の仮説
X理論
この仮説から生まれる管理的戦略
「合理的経済」人の例証
Ⅱ「社会」人の仮説
ホーソン実験
タビストック研究所の炭鉱における研究
初期の研究の含意
この仮説から生まれる管理戦略
「社会」人の例証
Ⅲ「自己実現」人の仮説
Y理論
この仮説から生まれる管理戦略
「自己実現」人の例証
要 約
この章では「モチベーション(管理者の人間観)」 をテーマに話が進んでゆきます。
この章の中心メッセージは、
「管理者がどの人間観を前提に部下を見ているかで、すべてのマネジメント行動が変わり、結果として部下のモチベーションも大きく変わる」という点です。
シャインの4モデル
• 合理的経済人 • 社会人 • 自己実現人 • 複雑人(第6章)
これらは「新しい方が優れている」というものでもありません。
環境・組織・文化・部下の成熟度・役割…それらによって有効かどうかが変わる ということが重要です。
管理者の人間観がすべてを決める。押さえておきたいのは、報酬制度・評価制度・人事配置・育成方針・日常の関わり方…
これらすべては、管理者がどの「人間観」を持っているかで決まるという点です。
管理者が「部下というものは怠け者だ」と見ているのか、それとも「部下は意義を求めて働く存在だ」と見ているのか
その前提が違うだけで、まったく違うマネジメントが生まれ、部下のモチベーションも変わっていきます。
ここで重要なのが 心理的契約。管理者と部下の「期待のすり合わせ」。これがズレると不信・不満・停止が起こります。
管理者の考え方に影響した4つのモデルとして、シャインが提示した4つのモデルを再確認します。
1. 合理的経済人:単純な損得のみで動く
2. 社会人:周囲との関係性で動く
初期の研究の含意
労働者は非公式集団を作ることによってのみ表現できる社会的欲求を仕事に持ち込む、またこうした集団を作ることが、仕事の仕方・生産性・仕事の質に影響する感情と規範を作り出すという認識から人間性に関する新しい仮説が生まれた。
3. 自己実現人:成長・挑戦で動く
4. 複雑人:単純化できない複合的存在
この章は、管理者がこのどれで部下を見ているのか、それによってマネジメント行動がどう変わるかを理解する内容です。
まとめとして、3章で述べられた歴史的な傾向が、人間性や労働の基本的な動機についての管理者の考え方にどのように反映されているかを詳しく述べられています。「合理的経済」人、「社会」人、「自己実現」人の仮説と管理者の人間化によりどのような管理戦略が生まれるのかがまとめられています。こちらでも要約をご紹介したいと思います。
要約
以上。我々は、人間性を説明する為に現れた3つの主要な、しかも相互に競合する仮説を広く検討し、そのおのおのに基づく管理戦力を述べた。
人間性についてのそれぞれの見方は、ある程度までは正しく、従って、それぞれに組織の機能や管理方法についてなんらかの重要な洞察を与えるものであった。
しかし、新しく出てくるものはみなそうであるように、どの理論も単純化されすぎており、一般化されすぎてる。
人間の行動を研究すればするほど、また人間の行動の複雑さがわかればわかるほど、ますます我々は組織における人間の行動に関する社会学的、発達的および状況的展望を結合することの重要性を感じる。
5.モチベーションの発達的・状況的観点
はじめに
人間性の生物学的起源
社会化と幼少時の発達の衝撃
職業選択と職業経歴の発達
ホランドの職業経歴理論
スーパーの発達理論
キャリア・アンカー
基本的欲求理論の訂正
職務価値と職務次元
職務寿命
要 約
この章のテーマは「人の動機の根っこを2つの視点から捉える」です。
第5章では 「モチベーションはどこから生まれるのか?」 を、発達的視点 と 状況的視点 の2つから考えていきます。
「人の行動の源泉は“生まれ持った要因”と“後天的に学習した要因”の両方で決まる」ということ。
キャリア支援でも、組織開発でも、マネジメントでも、この両方を理解していないと誤診・誤対応が起こります。
この章は、その根本を整理する内容です。
「労働者のモチベーションは、発達的視点と状況的視点の両方で捉える必要がある」という点です。
つまり、人は
• もともと持っている性質(生得的)
• 後天的に身につけてきた性質(社会化・学習)
これら両方の影響を受けながら働いている。
だからこそ、「どちらの要素が強く出ている人なのか」を見極めることが、マネジメントにもキャリア支援にも重要になってくる、という話です。
“発達 × 状況”という2つのレンズが必要ということです。
まず最初に押さえたいのは、欲求や動機は、年齢や発達段階によっても変化するという原則です。
ここでは
• 発達的視点(≒定性的な評価)
• 状況的視点(≒定量的な評価)
という、2種類の見方が紹介されています。
