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意識マトリクス理論(企業と消費者の意識の方向性)


 ここでは、企業と消費者の意識の枠組みとして、前回「意識マトリックス理論②」での「正のグループダイナミクス」や「創発」の実現に向けた「傾聴(Active Listening)」と「ホンヤク(リフレクション:反映)」の機能を中心に確認していきます。

 

  下図は、意識マトリクス理論における「企業と消費者の意識」の方向性を示したものです。

・企業(製造者)の意識は「商品・サービス」に向いており、

・消費者の意識は「生活課題」に向いています。

ここでも、同様にそれぞれの領域の特性を確認してゆきます。

 

 ①C/C(現実)領域

  1. 消費者は「生活課題」への意識があり「認識があります」。企業も「商品・サービス」への意識出来ていて「認識できています」。
  2. 双方が意識が出来ていているので、「生活課題」について「商品・サービス」で現実的に解決できるかどうかが認識できる領域になります。
  3. この領域の「生活課題」の解決は、消費者は「商品・サービス」の効用が理解できているので、消費者が「生活課題」に対して、既存の「商品・サービス」を購入するという形で解決されます。その為、ここでの解決は消費者が主体的に決定します。
    その為、企業は消費者の課題解決の選択に耐えうるような「商品・サービス」を投入してゆく必要があります。
  4. この領域では、「生活課題」が解決できた場合、「商品・サービス」への満足感は高くなります。
  5. 一方で、消費者の「生活課題」が既存の「商品・サービス」で解決を出来ない場合は、企業と消費者の間でコンフリクトが発生してしまい、消費者の企業への信頼感は低下します。
  6. この現実領域のみで、企業がマーケティングを行うと、現状認識の肯定・強化という位置づけを持ちますので既存商品の展開には有効ですが、調査結果はどちらかというと目新しさのないものとなります。

 ②S/C(専門)領域

  1. 消費者は、この領域では「生活」の実感としての「経験」が存在しない。特に、企業の「商品・サービス」に関する意識や経験はないエリアになります。通常は、消費者に「商品・サービス」に関する意識がないので。購入という判断は行いません。
  2. 企業は自らの「商品・サービス」が意識がある領域です。一方で、消費者の意識があるのかどうか、C/C(現実)領域との境目がどこにあるかの認識は難しいので、C/C(現実)領域と同様に消費者が「商品・サービス」を意識出来ているものと仮定してマーケティング活動を進めてしまいがちな領域です。その結果、消費者視点ではなく、企業の課題解決に沿ったマーケティング活動(依頼型)が行われてしまいがちな領域です。
  3. この専門領域では、消費者の立場からすると、企業より知らないことを(あたかも知っているように)提案される領域になります。消費者は企業から今まで意識をしたこともないような経験を求められているような領域になります。この為に、消費者は自らの「生活」経験に基づかない、社会一般的な常識やその場で直近に得た情報のみで考動することになります。もともとは意識していない領域ですので、考動は場当たり的な当たり障りのないものとなります。また、その考動はその場限りで繰り返される確率は低くなります。
    「良い商品なのに、なぜ使わないのですか?」
    「???良い商品なら使うと思います。(良いのかどうかは分かりませんが・・・)
  4. このような表面的な考動データを企業が把握し、「商品・サービス」のマーケティングに利用してもあまり価値のないものとなります。また、そのデータは企業側の意識のみが大きく反映しているので、既存商品への評価が過大になる可能性があります。つまり、新たなマーケティングやイノベーションにはつながらない情報になります。
  5. この専門領域では企業が新「商品・サービス」を軸に単純に消費者と接しても有効な結果が得られませんので、この領域での消費者の課題解決の為には、企業は一旦消費者の生活経験の沿って、一旦、C/S(傾聴)領域に進む必要があります。
    C/S(傾聴)領域経由で「ホンヤク」によりS/C(専門)領域に展開され、消費者が意識出来ていなかった課題を解決する場合は、そもそもの出発点が消費者の生活課題であるので、消費者はこれまで意識出来ていなかった生活課題を「商品・サービス」で解決されることになり、消費者ニーズを満足度が高く充足することが出来ます。
    C/S(傾聴)領域については、次に示します。

