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尾川先生のOD寺小屋 第五回


 本日もOD寺小屋が開催されました。今回もそれを聴いて感じたことなどをまとめておこうと思います。

「第5回:UCLAに留学した音大生の就学問題」

キャリア・サバイバルを用いたキャリア・カウンセリングを事例から考える。

参考書:「キャリア・サバイバル―職務と役割の戦略的プラニング」

:エドガー・シャイン(著)、金井壽宏(訳)、白桃書房:2003


 今回も現地が深夜早朝にも関わらず、尾川先生より丁寧なご説明を頂きました。日本では夜遅くになる約2時間半の講義の最後の先生のお話が、「こちらはまだ朝の5時頃なので、そろそろ寝ても良いかな?」ということでした。しかもまだまだこの講座は続けて頂けるとのこと、本当に頭が下がる思いで、感謝という表現だけでは足りないと感じています。

 今後の展開については、実は同じキャリアという言葉でも、日本のキャリアコンサルティングとアメリカのMITにおける組織開発のHRにおけるキャリアのニュアンスは違うとの事。この後、来年はこの違いを理解するという面も含めて、シャイン先生のビジネススクール2年生のHRの講義を踏襲しながら、シャイン先生の理論に関しての講義を続けて頂けるとのことでした。

 


 今回のテーマは、「コミュニティ心理学(環境心理学)」になります。

 講義の中でも少し触れられていましたが、ここでは、MRIブリーフセラピーと同じく、心理関数(R=f(S,E))において、問題の解決(S)に捉われず、環境(E)にアプローチを行うということになります。

 今回の講座では、家族療法の説明の中で、関係者が揃っていなくても対応できるアプローチとして、来談者とIP(問題とされた人)を定義するMRIブリーフセラピーの簡単な解説がありました。今回のテーマである問題そのものではなく環境に働きかけるということは、MRIアプローチの特質でもあります。問題に対する解決行動が問題自体を固定化してしまっている場合に、その環境に働きかける為に、逆説的に介入を行う事になります。前日に、たまたまMRIブリーフセラピーの熱心な講義を受けた直後であったので、より興味深くお話を聴くことができました。
 この逆説的介入については、前回第4回の講座でも、構造主義(ダブルループ学習)の資料の部分で提示されています。MRIアプローチの講義中にも感じていましたが、MRIでの問題に対する「オーソドックス」又は「パラドックス」となる問題に対するシンプルな介入が「シングルループ学習」であり、それでは解決せず、「パラドックス」(悪循環の繰り返し)となった状態を断ち切る介入を「カウンターパラドックス」と呼びますが、これは問題の環境に介入する「ダブルループ学習」と近似であると感じました。また、カウンセラーがシステムに中に入っていると俯瞰してシステムを見るシステム俯瞰図もMRIの方の資料で提示されていましたが、丁度、今回の講座内容にもフィットした見方だと感じる事が出来ました。

 個人支援と組織支援の両立という視点からは、個人支援であるMRIブリーフセラピーのカウンターパラドックスと組織学習であるダブルループ学習が同じ構造であることは、ここになんらかの今後の展開の糸口があるのではないかと思えました。今回出た事例には、MRIでの「第一次変化」やちゃぶ台返しである「第二次変化」があったと思われましたが、この点については組織システムの視点から今後良く学んでゆきたいと思いました。

 

 ディスカッションの中では、OD寺小屋は「わからない事を知る」場であるというお話も出ていましたが、まさしくその通りで、今後学ぶべきことが含まれたわからないことを次にまとめておきたいと思います。

 

 先に述べたように、個人支援と組織支援の両立の関する書籍として、ロバートキーガン著「なぜ、組織は変われないのか」があり、その中の「免疫マップ」という考え方があるようです。ある一定の能力レベルを超えると「裏マネジメント」が行う事ができるようになり、個人と組織の活性化が実現できるという事のようですが、尾川先生も実際どのようにするのかはまだ理解することが、難しいとの事でしたので、今後明らかになってくると思います。

 

 心理関数 R=f(S,E)を考える時、

 西洋 環境<個人

   個人に働きかける事が有効

 東洋 個人<環境

   環境に働きかけることが有効 ex)エルゴノリズム

 

ということが、提示され、

(尾川先生によると、東洋思想には2項的対立概念が乏しいという概念的提示であり、白黒論ではないとのことです)

西田幾太郎の「絶対矛盾的自己同一」等のいろいろな考え方が示されました。

 

 環境心理学は、個人心理学のロジャーズのセンタードセオリーに対して、システムセンタードセオリーであり、上述のように、問題に触らずに環境にアクセスしてゆくという事になります。環境に対する臨床心理といえるとのことでした。

 「個人」と「環境」を行ったり来たりする支援という表現もありました。

但し、解決を図る為には「環境」の選択を広げる事が大切になります。一方で、それはコストがかかる面もあるというお話も出てました。キャリアコンサルタントが「環境」に働きかけるには、寄付などによるNPOの資金等が必要になるが、残念ながら日本には寄付という文化が定着していないとの認識でした。

(たまたま、11/17の朝、NHKの「あさいち」を見ていると、まさに寄付について特集されていました。日本は寄付の浸透度については、世界114ヵ国中107位。NPO法人もアメリカには100万団体以上あるのに対して、日本は5万団体。公的に寄付控除になる認定NPO法人1200団体しかないと報道されていました。)

 

 「環境」に働きかける有効性は、(MRIの考え方とも一致しますが)一段上のシステムにつなげる事が出来る利点があるとのことです。環境へのアプローチはシステマティックなものになります。ユースオブユアセルフ・HR・アドミニストレーションも考慮に入れる必要があるとのことでした。

 

「オープン・ダイアログ(元は統合失調症に対する治療的介入、会社・組織等でも活用される)」に関しては、自己組織性(本人の納得が大切)が大切とのことでした。この点は、「良い働きかけ<内発的動機付けのある自律的な選択」という内発的動機付けの強力さも関係しているように感じました。

 

今回のテーマである「コミュニティ心理学」としての環境へのアプローチは『☆社会学の準拠枠の分類』マップ(第三回参照)では左下の構成主義のナラティブアプローチに準拠するとのことでした。

 


以下は、メモをとってみたものの・・・・。今後、わかる範囲で調べてみようと思っています。【調べてからの追記】

 

エルゴノリズム

 

環境に働きかける場合の対象の違いによる解決手法の分類

・移行対象(精神分析) ⇒ 防衛機能

・社会的防衛機能 ⇒集団環境

・時間・資源・環境 ⇒ 公共経済学  

       ハイエク ⇒ 「均衡」の考え方が参考になるとのこと

 

環境心理学 ⇒ 「ビオン」「ウィニコット」

 

個人を取巻く環境である組織に介入する場合は、アージリスの「標榜理論」「実用理論」も念頭に置くことが大切。