この章からは、人間性に関する更に複雑な見方──様々な主張、仮説、実証的研究、およびまだ統一された理論にはなっていないが、複雑な組織の世界での人々の行動の理解に役立つ作業仮説──を概観しています。
こちらも要約をご紹介してゆきます。
要約
この章では、人間性と人間のモチベーションについての我々の概念を拡げるために、生物学的基礎を持つ精神分析論、社会化理論および職業的発達理論を検討した。
こうした問題を取り扱う、より生産的な一つの方法は、具体的に《仕事》動機に焦点を絞り、職業満足やモチベーションに関係ある仕事そのものの具体的な特徴や環境条件を確認することである。
こうした方法をとれば、発達的仮説の多くを検証することが出来、また人々を仕事に動機づけるものの個人差の測定が促進される。
6.人間性の複雑さ
「複雑」人の仮説
管理への含意:条件適応理論
「複雑」人の仮説の例証
結論:モチベーションと心理的契約の展望
── モチベーションとは “複雑人 × 相互作用 × 組織システム” で立ち上がる**
この章での テーマの核心は、『人は単純化できない。「複雑人」こそが現実である』ということです。
第6章の中核は、シャインが提示した「複雑人(complex man)」の理解になります。
これは単なる「合理的経済人」「社会人」「自己実現人」の延長ではなく、人は、複数の動機・複数の文脈・複数の関係性によって常に変化し続ける存在であるという、 より現実的で、より“組織の人間”に近いモデル です。
この視点に立たないかぎり、動機付けも・人材評価も・リーダーシップも・心理的契約も本質的にはうまくいかない──それが第6章の趣旨になっています。
「複雑」人という仮説を提示しながら、管理への含意として、条件的適応理論の考え方が紹介されています。
この章では最後の「結論:モチベーションと心理的契約の展望」が詳しくまとめられているので、その部分から抜粋して内容をご紹介したいと思います。「複雑」人に対する管理の観点から、「心理的契約」の重要性が述べられています。また、個人と組織の相互作用という視点から「中枢的規範(企業の存続に関する根幹的な規範」「周辺的規範(職場での同調性のような規範)」という概念を通じて、個人に組織への対応タイプも論じています。
結論:モチベーションと心理的契約の展望
最後の数章で個人と組織の関係をいろいろな視点で調べてみた。
結論として、私は《心理的契約》の重要性を強調しておきたい。人々が効果的に働くかどうか、組織とその目標に対して信頼感・忠誠心・熱意を持つかどうか、また仕事から満足感を得るかはどうかは、次の2つの条件に大きくかかわってくるというのが私の中心的な仮説である。
- 人々の組織への《義務を含んだ期待》と、何を与え、その代わり何を得るかについての組織の期待と合っている度合い
- 《実際に交換されている事柄》の性質──
働いた時間と交換のお金、熱心に働き忠誠であることの交換として社会的欲求の満足と職務保障・高い生産性・良質の仕事内容・組織目標達成の為の創造的努力との交換として自己実現欲求の充足とやりがいのある仕事をする機会、又はこれらと他のものとの様々な組み合わせ
結局、個人と組織の関係は相互作用的であり、それは効果のある心理的契約の確立と再確立の為の相互の影響と相互の交渉を通じて展開される。
従って、個人のモチベーションや組織の条件だけを見ていたのでは、この心理的な力動性は理解できない。両者は複雑な仕方で相互に関連し合っており、それを理解するためには、相互依存的な現象を取り扱えるシステム的なアプローチが必要である。
さらに、心理的契約は組織での職業経歴の中で幾度も幾度も交渉されなおすという事実を考えなければならない。
個人の欲求も、ともに時間が経つうちに変化する。従って、組織の規範が変わる毎に《組織への社会化》は繰り返される必要がある。
・・・
もし、組織が複雑で変化をする環境に直面して成長と革新の能力を持ちたいと思うなら、理想的な反応は私が『創造的個人主義』と呼ぶものであろうが、これは中枢的規範は受け入れるが周辺的規範は拒否することから生まれる。
創造的個人主義者は、基本的組織目標と自己の主体性の保持の両者に強い関心を持ち、組織がその基本的目標を達成するのを助けるためにその創造力を使う。
・・・
以上の議論から引き出せる最も重要な結論は、人間のモチベーションと職業経歴の発達は極めて複雑であり、まだ十分に分かっていないということである。従って、調査の精神を常に持ち、行動に移す前に状況を診断することが唯一の安全な道である。創造的個人主義を最大化する心理契約が果たして「最良」のものであるかどうかは明らかではない。・・・・
個人勝手な仮説と偏った見方は、世界を実際よりも単純にしてしまう強力なフィルターであることに気づかなければならない。
第Ⅲ部 リーダーシップと参加
7.なぜリーダーシップの分析は難しいか
問題1:「リーダー」の確認
問題2:「リーダーシップ」の範囲
問題3:文化的文脈とは何か?