 ③C/S(傾聴)領域

  1. 消費者は、「生活課題」への意識があり「認識しています」。企業は、既存の「商品・サービス」の対象範囲外ですので、その課題を「認識できていません」。そのような領域になります。この領域は、企業が主体的に意図的に到達することが出来ない領域です。
  2. 一方でこの傾聴領域では企業が消費者の「生活」実感に基づいた新たな「商品・サービス」の発見できる可能性があります。
  3. 企業が新たな「商品・サービス」の可能性を見つける為には、まだ企業が意識が出来ていない消費者の「生活課題」の背景に関する経験を認識し、その未充足ニーズを満たす必要があります。
  4. 企業はこの領域に入る為に、「無知の知」を意識して、消費者の「生活課題」に関する経験を丁寧に「傾聴」する必要があります。これによって企業が意識出来ていなかった消費者の生活実態に潜む「消費者の課題」を認識することが出来ます。
    ここでの関りについては「経験代謝のメカニズム」を活用できます。
  5. 新たに認識できた「消費者の課題」を解決する為には、次の3通りがあります。
    (1)CC(現実)領域の拡張
     新たに認知出来た課題が、既存の「商品・サービス」で解決できる場合は、C/C(現実)領域の拡張となり、既存の「商品・サービス」での解決を提示する。
    (2)S/C(専門)領域への展開
     消費者の生活実態から、消費者がまだ意識をしていない課題を企業として既存の「商品・サービス」で解決できる場合は、「ホンヤク」によりS/C領域に展開し、既存の「商品・サービス」で、消費者がこれまで意識していなかった「未充足の」課題を解決します。
    (3)S/S(創発)領域への展開
     企業が意識していなかった消費者の生活課題を認識した時に、「ホンヤク」による課題解決を検討する中でまったく新しい「商品・サービス」の可能性に気づく場合。これは同時に消費者がこれまで意識出来ていなかった生活課題を解決しますので、新たな市場の創出につがるS/S(創発)領域に展開することが出来ます。

 ④S/S(創発)領域「話せない/質問できない」

  1. 消費者は、生活実感としての「経験」が存在せず、無意識な領域です。企業も、既存の「商品・サービス」の認識外なので無意識の領域です。
  2. 通常のマーケティング活動ではなかなか到達が難しい領域です。
  3. この領域に到達する為には、「ホンヤク」やそれに伴う新たな「気づき」が必要です。
  4. この領域には、まだ誰も気づいていない「消費者ニーズ」やそれに対応できる「新商品」・「新サービス」が眠っている領域だと言えます。マーケティング活動の目的そのものが存在している領域です。
  5. これまで全く意識されてこなかった領域ですので、無意識の生活課題を新たな商品で解決するイノベーションが起こる領域です。この領域への到達には2通りの方法があります。
    (1)C/S(傾聴)領域からの展開
     先に示したように、C/S(傾聴)領域で、企業が意識出来ていなかった生活課題を把握できた場合に、その課題解決を考える中で、まったく新しい「商品・サービス」に気づく場合。消費者が意識まだ出来ていない「未充足な」生活課題を解決する。
    (2)S/C(専門)領域からの展開
     「ホンヤク」とそこから更に企業み「気づき」があった場合。S/C(専門)領域にて一旦消費者が気付いていない生活課題を既存の「商品・サービス」で解決しますが、その過程の中で延長線上の課題解決を検討するに際して、それに対応できる新しい「商品・サービス」でそれらの課題の解決が図れることに気づく場合。

注)「ホンヤク」については詳細な説明が必要ですが、詳しい説明はこちらを中心とした説明を参照下さい。C/S領域における消費者から聴くことが出来た「生活課題」(ナラティブ)をC/S(無意識)領域における「マーケティング課題」へと結びつける「生活心理分析」になります。その為、これはグループインタビューが終わった後、調査対象者が主体になり時間をかけて行われます。もちろんモデレーター(グループインタビューの司会者)もインタビューの中で、「要素化」⇒「構造化」⇒「統合化」を思いめぐらしながら、「生活心理分析」につなげる為にグループインタビューを進めることが大切です。


 意識マトリックス理論は、マーケティング調査だけでなくキャリアコンサルティング等幅広く活用が出来ますが、その説明に入る前に、意識マトリクス理論の基本的な枠組みを再確認しておきます。



☆論文「マーケティング実務における初心者理解促進と品質向上の為の定性調査体系の試み」(井上昭成,2020)がダウンロード出来ます。「意識マトリックス理論」のマーケティング詳細情報は、こちらを参照下さい。


ブログでは内容を分割して紹介をしていますが、「意識マトリクス理論」を通しでまとめたページは、こちらになります。