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組織内におけるキャリアコンサルティングの範囲(キャリア開発面談)


 組織における「キャリア開発面談(広義のキャリアコンサルティング)」の範囲というものを経営組織論の側面から考えてみたいと思います。

 下の図は、コミュニケーション領域における「意識マトリックス理論」(井上昭成,2020)」を利用して、フォレットの「創造的経験」に書かれている組織内における個人間のコンフリクト(軋轢)を解消し、統合に向かう(正のグループダイナミクスを生み出す)為の条件を図式化したものです。

 単純に言ってしまえば、個人同士がお互いのそれまでの経験をお互いに認め合い、個人としても尊重できれば、それぞれの経験が統合され、更には組織内において創造的なアイデアを生む「創発」に向かう可能性が出てきます。

 

 一方で、それぞれや片方がお互いの過去の経験、つまりそれぞれが人格を認め合わなかったり、互いにそう感じられたりした場合は、それぞれの経験は統合されず、一方的な会話(モノロジックな会話)の結果、「抑圧」「妥協」という不満の残る形でのコンフリクト(軋轢)の解消が図られます。

 この「抑圧」「妥協」状態の解決に向けた相談が「キャリア開発面談(広義のキャリアコンサルティング)」では多くなると捉える事が出来ます。この解決に向けて狭義のキャリアコンサルティングとして「助言と指導」という形でアプローチする場合は、極論では「組織内では他の人の経験をお互い尊重して、仲良くやってゆきましょう。」ということを提示する事になります。しかし、実際にはこれが実現できないので相談に来ている可能性も高いですから、ここではキャリアカウンセリングの出番になります。

 キャリアカウンセリングでは、キャリアコンサルタントが来談者の経験を聴いて、気付き(自己概念の成長)を支援して課題の解決(ここでは相互認知の促進)を図ることになります。経験代謝はこの経験を聴き課題の解決に向かう為の具体的なメカニズムです。)単純に相談者の(業務上を中心とした)経験を振り返りながら、解決の糸口がないかどうかに気づいてもらうようにします。

 この例では対等な個人間になっていますが、片方が上司や組織・外部環境であっても、「抑圧」「妥協」という「統合」されない状態を解消する為にキャリアコンサルティングの対象とすることが出来ます。また、「統合」という良循環を確認するという面でもキャリアコンサルティングの対象とすることが出来ます。 

 一方で、「統合」に向けて過去経験を認め合うという相互認知の阻害要因として、当人たちのメンタルヘルスが原因となっている場合もあるかも知れません。その場合はキャリアコンサルタントとしては適切に、メンタルヘルスに関する基本的な知識をそって、「医師」や「産業医」「看護師」「公認心理士」等の専門職にリファー(相談)し、間違った対応を避けることが大切です。もし、このような課題に直接積極的に対応する場合には、国家資格キャリアコンサルタント以外の公的な(一般的にオーソライズされた)資格が必要になるように思います。

 

注)

1.「コミュニケーション領域における意識マトリクスマップ」理論」(井上昭成,2020)については、こちらからダウンロードが出来ます。

 2.ここでは、「キャリア開発面談(広義のキャリアコンサルティング)」の中に、狭義のキャリアコンサルティングとキャリアカウンセリングが含まれると定義しています。

 3.ここでは組織内における通常のキャリアコンサルティングに関して記述しています。復職支援や組織への就労支援する場合等については、内容が少し異なってきます。

4.意識マトリックス理論のキャリアコンサルティングや組織開発における展開はこちらから。