問題4:何が課業か
問題5:リーダーシップとフォロアーの間はどのような発達段階にあるのか
リーダーシップの為の診断的枠組
この章のテーマは 「リーダーシップの分析はなぜこんなに難しいのか?」 という、とても本質的な内容です。
結論から言うと――リーダーシップとは「結合関数」であり、単独の軸では測定できない。だから難しい。
というのが今回の最大のポイントです。
では、なぜそもそも、なぜリーダーシップ分析は難しいのか?
強調されているのは、
🔸 リーダーをどう定義するかで、評価は全く変わってしまう
🔸 「リーダー像」は社会文化的に理想化されてしまいがち
🔸 しかし、その“理想像”は実務の評価には使えない
という点です。
「リーダー」と言っても、オーナー、GM、監督、キャプテン、選手会長、非公式リーダー…誰を指しているのかが曖昧なままだと、議論が成立しません。つまり、「そもそもリーダーを特定するところから難しい」という前提もあります。
この章では、「リーダーシップを複雑にしている要因を知るために、リーダーシップで『問題』になることを明らかにしてみよう」という形で始まり、その後、目次のように『リーダー』及び『リーダーシップ』に関する考察が進められます。
こちらではまとめとして、「リーダーシップの為の診断的枠組」の部分をお伝えします。
リーダーシップの為の診断的枠組
「リーダーシップ分析に内在する複雑さをうまく処理するためには、リーダーシップをいくつかの構成要素に分解して、リーダーシ-ップ研究や理論を検討するためのガイドラインが必要である。」として、「図7-1 リーダーシップ状況の構成要素」という図が提示される。
「リーダーシップに関する初期の研究の多くは、リーダーの「特性」に焦点がしぼられており、知性・野心・判断力など優れたリーダーとそうでないリーダーを明確に区別する特徴を確認する努力が払われた。・・・こうした初期の努力が失敗に帰した結果、リーダーシップは、リーダー・フォロワー及び仕事・状況の特徴間の《関係》として考え直されることになった。」
8.リーダーシップと参加に関する諸理論
リーダーに焦点をあてた理論 : フィドラーのリーダー適合理論
課業・状況に焦点をあてた理論 : ブルームの条件適合理論
管理者の決定スタイルのタイプ
決定の質を損なわない為のルール
下された決定の了解を損なわない為のルール
部下に焦点をあてた理論 : ハーシィとブランチャードの状況的リーダーシップ理論
リーダー行動に焦点をあてた理論: アージリスのモデルⅠおよびⅡ
要約1:課業志向 対 人間志向
要約2:専制主義、相談、参加または委譲
機能の分布としてのリーダーシップ
意思決定領域:仕事そのもの、相互作用、組織の政策
結 論
第8章では、「リーダーシップと参加」をテーマに、代表的なリーダーシップ理論を体系的に俯瞰します。
先週の第7章で扱った「リーダーシップ分析の難しさ」を踏まえながら、今度は“具体的にどのようなモデルでリーダーシップを捉えてゆくのか”を確認してゆく章です。
結論としては、シャイン先生自身が「リーダーシップ論はデータ分析だけで決定打は出ていない」と述べるほど、複雑・多面的な領域です。そのため、ここでは理論を“道具箱”のように整理し、状況に応じて活用する視点を中心に解説しています。
この章では、リーダーシップに関する異なった観点を代表するいくつかのアプローチを検討するが、ただそれぞれの理論は第6章で示した図7-1に示された構成要素の大部分に言及しているが、なお依然としてその焦点はこれらの要素の1つまたは2つに置かれているに過ぎないことを頭に入れておかねばならないとして、「リーダーシップと参加に関する諸理論」が紹介されています。
特に、「リーダー行動に焦点をあてた理論: アージリスのモデルⅠおよびⅡ」では、
組織開発において重要なアージリスの「二重(ダブル)ループ学習」の概念について、
「この考え方はベイトソン(Bateson,1972)が、精神分裂症患者がその両親の・・・といった矛盾する言葉で二重に拘束されている状態を分析する際に最初に使ったものからきている。二重拘束(ダブルバインド)というのは例えば子供に日頃両親からお前を愛していると言われながら、その一方で両親から悪いと非難され、愛されているということとの不一致に悩む状態である。・・・・・・行動科学の原理に立脚する多くのコンサルタントは、このモデルを根本的なものとして受け入れており、様々な診断行為や仲介行動を通じて相手の基本的仮説を変えようと試みている。」とされており、組織心理学にMRIブリーフセラピーが大きな影響を与えていること読み取れます。
ここでも最後の結論の内容をご紹介しておきます。
結論
ある特定時点におけるある決定領域への参加がどの程度であるべきかは、問題がどの程度構造化されているか、誰がどのような情報をもっているかと関係するだけでなく、その組織の基本的性質を決める社会経済的及び政治的状態はどうか、問題はその組織のことか、作業のことか、それとも仕事そのもののことか、その組織は労働組合、労働者協議会、あるいはスキャンロン・プラン実施会社にみられる労使委員会のような共同決定の為の公式機構をもっているかどうか、といったことにもかかっている。
従ってリーダーシップの問題は、個々のリーダーという側面から見ることが重要かつ必要であるとともに、以上に述べた決定領域や環境をも考慮しながら、どのようなリーダーシップ行動がもっと広い意味で適切であるかを考える必要がある。
このことが最終的に示唆することは、人間のモチベーションの複雑さについてすでに述べた結論、つまり、リーダーや管理者は、与えられた状況下で最も必要とされているリーダー機能を果たす為に、その診断技術と人間的柔軟性を高めることが何よりの大切だということに他ならない。
第Ⅳ部 組織の中の集団
9.集団の構造と機能
集団の定義
組織内の集団のタイプ
公式集団
非公式集団
非公式集団のタイプ
集団が果たす機能
集団の公式組織上の機能
集団の心理学的・個人的機能
複合ないし混合的機能
組織目標と個人的欲求の統合に影響する要因
環境的要因
メンバーシップ要因
力動的要因
製油工場の労使紛争
リーダーシップと組織的要因
集団の発展と訓練
集団の活用が不適切な時
集団による問題解決と個人による問題解決
集団の冒険と個人の冒険
集団思考
要 約
第9章のテーマは、一言で言うと 「組織の中の“集団”をどう理解するか」 です。
なぜ“集団”が重要なのか?という面では、組織を動かしているのは「制度」「戦略」「個人のスキル」ではなく、
日々現場で作用している“集団というシステム” です。
ホーソン実験でも分かったように、人の行動は 報酬や制度だけでは動かない。
むしろ「仲間の存在」「非公式の規範」「安心感」「承認」など、“集団から得られる心理的な影響”の方が圧倒的に強い。
では、集団はどう形成され、どんな働きを持つのか。これを深く理解しておくことは、リーダー・管理職・キャリコンにとって不可欠です。
この章では、組織になかに存在する集団というものを見てゆきます。下記を補足で抜き出しておきます。
集団活用が不適切な時
集団が出来るのは人間の普遍的な現象であるが、いつ、どのような集団を活用するか。
特に公式な意味では、どのような時に集団に課題や問題を与え、どのような時に与えるべきではないかを考えておくことは極めて大切である。
この問題に直接関係のある3つの事象がこれまでに研究をされている。
(1)集団による問題解決と個人による問題解決のいずれが有効か?
(2)集団と個人ではいずれが冒険をおかしやすいのか?
(3)いわゆる「集団思考」の問題──つまり、正しい個人の意見を踏みにじって偽の合意を作る集団の傾向
この章でも要約に触れておきたいと思います。
要 約
この章では心理的集団とは何かを検討し、どのような組織にも見られる公式・非公式組織のタイプをあげ、集団が果たす公式的機能・心理学的機能を分析し、集団がこれら両機能を満たし、従って組織における統合的な力を発揮でき易くする要因について検討をした。
集団はあらゆるタイプの問題に対して《万能の》解決策ではない。・・・・特に重要なことは、集団が効果的な作業単位に発展をするよう、十分な時間と精力を使う気がリーダーとメンバーにない場合には、集団は使うべきでないということである。
集団を有効に活用するには、リーダー、メンバーの両者に集団力学的訓練(group dynamics training)をする必要がある。このような訓練は、実験的方法を用い、集団過程、特に問題解決過程に注意を集中するよう助けた場合に最も有効である。
10.組織における集団間の諸問題
集団間の競争がもたらすもの
A.互いに競争をしているそれぞれの集団の《中では》どのようなことが起きるか。
B.互いに競争をしている集団の《間には》どのようなことが起こるか
c.《勝利集団》にはどのようなことが起こるか
D.《敗北集団》にはどのようなことが起きるか
集団間の競争から生まれる好ましくない結果を緩和すること
共通の敵を設ける
競争をしているリーダー又は下位集団間で相互作用させる
(例)国際会議におけるサミット会談)
両集団を超えた目標を与える
実験室的集団間訓練
(特に、有名なのはブレイクとムートンの事例)
集団間の葛藤の防止
統合の問題:その展望
第10章では、同じ組織内に存在する「複数の集団(部署・部門)」が、なぜ対立するのか、なぜ誤解し合うのか、どうすれば協力できるのか、という、組織の“永遠の課題”を扱います。
ここでは、ブレイク&ムートンの理論を含めて解説をされています。
組織における集団間の諸問題として、まず最初に確認したのは次の2点です。
・キャリア・ドメインにおける “シンメトリーの解消”が大切。(多様な視点を持つこと)
(※シンメトリー;「左右対称性」や「均衡」)
・部署ごとに、評価軸、キャリアの優先順位、社会的立場が異なるため、「自分たちの仕事が一番大変だ」「あの部署は楽だ」という 非対称性(シンメトリーの崩れ)」が生まれる。これが“対立の種”になる。
集団の生産性の維持(労使協調)については、労使関係の歴史にも見られる通り、「集団 A」と「集団 B」が対立すると、生産性は落ちていく。組織全体で成果を出すには、協力をどう維持するか? が本質的課題である。
ここでも最後の「統合の問題:その展望」をまとめておきたいと思います。
統合の問題:その展望
第Ⅳ部では2つの基本的問題、すなわち
(1)組織の要請と構成員の心理的欲求の両者を満たすことが出来る集団を組織の中に作ること
(2)集団間の競争と葛藤の問題
について、述べた。
最高度の統合を達成するためには、組織は、組織目標と個人の欲求のバランスを促進し、全組織の下位単位間を引き裂くような競争を最小限に抑える条件を創り出さなければならない。
集団は極めて複雑な関係の組み合わせである。集団を効果的ならしめる条件については安易に一般化できないが、しかし、適切な訓練を行えば、多くの集団は以前には想像も出来なかったほど有効なものになりうる。・・・・
心理的に意義深く、かつ有効的な集団を作っても、もしそれらの集団が互いに競争し闘い合うならば、組織の問題のすべてを解決することは出来ない。我々は勝ち負けの条件下では競争はどのような結果をもたらすのかを検討し、次のような2つの基本的な解決法を概観した。
(1)コミュニケーションを高め、両集団を超えた目標を置くことによる葛藤の緩和
(2)初めから、競争よりも協力を刺激する組織的条件を作ることによる葛藤の防止
集団間の葛藤の防止は、特にそれらの集団が高度に相互依存的な場合には決定的に重要である。・・・・
結論として、葛藤を防止するということは、それは集団内に不一致がないということを良いと言ったり、不自然な「甘さと明るさ」が良いといっているのではないことを強調してしておかなければならない。集団ないし組織の《課業》に対する葛藤や不一致は望ましいばかりか、最善の問題解決の為にはむしろ本質的に重要なことでさえある。
第Ⅴ部 組織構造と組織の動態
11.複雑な開かれたシステムとしての組織
はじめに
複雑さの源
初期のシステムモデル
ホマンズのモデル
タビストックの社会・技術モデル
働きがい運動
重複集団、役割組合せ、連合
リカートの重複集団モデル
カーンの重複役割組合せモデル
サイアート、マーチ、サイモンの「企業の理論」
新構造主義者:公式組織理論構築への新しい動き
環境と組織の相互作用に焦点を当てた理論──トンプソンとダンカン
組織目標に焦点を当てたモデル──マーチとサイモンおよびペロー
技術と組織の課業に焦点をあてたモデル
ペローの統合的枠組み
要 約
第11章では、「組織を“開かれた複雑なシステム”として捉える」という視点から、組織の“静態(スタティクス)”を学んでいきます。
第10章まで扱ってきたのは、組織の中で起きる集団間のダイナミクスでした。
一方、第11章で扱うのは、組織そのものの“構造”がどう生まれ、どこに複雑さが潜んでいるか という問題です。
次の3つをしっかり理解する必要があります。 なぜ組織は複雑になるのか•、様々な「システム理論」が何を明らかにしようとしたのか、組織を理解する際の「静態的視点」とは何かです。
組織を理解するとき、本質的なのは「複雑さはどこから生まれるか?」という問いです。
シャインは組織を“開放システム”と位置付け、その複雑さの源を次の4つに整理しました。
① 境界線(Boundary)
まず重要なのは、「どこまでを組織とみなすのか?」という“境界”の引き方です。
• 組織と個人の境界
• 部署と部署の境界
• 正社員・非正規社員・外部パートナーの境界
• 顧客との境界
この境界設定が、役割・権限・責任を決める根本となります。
② 機能要件と副次的機能(Main vs Latent Functions)
組織には表向きの“機能要件”(ミッション)がある一方、裏に潜む“副次的機能”が存在します。
例:
• 「新規事業推進部」が実は社内政治の調整役になっている
• 「経理」が本来業務に加えて“チェック文化の象徴”になっている
こうしたズレは組織を複雑にし、摩擦を生みます。
③ 外部環境の取り入れ
組織は外部環境を前提に成り立ちます。外部文化・社会価値観・市場が変化すると、組織の“基本仮定”が陳腐化することがあります。
④ 環境の急激な変化
組織文化は慣性が強いため、急激な環境変化に適応できないことがあります。現代でも、 DXの進展、業界構造の変動、グローバル化等のこうした変化は「静態としての組織構造」を揺るがします。
ホマンズのモデル
環境はそのシステムの中にいる人々にある種の《活動》と《相互作用》をさせる。これらの活動と相互作用は、それらの人々の相互間および人々と環境との間にある種の《感情》を引き起こさせる。これらの環境によって決定された活動・相互作用・感情の結合を《外的システム》と名付ける。
これらの活動、相互作用、情感は相互依存的である。したがって、これらのうちのどれかに変化が生ずれば、たの2つにも何らかの変化が生じる。
さらに、これらの外的システムと内的システムは相互に依存的であると主張する。
重複集団・役割組合せ・連合
リカートの重複集団モデル
リカートは2つの重要な考え方を示して組織りトンに貢献している。
それは、
(1)組織はつなぎ合わされた集団のシステムと考えることが出来る
(2)これらの集団は、両集団に属する鍵となる地位を占める個人の《連結ピン》の働きによって結合されている
このモデルは2つの点で注目に値する
第Ⅰに、いかなる集団ないしシステムにとっても、それに関連する環境とは非人間的ななにものかではなく、他の集団ないしはシステムの組み合わせであるということである。
この組み合わせは、
(1)大規模システム、たとえば類似の仕事をしている他の組織や社会全体
(2)同じレベルのシステム、すなわち比較可能な組織・消費者と供給者の組織・地域の組織等
(3)そのシステム内の小システム、たとえば公式、非公式の作業集団
の3つからなっていることを示唆している点である
第2に、リカートは、組織は組織と環境の両者に地位を持つ連結人によって環境に結び付けられており、その環境もまた同様の鍵となる人によって相互に連結されているであろうと考えている点である。
もし、このモデルが正しいとすれば、このモデルはシステム・環境関係の分析に際してどこにメスを入れるべきか(連結ピンのありか)を示唆するのみではなく、環境の各部分にも相互依存的な網の目が張られていることを物語っている。
従って、組織を理解し、また組織を環境と併せて考えるためには、こうした相互依存性を探し理解することが大切である。
ここでも「要約」の項目をここではそのままご紹介しておきたいと思います。
要約
本章では組織に関する初期の開放システム・モデルと組織の環境、組織の使命、目標、課業、内部構造間の複雑な関係を分類する多くの試みの一部を検討してきた。こうした検討の結果は、我々が取り扱っている現象の複雑さを改めて教えて呉れれる。人間性やリーダーシップとその影響過程について簡単明瞭な見解を得ることは難しく、また集団の力学を理解することも難しいが、それにもまして組織と呼ばれるものすなわち多くの連合や役割セットや公式・非公式集団が重複し、しかもそれぞれが激動する環境の中で複数の目標を達成しようとする組織について簡単明瞭な見解を持つことは難しい。
にも関わらず、我々は組織の社会の中に住んでおり、組織現象を理解する努力を怠れば、組織の犠牲にされる危険にさらされている。官僚制を嘆いたり、組織の非効率を嘲笑したり、我々の生活を支配する組織の力を恐れていても得ることは少ない。
我々が求むべきことは、組織に影響を与えうるだけの理解である。我々は以上に述べた分類法や概念にそうした理解への礎石を置いた。だが、それらの概念はまだ生態的で大まかである。
(次の章では組織の変革と開発に関する更に動態的な概念と、更に細かな組織モデルに目を向けよう。)
12.能動的で発展するシステムとしての組織
はしがき及び目的
動態的モデル
分化と統合の効果に焦点を当てたモデル:ローレンスとロッシュ
情報処理に焦点を当てたモデル──ガルブレイスの設計理論
要約
組織の診断に焦点を当てたモデル──コターの組織診断
「組織」の再定義を目指して
第12章「能動的で発展するシステムとしての組織」を扱います。
前章(第11章)で組織の静態=構造(スタティクス)を学びました。その延長線上にある 動態(ダイナミクス)=変化・発展・適応 を中心に解説がされています。組織の変革と開発に関する更に動態的な概念と、更に細かな組織モデルに目を向けています。
1.組織がどのように「変化に適応」し、発展するかの理論的枠組み。
2.コンティンジェンシー理論、ガルブレイスの情報処理モデル、コタ―(Kotter/コタ―)らが示した組織診断の視点。
「《なぜ》環境や技術によって組織効果に差異がでるのかを説明できる組織についての考え方を発展させた。」ということがポイントになります。
ここではガルブレイスの設計理論の要約をまずまとめておきたいと思います。
ガルブレイスのモデルも組織を複雑なシステムと考えるが、その環境との関係は基本的には《情報》の摂取と活用の問題であるとの前提に立っている。
組織設計の問題は、組織目標に役立つように情報を活用する問題とみなすことが出来る。
要約
ガルブレイスはまず単純な階層という考え方から出発して、
ルールや計画の導入・専門化された従業員による自由裁量の拡大・統制範囲の縮小・自己完結的課業の管理が出来る小部門への分権化・改善された垂直的情報システムへの投資を経て、
最後に、グループ・連絡係・統合者・マトリックス形態組織など、各種の横の関係の創造に至る組織設計のあり方を提示している。彼は、
(1)それまでの組織形態を排除せず、ただそれに追加することによって、新しい情報処理の形態を導入する。
(2)すべての組織は何らかの方法で不確実性と情報処理に対処しなければならない。
という重要な2点を我々に気づかせる。
もし、情報処理がきちんとなされず、また組織に最も適した方法を用いないと、自動的に余裕資源に頼ることになる。というのは、情報処理の要請についていけない為に組織の活動は低下し、予算は超過し、情報が処理されるまでは成績は低下するからである。「決定しないということも決定であり、それは階層的過重負荷を取り除く戦略として余裕資源について決めていることになるのである。」
以上の配慮は、組織が生産ラインを拡大したり、新しい地域に進出したり、財政的拡大の一部として他の組織を吸収したり、そのほか全体的な課業の複雑さを高めるような新しい戦略に乗り出すときに特に重要である。
このような場合、全体的な戦略の一部として、処理すべき情報が増えるということをはっきり考慮に入れておかなければならない。
続いて、「『組織』の再定義を目指して」の項目をまとめておきたいと思います。
「組織」の再定義を目指して
この章では、ここ数十年間における組織に関する研究と理論化が組織を複数の環境と力動的に相互作用し、多くの階層において、また様々な複雑さの過程において目標を達成し、課業を遂行し、また変化する環境との相互作用が新しい内的順応を強いるが故に発展する開かれた複雑なシステムとして観る方向に進んできたことを示した。
こうした考え方を要約するには、組織とは何かを包括的に定義することよりもむしろいくつかの一般的命題を述べる方が適切である。
1.組織は開かれたシステムと観るべきである。
2.組織は様々な環境と複数の相互作用をする複数の目的ないし機能を持ったシステムと考えるべきである。・・・・複数の相互作用と機能を抜きにしては理解できない。
3.組織は多くの下位システムからなり、それらの下位システムは相互に力動的に相互作用する。
4.下位システムは様々な度合いおいて相互依存的であるから、1つの下位システムにおける変化は他の下位システムの行動に影響する可能性がある。
5.組織の全体的な動きは、これらの環境的要請と拘束および組織がそれらに短期的・中期的・長期的に対処する仕方を考慮しなければ理解できない。
6.組織と環境は複合的に連結しているので、ある組織の境界線を具体的にはっきりすることは難しい。・・・・組織は・・・・《過程》として考えるのが良い。
13.組織の有効性の増進
組織の有効性とは何か
組織の対処
順応的対処のサイクル
順応的対処のサイクルにおける問題と陥偵
組織変革と組織開発
アクション・リサーチ
計画的変革の理論
段階1:解凍──変化へのモチベーションを作ること
段階2:変化すること──新しい情報と新しい見方に基づく新しい態度と行動を発展させること
段階3:再凍結:──変化を定着させること
組織開発におけるコンサルタントの役割:プロセス・コンサルテーション
結論:効果的な対処の為の組織の条件
ここまでで組織の構造(静態)、動態(分化と統合)、集団間関係、文化などを学んできました。
第13章では、これらが “一気に統合される章” となります。
テーマは、「組織の有効性(Effectiveness)とは何か?」「その有効性を高めるためには、組織はどう変わればよいのか?」
「そして人は、その変化をどう支援できるのか?」
組織は、単なる機械ではなく、矛盾・力学・文化・政治性を内包する、極めて複雑な“社会システム”です。
この章の目的は、組織を「生きたシステム」として理解し、その有効性を高めるための理論と実践を総合的に理解することです。
組織変革と組織開発として、クルト・レヴィンを始祖とする応用行動科学、アクションリサーチ・計画的変革が解説されています。
組織変革と組織開発
組織を動態的な対処システムとして捉えると、どのようにして組織を変え、その変化をうまく扱うことが出来るかを考える道が開ける。
事実、ここ30~40年間に組織心理学の中で最も急速に拡大をした分野は「組織開発」「アクションリサーチ」「応用行動科学」等様々な名称で呼ばれてきた分野であった。・・・・
現代の応用行動科学、アクションリサーチ、組織変革の知的始祖はクルト・レヴィン(Kurt Lewin)であることはほとんど疑う余地のないことである。
アクション・リサーチ
計画的変革の理論
段階1:解凍──変化へのモチベーションを作ること
段階2:変化すること──新しい情報と新しい見方に基づく新しい態度と行動を発展させること
段階3:再凍結:──変化を定着させること
組織開発におけるコンサルタントの役割:プロセス・コンサルテーション
《コンサルタントは組織が自ら助けることを援助する専門家でなければならない》このことは、コンサルタントはシステムが力動的であり、また、過程(プロセス)であることに気づき、援助技術においての真の専門性を持たなければならないことを意味する。」
として、コンサルタントの役割を「プロセス・コンサルテーション」として定義している。
まとめとして『結論:効果的な対処の為の組織の条件』の部分を最後にまとめておきたいと思います。
結論:効果的な対処の為の組織の条件
この章では、組織の有効性ないし健康についての一般基準を述べることから出発した。次に我々は急激に変化する組織内で有効性を維持・増進する上で必要な対処の過程を具体的に考察し、対処の過程を改善する1つの重要な方法として組織開発について述べた。そこでこの結論において、有効な対処の過程が生ずる為にはどのような《内的組織条件》が不可欠であるか概観しよう。・・・
これまでの章ですでに述べた基本的な事柄を使ってこのガイドラインを示そう。【追記のまとめ】
- 人材の《募集と社会化》についてみると、現在の選択・テキスト・訓練に使われている方法は、果たしてその組織が期待をしているようなイメージを従業員の心に生み出しているのかを問う必要がある。・・・・
組織が長期的な有効性を確立することを心から望んでいる場合、【(現代の言葉で表現すると、)心理的安全性を確保する必要がある。】更に、将来いつか必要とされる本当の心理的成長への関心を従業員の職業生活発展計画の中に組み入れてはならないのだろうか。
予測も出来ない環境の変化に対処できる能力を保証する最善の方法の1つは、たとえある程度の短期的な有効性は犠牲にしてでも、組織の全構成員が変化を受容れようと奨励する(すなわち、発達するように激励する)ことであることは明らかであろう。 -
《人材の活用と心理的契約》に目を移すと、もし組織がその総合的な組織の有効性を高めるために、その構成員に信頼性と柔軟性を求め、また最適な対人形成を形成するよう期待するならば、それは結局、従業員に会社に道徳的に関与し、組織の目標を信頼しそれに内面的価値をおくことは明らかである。組織がこの種の信頼性を求める以上、組織の側から相応しい報酬と(挑戦と心理的成長の機会等の)条件を与えねばならないことも明らかである。・・・・
管理者の仮説が現実的なものになるにつれて、管理とリーダーシップの実践は信頼であり、かつ妥当性のあるコミュニケーション・創造的努力・長期にわたる信頼に必要な風土を作り始めるであろう。 -
《集団と集団間の関係》に注目をしよう。集団は組織の不可分の部分であること。基本的な選択は集団を作るかどうかではなく、集団を組織目標に離反させず、組織目標に向かった働かせる条件を創ることだということはほとんど疑いを入れる余地はない。・・・・多くの人は集団で働く経験は十分に持っているが、集団を有効に活動をさせる条件にはっきり的を絞った経験を持つ人はそう多くない。もし集団のメンバーが集団はどのように働くのかということについてもっと理解を深めれば、失敗をするような集団を作ることは少なくなる。・・・・
集団間の競争に目を向けると、《1つの組織又はシステム内の》部門ないし集団間の競争は長期的には組織の有効性を落とす。・・・・集団間の対立は解決することは極めて難しいことから、最初から対立が生じないようにする方が良い。 - 《組織設計》の最も難しい点の1つは、どのようにすれば、しかるべき人に、しかるべき時に、しかるべき課業(タスク)について、しかるべき問題解決法と協力的態度をもって、意思を疎通させるようにしておけるかということである。
従って、組織設計と構造の問題はどのような構造が選ばれるにせよ、人々を管理する為に用いられるプロセスと完全に結びついている。
組織を健康にしておく為には、その構造の絶えざる《再設計》の問題を基本的な対処のメカニズムとして理解しなければならないが、これは最も難しくかつ欲求不満を伴うことである。というのは、、再構成というものは時間と精力の双方を必要とするからである。 - 《リーダーシップ》についてもう一度注目しよう
第1に、リーダーシップは個人の特性というよりもむしろ組織内部の関数と考えるのが最も正しい。・・・・有効な組織においては、良きリーダーシップと良きメンバーシップは互いに溶け合っている。集団がその目標を達成するよう助けることは、リーダーの仕事でもあると同時にメンバーの仕事である。
第2に、組織におけるリーダーシップには、目標を設定し、その組織特有の価値観や規範をはっきりさせるといった重要な機能と関連して、システムとその環境との関係を管理するという特殊な義務がある。
以上、私はすぐれたコミュニケーション・柔軟性・創造性・正真の心理的信頼感から生まれる組織の有効性への1つのアプローチの根拠をあげてきた。
こうした条件は、
1)人々を卑しめるよりむしろ刺激をするような募集・選抜・社会化の実践
2)より現実的心理的契約と人々の発達的変化への認識に基づくより現実的な心理的関係
3)より有効な集団行動
4)組織構造の不断の再設計
5)目標設定と価値観の明確化という面でのより優れたリーダーシップから生まれる。
以上はこうすることが、人々に対して良いことであるとか、人々を喜ばせるから、といった考え方に基づくものでない。
メンバーが互いに良く意思を疎通し合い、信頼し合い、創造的で柔軟性があれば、オープンシステムはより一層効果的に働くからである。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ただ、努力はしましたが、内容も難しいこともあり、エッセンスがしっかりとお伝え出来たかどうか?という点が当然あります。
ここで興味を持たれた方は、是非、新旧の「組織心理学 エドガーシャイン著」にて内容を詳しくご確認を頂ければと思います。
